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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第七章 交流編 十二歳~十三歳

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150 十三歳 友人達との世間話

 十月十日。

 この日はアイザックの十三歳の誕生日であるが、この世界では誕生日を特別祝うという風習がない。

 そのため、いつも通りの日常生活を送っていた。


「また負けちゃった」


 この日は、ポールやレイモンドといった友人達と剣の稽古を行っていた。

 同い年の子供達の中で、アイザックは一番弱かった。


「アイザック様は、攻撃できるチャンスで動きが鈍る癖がありますね」


 指導を任されている騎士が、アイザックの悪い癖を指摘する。


「あぁ、それは友達を叩いていいのかちょっと迷っちゃってさ」


 皮の鎧を着ているとはいえ、剣は木刀を使っている。

 叩かれれば、それなりに衝撃や痛みもあった。

 アイザックは、相手を叩く事に躊躇いを感じてしまっていた。

 憎める相手かどうかによって、危害を加えられるかどうかの違いが大きく出てしまうのだろう。


「やめてくれよ。それじゃあ、僕が酷い奴みたいじゃないか」


 その台詞に、ポールが抗議する。

 アイザックはすでに「ネイサンとメリンダを殺す」という行為を実行している。

 なのに、自分はアイザック相手にも躊躇わずに叩いている。

 まるでとんでもない悪人扱いされているように感じてしまったからだ。


「アイザック様、こういう稽古の時に手を抜くのは相手に失礼です。ちゃんと戦ってあげるべきですよ」

「わかってはいるんだけどね……」


 アイザックは溜息を吐く。

 思えば前世でも、剣道の授業の時に本気で打ち込む事ができなかった。

 憎しみという感情があれば人を殺す事もできる。

 だが、憎まない相手を傷つけるような事は、心のどこかでブレーキが掛けられているのかもしれない。


(極端だよなぁ……)


 自分でもそう思うが、こればかりは本能的なものなのでなかなか矯正するのは難しそうだ。


「剣に向いてないのかなぁ」


 思わず、そんな言葉がこぼれる。


「うん、そうだね」

「アイザックは剣以外に集中した方がいいよ」

「えぇ……」


 ポールとレイモンドに、無情な言葉が投げかけられる。


「普通はそうでもないよって言うところじゃない?」

「だって、アイザックは頭がいいじゃないか。そっち方面で頑張った方が良いよ」

「剣くらいできなくてもいいよ。僕らがサポートできる事も残しておいてくれないと」


 こう言われると、アイザックもこれ以上文句を言い辛かった。

 彼らはアイザックのサポートをしたいと思ってくれているようだ。

「剣の扱いを上手くなって、アイザックを守る」というのも、将来の選択肢の一つとして考えているのだろう。


 もっとも、彼らがそういう方向を選んだのは「アイザックの考えを補佐する」という事が困難だからというのもある。

 今までのアイザックの行動を考えれば「理解する」という事が非常に難しい事だとわかっている。

 だから、考えを補佐する事以外で役立とうとしてくれていた。


「そういう事ならまぁ……。でも、最低限は使えるようになっておかないとね」


 アイザックも「誰かが守ってくれる」という事を信じて、剣の腕を鍛えないままでいる事をよしとはしなかった。

 誰かに命を狙われた時、最低限でも戦えるようになっておけば時間を稼ぐ事ができるようになる。

 助けに来てくれるまでの時間を稼げるか。

 そのままあっさりと殺されるかの差は大きい。

 少しは戦えるように鍛えておきたかった。


「まずはちゃんと叩けるようにならないとね」

「そうだよ。まずはそこからだ。アイザック、遠慮なく叩き潰せ!」

「レイモンド! 相手が自分じゃないからって言い過ぎじゃないか?」


 二人のやり取りを見て、アイザックの頬が緩む。

 こういう他愛のないやり取りも、あるとないとでは大違いだ。

 四年前までとの境遇の違いを実感する。


「アイザック様、お茶のご用意ができました」


 やってきたメイドによって、ティータイムが訪れた事を知らされる。

 一段落ついたところだったので、アイザック達は休憩を取る事にした。



 ----------



 動いて温かくなっていたとはいえ、やはり十月の空気は肌寒い。

 屋敷の中で温かいお茶を飲むとホッとする。

 一息つくとレイモンドが口を開いた。


「そういえば、ドワーフの街に行かないの? なんだか見るだけでも面白そうだけど」

「興味はあるんだけどねぇ。いいきっかけがないかな。それに、ドワーフの街に行くなら、エルフの方にも行かないと面子を潰す事になっちゃうし……。でも、エルフは食べ物がちょっとね」


 アイザックがなかなか行動に移さないのは「エルフの村」に行く事だった。

 エルフの食べ物は和風な感じがして興味を引かれる。

 だが、ここでアイザックを踏みとどまらせるのは、マチアスに食べさせられた蜂の子のせいだった。

 もし、エルフが「栄養があるから」といって昆虫食をメインにしていたりしたら、アイザックにはとても食べられそうにない。

 ブリジットもウェルロッドに来た当初は庭のコオロギを捕まえて、厨房に「素揚げにして」と頼んだりしていた。


 年頃になったアイザックが、ブリジットに異性として興味を引かれないのは胸のサイズだけではない。

「もし、恋人になったりしたら虫を食った口にキスをするのか……」と思うと、どうしても引いてしまう。

 相手の食文化を尊重しているので「食べるな」などと言うつもりはないが、自分が食べたいとは思わない。

 どうしても避けようとしてしまう。

 エルフの村に行かないのではなく、行きたくなかった。


 なのに、ドワーフの街にだけ行くのは、エルフに「自分達が軽視されている」と思われる恐れがある。

 結果、どちらにも行かないという事になっていた。


「食べ物が合うかどうかは問題だろうけど、クロードさんやブリジットさんは人間の食べ物を普通に食べているんだろ? だったら、エルフのご飯も食べられるんじゃないの?」


 昆虫を食べるという事を知らないポールが、クッキーを頬張りながら質問する。


「うーん、まぁちょっと個性が強いから苦手かな」


 アイザックは言葉に気を付けて答える。

 ポールやレイモンドの、ブリジットに対しての憧れを壊す必要はないからだ。


「でも、いつかは行ってみたいとは思っているよ」

「その時は一緒に連れて行ってよ」

「違う種族の村とか行ってみたい!」

「いいよ。いつになるかはわからないけど」


 アイザックも、いつかは覚悟を決めてエルフの村を訪ねてみるつもりだった。

 その時に同行者(道連れ)がいてくれた方が心強い。

 彼らが自分の意思で付いて来てくれるのなら、それを拒む理由などなかった。


「行くとしたら来年以降かな。もうすぐ王都行きの時期だしね」


 この季節に訪ねるのは邪魔だろうというのには、二人も同意した。

 冬を越すのに貯めている食料や燃料などを無駄に使わせるのも心苦しい。

 春以降に行った方が迷惑を掛けずに済む。

 外務大臣であるモーガンの許可をもらっておいた方がいいという思いもあった。


「ブリジットさんみたいな人が一杯いるのかなぁ」


 美女だらけの村を想像しているのか、レイモンドが満面の笑顔を浮かべる。


「お前にはアビゲイルがいるじゃないか」


 婚約者がいるのに、他の美女に見とれるとはどういう事だとポールが見咎める。


「それはそれ、これはこれ。別にエルフの女の人と結婚したいとか思っているわけじゃないし問題ないよ」


 レイモンドにしてみれば、ブリジットはアイドルのようなものなのだろう。

 結婚したいと思う対象ではなく、憧れの存在として見ているだけで満足なのかもしれない。


「ポールだって、ブリジットさんと結婚できるとか思っているわけじゃないだろう?」

「そりゃそうだけどさ……。アイザックのせいで婚約者が決まりにくいんだから、少しくらい夢を見てもいいじゃないか」

「えぇっ、僕? 何もしてないよ!」


 アイザックには友人の婚約話を邪魔した覚えなど無い。

 身に覚えのない中傷に、アイザックは驚く。


「何もしてないのが問題なんだよ」

「なんで?」


 何もしていないから悪いと言われ、アイザックの混乱は極限に達する。

 まったく意味がわからないからだ。

 アイザックが理解していないと見て取ったポールが、ちゃんとアイザックに説明してやる。


「侯爵家の後継ぎに婚約者がいないってなったら、娘を持つ親は誰だってチャンスを狙うからだよ。ランドルフ様とルシア様の事もあるしね」

「あー、そうか」


 ポールに説明されて、ようやくアイザックは理解した。


(そういえば、リサも同学年にいるフリーの女の子のせいで婚約者が決まりにくいとか言っていたっけ)


 ポールは子爵家の長男とはいえ、代官職を持つ家ではない。

 有力ではない家との婚約を進めるよりも、娘をフリーにしたまま、いちかばちかでアイザックに選んでもらえる可能性に掛けてみようと思う親がいるのだろう。

 だから、なかなか条件に合う女の子が見つからないと困っているのだと、アイザックは理解した。


「早く相手を決めてくれよぉ」

「学院を卒業するまで待って。それにポールだって誰でもいいってわけじゃないだろ? 学院で良い人と出会う事を期待した方がいいよ」

「うーん、それもそうか。焦って変な子との婚約が決まるよりも、学院で探す方が良い子が残っている可能性が高いか」


 アイザックの返事を受けて、ポールは計算し、素早く答えを導き出した。

 今の段階で「婚約者を決めてもいい」という女の子よりも「アイザックに選ばれるかも」と思って、婚約者を決められずにいる女の子の方が良い条件かもしれない。

 いや、その可能性の方が高い。

 それならば、実際に女の子と話してから婚約するか決められる分、今すぐに親に相手を見つけてもらうより、学生になってからの方が良い相手が見つかるかもしれないと考えた。


「悪気があってやっているわけじゃないからね」

「うん、そこまで意地が悪いとは思ってないよ」


 ポールがわかってくれたようで、アイザックは安心する。


(でも、同年代の男の子には迷惑かけちゃってるって事だよなぁ。学院でハブられなきゃいいけど)


 学生になった時に男友達ができるか不安になる。

 この時のアイザックは、まだ男の子側の事しか考えになかった。

 アイザックが婚約者なしという状況を女の子側がどう思っているか。

 少し想像力を働かせるべきだったかもしれない。

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― 新着の感想 ―
モテフラグですね、わかります。
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