246 十五歳 チャールズの異変とティファニーの誤解
一学期末までは時間が過ぎるのが早かった。
新しい生活に慣れるのと、人間関係の把握などに忙しかったからだ。
例えば、ジェイソンの親友はフレッド以外にもいる。
これは当たり前の事だ。
しかし、半端にゲームの知識があるアイザックには「ジェイソンの友達はフレッドだけ」という先入観があった。
大体のゲームでは名無しのモブキャラはいないようなものだ。
だが、この世界ではモブキャラ一人一人が生きており、自分の考えで行動している人間だ。
ジェイソンの親友と呼べる人物もちゃんと存在していた。
これはアイザックも同じ。
ポールやレイモンドといった原作で登場しなかったキャラが、攻略キャラの一人であろう自分の友人として存在している。
カイなどモブキャラとは思えないくらい、ちょっとした英雄扱いをされているくらいだ。
――原作ゲームでは存在しなかったように扱われていた無名キャラ。
――そんな彼らの存在を再確認し、自分が介入して起きた変化などを調べる。
ただそれだけの事だが、調べるのに時間がいくらあっても足りないくらいだった。
完全に存在が無視されるゲームとは違い、現実の世界では彼らの存在を無視する事はできない。
一人一人の影響力は小さくても、小さな力も集まると大きな力となる。
軽んじていれば足をすくわれかねない。
その事は、レイモンドの婚約者であるアビゲイルと話す事でより強い実感となって、アイザックに教えてくれる事になる。
彼女とは期末試験の結果発表の日に玄関口で出会った。
「アイザック様、お久し振りです。レイは役立っておりますでしょうか?」
「友達だから役立つとかはないけど……。将来には期待しているよ」
アイザックは苦笑交じりで言葉を返す。
まだ結婚していないのに、もう女房気取りの態度だからだ。
(そういえば、初めて会った時もこんな感じだったな)
十歳式で会った時には、すでにレイモンドを尻に敷いているような感じだった。
レイモンドも嫌な顔はしていないので、彼女とのこういう関係を受け入れ、楽しんでいるのだろう。
ちょっとだけ「リア充カップルめ……」とアイザックは嫉妬を覚えてしまう。
「そういえば、アビゲイルさんは違うクラスだよね。頭が良さそうだから勉強もできそうだけど……。レイモンドと一緒のクラスになりたいとかは思わないの?」
成績優秀者のクラスは二クラスある。
同じクラスになれない可能性もあるが、同じクラスになれる可能性は50%ある。
「仲が良いのなら一緒のクラスで学生生活を過ごしたいのでは?」という素朴な疑問だった。
アイザックの疑問に、アビゲイルは口元に手を当ててクスクスと笑う。
「アイザック様くらい賢いお方だと考えもしないのかもしれませんね。殿方の中には『自分より頭の良い女など鬱陶しい』と思ったりする方もおられるようなのですよ。レイはそういうタイプではありませんが、未来の夫を立てるためにも必要以上頑張るつもりはありませんの」
「なるほど、それも一理ある考えだね」
(ティファニーとチャールズも、それが理由でニコルに心の隙間に入り込まれたとかなんとか書いていた気がする)
アイザックは攻略サイトに書いてあった二人の破局理由を思い出す。
チャールズは「賢い女性が好き」と言っておきながら、ティファニーが自分より成績が良いと不満を感じていたらしい。
「自分よりも賢くないけど、適度に賢い女性が好き」という事だったのだろう。
ティファニーがチャールズに好かれようと頑張った結果、頑張り過ぎて嫌われてしまうという皮肉な結末を迎えてしまう。
男のプライドというものは厄介なものだ。
「でも、努力をしないというわけではありません。レイは将来アイザック様の側近になるはず。そうなると、他家の文官との人脈が必要になるでしょう? 私は勉強に使う時間を交友に使って人脈を広げているんです。その分レイには勉強に集中してもらうので、夫婦の役割分担といったところですね」
やはり、アビゲイルはできる女のようだ。
女が勉強を頑張っても、男尊女卑の社会では出世が絶望的だ。
それに結婚したら家庭に入る事になる。
だから、学校の勉強を恥をかかない程度に頑張って、その時間を人脈作りに時間を使うという割り切った考えをしているのだろう。
こういったちゃんとした考えを持つ人間がいるから、アイザックも「原作で名前のなかったモブキャラだ」と思って軽んじる事ができなかった。
ジェイソンの友人の誰かに足をすくわれる可能性もあるのだから。
「こういうのを見せつけられると婚約者がいるっていいなぁって思わされるな。カイのところはどうなんだ?」
レイモンドとアビゲイルの関係を見せつけられたポールが、羨ましそうな表情をしながらカイに尋ねる。
「俺のところも似たような感じだけど……。今はまだ状況の変化に戸惑ってるところだな」
「英雄の婚約者も辛いね」
カイの婚約者は、カイがいきなり有名になったので変化についていけていないようだ。
アイザックと違い、ロックウェル王国との戦争までカイは無名だった。
突然活躍した分だけ環境の変わり方も激しいものとなっている。
戸惑うのも当然の事だろう。
「アビゲイルさんも一緒にレイモンドの成績を見に行く? 成績次第では尻を叩かないといけないだろうしね」
「はい、お供させていただきます」
「成績を隠すつもりはないけど、なんだかやだなぁ……」
アイザックの誘いに乗ったアビゲイルを見て、レイモンドが嫌そうな顔をする。
成績を見られる事が嫌なのではなく、発破をかける事を前提に見られるのが嫌なのだ。
だが、アイザックが誘ったのでアビゲイルに「来るな」とは言えない。
レイモンドは成績を確認するというドキドキ感だけではなく、婚約者に発破をかけられるかもしれないというドキドキ感まで押し付けられる事となった。
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成績が貼り出されている廊下のところに着くと、すでに人だかりができていた。
アイザック達が通ると皆が道を開けてくれた。
(ん? なんで?)
さすがにニコルほどの人気はないが、アイザックもそこそこ人気がある方だ。
こんな風に道を開けて避けられるはずがない。
アイザックは周囲の態度に戸惑っていたが、すぐにその理由を理解する事ができた。
「ねぇ、チャールズ。私の事も見てよ」
「見ているさ」
「嘘よ! だって私に声をかけようともしないじゃない。私だって五位になったのよ。もっと興味を持ってくれてもいいでしょう!」
――ティファニーがチャールズに詰め寄っている。
その状況を何とかするために「アイザックに任せよう」と周囲は思っているのだろう。
だから、道を開けて通りやすくしてくれていたのだ。
アイザックがチラリと成績を見ると、アイザック達の次にティファニーの名前があった。
満点の四人には及ばないが、五位という順位は立派なものだ。
だが、チャールズはティファニーではなく、ニコルの方にばかり構っていたのだろう。
その事に不満を持ったティファニーが、声を荒げてチャールズに詰め寄っているというのが今の状況のようだ。
チャールズの近くで微笑みを浮かべているニコルが鬱陶しい。
「ちょっと待って。二人の事情は何となくわかるような気がするけど、人前でするような話じゃないよね。一度談話室にでも行かない?」
アイザックが二人に声をかける。
貴族が通う学校だけあってか、校内には大きなラウンジのような部屋も用意されている。
人前で話せば、この事態が上手く収まったとしても悪いうわさが流れたりするかもしれない。
まずは人目に付かないところに行こうと主張する。
朝のホームルーム前から談話室を使っている生徒はいないはずだからだ。
「僕は話す必要がないように思えるけど」
「チャールズ!」
「まぁまぁ、ティファニー落ち着いて。チャールズ、いいから行こうよ。ねっ」
ティファニーを宥めながら、アイザックはチャールズの肩を掴んで談話室へ連れていこうとする。
すると、なぜかニコルまで付いてこようとしていた。
それに気付いたアイザックは、険しい顔をして彼女に近づく。
さすがにアイザックに睨まれて近付かれるとニコルの目が泳ぎ、一歩、また一歩と後退りをしていく。
彼女の背中が廊下の壁に当たるところまで近づくと、アイザックはドンと壁に手を付きジッとニコルの目を見る。
「悪い子だね、君は。これは身内の問題だ。ニコルさんは控えてくれるかな?」
「う、うん……」
アイザックの声は優しいが、顔は険しいままだ。
いつもは威厳も何もないアイザックが取る厳しい態度。
普段とは違う態度を見せられて、ニコルは「私も行きたい」とは言えなくなってしまっていた。
「興味本位で見に来られても迷惑だとわかってくれたらいいんだ」
(チャールズに手出ししている時点で迷惑だけどな。ジェイソンだけ狙っておけよ)
ニコルに不満を覚えつつも、彼女の働きに頼るところも大きいのでアイザックは必要以上に強くは言えなかった。
彼女から離れると、ティファニーとチャールズを連れて談話室へと向かう。
その背後にはレイモンド達も念のために付いていった。
「本物の壁ドンって凄い。まだドキドキしてる」
一人残されたニコルは、チャールズの事よりもアイザックに迫られた事の方がよほど強い印象があったらしい。
頬を赤らめて予想外の展開を少し楽しんでいた。
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談話室に着くまでの間、アビゲイルがティファニーに付き添ってくれていた。
二人は互いに友人と呼べるほど親しくはないが、同世代という事もあり顔見知りではある。
こういう時に同性が傍にいてくれるのはティファニーにとってありがたかった。
「さて、理由は何となくわかっている。ティファニーが頑張って勉強しているのに、チャールズが気にかけてくれない。それどころか、他の女の子に気が向いている。そういうところだろう?」
あの現場を見ただけでそこまで見抜いているアイザックを見て、ポール達が「さすがアイザックだ」と思った。
ついでに「自分達も付いてきてしまったけどよかったのかな?」という事も考えていた。
アイザックに何も言われなかったのでいいだろうと思い、アビゲイルの添え物として黙って見届ける事にした。
「そうよ。私だって、私だって……」
ティファニーが話し終わる前に泣き出した。
チャールズに気に入られるために勉強を頑張ってきたのに、チャールズは見向きもしてくれない。
その事が悔しくて仕方がないのだろう。
対するチャールズは落ち着いた態度だった。
当事者としての意識が欠けているようにすら見える。
「チャールズ。君は賢い女性が好きだったんじゃないのか? ティファニーは十分に賢いと思うよ」
「お前より成績いいからな」とまでは言わなかった。
それを言ってしまえば、状況が悪化するだけだとわかっていたからだ。
「だが、学校の成績が良ければ頭が良いという事にはならない。勉強以外にも頭が必要な事は多いだろう?」
(……学校の成績が全てだったら、お前はどうなんだってなるもんな)
しかし、それを言う事はできない。
今のアイザックは仲裁を目的としており、馬鹿にする事が目的ではないからだ。
それに、アビゲイルと話した事によって人としての賢さは勉強の成績では推し量れないものだとわかっている。
チャールズの言う事にも一理あると認めざるを得ない。
「確かにそうだ。でもさ、勉強の成績っていうのは頭の良さを示す一つの指標でもある。ティファニーは君に気に入られようとして頑張ってるんじゃないか。その事を認めてあげてもいいんじゃないか?」
「ニコルさんに比べれば大した事はないよ。彼女は勉強だけじゃない。人としても魅力的で知的な女性だ。僕は彼女との関係を深めていきたいと思っている。……ティファニー、僕らの婚約はなかった事にしよう」
チャールズが突然別れ話を切り出した。
ティファニーの泣き声が大きくなる。
「そんな話は聞きたくない」と泣き声で話をかき消してしまおうという意思を感じるほどに。
アイザックはあまりにもあっさり「婚約をなかった事にしよう」と言い放つチャールズにイラつきを覚えた。
別れ話を切り出すにしても、もっとちゃんとした切り出し方があるはずだ。
そんな話をする機会すらなかったアイザックにはどう言えばいいのかわからないが、もっと良い方法があるだろうという事はわかる。
それほどまでに「素敵な女性を見つけたから別れよう」という切り出し方は酷いものだった。
「チャールズ! 目を覚ませ!」
そこでアイザックが取った行動は――
胸倉を掴んで殴る。
――というものだった。
チャールズの頬に拳を振り下ろし、彼の目を覚まさせようとする。
これは彼がニコルの力によって魅了されたり、混乱させられたりしていると思ったからだった。
アイザックにはチャールズの目の覚まし方がわからない。
だから、RPGなどでは一般的だった物理的な衝撃によって、状態異常から回復できる可能性に賭けた。
決して「ムカついたから」などという理由で殴っているわけではない。
――しかし、それは効果がなく、タイミングも最悪だった。
「何をしているの!」
チャールズとティファニーの騒ぎを見ていた生徒が知らせたのだろう。
談話室に女教師が様子を見に来ていた。
ちょうどアイザックがチャールズに二発目の拳を振るったところを見られてしまう。
「今は重要な話をしているんです。少し待っていてくれませんか?」
「待てるわけないでしょう! あぁ、唇が切れて血が出てる……。保健室に行きましょう」
女教師はチャールズの口元から少し血が出ているのを見て、彼を保健室へ連れていこうとする。
これは彼をこの場から引き離すための方便でもあった。
アイザックの他にレイモンド達三人の男子がいる。
状況がよくわかっていない彼女にしてみれば、集団でいじめている可能性も考えられる状況だ。
まずはチャールズをここから離す事を優先しようと考えるのも無理はない。
「まだ話が終わってないんです」
「いえ、もう話は終わりました。ティファニー、さよならだ」
「チャールズ!」
アイザックはチャールズに詰め寄ろうとするが、女教師が間に割って入る。
「近づいてはいけません! 確かアイザックくんだったわね。あとで職員室に来なさい。あなた達もよ」
女教師はポール達にも声をかける。
今、この場にいる教師は自分一人。
全員を同時には連れていけない。
何か起きた時に抑えきれないからだ。
彼女は、まずチャールズだけを連れて談話室を出ていった。
残されたのは何とも言えない気まずい雰囲気だけだった。
「ティファニー。辛いだろうね。僕にもわかるよ」
アイザックは気休めの言葉を言う。
前世で付き合った経験はないが、振られた経験はある。
だから、辛い気持ちは多少は理解できるつもりだった。
しかし、今のティファニーにその言葉は神経を逆撫でするだけだった。
「アイザックにはわからないでしょ! 好きな人なんていないんだから!」
ただの八つ当たりかもしれない。
だが、ティファニーがそう思うのも仕方がなかった。
アイザックには恋人の影がない。
誰かを好きだなんていう話も聞いた事がなかった。
「そんなアイザックが今の自分の気持ちをわかるはずがない」と思い、ティファニーは不機嫌になっていた。
「いるよ。好きな人くらい」
「えっ?」
アイザックもティファニーが不機嫌になった理由を察する事ができた。
前世でモテる友達に「振られたら辛いよな」と言われて「お前に俺の気持ちがわかるのかよ!」と思った事があるからだ。
だから、ティファニーの心を落ち着かせるためにも、少し話をしてやろうという気分になっていた。
「好きな人はいる。けどね、その人の事を好きだと気付いた時には、すでに婚約者がいたんだ。その人は婚約者の事を愛しているし、僕の思いは伝えられない。もどかしい片思いをしていたよ」
「そうなんだ……」
アイザックにも好きな人がいたと知り、ティファニーの言葉から厳しさが失われる。
好きな人がいると言っても、それは叶えられない切ない想いだったからだ。
「その人を婚約者から奪い取りたいとすら思っていた。だから、奪い取ったとしても、誰にも文句を言わせないように今まで頑張ってきたんだ。いつか、彼女の隣に立つにふさわしい男になるためにね」
「そ、そうなんだ……」
ティファニーが、今度は引き気味の反応を示す。
これは他のメンバーも同様だった。
「ティファニー、僕にだってそれくらい好きな人がいるんだよ。だから、恋が叶わなかったという辛さは僕にだってわかるんだ」
アイザックは悲しそうな表情を見せる。
このままニコルがジェイソンを攻略してくれればいいが、チャールズで妥協されれば本当に恋は叶わなくなる。
チャールズとティファニーが別れるというのは、アイザックにとっても辛い事実だった。
もちろん、打算だけではなく、幼馴染の従姉妹が悲しむところを見たくはないという思いも強い。
「今はまだチャールズに別れを告げられたっていう思いが強いかもしれない。けど、ティファニーはニコルさんなんかよりも可愛いし、性格も良い。そう遠くないうちにティファニーにふさわしい相手が現れるさ。だから、あまり気を落とさないで」
アイザックは気休めを言う事しかできない自分を責める。
ニコルを放置していたのは自分だ。
そして、チャールズが攻略されつつあったのを知っていたのに、見過ごしていたのも自分だ。
パメラ欲しさにティファニーの人生まで犠牲にしてしまった事を恥じるくらいの心はアイザックも持ち合わせていた。
「アイザック、そろそろ職員室に行った方がいいんじゃないか?」
話の切りが良さそうなところでレイモンドがアイザックに職員室に行こうと提案する。
ティファニーの事も重要な案件だが、教師の呼び出しも重要だ。
こういう状況で後回しにしていると、悪感情を持たれて状況が悪化しかねない。
アイザックのためにも、まずは職員室に行く事が優先であると彼は考えていた。
「そうだね。みんな、迷惑をかけてごめんね。チャールズに関しては何も関係ないっていう事はちゃんと伝えるから安心してよ。……それと、アビゲイルさん」
「なんでしょう?」
「もう少しティファニーと一緒にいてあげてくれるかな? こういう時は女性が居てくれた方がいいような気もするし」
「ええ、もちろんかまいませんよ」
アビゲイルは快くアイザックの頼みを受け入れた。
アイザックの点数を稼いでおきたいという思いもあるが、この状況に居合わせておきながらティファニーを放置するような真似は彼女にはできなかったからだ。
「ありがとう」
そう言い残すと、アイザックは友人を連れて談話室を出ていった。
「アビゲイルさん」
「何かしら?」
ティファニーが震える手で涙を拭きながら、アビゲイルに質問する。
「さっきのアイザックの話って……。ううん、何でもない」
ティファニーは「何でもない」と言って、聞かなかった事にしようとした。
しかし、アビゲイルも気になっていた事なので、その話題を拾う。
「きっと間違いじゃありません。私はティファニーさんの事なんじゃないかなって思いましたよ。ふさわしい男のくだりなんて、そのまんまじゃないですか」
――好きな女性の隣に立つにふさわしい男になる。
――いつかティファニーの前にチャールズよりふさわしい男が現れる。
どう考えても、ティファニーの事が好きだったと遠回しに告白しているようにしか聞こえなかった。
「好きだと気付いた時には婚約者がいた」というのも、幼馴染である二人の関係を考えれば不思議ではない。
アビゲイルの考えを聞き、ティファニーは自分が感じた事と同じであるとわかって顔を真っ赤にする。
「ティファニーさんは、アイザック様の事をどう思っているんですか?」
「……わからないよ。私はチャールズの事が好きだったの。本当に好きだったの。そんな事突然言われても、私わからないよ」
ティファニーは混乱し、また涙を流す。
恋愛の解き方など教科書や参考書には書いていなかった。
今の彼女は「チャールズに振られた」という事を考えるだけで精一杯であり、アイザックの告白を考える余裕などなかった。
「あっ……。アマンダさんと友達になれたのに、これからどんな顔をして会えばいいんだろう……」
しかし、友人の事を考える余裕はあったようだ。
アマンダがアイザックに好意を持っているのは周知の事実だ。
アイザック本人が気づいていない振りをしているのが不思議なくらいだった。
アイザックの想い人が自分だったと知り、ティファニーはアマンダと顔を合わせるのが怖くなってきてしまっていた。






