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いいご身分だな。俺にくれよ。 作者:nama

第一章 幼少期編 前世~五歳

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 アイザックがパメラと会って一週間ほど経ち、アイザックが落ち着いたと思われた頃。
 ルシアがアイザックに客が来ると伝えた。

「お客様が来るというのはわかりました。どんな方が来られるのですか?」

 アイザックは不思議そうに聞いた。
 普段、客が来ると伝える時に比べて、少し様子がおかしい。
 嫌な奴が来るのだとしたら、前もって心構えをしておかなくてはならなくなる。
 ルシアは少し困ったような顔をした。

「やっぱり、あなたは気付いちゃうのね」

 自分の様子がおかしいと勘付く我が子に、ルシアは説明を始める。

「あなたと同じ年の子がいる私の学生時代の友達が来るの」
「お母様の友達ですか」

 ――学生時代の友達。

 そう言われると、どうしても大学時代の友達を思い出してしまう。
 高校以前の友達もいるが、個性の強さでは大学時代の友達には敵わない。
 大学という場所に集まる人間の多種多様さに、最初は度肝を抜かれた。
 もっとも、その友人達だけが異質だったと後に気付いたが。

(あぁ、そうか。個性の強い友達が来るから、子供に会わせていいのか不安なんだな)

 前世の事を思い出したからこそ、そのような答えに行き着いた。
 母の様子がおかしいのも、その友達が子供の情操教育に悪影響を与えないか不安なのだろうと考えたのだ。

「ウォリック侯爵家傘下の子爵家の子でね。学生時代にとても仲が良かったの」

 ルシアは昔を思い出して笑顔になる。
 そして、すぐに暗くなった。

「でも、私がランドルフと婚約してから、急に態度が変わってしまって……。段々と距離を感じるようになってしまったのよ」
「なるほど」

 ルシアの話を聞いて、アイザックは理解する。

(侯爵家の跡取りに嫁いだから嫉妬されたか)

 同じ子爵家の娘という対等な立場から、リード王国に四家しかない侯爵家の跡取り息子の妻になった。
 女の子は王子様に憧れるというが、侯爵家もかなりのもの。
 妬まれるのも当然だ。
 ルシアは話を続ける。

「お互い子供が生まれたから、今までは手紙のやり取りしかしていなかったの。けれども、あなたに男友達も作ってあげたいと思って会おうと伝えてみたの。でも、ちょっと不安なのよね……」

 ルシアは頬に手を当て、不安そうに少し首をかしげる。
 その姿を見て、アイザックは察した。

「わかりました。お母様が困っていそうなら、僕がわがままを言って話を切り上げさせます」

 アイザックはルシアが何を考えているのかを考え、望んでいるであろう答えを口にした。
 おそらく、久しぶりに会う相手と話が合うか不安で、変な空気になったらアイザックに邪魔をしてお茶会を終わらせて欲しいのだろうと思ったのだ。

(まったく、優しい顔をしておきながら……。女って怖ぇな。いや、貴族としての基本なのか?)

 ハッキリと口にしてしまえば、自分の責任が生じてしまう。

”相手が気付けるようにわかりやすくほのめかす事で、自分の責任を回避しながら望む結果を出す” 

 そのために、ハッキリと言わなかったのだと受け取った。
 アイザックは大貴族の血筋を引く子供だ。
 相手も目くじらを立てるわけにもいかない。
 優しい母親としての姿しか見せなかったルシアも”やはり貴族なんだ”と、アイザックは気付かされた。

「違うわよ! そんな事望んでないわ!」

 だが、即座にルシア本人によって否定される。

「あなたと同い年の男の子も連れて来てもらう事になってるから、その子とお庭で遊ぶなりして欲しいのよ。でも、今思うとあなたは男友達なんて初めてだから、仲良くやれるかどうか……」

 ルシアは心配そうにアイザックを見る。
 アイザックが男友達と上手くやれるのかが不安だったようだ。
 考え過ぎてしまった事に、アイザックは少し恥ずかしく感じてしまった。
 子供を連れて来るというだけなら、何も問題は無い。

「大丈夫です。男友達なら慣れてます」

 残念な事に前世では男友達しかいなかった。
 むしろ、女だらけだった今までの方が不安だったくらいだ。
 母の心配を解消してやろうと、胸を張って答える。

 しかしながら、アイザックの言葉にルシアは不思議そうにする。

「慣れてるって……。みんな女の子だったでしょう?」

(あっ……)

 ――失言をしてしまった。

 アイザックは唾を飲み込み、背筋に一筋の汗が流れる。
 しかし、黙っていてはよけいに疑われる。
 アイザックはすぐに無邪気な笑顔(子供の武器)を浮かべ、言い訳をする。

「だって、ほら……。パトリックも男の子ですよ」
「ええ……、そうね……」

 アイザックの答えは効果的だった。
 適当な言い訳だったが、ちゃんとルシアは信じてくれたようだ。
 だが、効き過ぎた。
 ルシアに今にも泣きそう顔をさせてしまう。
 今まで同性の友達を作らせてやれなかった事を悔やんでいるのだろう。

 つい失言してしまったアイザックは、ルシアに申し訳なく思う。
 でも、謝る事はできない。
「前世の友達の事だ」と話してしまえば、頭がおかしくなってしまったと、よけいに悲しんでしまうだろう。
 謝罪の代わりに話題を逸らす。

「どんな子か楽しみですね」
「良い子だとは聞いているけれど……。仲良くできるといいわね」
「はい!」

 アイザックは無邪気な笑顔(子供の武器)を浮かべ、とりあえず勢いで誤魔化す。
 こういう時は子供で良かったと思えた。


 ----------


 ルシアの友人が訪れ、応接間のドアが開かれた時、アイザックは全てを察した。

 使用人がドアを開けると、そこには90度の最敬礼をした親子が居た。
 子供の方は角度が少し浅かったが、母親に頭を抑えられてしっかり90度まで曲げられていた。
 数秒してから、母親が顔を上げる。

「お久しぶりです。ルシア様」

 その顔には、明らかに媚びへつらった笑顔が貼り付いていた。

『でも、私がランドルフと婚約してから、急に態度が変わってしまって……。段々と距離を感じるようになってしまったのよ』

 その言葉の意味をアイザックは知る。

 ――同格の子爵家だった相手が、一気に侯爵家の嫡男の妻になった。

 そんな事があっては、態度が変わってしまうのも当然なのかもしれない。

(あー、こういう意味だったのか。そうだよな、友達がいきなりこんな態度取り始めたら距離を感じるよな)

 今まで、アイザックの周囲にはこんな態度を取る者がいなかった。
 アデラもカレンも、そして他の女の子達の親もだ。
 アイザックやルシアの前では、失礼のないようには気を付けていた。
 だが、媚びを売るような事はしていなかったと思う。

 その事を思い出すと、彼女らはやり過ぎではないのかとも思い始める。
 ルシアも同じ事を感じているのだろう。
 悲しそうな顔をしている。

「キャサリン・フォスベリー。ダミアン・フォスベリー、ただいま参りました」
「キャシー……」
「そんな、ルシア様にそのようにお呼びいただけるとは光栄の極みでございます」

 キャサリンはペコペコと何度も繰り返して頭を下げる。

 ――情けない。

 アイザックは当初そう感じた。
 しかし、すぐに思い直す。

 ――前世の友達が、大物政治家の婿養子になったらどうするか。

 ここまでではなくとも、きっと自分も態度が変わってしまう。
 アイザックはキャサリンの事を馬鹿にする事はできなくなった。

 貴族社会というのは広いようで狭い。
 夫の出世を援護しようと、売りたくない媚びを売っているのではないか? 
 そう思うと”プライドを捨てているように見えるが、夫を献身的に支える良妻”にすら見えて来る。

(良妻ではあっても、良き母ではないと思うけどな)

 先ほど、ダミアンを無理矢理お辞儀させていたのを見ている。
 こういう時のためにあらかじめ礼儀作法を教えておくべきだった。
 無理なら無理で、子供なりに一生懸命やってる姿を見せればそれでいい。
 強制まではしなくても良かった。

 アイザックはダミアンに笑顔で歩み寄る。
 ルシアに嫉妬しているタイプなら、助けようと考えていた。
 だが、媚びを売るタイプなら、ゆっくりと本人同士で話し合った方が良い。
 それならば、子供の存在は話し合いの邪魔だ。
 そう考えたアイザックは、ダミアンを早めに遊びに誘う事にした。

「はじめまして。アイザックです」

 ニッコリと笑顔を向けて挨拶をする。
 父の名を名乗った形式ばったものではない。
 気軽さを表に出す。

「ダミアンだよ」

 ダミアンも笑顔で挨拶をした。
 だが、キャサリンがダミアンの頭を抑えつけ、お辞儀をさせる。

「ちゃんと頭を下げなさい。侯爵家の方なのよ。申し訳ございません、アイザック様」

 キャサリンはアイザックにまで媚びへつらった笑顔を見せる。
 今にも土下座でもしそうな勢いだ。
 ルシアよりも、継承権を持つアイザックの方が上位者だというのは貴族としては当然の事。
 だが、子供に媚びる大人の笑顔という物を見たくない。
 アイザックは少し不愉快になり、一言だけ言ってやる。

「お姉さん、頭を下げる側と下げられる側の関係なんて友達とは言えないよ。僕はダミアンと友達になりたいんだ。だから、手を放してあげてよ」
「は、はい。アイザック様」

 キャサリンはダミアンから手を放した。
 アイザックの狙いはそれだけではない。

”頭を下げる側と下げられる側の関係なんて友達とは言えない”

 そう伝える事によって、この後のルシアがキャサリンと話しやすいようにフォローする。
 友達の間にも礼儀は必要だが、媚びへつらう必要などないのだ。

(これでキャサリンの態度が、ほんの少しでもマシになったらいいな)

 アイザックはそう思ったが、こればっかりは本人次第だ。
 理解できずにルシアとの友情が完全に壊れてしまっても、それはアイザックの知った事ではない。

「ねぇ、ダミアン。大人のお話しってつまらないから遊びに行かない?」
「う、うん」

 ダミアンは母親の様子を伺う。
 もちろん、キャサリンにダミアンとアイザックが遊ぶことに異論はない。
 むしろ、推奨したいくらいだ。
「遊んで来なさい」とうなずいて許可を出す。

「それではお母様、キャサリンさん。ごゆっくりどうぞ。行こう」

 アイザックはダミアンの手を引いて、パトリックのいる部屋へと向かう。
 そこでパトリックと遊びつつ、この世界の男の子がどんな遊びをするのか聞いていくつもりだ。

 部屋に残されたキャサリンはルシアの方を向く。
 彼女の表情には、先ほどの媚びへつらった笑顔は無く、戸惑いだけが残っていた。
 ルシアが少し悲し気な表情のまま話し出す。

「ねぇ、キャシー。私達はもう大人。しかも、一児の母親よ。もう学生の時とは何もかも違うとわかっています。でも……、私はあなたを友達だと思っている事は変わってないの」

 ――だから、もうそんな態度はやめて!

 そんな悲痛な思いを視線に乗せて送る。
 それを受けたキャサリンは、今にも泣きそうな顔になっていた。
 アイザックの言葉は、彼女にちゃんと届いていたのだ。

「私は子爵家の妻……。それも、街を任されていない地方官僚の妻。あなたは侯爵家の妻。……私の対応は間違っていたというの?」

 ルシアはキャサリンの元へ行き、ギュッと抱き締める。

「貴族としてなら、そこまで間違っていないと思う。でも、友達にする態度としては間違っていたわ」

 キャサリンの目から涙が溢れ出す。

「態度が変わったのはあなただけじゃない。様々な人達の私に対する態度が変わった。でも、あなたは友達じゃない。だから、今まで寂しかったわ」

 ルシアも涙を流してはいないが、涙声になっている。

「ごめんなさい。だって、それが正しい対応だと思って」
「いいのよ。それが普通だもの。でも、これからは以前のような友達でいてね」
「ルシア……」

 キャサリンは「ありがとう」「ごめんなさい」を繰り返しながら、ルシアを抱き締め返して泣いていた。


 ----------


 この日、アイザックは気分良く床に就く事ができた。

 初めての男友達ができた。
 オドオドしていたが、それは慣れていく内になんとかなるだろう。
 ルシアもキャサリンと良い関係に戻れたらしく、目を腫らしていたが機嫌が良かった。
 今日はプラスになって終わる事ができた。
 それだけでも、今は十分と思うべきであろう。

(それにしても、パトリックに平気で触ってたのに顔を舐められたら泣き出したのは驚いたな)

 まだ子供なので、感情のコントロールが上手くできないのだろう。
 初めての体験に驚いて泣いてしまったのだろうと、アイザックは考えた。
 五歳児としてはそういうものなのかもしれないが、頼りなくも感じる。

(でもまぁ、ダミアンは他所の子爵家。どうせ、将来的に頼りにはできな……。将来……、ダミアン……)

 アイザックは布団から勢いよく起きる。

「ダミアン・フォスベリーじゃないか!」

 その声は一人しかいない部屋の中の闇に吸い込まれていく。

(うぉぉぉい、なんで。なんで、ダミアンが俺のところに来てんだよ!)

 ――ダミアン・フォスベリー。

 攻略キャラの一人で、ウィルメンテ侯爵家の嫡男の付き人のようなキャラ。
 ザ・小物とでもいうべきなキャラで、なんで攻略キャラになっているのかわからない存在だ。

 寝る時になって、アイザックはその存在を思い出した。
 小物過ぎて、今まで忘れてしまっていたのだ。

(えっ、なに? 確かに俺も侯爵家の人間だけど、あいつが俺の付き人みたいになんの?)

 予想していなかったところで、ゲームのメインキャラと出会ってしまった。
 その事が、どう影響を与えていくのだろうか。
 アイザックは頭を激しく掻きむしる。

(気分良く眠れそうだったのに、寝る前に気付いてしまったせいで寝付きが悪くなりそうだ)

 アイザックの計画は、あくまでもゲームのエンディングに沿った物だ。
 大きく逸脱してしまえば、その計画も水の泡。
 自分が周囲に与える影響も考えなければいけないと気付き、アイザックは頭が痛くなった。
 居なかったキャラが存在しているというだけで、どんな影響を与えるのかわからないからだ。

(……まぁ、いいか)

 大切なのはパメラ関係だけ。
 王子がパメラと婚約破棄さえしてくれれば、多少の差異は許容できる。
 考えても出ない答えに悩むよりも、できそうな事を考える事に時間を使うべきだ。
 アイザックは、そのように考えを切り替えて眠りについた。
+注意+
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