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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第十章 王立学院一年生前編 十五歳

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240 十五歳 サイコホラーのような展開

 アイザックは、まず様子を見る事にした。

 いきなりニコルと話してみてもよかったが、その前に下準備をしようと思ったからだ。

 とはいえ、安全圏からじっくりと偵察するわけではない。


『虎穴に入らずんば虎子を得ず』


 その故事に倣って、一組へと突入する事にした。

 一つ隣のクラスだが、ニコルやジェイソンといった濃い面子が揃っているだけあって、今まで足を踏み入れたことがなかった。

 だが、ついに足を踏み入れる時が来た!


(来た! とか言うほど大層なもんじゃないけどな)


 ただ隣のクラスに行くだけである。

 それだけの事に気合を入れなければならない事をアイザックは馬鹿馬鹿しく思う。

 しかし、いきなりニコルと出くわしてしまったりしないかが心配だ。

 こっそり教室のドアから中を覗ければいいのだが、空き教室の時とは違い、廊下は多くの生徒が行き来している。

 教室の中を窺うという怪しげな行動はできない。

 そんな事をすれば、男女関係なくアイザックへの評価は地に落ちる事になるだろう。


 だから、教室内に突入するという行動を実行する事にした。

 人から話を聞くだけでは実態が見えてこない。

 いつかは自分の目で確認する必要があるならやるしかない。


 休み時間になると、アイザックは廊下に出る。

 こういう時は、よく話しかけてくる女子も「お手洗いかな?」と察して付いてこない。

 授業が終わったあとだからか、隣のクラスのドアは開いたままだった。

 アイザックは意を決して、教室の後ろのドアから中へと入る。


 ――今回の目的はジェイソンに話しかける事。


 彼とちょっと話をするという理由なら、自然な流れで一組の中に入る事ができる。

 そのついでにニコルやチャールズの様子を見るつもりだった。


(ニコルは……、いないか。まぁいい。とりあえず、ジェイソンだ)


 アイザックが教室内に入ると注目を浴びる。

「隣のクラスのアイザックがなんで?」というものもあるが、今をときめくアイザックがジェイソンに近付いている。

「何が起こるんだろう」と気になって視線が向けられているからだ。

 ジェイソンを取り巻いていた男女が、アイザックのために道を開けてくれた。


「やぁ、ジェイソン。学生生活はどうだい?」


 第一声はフレンドリーにいった。

 今は敵対する気はないし、フレンドリーにいった方がジェイソンも気を許しやすくなるはずだ。


「今までの暮らしとはまったくの別物だ。毎日、新鮮な気持ちで過ごしてるよ。アイザックはどうだい?」

「僕も同じだよ。せっかく同世代の子が大勢いるのに、話をするのがクラスメイトだけというのも寂しい気がしてね。ちょっと来てみたんだ」


 ジェイソンがフフフと含み笑いをする。


「君の事だ。それだけじゃないだろう?」

「バレたか」


 アイザックはやれやれと首を左右に振る。

 マーガレットと話した時のように「なんで気付かれた」とは動揺しなかった。

 気付かれてもいい内容だったからだ。


「友人の少ない僕を気遣ってか、クラスメイトがよく話しかけてきてくれるんですけどね。女子ばかりで男子の友達がなかなかできないので、ちょっと遠征に来たというところです」

「なるほどね。古今無双の英雄も女子の包囲網には勝てないか」


 ジェイソンが今度はクスクスと笑う。

 女の子に囲まれて途方に暮れるアイザックの姿でも想像したのだろう。


「その点、ジェイソンはいいね。友達に男女の偏りがない」

「……あぁ、そうか。そうだね、僕には男の子もよく話しかけてきてくれている」


 ジェイソンは「アイザックに婚約者がいないから、女の子達がよく話しかけている」という事を、アイザックが気付いていない事に気付いた。

 もしかしたら気付いているのかもしれないが、そんなフリをする必要を感じられない。

 本当に気付いていないのだとしたら、それはそれでこれからどうなるのか見物だ。

 アイザックがどう切り抜けていくのかを、ジェイソンは見てみたいと思って何も言わなかった。


「……それで、ジェイソンやチャールズのいる隣のクラスに来てみたという感じだね。チャールズとはもう話した?」


 ジェイソンの言葉に引っ掛かるところがあったものの、予定していた通りの事を話題にする。


「もちろん話したよ。彼はなかなかの切れ者のようだ。アイザックと共に王国を支えてくれる人材になるだろう」

「高評価のようで安心したよ」


 低評価だったら、それはそれで将来出世に響く。

 そんな事になったらティファニーが生活に困る事になる。

 ニコルの事はあるが、一安心といったところだろうか。


「そこまで評価していただけているのは嬉しいですが、まだまだアイザックの足元にも及びません。同列にして考えられるのはお恥ずかしい限りですね」


 自分の事が話題になったのでチャールズが話に加わってきた。

 言葉通り、少し照れ臭そうにしている。


「比べる相手が悪かったかな。だが、成長は人それぞれだ。いつかは国家の重鎮として働いてくれるようになると思っているのは事実だ。自信を持て」


 ジェイソンはチャールズを高く評価しているようだ。

 これなら出世とかの事は気にしなくてもいいかもしれない。


(けど、二人とも普通だな。以前会ったままのように思える。本当におかしくなっているのか?)


 二人の様子は以前会ったままだった。

 なのに、パメラやティファニーは彼らの事を心配する。

 そこまで異常な様子を見せていないので「まだ安心かな」とアイザックは考える。


「あれー、アイザックくん。何してるの?」


 背後から肩をポンと叩かれる。

 アイザックが肩越しに振り向くと、声の主はニコルだった。


「ジェイソン達と交友を深めているんだよ」


 ニコルの姿を確認すると、アイザックはジェイソンに視線を戻す。


 ――彼の目つきは非常に険しいものになっていた。


(うぉっ! こわっ!)


 彼だけではない。

 チャールズもアイザックを見る目が変わっている。

 思わず後ずさりしてしまいそうだったが、なんとか堪える。


「確か、ニコルさんの祖父が家庭教師だったか」

「それにしては、やけに親しそうですね」


 まるで問い詰めるかのような口調になっている。

 他の男子は、アイザックがニコルと仲が良さそうな雰囲気を見て羨ましそうな目をするだけだった。

 その分、彼らの反応が異常過ぎて怖いと感じてしまう。


(これか! ニコルがいる時の反応を見て、パメラは心配してしまったんだな)


 彼らの嫉妬に満ちた目線は怖い。

 こんな目を見てしまったら、誰だってどうしてしまったのか心配になる。


「アイザックくんの家族とは、もう挨拶を済ませている仲だしね」


 ニコルの爆弾発言に周囲がざわつく。

 少し離れたところにいたパメラも驚いていた。

 だが、アイザックにはそれを確認する余裕などない。

 ニコルの発言を否定しようと、必死に頭を働かせていた。


「そういう発言は無用の誤解を招くのでやめていただけませんか? 本当に挨拶をする程度の仲でしょう」

「そうともいうね」


 ニコルはテヘッと笑う。

 一方のアイザックは笑えなかった。

「家族に挨拶をしている」と聞いた時点で、ジェイソンとチャールズの視線が殺気に満ちたものに変わったからだ。

 誤解だったと気付いて和らいだが、それでも険しい目つきのままである事には変わりない。

 ニコルが関わると、こんなにも人は変わるものなのか不思議で仕方がなかった。


「そういえば、アイザックは不自然なほどに婚約者が決まらないね。誰か意中の人はいるのかな?」


 チャールズが質問をしてくる。

 この質問により、周囲の女子生徒達が静まりかえって耳を澄ませる。

 彼女達にとって、婚約者のいないアイザックは最上級の婚約者を手に入れるチャンスだ。

 もし、アイザックまでニコルに心を奪われているのであれば、同世代の女子生徒にとって由々しき事態である。

 アイザックがどう答えるのか皆が耳を傾けていた。


「いないよ。卒業までの間に良い人を見つけられたらいいんだけどね」


 アイザックの答えは女子生徒を安堵させるものだった。

 しかし、ニコルだけは何故か自信に満ちた顔を浮かべていた。


「そう、ならいいんだけどね」

「チャールズが羨ましいよ。ティファニーっていう可愛くて賢い婚約者がいるんだしね」


 アイザックはティファニーの名前を出してチャールズの反応を見る。


「ティファニー? ああ、そうだね。ニコルさんほどではないけど良い子だと思うよ」


 その返答を聞いて、チャールズの心がティファニーから離れている事に気付いた。


(残念だけど、お前も敵になるか……)


 ティファニーの心配は正しかった。

 こんな状態で無理に結婚させてもティファニーが不幸になるだけだ。

 他の相手を見つけさせた方が彼女のためだろう。

 そう考えると、アイザックはチャールズに見切りをつけた。

 あとはニコルのハーレム要員になるなり、自由にすればいい。


「アイザック。今週末に王宮で戦争の解説をするそうだね。どれほどの事を話してくれるのか楽しみだよ」


 ジェイソンが嫉妬に満ちた目のまま、アイザックに挑戦的な口調でそのように告げる。

 まるで醜態を晒すのを期待しているかのようだ。


「どこまで上手く説明できるかわかりませんが頑張ります。次の授業が始まりそうなので、そろそろ失礼します」


 今のジェイソンにフレンドリーな話し方などできなかった。

 思わずいつも通りの口調に戻ってしまっていた。

 逃げ出したと思われないよう、アイザックは普段通りの歩みで自分の教室へと戻る。


(なんだ、あれ? ヤバすぎだろう。ジェイソンとかもうちょっと自分の心を隠せるタイプだと思ってたんだけど……。確かにパメラの言った『知能が落ちている』っていう表現は正しかった)


 いくらなんでも、あそこまで露骨な態度を取られるとは思わなかった。

 ニコルに心を奪われているとはいっても、あの反応はない。

 ちょっと話しかけられただけで嫉妬に満ちた目で見るなどあり得ない事だ。


(じゃあ、逆ハーレムエンドだったらどうなるんだよ! 殺し合いでもするのか? それとも、俺が逆ハーレム要員じゃないから、ああいう反応をするのか?)


 アイザックは、何もかもがわからなくなってしまった。

 先ほどの反応は、今まで見知ったジェイソンやチャールズと同じだとは思えない。

「あそこまで人は変わるものなのか」と思うと、ニコルの影響力が怖くなってきた。


「レイモンド、ちょっと聞きたい事があるんだけど」


 教室に戻ると、アイザックはレイモンドに小声で話しかける。


「答えられる事ならいいよ」

「例えば、レイモンドがニコルさんに惚れたりするとしよう。アビゲイルさんとの婚約を解消してまで結婚したいと思うかい?」

「いきなり凄い質問をしてくるね」


 話の流れがいきなり過ぎて、レイモンドは目を大きく見開いて驚く。

 だが、アイザックに何か考えがあるのだろうと思い、ちゃんと考えてから答える。


「どんなに好きでもアビーとの婚約を解消しようとまでは思わないかな。家同士の繋がりもあるしね。アイザックみたいに側室を持つ余裕がある家なら、第二夫人として迎え入れたりしたいとは思うだろうけどね。可愛いとは思うけど、今の全てを投げ打ってまでとは思えないよ」

「まぁ、そうだよな」


 レイモンドの答えは常識的なものだった。

 それはそれでいい。

 むしろ、アイザックはその答えが聞きたかったくらいだ。


(接触が多そうな一組の男子も、せいぜい『ニコルと仲が良さそうで羨ましい』という程度の目つきだった。ジェイソンとチャールズは攻略キャラだからニコルに魅了されやすい? 原作のモブキャラは効果が薄いのか?)


 また一つニコルの謎が増えてしまった。

 原作における攻略キャラがニコルに弱いという特徴を持っているのかもしれない。

 そうなると、同じクラスで接触の多いジェイソンやチャールズは手遅れだろう。

 まだ接触のないマイケルやダミアンで反応を見たいところだ。


(ピストは教師だからニコルと出会うだろうから仕方ないけど、マットはニコルと会わせないようにしよう。護衛隊長がニコルに攻略されているなんてシャレにならない)


 攻略キャラはニコルの魅了効果が高い。


 ――ならば、効果の薄い一般生徒を使えば安全にニコルの情報を集められるのではないか?


 アイザックはそのように考えた。

 しかし、そうはいっても手駒が少ない。

 アイザックの友達が少ないからだ。

 ルーカス経由でパメラの友人に動いてもらうよう頼んだ方がいいかもしれない。


 恐怖を感じる事もあったが、ジェイソンとチャールズの現状を知る事ができた。

 休み時間という短い時間で得られたものとしては、今のところ十分である。

 あとはこうして集めた情報をどう活かして、どう動いていくかだ。

 だが、ニコルという爆弾が思っていたよりも効果を発揮し過ぎていて、アイザックは予想外の展開にならないか不安を感じ始めていた。

明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
ニコル効果が想像以上にとんでもないな! 精神系デバフがヒドすぎるっ! 知能低下、精神低下、記憶力低下、精神抑制OFF、精神抵抗貫通等といったデバフを、対象限定で魅了、魅惑、思考偏在、思考誘導等の操作系…
[気になる点] ニコル効果強すぎ! めちゃくちゃやばいですね これでゲームシステム的な能力があってパラメータ上限が無かったならもしかしてニコルって 永遠に動ける体力 何でも理解できる知力 どんな人も味…
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