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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第十章 王立学院一年生前編 十五歳

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226 十五歳 ローランドとの顔合わせ

 アイザックに接触してくるのは好意的な感情を持っている者ばかりではない。

 良い印象を持っていない者も当然接触してくる。


 今回はウィルメンテ侯爵が接触してきた。

 妻のナンシー、息子のフレッドとローランドを連れて。

 なので、名目としては「ローランドとケンドラの顔合わせ」である。

 ウェルロッド侯爵家側の出席者は、アイザックの他はランドルフとルシアだけだった。

「まずは子供と両親だけで」というウィルメンテ侯爵の申し出だ。

 アイザックは「モーガンやマーガレットがいては不都合があるのか?」と考えてしまう。


 だが、それは無用の心配だった。

 お互いに挨拶をし終わっても動きはなかった。

 ローランドとケンドラの顔合わせは無事に済み、フレッドも大人しいまま。

 何かを仕掛けてくる様子はなかった。

「本当に顔合わせのためだけに来たのかな?」とアイザックも考え始めていた。

 とはいえ、順調に話が進んでいる方が心配になってしまう。


(フレッドを連れてきたのは、波風を立たせるためじゃないのか?)


 そう思ってしまうほど、アイザックはウィルメンテ侯爵を警戒していた。

 侯爵家の中で唯一敵に回るであろう相手だ。

 自分に仕掛けてくると警戒するのも無理はない。

 だが、何も仕掛けてこない。

 それが却って疑心暗鬼を生み、アイザックを混乱させている。

 対するウィルメンテ侯爵は堂々とした態度で、笑みすら浮かべていた。

 彼がアイザックを前にして余裕でいられるのは、ローランドのおかげだ。


「うわぁ……、本物のエンフィールド公とお会いできて光栄です!」


 ローランドはアイザックに挨拶をした時、心底感激している様子を見せた。

 英雄というものに興味があるのだろう。

 そんな態度をまだ幼い子供に取られては、アイザックも突き放すような態度は取れない。

 内心嫌々だが、表向きは優しいお兄さんとして応対してやった。

 それがまたローランドを喜ばせる。

 ケンドラを奪いとる婚約者ではあるが、フレッドとは違って利発そうな子供だ。

 兄そっくりであれば、あっさりと切り捨てる事もできるが、良い子そうなので扱いに困ってしまう。


 アイザックの反応は、ウィルメンテ侯爵の狙い通りだった。

 ジュードとは違い、アイザックには情がある。

 アイザックと戦える子供を育てるよりも、戦わずに済む子育てをしていたからだ。


 ルシアの教育を受けていれば、将来はアイザックとも戦える子供になっていただろう。

 しかし、彼女にローランドの教育を持ち掛けたのは最近の事。

「自分達でもできるアイザック対策」という事で、ウィルメンテの家風に似合わない子供を育てていた。

 ウィルメンテ侯爵が考えたアイザック対策は、それなりに効果を発揮していた。


「テレサといっしょにあそばない?」


 話に飽きてきたケンドラが、ローランドを遊びに誘う。

 ランドルフとウィルメンテ侯爵が許可を出すと、ケンドラがローランドと共にテレサのいる部屋まで向かった。

 付き添いにリサだけではなく、メイドも数名同行する。

 万が一があってはならないからだ。


 ケンドラがいなくなってから、アイザックが動き出した。

 妹には見せたくない姿というものがある。

 例え、妹を守るための姿であってもだ。


「フレッド、君の弟はなかなか利発そうな子だね」


 まずはフレッドに話しかける。

 彼の反応を見て、ウィルメンテ側の考えを引き出すためだ。

 だが、アイザックの言葉にフレッドが返事をする前に、ナンシーが口を挟んできた。


「ローランドはウェルロッド侯爵家に婿入りしても大丈夫なように、そちらの家風に合わせるよう気を付けて育てておりますの。ルシアさんほど上手に育てられませんので、子育ての秘訣というものを教えてくださると助かりますわ」


 ナンシーはウィルメンテ侯爵から「今のアイザックを作り上げたのは母親のルシアだ」と聞かされている。

 彼女もルシアとは今までに何度も会って知っていただけに、表と裏の表情の違いに驚かされた。

 しかし、ひるんではいられない。

「ルシアがアイザックを育て上げたのはメリンダのせいだ。望んであんな子を育てたわけじゃない。人の親として、やはり大人しくて素直な子供を好むはず」と思って、ローランドを素直な良い子に育て上げた。

 侯爵家に嫁ぐだけあって、相手に取り入るしたたかさを持っている。


「子育ての秘訣なんて……。アイザックは勝手に育ちました。全てウェルロッド侯爵家の血筋のおかげです」


 対するルシアは、いつもと同じ事を口にするだけだった。

 だが、教育を受けずに子供が育つはずがない。


 ――自分がやったのではなく、ウェルロッド侯爵家の血に責任をなすりつける。


 ナンシーもウィルメンテ侯爵同様に「人の良さそうなフリをして、本当に重要なところは絶対に話さない警戒心の強い女」という印象をルシアに持った。

 ランドルフも大人しい印象だが『闘将』の二つ名を持つほどの剛腕。

 人は見た目ではないと言うが、夫婦揃ってここまで見事に本性を隠し通せる者など初めてだ。

 アイザックの両親だという事を、嫌でも思い知らされる。


「こちらもあなた方と仲良くやっていきたい。だからこそ、ローランドは文官の家系に合うように勉強を中心とした教育を施しています。もちろん、もう少し大きくなれば、戦場で自分の身を守れる程度に鍛えるつもりです」


 ウィルメンテ侯爵の言葉に他意はない。

 本当にウェルロッド侯爵家に合わせようというだけだ。

 しかし、警戒していたアイザックには「戦場で自分の身を守れる程度」という言葉が当てつけのように聞こえていた。

 アイザックは自分の身を守れなかったからだ。

 だが、それが疑い過ぎだという事も理解していた。

 相手に持っている印象のせいで、何もかも悪いように受け取ってしまう。

 関係改善を望んでくれるのはありがたいが、ウィルメンテ侯爵家に対する印象だけは簡単に拭い去れそうにはなかった。


「僕はケンドラと遊んだりするけど、フレッドはローランドと遊んだりしてる?」


 だから、これは聞いておかねばならない。

 よく遊んでいるのなら、フレッドからローランドに要らぬ事が吹き込まれている可能性が高い。

 今はまだいいが、大きくなるにつれてアイザックに嫌悪感を抱くかもしれない。

 その場合、婚約者であるケンドラが嫌な思いをさせられるだろう。

 それだけは避けておきたかった。


 フレッドは少し顔をしかめるだけで、すぐに返事をしなかった。

 代わりにウィルメンテ侯爵に視線を投げる。

 両親の前で迂闊な事を言わない程度には躾けられているようだ。


「年も離れているので、フレッドとはあまり遊ばせていません。剣の力加減がまだわからないフレッドと遊ばせて、怪我をしたりすると危ないですからね。たまにボールで遊んでいる程度で、普段は離れて暮らしています」

「確かに年が離れていると体を使った遊びはやりにくいですよね。僕も絵本を読んでやったり、一緒に犬と遊んだりするくらいです」


 フレッドの代わりにウィルメンテ侯爵が答えた。

 アイザックは彼の返事に同調しながら、その言葉の真意を考える。


(フレッドは負けを認めた騎士を痛めつけるような戦い方だっけ。確かに五歳の子供の相手なんてさせられないよな。……でもそれだけじゃない。普段から離しているって事は、フレッドが余計な事を吹き込む事を警戒しているからか? だとしたら、ウィルメンテ侯爵はメリンダ達を殺された恨みよりも、俺と上手くやっていこうという気持ちの方が強い?)


 考えていたよりも協調路線を取っているように思える。

 しかし「それもそう思わせる罠では?」とも考えさせられる。

 ウォリック侯爵のように「婿殿」と寄ってくる相手とは違う意味で厄介な相手だ。


「それにしても、エンフィールド公は妹と仲が良いのですね」


 ナンシーが微笑みながら言った。

 アイザックにも妹を可愛がる人の心を持っていると知ったからだ。


「ええ、可愛いものです。もし、ケンドラを利用しようとする者がいれば、手段を選ばずに排除するつもりです」


 だが、アイザックの言葉がこの場に居た者達の表情を凍り付かせた。


「ア、アイザック?」


 ルシアがエンフィールド公(・・・・・・・・)ではなく、アイザック(・・・・・)と呼びかけてしまう。

 彼女を動揺させるくらい意思の強い言葉だった。


「勘違いしないでくださいね。別に政略結婚の事を言っているわけではありませんよ。ただ、ケンドラが僕の弱点だと思った人が悪意を持って近付いた時の事を言っているだけです」


 アイザックはフレッドの目をジッと見つめながら言った。

 言われたフレッドは怯む事なく、堂々とアイザックの目を見返していた。


「俺はそんな事をしない。正面から正々堂々とぶっ――」


 フレッドは最後まで喋る事ができなかった。

 ウィルメンテ侯爵の拳を頭頂部に叩き込まれ「ぬぉぉぉ」と呻きながら頭を押さえる事になったからだ。


「失礼致しました。我が家は武官の家系。この間の戦争でエンフィールド公が立てられた武功が羨ましく、閣下を目標としているようで張り合う気持ちが強く出ているようです。大目に見ていただけないでしょうか?」

「いえ、こちらも言い方が悪かったですね。フレッドとは将来親族になります。共にケンドラとローランドを悪意から守っていこうと思って言ったつもりでしたが……。いらぬ誤解を招いてしまったようですね」


 この言葉は嘘だった。

「ケンドラを使って良からぬ企みをするなよ」というのが本心だった。

 しかし、それでは先に仕掛けたアイザックに非があると思われる。

 ここは「妹達を守ろうと提案しようとしたのに、フレッドが勝手に誤解して反応した」という形を取っておく必要があった。

 あらかじめ「政略結婚の事ではない」と言っているので、早合点したフレッドが完全に悪いという形に。

 その狙いは予想以上の成果を上げていた。


(もしかして、ウィルメンテ侯爵は俺とやり合う気がない? そう考えれば爺ちゃん達が同席しなかったのも理解できる)


 ケンドラの顔合わせにモーガンを呼ばなかったのは、同格の侯爵に弱気な態度を見せるのを嫌ったからかもしれない。

 将来的にランドルフも侯爵になるが、彼は人の弱みに付け込むようなタイプではない。

 一時の恥を忍ぶくらいなら、元は取れると判断したのだろう。


 ――ケンドラとローランドの顔合わせという名目でアイザックに会い、敵意がない事をアピールする。


 それが目的というのなら、フレッドを連れてきたのも「兄だから」という理由だけではない事がわかる。

 あまり抑えられてなさそうではあるが「ちゃんとフレッドを抑えていますよ」というアピールもあるのだろう。


(問題はいつから考えていたかだ。以前からか爵位を貰ってからか……)


 以前からアイザックと戦う気がなかったのなら、それはそれでいい。

 戦争後に戦意を失ったのなら、武官としてアイザックの力を認めてくれたという事で態度を信じてもいい。

 だが、公爵になってからだったら別だ。

 権威に弱いタイプなら、今は公爵という肩書きにひれ伏しているだけ。

 アイザックが王家に反旗を翻した時にあっさりと敵に回るかもしれない。

 面従腹背という、人として最も信用できないタイプだ。


(いや、全部俺の勘違いかもしれない。学校でフレッドに付かず離れずの距離を保ちつつ、情報を聞き出して確認した方がいいな)


 以前のアイザックなら、ここで強気に出ていたかもしれない。

 だが、戦場での経験から慎重になり、今すぐに答えを出せなかった。


 ウィルメンテ侯爵家の事だけではない。

 今まで保留している答えを、リード王立学院での学生生活の間に出さなくてはならない。

 まだまだ苦難の時がアイザックを待ち構えている。

レビューありがとうございました!

感想だけでなく、レビューまで書いてくださってありがとうございます。

これからも頑張っていきますので、転生貴族は大志をいだく! 「いいご身分だな、俺にくれよ」をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
まあ、アイザックは立場的にも目的的にも油断はしない方がいいし。考えすぎなくらい考えていかないとな。
むしろこれぐらいの慎重でいいやん
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