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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第十章 王立学院一年生前編 十五歳

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232 十五歳 ジェイソンとニコル --想定外の出会い--

 学校の授業は初日という事もあり、教師の自己紹介とどう授業を進めていくかなどの説明。

 あとは軽く授業を進めていくというだけだった。

 まだ初日だから眠気を我慢できたが、これからが心配になってしまう。


(場所が悪いんだ。場所が)


 アイザックの座る場所は教室の一番後ろ。

 これは「貴族は家庭教師を雇えるから、家庭教師を雇えない者に勉強しやすい場所を譲る」という暗黙の了解があるからだ。

 教室の一番後ろにいると「教壇から離れているから、ちょっとくらい寝てもいいかな?」と油断してしまう。

 でも、だらしない姿を見せる事はできないので、眠気を我慢するしかなかった。


 ――眠気に耐えて待ちに待った昼休みが訪れる。


 この学院では、昼休みが二時間ほどあるらしい。

 長いと思ったが、アイザックはゲームの都合によるものだと考えていた。

 誰かとイベントを起こすには「昼食を食べて、午後からの授業に備えて準備する」以外の時間も必要だ。

 昼休みが長めなのも、イベントを起こす時間を持たせるためだと思っていた。

 だが、それはすぐに間違いだとレイモンドに教えられる。


「えっ、学食に行かないの?」

「行かないよ。アビーがお弁当を持ってきてくれる事になってるからさ。婚約者のいる子ならみんなそうだと思うよ」


 王立学院では飲食が無料となっている。

 だから、アイザックはみんな学食を使うのだと思っていた。

 現にクラスメイト達は授業が終わると、そそくさと教室を出て食堂に向かっていった。

 しかし、婚約者がいる者は仲良くお弁当を食べるようだ。

 独り者はハブられる悲しい運命らしい。


「へー、婚約者にお弁当か。ティファニーに料理が作れるのか心配だな」

「私だってサンドイッチくらい作れるわよ」


 レイモンドと話をしていたのだが、ティファニーも教室の後ろの席に座っていたため話が聞こえていたようだ。

 非難がましい目でアイザックを見ている。


(サンドイッチって、作れない方が珍しいような……)


 アイザックはそう思ったが、それを口にすれば機嫌を損ねてしまう事くらいは理解している。

 余計な事を言わず、曖昧な笑いを浮かべて誤魔化した。


「アイザックもお弁当を持ってきてるんでしょ?」

「あるよ。家を出る時に持たされたからね」


 家を出る時に、バスケットケースを持たされていた。

 中にはハムサンドと卵サンド、おかずとしてウィンナーやフライドポテトが入っている。

 アイザックは「学食があるのになんで?」と思っていた。

「友達と一緒に食べろ」という事なら、恋人のいるリア充の間にお邪魔して一緒に食べなければならなくなる。

 一人で食べるのなら、それはそれで寂しい。

 もったいないが、やはり学食に行こうかという考えに傾いていく。


「僕もお弁当を持ってきたよ。学食は上級生に順番抜かしをされたりして、なかなか食べられないんだって。昼休みが長いのも、お弁当を持ってこれない子が学食でご飯を食べられるようにするためだって聞いたよ」


 アマンダが会話に入ってくる。

 彼女は侯爵家の娘という事もあり、教室の一番後ろ――アイザックの隣――に座っていたから会話に入りやすかったというのもある。


「よかったら、一緒に食べない?」


 彼女はオドオドとして、上目遣いでアイザックの様子を窺う。

 元々身長差があるので自然と上目遣いになってしまうのだが、今回は身長差とは関係無しにそういう目つきをしていた。


「いいですよ。一緒に食べる人もいないしね」


 アイザックは教室を見回す。

 軽く声を掛けてわかったのだが、このクラスの生徒は家名を持たない子供が多い。

 爵位のある家の子なら、人並みの知識があればいい。

 極端な話、貴族としての義務さえ果たしていれば、社交界に出ず貴族年金でのんびりとした生活ができる。


 だが、分家筋の子供は違う。

 貴族年金がないので、自分で働いて稼がなくてはならない。

 少しでも良い場所に配属されるため、出世しやすくなるために勉強を頑張るようになる。

 そのため、成績優秀者のクラスには分家筋の子供が多かった。

 そういった家は、子供を王都に住まわせるだけでも金銭的な負担が大きい。

 自然と節約生活となり、昼食は無料の学食に頼らざるを得ない。

 なので、アイザックが昼食に誘うクラスメイトがいないという事態になっていた。


 同世代の女の子とお昼を一緒に食べられるのなら、それはそれで幸せな事だ。

 前世では経験できなかった初体験。

 お弁当を持っていくように言ってくれた祖父に感謝する。


「そっ、それじゃあ中庭に食べに行こっ!」


 アマンダの明るく嬉しそうな声が教室に響いた。



 ----------



「うん、なんだかこうなるってわかってた」


 今日は初日という事もあり、勝手のわからない者達がアイザックのもとに集まってきていた。

 二人っきりのお昼ご飯といかず、アマンダが心底残念そうな顔をしている。


「へー、カイはフレッドと同じ六組なんだ」

「戦争で手柄を立てたからか、彼にライバル視されてるみたいで……。疲れるよ……」


 ――アイザックと和解できたと思ったら、次はフレッドに目を付けられる。


 カイの人生は侯爵家の跡取り息子と縁があるようだ。

 これから先も、かなり苦難に満ちたものになるかもしれない。


「アイザックも大変そうだけどね」


 レイモンドが周りを見回して呟いた。

 アイザックの周囲は少し居心地が悪かった。

 女の子が大勢いるせいだ。

 彼女らはアマンダの友達だったり「私もアイザックくんと一緒にご飯を食べたい」と集まってきた者達だったりする。

 だが、アイザック達男子勢は「女子に囲まれて幸せ!」と喜べなかった。

 女の子達がお互いに牽制し合う雰囲気が邪魔をするからだ。


「まぁ、慣れたら大丈夫だよ」


 アイザックは彼女らの雰囲気を気にしていなかった。

 いや、気付いていなかった。

「登校初日だからぎこちないんだろう」と思っている程度だ。

 レイモンド達は「まさかアイザックが、自分がこの雰囲気を作っている元凶だという事に気付いていないわけがない」と思っているので、堂々とした態度に頼もしさを感じていた。


 表面上は(・・・・)ワイワイとした明るい雰囲気のまま昼食を終える。

 事件はその後起こった。


「やぁ、アイザック。君も昼食の帰りかい?」


 教室への帰り道、ジェイソンが現れた。

 彼もフレッドやダミアンといった男友達と女の子達を引き連れている。

 当然パメラもおり、彼女はバスケットケースを持っていた。

 本人の手作り弁当とは限らないが、その可能性を捨てきれないだけにジェイソンの事をアイザックは羨ましく思う。


「そうですよ。初日から一人で食べるという事にならなくてよかったと安心していたところです」


 嫉妬を隠して返事を返す。

 女の子に囲まれての昼食ができたので、アイザックはそこそこ上機嫌だ。

 前世なら「羨ましい奴だ」と顔に出ていただろうが、今は嫉妬を剥き出しにするほどではない。


「確かに初日はこれからの学生生活がどうなるのか不安だったね。今までと違う生活になるから私も不安だったよ」


 ジェイソンも心中の不安をこぼす。

 彼の場合は王子という特殊な立場だっただけに、他の子供達よりも不安は大きかったはずだ。

 こうして不安をこぼしてくれるほど信頼してくれているのは嬉しく、同時に重荷でもあった。

 軽く話しながら廊下を一緒に歩き始める。


 ――そして、曲がり角に近付いた時。


「うわっ」

「キャッ」


 アイザックと話して注意散漫になっていたジェイソンが角を曲がる時に女子生徒とぶつかり、押し倒す形になって倒れた。

 これは王宮ではありえない事だ。

 ジェイソンは誰もが道を開けてくれる立場。

 そのせいで、注意を怠ってしまっていた。

 咄嗟の事だったので、アイザックもジェイソンを心配する。


「だいじょう、ぶ……」


 アイザックの目に映ったのは、ジェイソンが女子生徒を押し倒している姿だ。

 だが、その相手はニコルで、ジェイソンは何故かスカートの中に頭を突っ込む形になって倒れていた。

 ソフ倫に抵触しないか不安になりそうな絵面の方が心配になってしまう。


(なんでだよ! 今の倒れ方でどうしてそうなるの? どんなトラブり方だよ! ニコルの下半身には男を引き込む力でもあるのか?)


 乙女ゲームにあるまじきぶつかり方である。

 どちらかというと、少年誌のちょっとエッチな漫画でありそうな倒れ方だ。

 あまりにもありえない状況に、アイザックは反応できずに固まったままだった。

 それは他の子達も同じ。

 ジェイソンを心配して駆け寄るよりも、この状況を前にして身動きが取れなかった。


「すまない、大丈夫か?」


 ジェイソンが身を起こす。

 その時スカートがめくり上がり、白い下着が見えた。


(おいいい! なんで白なんだよ? お前は赤とか黒とかそっち系じゃないのか? いっそノーパンでもよかっただろ。ていうか、ジェイソンを逃がさないように太ももでガッチリホールドしとけよ!)


 アイザックは「ニコルなんだから」と無茶な事を心の中で押し付ける。


「キャーーー!」


 そんな事を考えている間に、ニコルが恥ずかしそうに左手でスカートを押さえ、右手でジェイソンに平手打ちをした。


「おい、何をしている!」


 これにはアイザックも動かざるを得ない。

 ジェイソンの事を心配してではない。

 ニコルの事を心配してだ。

 こんなところで二人の間に決定的な亀裂ができてしまっては困る。

 まずはニコルを止め、二人の仲裁に入る必要があった。


 だが、それを止めたのはジェイソン本人だった。


「大丈夫だ。今のは私が悪い。前を見て歩いていなかった私の責任だ。女性に恥ずかしい思いをさせてしまって本当に申し訳ないと思っている。すまなかった」


 ジェイソンが謝る。

 それでニコルは誰を叩いたのか気付いたようだ。

 彼女が慌て始める。


「いえ、その……。殿下だとは知らずに、私……。ごめんなさい!」


 ニコルは謝ると、慌てて走り出した。

 その顔は真っ赤に染め上げられていた。


(いやいや、それはない。お前ニコルじゃん。肉食系なんだから、もっとガッツリ行けよ。なに清純ぶってんの? そういう作戦?)


 彼女の走り去る後ろ姿を見て、アイザックはそんな事を考えていた。

 チラリとジェイソンの顔を見ると、彼も顔を真っ赤にしていた。

 それは叩かれたからというわけではなさそうだ。


「大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。学校は人が多いから曲がり角では気を付けないといけないね」


 ジェイソンの言葉に怒りの色はない。

 それどころか、普段は冷静な彼に動揺の色が見える。


(もしかしてドM? いやまぁ女の子の股間にダイブなんてやったら、俺も興奮したり動揺したりするだろうから断定できないけど)


 気品があろうが、やはり年頃の男の子なのだろうとアイザックは思った。

 とはいえ、さすがに主人公と攻略対象の出会い方としてはありえない。

 原作ゲームのシナリオライターは、もうちょっとイベントを何とかできなかったのかと思ってしまう。


 アイザックはジェイソンとニコルに気を取られていたせいで、パメラの反応を見損ねてしまった。

 彼女は拳を握り締め、ニコルを般若の形相で見ていた。

 しかし、それは一時的なもの。

 ジェイソンを助け起こし、パメラの方を見た時には普段通りの彼女に戻っていた。

 だから、アイザックは気付かなかった。

 パメラがニコルをどういう目で見始めたのかを。

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― 新着の感想 ―
まさかのラッキースケベが発動! しかし、アイザックではなくジェイソンとは、意外!
入学初日からトラブりましたねぇ
[気になる点] おっと? [一言] リトさんならパンツの中まで顔入れてたからまだまだだな。
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