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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第一章 幼少期編 前世~五歳
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002 三歳 情報収集

 アイザックが三歳になる頃、彼の異質さは皆が知るところとなっていた。


 兄のネイサンは四歳という年齢相応に、遊ぶ事と菓子を貪る事に夢中だ。

 しかし、アイザックは三歳という年齢に相応しくない行動をしていた。


 父親がいる時は、庭でボールを転がしたりして遊んだりしている。

 アイザックは本を読んでいたいのだが、我が子と遊びたいというランドルフの気持ちもわかる。


(まぁ、良い運動になるし少しくらいは良いか)


 そう思ったアイザックが合わせている……、というのが本当のところだ。

 アイザックの側仕えには見破られているのだが、父親であるランドルフは気付いていない。

 そして周囲の者達も、わざわざ言う事ではないと思い、みんな口をつぐんでいた。

 誰だって「三歳の子供に気を使われてますよ」なんて事を仕えている主人に言いたくなどないし、親としてまだまだこれからの人間に言うべきではないと思っていたからだ。



 ----------



 アイザックの友達は基本同世代の女の子ばかりだった。

 最初は「将来の婚約者候補かな?」と思っていたが、すぐに違うと気付いた。

 同じような年頃の男の子は、みんな兄のネイサンの遊び友達となっている。


 その理由は簡単に推測できた。

 ほとんどの者達が「ネイサンがウェルロッド侯爵家の後継ぎになる」と思っているせいだ。

 母方の親族の力が違い過ぎる。

 今はアイザックに優先権があるとしても、やがてメリンダが実家に働き掛けてランドルフを説得する事は確実。

 将来に備えて、息子をネイサンの近いところに置いておこうと思っているのだろう。

 だが、そのお陰でわかった事もある。


 友達として連れてこられた、ルシアの兄の娘ティファニー。

 従姉妹である彼女の存在を知る事ができたのは大きかった。

 ルシアの実家はハリファックス子爵家。


 ――ティファニー・ハリファックス。


 まだなんとなく面影があるという程度だが、彼女は妹がプレイしていた『この世界の果てまでを君に』というゲームで、婚約者を奪われる被害者だ。

 リード王国、ハリファックス子爵家――。

 これらの情報から、何故かゲームの世界に生まれ変わったらしいとアイザックは気付く。


(でも、なんで乙女ゲーなんだよ。普通に俺のやってたエロゲーで良いじゃないか……)


 権力者を目指すのも良いが、美少女に囲まれる幸せなハーレムも捨てがたい。


(いや、自分で作るのもいいか)


 アイザックの父ランドルフも、ルシアとメリンダの二人を妻にしている。

 側室を作ったとしても、倫理に違反するという事はないはずだ。

 多少の文句程度なら、権力でねじ伏せれば良いだけだ。


(そのためにも、権力が必要だな)


 幸い、この世界が妹のプレイしていたゲームの世界ならば未来は明るい。

 王立学園卒業時に、婚約者であるパメラに婚約破棄を申し付ける馬鹿な王子ジェイソン。

 パメラは宰相の孫だ。

 あらかじめ渡りを付けておいて、処刑されそうになるパメラを救った事でウィンザー侯爵家を味方に付ける。

 十八歳までに、他の貴族も囲い込んでおけば下剋上も可能だろう。


 ――居酒屋チェーン店の正社員から、一国の王へと登り詰める。


 とても魅力的な将来だ。

 どうせ二度目の人生。

 前世でできなかった事を、色々とやってみるのも悪くはない。


(そのために、まずは知識を集めないとダメだな)


 小さな失敗はするかもしれないが、大きな失敗をしないために知識を身に付けるのは悪くない。 


「アデラ、書斎に行きたい」

「ええ、構いませんよ」


 アイザックの年頃なら、絵本を読んでというのはよくある事だ。

 だが、アイザックは自分で本を読む。

 最初は異常だと思っていたが、大人たちは“頭が良い分には問題ないだろう”と結論を出した。


 まだ歩くのもおぼつかないので、アデラに手を引かれて書斎に向かう。

 手のかからない子供なので、乳母としては非常に楽な仕事である。



 ----------



 まずは子供向けの本を取った。

 もちろん、子供向けとはいえ三歳の子供が読むような本ではない。

 もう少し大きい子向けだ。

 手に取った本はリード王国について、大雑把に書かれている本だ。

 元が乙女ゲームのおかげか、文字も日本語なので読みやすい。

 完全な異世界ではない事の恩恵だ。


 リード王国は五百年前に建国された。

 建国の功績がある者達は貴族として取り立てられる。

 その中でも際立った功績を上げた四つの家が侯爵家となった。


 ウェルロッド侯爵家。

 ウィンザー侯爵家。

 ウィルメンテ侯爵家。

 ウォリック侯爵家。


 家名の一文字目を取り、通称“4W”と言われる四家がリード王国の柱となっている。

 この四家の領地を合わせると、リード王国の五割を超える。

 なので、男爵家や子爵家といった下級貴族は固有の領地を持たず、王国の官僚として働いたり、侯爵家や伯爵家の領地で働いたりしている。


(他の侯爵家を二つ味方にしても、やや不利か。伯爵家をいくつか味方に付けるのと、王家に忠実な奴らを切り崩す必要があるな)


 王家とウィンザー侯爵家の決裂が決定的になるのは、王立学院の卒業式。

 あと十五年間で、反乱の用意をやり切らねばならない。


(その前にネイサンの排除もだな)


 そこでウィルメンテ侯爵家を味方に付ける方法を考えようと思った。

 ただ排除するだけではなく、どうにかしてウィルメンテ侯爵家に引け目を感じさせつつ排除する。

 王家への忠誠はあるだろうが、積極的な行動を封じる事ができれば良い。

 幸い、もう一つの侯爵家であるウォリック侯爵家は味方に付ける事ができそうだ。


 ――アマンダ・ウォリック。


 彼女も『世界の果てまでを君に』の主人公であるニコル・ネトルホールズに婚約者を奪われる事になる。

 逆ハーレムエンドならば、ニコルは王子を含めて多くの男に囲まれる。

 上手くやれば、ウォリック侯爵家に王家に反感を持たせる事ができるかもしれない。

 そのためには、ニコルに個別エンドではなく、逆ハーレムエンドを達成してもらわなければならない。


(えっ。それじゃあ、ニコルの支援もしないとダメになるか?)


 ニコルは男爵家の娘。

 しかも、親は王国の一官僚なので平民と変わらない暮らしをしている。

 ゲームの攻略サイトには、効率の良いアルバイトや金集めの方法が書かれていた。

 アルバイトに使う時間を、メインキャラ攻略に使ってもらった方が良いだろう。


(マズイな。紙に書いてまとめておきたい)


 しかし、何をするのか紙に書き残すのはまずい。

 子供が何を書いているのか誰もが気になるだろう。

 誰かに反乱計画など見られでもしたら、子供とはいえ大変な事になる。

 良くて幽閉、悪ければ殺される。

 自分の頭の中に全てを納めておかないといけない。


 一通り攻略サイトには目を通したが、完全には覚えてはいない。

 重要な事は定期的に思い出して忘れないようにしておくべきだろう。


(時間があるように見えるけど、やらなきゃいけない事も多い。まずは目先の事から片付けよう)


 アイザックは当座の目標を、ウェルロッド侯爵家内での自分の地位向上に決めた。

 その次に、家同士の関係の情報などを集める事。

 貴族なので「どことどこが縁戚関係」といった情報も重要になってくる。


 今、彼は悩ましい状況にありながらも、嬉しそうな顔をしている。

 毎日同じような事ばかり繰り返す日々よりも、こうして新しい事に頭を悩ませる方がずっと楽しい。

 たとえ、それが人を陥れるような内容であってもだ。


 アイザックのその笑顔を、アデラは子供らしい笑みをしていると眺めていた。

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― 新着の感想 ―
紙に書き残すのはまずい > ヤバいな。のちのち「忘れてた!?」なんて有り得そうなフラグが建ってしまった!
[良い点] 話の先が気になる [気になる点] 全体的に説明口調で内容が頭に入ってこない [一言] コミカライズ読んでみます(笑)
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