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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第七章 交流編 十二歳~十三歳
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151 十三歳 半年ぶりの家族との再会。そして・・・ 王都グレーターウィル

 今年は慌てて王都に行く必要がなかった。

 いつも通り、十一月上旬に王都に向けてウェルロッドを出発する。


(ここ数年は落ち着けなかったからなぁ)


 ネイサンとメリンダを排除したせいで家族間の空気が悪くなったり、ドワーフ関連で忙しかったりして大変だった。

 今年はドワーフの件も一段落ついたので、安心して王都に向かう事ができる。

 目前の問題が解決しているお陰で気分が良かった。


 しかし、それも王都に着くまでだ。

 王立学院に入学するまでに、まだまだやらねばならない事がある。


 ――ジェイソンに会って、ニコルの事を今から少しでも意識させる。


 今年は最低限でもこれだけはやっておきたい。

 もちろん、将来に備えて他にもやる事はある。


 ――王家の権威を失墜させるようなスキャンダルを探す。もしくは、作り出す。

 ――侯爵家とまではいかずとも、誰か仲間にできそうな者を探す。


 この二つも重要になってくる。

 自分の味方を作る事は重要だが、王家の味方を減らす事はもっと重要だ。

 反乱に賛同してくれる者を作る事に比べれば、人に失望させる事は容易である。

 どこまで王家の権威を貶める事ができるかはわからないが、本気で助けようとする者を少しでも減らしておきたい。

 そのためにも、今から何かを探しておいた方がいい。


(こうなるとわかっていたら、俺もゲームをプレイしといたのに)


 アイザックは、原作ゲームをプレイしていない事を後悔した。

 攻略サイトで「どのキャラがどんな設定で、どんな評価をされているか」は知っていたが、ゲーム中の細かいイベントまでは調べていない。

 この国の事で知っている知識は、そのほとんどが生まれ変わってから調べた内容だ。

 ゲーム中でどんな会話をし、どんな細かい設定があったのかを知っていれば、そこから何か糸口がつかめたかもしれない。

 こういう時は、妹がプレイしていた乙女ゲームの世界だという事が心底残念に思える。

 自分が気に入っていたゲームの世界なら、もっと上手く立ち回れている自信があったからだ。

 もっとも、その場合は大人しい人生を過ごしていただろうから、頭を悩ませる事はなかっただろう。

 人生とは上手くいかないものである。



 ----------



 王都に到着すると、リビングでアイザックとランドルフの間で争いが始まった。


「ケンドラ、お兄ちゃんだよー。こっちへおいで」

「パパの方がいいよね。さぁ、こっちへ」


 今二人はケンドラの前にしゃがみ込み、先にどちらがケンドラを抱き締めるかを争っていた。

 王都にやってきて早々に、ケンドラを奪い合う。

 そんな二人の姿を、ルシアとマーガレットが微笑んで見守っていた。


「うーんと、ぱぱ」


 ケンドラが二人を見たあと、ランドルフの方へ歩いていく。

 ランドルフは満面の笑みを浮かべ、ケンドラを抱き上げて頬擦りする。


「久し振りだな。相変わらず可愛いなぁ」

「くっ……」


 ケンドラに選ばれなかったアイザックは心底悔しがる。

 なんとなく選んだのか、ちゃんと父だと認識して選んだのかはわからない。

 だが、それでも悔しい事には変わりなかった。

 落ち込むアイザックに、パトリックが飛びつかんばかりの勢いで迫ってきた。


「パトリックも久し振りだな。ケンドラと仲良くしてくれていたか?」


 アイザックがパトリックの頭を撫でてやる。

 すると感極まったのか、パトリックがアイザックの肩に前足を載せて顔を舐め回し始める。


「よしよし、再会の喜びはわかった。けど、ほどほどで頼む」


 五歳の誕生日にパトリックを連れて来てもらって以来、半年も離れ離れになる事はなかった。

 寂しい気持ちはアイザックも同じだった。

 顔がベチャベチャになるのは不快だったが、パトリックが再会を喜んでくれているのがわかるので突き放したりはしなかった。

 しばらくは好きに舐め回させてやっていた

 そのせいで、パトリックが落ち着いた頃には顔が酷い有り様になっていた。


「アイザック、顔を拭きなさい」


 マーガレットがメイドに命じて、アイザックにタオルを渡させる。

 アイザックはありがたくタオルを受け取り、顔を拭いた。


「お婆様とお母様もお元気そうで何よりです」


 そう言ったが、何かあれば知らせが来る事がわかっている。

「知らせがないのが元気な証拠」というやつだ。

 だが「元気だとわかっているから何も言わない」というのでは素っ気なさすぎる。

 家族間にもコミュニケーションは必要だと思っているので、アイザックはわかっている事でも口にしていた。

 マーガレットは少し呆れたような笑みを浮かべていた。


「あなたも元気そうで何よりだけれど……。遠く離れているのに、どんなことをしたのかが聞こえてくるのはどうかと思うのよね」


 ――知らせがないのが元気な証拠。


 だが、アイザックは「知らせがあるほど元気」だった。

 商人達もアイザックの一挙一動に注目しているのだろう。

 ウェルロッドの商人達から「アイザック様が〇〇されていた」「アイザック様は××のようだ」など、噂がよく耳に入っていた。

 何気ない日常の行動すら噂として王都にまで流れてきている。

 本人からの知らせがないのに、アイザックの事がわかるという不思議な状況に、彼女は少し戸惑っていたくらいだ。


「そんな、今年は何もやってませんよ」

「調印式に同席したりしていたでしょう。しかも、商人相手にアコギな真似までして。そのどちらかだけでも十分注目される理由になるんですよ」


 マーガレットは、深い溜息を吐く。

 確かにドワーフとの交渉や、そのための材料作りをしていた頃に比べれば、今年のアイザックは大人しかった方だろう。

 だが、今年は大人しくても、今までの行動でアイザックの存在感が大きくなっている。

「また突然、何かをやるかも」と、注目されるようになっていた。

 その事に、アイザック自身が気付いていない。

 マーガレットの溜息は、アイザックが自分の現状を理解していない事に対するものでもあった。


「そういえばそうでした」

「しっかりなさい」


 もう一度マーガレットは溜息を吐く。

 自信過剰になるよりはいいのかもしれないが、自己評価が低いというのも困りものだ。

 アイザックは、冷静に物事を考えたりする割には抜けているところがある。

 その辺りの事を教えてやらなければならないと、マーガレットは考えていた。



 ----------



 しばらくは家族揃ってリビングで過ごしていた。

 その横でクロードがケンドラと一緒にチョコレートケーキを食べ、ブリジットがパトリックの相手をしていた。

 そこに、学校から帰ってきたリサが訪れる。


「ただいま帰りました。お久しぶりです、ランドルフ様。……アイザック」


 リサがアイザックを見て、体を震わせる。


「久し振り。どうしたの? リサお姉ちゃん」


 様子のおかしいリサを見て、アイザックは不思議そうに首を傾げる。

 すると、リサがカバンを手放し、アイザックに駆け寄って両肩をがっしり掴んで体を強く揺さぶる。

 

「アイザック、あんたのせいで婚約者が決まらないじゃない!」

「えぇっ! 僕のせいで!?」


 衝撃の内容を告げられ、アイザックは驚くしかなかった。


(なんで俺が。むしろ、俺のおかげで良い条件になっているんじゃ……)


 リサはバートン男爵家の一人娘で、結婚相手は将来の男爵になれる。

 しかも、リサはアイザックの乳兄弟。

 ウェルロッド侯爵家傘下の貴族として、優遇される事が約束された美味しい立場だ。

 男爵家や子爵家の息子だけではなく、伯爵家の次男、三男といった者達にも興味を持たれるほど美味しい立場と言える。

 ならば、婚約者候補はよりどりみどり。

 決まらない理由などなかった。


(あっ、そうか! もしかしたら、本当に俺が悪いのかも)


 ここでアイザックが思い出したのは、ポールにも言われた「アイザックのせいで婚約者が決まらない」だ。

 リサとポールでは状況が違うが「自分が悪影響を与えている」と思うのには十分なきっかけだった。


 ――原因はアイザックの今までの行動。


 最近は反省して穏便な方法を使っているが、かつては暴力的な解決手段を躊躇わず使い、貴族らしからぬ手段で問題を解決してきた。

 アイザックに近づくという事は、その暴力に接する可能性が高くなるという事でもある。


 中でも、その矛先がリサと結婚した者に向けられるかもしれないという恐怖は大きなものだろう。

「リサを一生幸せにできる」と言える者がどれだけいるだろうか。

 もし、リサを泣かせるような事があれば、アイザックが出張ってくる可能性が高い。

 いつどこでどんな理由でアイザックの逆鱗に触れるかわからないが、リサと結婚すれば彼女に関する事で逆鱗に触れる可能性はかなり高い。

 リサが好条件の娘だとしても、男達はどうしても二の足を踏んでしまうのだろう。


(確かに俺のせいで婚約者が決まらないのかもしれない)


 そう思うと、アイザックは心苦しくなる。

 自分の存在がそこまで悪い影響を与えるとは思っていなかったからだ。


「それでね、私は思い出したのよ。昔『婚約者が決まらなかったらリサお姉ちゃんと結婚してもいい』って言っていたわよね。ねっ」


 リサはアイザックの肩をガッシリと掴み、顔を近づけてくる。

 思わずアイザックは顔を背けた。

 普段であれば、年頃の女の子にここまで近づかれれば興奮して落ち着かないはずだった。

 だが、今は必死なリサがどこか怖く、悪い意味でドキドキして落ち着かなかった。


「リサ、おやめなさい」


 アイザックが困っているのを見て、マーガレットがリサを咎めるような強い口調で止める。

 さすがにマーガレットの言葉は無視できないのだろう。

 リサの動きが止まった。


(助かった。でも……)


「お婆様。僕のせいでリサお姉ちゃんに婚約者ができないのなら、責任を感じるんですが……」


 さすがに必死の形相で迫られれば怖いが、ちゃんと必死になる理由もある。

 それにアイザックには、リサが文句を言いたくなる気持ちもよくわかる。

 頭ごなしに叱りつけるような真似はして欲しくなかった。

 だが、その思いは間違っていたとすぐに気付かされる。


「アイザックは責任を感じる事ないのよ。この子が婚約話を断っただけなんですから」

「本当ですかっ!」


 祖母の言葉はアイザックに衝撃を与えた。

 リサが自分で婚約を断っているだけなら、アイザックに責任などない。

 むしろ、とんでもない言い掛かりをつけたと非難できる立場だった。

 アイザックは抗議の意味を込めて睨もうとするが、一つの疑問が浮かび上がる。


「ですがお婆様。僕の評判を聞いて、まともな婚約者候補が見つからなかったんじゃ……」


 アイザックの疑問とは、この事だった。

 婚約者候補がいればいいというわけではない。

 アイザックを恐れて、絶対に選びたくないようなクズしかいなかったという可能性もある。

 それならば、リサを責める事はできない。

 アイザックだって「ニコルは無理」と、はっきり拒絶する相手がいるのだから。

 だが、マーガレットはアイザックの考えを、首を横に振って否定する。


「人格や能力に問題がある者は、面接や事前調査で切り捨てました。リサの好みもあるので家柄は不問にして、選択肢の幅を残す事も考慮してね。それで十人の候補が残っていたのよ。その中から選ばなかったのはリサの責任です」

「十人も……」


 それだけいれば「顔、性格、知能」の揃った、リサの好みに近い者もいたかもしれない。

 好みにピッタリの者がいなくても、妥協できる程度の候補もいただろう。

 アイザックは咎めるような視線でリサを見つめる。


「だ、だって……。みんな、なんだか頼りないんだもん。アイザックなんて五歳も下なのに、もう色々と実績を残しているのに」

「普通の若者はそんなものです」


 マーガレットが、また溜息を吐く。

 さすがにアイザックも、この状況では「アイザックは普通ではない」と言われている事に気付かなかった。


「えっと、それじゃあ僕のせいっていうのは……」

「アイザックが近くにいるせいで、他の男の子を見る目が厳しくなっちゃったからよ」

「そ、そう……」


(それは俺が悪いのか?)


 アイザックがそう思ってしまうのも仕方がない事だった。

 だが、リサの男を見る目が厳しくなったのは、アイザックの責任でもあるというのは嘘ではない。


 リサの目から見れば、アイザックは――


 凄惨な家督争いに打ち勝ち、家族との絆も失いそうになる苦境も乗り越えてきた。


 ――という、かなりタフな男の子に見えていた。


 しかも、エルフやドワーフとの外交で活躍し、エリアス陛下の信任も厚い。

 こんな少年が身近にいれば、どうしても目が肥えてしまう。

 社会に出る前の男子学生が少し頼りなく見えてしまうのも当然の事だった。


「だからね、アイザックのお嫁さんになれば問題は解決すると思ったの。もちろん、第二夫人、第三夫人でも――」

「あなた達、リサを部屋に連れていきなさい。リサ、少し頭を冷やしなさい」


 マーガレットの命令により、近くにいたメイド達がリサの両脇を抱えて強引に連れて行こうとする。


「あぁっ、ちょっと待って。待って。わかった、友達でいいから誰か紹介して。友達みんなが結婚するのに、私だけ独身なんていやぁぁぁ」


 リサが悲痛な叫びを残しながら、連れ去られていった。

 その場に残ったのは、何とも言えない空気とリサのカバンだけだった。


「リサお姉ちゃんのあんな姿、見たくなかったなぁ……」


 アイザックがポツリと呟く。

 リサにはお姉さんとして、颯爽とした姿でどこかに嫁に行ってほしかった。

 まさか、婚期を逃しそうで焦る女の姿を見せつけられるなどとは、今まで考えた事すらなかった。


(うーん、まぁ嫌いじゃないし、どちらかというと好きだけど……。うーん……)


 将来、リサを引き取ってもいいとは思うが、問題は「一人の女」ではなく「家族」として見てしまう事だ。

 血の繋がりはないが、今まで姉として接してきた。

 いきなり一人の女として見る事は難しい。

 とりあえず、アイザックはリサについて考える事を保留にした。


「リサも大変ねぇ」


 ブリジットが他人事のように呟く。


「そういうブリジットさんも、そろそろ婚約者を見つけた方がいい年齢なんじゃないですか?」

「私は大丈夫よ。パーティーに出たら男の人に囲まれるくらいなのよ」


 アイザックの質問に、ブリジットはフフンと勝ち誇った笑みを浮かべて答える。


「でもそれって人間ですよね? エルフの男の子はどうなんですか?」

「う、うっさいわね。別に私の事はいいでしょ!」


 ブリジットが誤魔化すように声を荒らげる。

 その時点で、アイザックは全てを察した。


(村ではモテなかったから、人間の男にチヤホヤされるのが嬉しいんだな……)


 アイザックも前世でモテなかったので笑う気にはなれない。

 いや、今世でも少し危機感を持つべきなのかもしれないと思った。


(俺も卒業までに探すとか言ってたけど、もしジェイソンとパメラの婚約を壊せなかったらどうなる事か)


 問題は卒業式を過ぎたあとだという事だ。

 婚約者のいない女の子はバレンタインデーに告白する。

 告白された男はホワイトデーまでに家族を説得して婚約話を女の子に持っていく。

 バレンタインデーは二月十四日なので、当然卒業式の前に女の子は告白するという事。

 良い女の子が残っていない可能性もある。


 ――パメラが手に入らず、寂しい結果になる。


 その可能性を考えると、先ほどのリサの姿が未来の自分のように思えて、アイザックには他人事のようには思えなかった。

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― 新着の感想 ―
そういえば、ジャンルにハーレム(成長後)があるからそういう意味ではリサもヒロイン候補なのか。 姉さん女房だな。
[一言] パメラに拘らなければそれなりの幸せは手に入りそうだけど仕方ないよね。
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