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いいご身分だな、俺にくれよ  作者: nama
第六章 富国の時編 十歳~十二歳

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137 十一歳 バネを使ったおもちゃ

 七月。

 モーガン達が報告のために王都へ出発を見送って以来、ずっとアイザックは頭を悩ませ続けていた問題がある。

 ジークハルトへのお返しだ。

 いい案が何も思い浮かばなかった。


(さすがにクリップじゃあ、納得してくれないよなぁ……)


 アイザックは手元にあるゼムクリップを見つめる。

 これは以前に提案した書式の統一が関係している。

 書式が統一されたのと同時に、紙の大きさが統一された。

 そのため、簡単にまとめる方法があるといいだろうと思い、ゼムクリップを針金で作らせた。


 クリップがあれば、それはそれで便利だ。

 だが、さすがにオリハルコン製のナイフのお返しとするには、あまりにもみすぼらしい。

 物としての格が違い過ぎる。

 しかし、悩めば悩むほど何も思いつかなくなってしまう。


 何か事件が起きて、そこから良い刺激を受けられたら嬉しいと思っていたが、この二ヵ月何も起きなかった。

 せいぜい、クロードがブランデーにチョコレートを混ぜて飲み、あまりの不味さにえずいていたくらいだ。

 アイデアが浮かぶような出来事ではなかった。


(気分転換でもするか)


 真っ白な紙を前に悩み続けるだけでは気分が落ち込む。

 アイザックは気分を変えるために、花壇へと向かった。


 元々、陰謀の隠れ蓑として使うためだった。

 それがまだこうして続けられているのは、自分でも不思議だった。


(前世では土いじりなんて好きじゃなかったのになぁ。やっぱり、続けていくうちに体が慣れるのかな?)


 雑草を引き抜きながら、アイザックはそんな事を考えていた。

 前世ならミミズがいたら気持ち悪がっていたが、今では「土を良くしてくれているんだ」と思って、見つけても気にしなくなっている。

 娯楽が少ない世界なので、花を育てる事がアイザックの趣味と言えるほどのものになっていた。


「精が出ますね」

「うん、雑草取りは毎日でもやっておかないとね。増えてからやるのは大変だし」


 庭師のカールがアイザックに声を掛けてきた。

 彼は一輪車を押している。

 近くの花壇で土を入れ替えているところだった。


「一輪車の使い心地はどう?」 

「積荷を降ろすのが楽なのがいいですね。今までだとスコップで降ろしていましたからね。往復する手間を考えても、かなり楽になりましたよ」

「それは良かった」


 完全にオリジナルのアイデアとは言えないが、自分が提案した物が人の役に立っているのは素直に嬉しい。


「カールも、何かこういう物があったら便利だなと思う物があったら教えてよ。些細な物でもいいからさ」

「かしこまりました」


 そう言い残して、カールは作業に戻っていった。

 彼とは長い付き合いなので、立場の違いがあってもこうして気楽に声を掛けてくれる。

 色々と事件を引き起こしてきたアイザックにも、昔と変わらぬ対応をしてくれた。

 政争に関係のない立場だからかもしれないが、ある意味貴重な相手だった。


(昼過ぎにはグレイ商会へ視察に向かう。そこで何か思いつけばいいんだけどな)


 焦っても仕方ないとは思うが、どうしても新商品について考え込んでしまう。

 アイザックは気を紛らわせるように、無心になって地面から雑草を抜き取っていた。



 ----------



 グレイ商会への視察と言っても、不正がないかを調べる本格的なものではない。

 ウォリック侯爵領から仕入れた鉄や銅のインゴットを確認するだけだ。

 同行者は秘書官であるノーマンと、暇そうだったブリジットだ。

 他には護衛しかいない。

 まずは応接室に通され、ケンドラに用意したおもちゃの試作品を見せられる。


「……何これ?」


 ブリジットが呟いた言葉は、同席していた者の気持ちを代弁していた。

 机に置かれているのは円筒形の筒。

 いかにも「鉄です」といった鈍色をしている。

 バネとは違い、非常に薄い板が何十層にもかさなっていた。


「ケンドラのための新しいおもちゃだよ」

「これが? 嘘でしょ」


 おもちゃだと言われても、ブリジットは信じなかった。

 どう見ても遊ぶために使う物ではなかったからだ。


「本当だって。ちょっとそこの小箱を机の上に置いてくれる?」


 アイザックがそう言うと、近くにいた商会員が20cm四方の箱を机に置く。


「この箱の上にこれを置いて、こうするんだよ」


 円筒形の筒を箱の上に置くと、アイザックは上の部分を手前に引く。

 その筒は柔らかいバネでできており、シャーっと机の上に落ちていった。


「……で、これが何なの?」


 アイザックはブリジットの冷たい視線を感じた。

 ノーマンやラルフは「アイザック様の事だから、何か深い考えがあるに違いない」と信じた目をしていた。


「これだけだよ。階段でやると、上から下まで降りていくっていうバネのおもちゃ」


 アイザックがラルフに頼んでいたのは「スリンキー」や「レインボースプリング」と呼ばれるおもちゃだ。

 前世で家族と行ったお祭りのクジ引きで当て、まだ幼かった頃の昌美にあげたおもちゃでもあった。

 バネを使った道具で良い物はないかと悩んでいた時に、なぜかこれの事を思い出したので、今世でも妹にプレゼントしようと、ラルフに作ってもらったのだ。

 しかし、周囲の反応は芳しくない。


「うーん……」

「動き方は目新しいですが……」


 ノーマンやラルフも、何とも言えない表情をしている。


「じゃ、じゃあ階段でやってみようよ。そうすればわかるから」


 アイザックもそう言うが「あれ? やっぱりこっちの世界でも微妙なおもちゃなのかな?」と段々不安になっていった。

 とりあえず、階段で続けて降りていくところを見せれば感想は変わるかもしれないと思い、部屋を出て階段まで移動する。


「じゃあ、行くよ」


 アイザックは階段を十段ほど上がったところに置き、そこから階段を下らせていく。


「何て言うか……。バネがそういう動きをするという事を利用して、何か他の物に使った方が良いような気がするわね。思いつかないけど」

「こうしてみると、止まらずに降りていくというのは不思議な動きですね。安価に作れるようになれば、確かに子供向けのおもちゃとして売れるかもしれません」


 ブリジットの評価はイマイチだが、ラルフは興味を持ってくれたようだ。

 アイザックも商売人が興味を持ってくれた事に、少しだけホッとする。


「でも、子供向けには売れませんよね。小さな子供が階段付近で遊ぶのは危ないですから」

「あっ……」


 ノーマンの的確な指摘に、アイザックは何も言い返せなかった。

 彼の言う通り、階段付近で遊ばせるのは危険だった。


「そうだね、階段から落ちたりして怪我をしたら大変だ。ケンドラへのプレゼントにはしないよ」


(危ないところだった。そうだよな、子供が遊ぶ時の安全性っていうのは大事だもんな)


 アイザックはノーマンの指摘に感謝する。

 ケンドラはまだ二歳にもならない。

 角を丸く削った積み木などで遊んでいる方が安全でいいだろう。

 何でもかんでも思いついた物を、妹のために用意する必要などないのだ。

 アイザックは自分が焦り過ぎた事を反省する。


「ですが、こういう動きをするおもちゃは珍しいと思います。ドワーフと会う時に手土産にされてはどうですか?」

「そうしようか。ドワーフなら何かに応用するかもしれないしね」


 ウケが悪かったのは残念だが、とりあえず形にできた物を無駄にする必要はない。

 ジークハルトなら、また勝手に深読みしてくれるかもしれない。

 とりあえず、キープしておく事にした。


「次は荷物の確認をしようか」


 アイザックは話をドワーフとの取引に使うウォリック侯爵領産の鉱物資源に移した。

 周囲の反応がイマイチだったので、このおもちゃにこだわるのもどことなく恥ずかしく思えたからだ。


「そうですね。では、こちらへ」


 さりげない仕草から、なんとなくアイザックの心情を感じ取ったラルフが素直に案内をする。

 客が触れてほしくないところを深く追及してへそを曲げさせるなど、商人として二流以下だからだ。



 ----------



 ドワーフとの取引はまだまだ先である。

 だが、リード王国の北西部にあるウォリック侯爵領は、南東部にあるウェルロッド侯爵領と正反対の位置にある。

 今のうちにウェルロッドやアルスターといった街に精錬の終わった物を運び込み始めていた。

 大量の鉄を買い込むのはかなり金が掛かるが「後払いでいいから」とクエンティンが在庫を送り込んできた。

 それだけすぐに売り込みたいという事なのだろう。

 お陰で倉庫を増設してもすぐ一杯になってしまっていた。


「えー、これが全部鉄?」


 倉庫に山積みになったインゴットを見て、ブリジットが驚きの声を上げる。

 彼女の人生で、これだけ多くの鉄を見た経験などない。


「はい。銅や錫といったものも他の倉庫にありますよ。アルスターに運び込む分は馬車に載せたままです」


 ラルフは倉庫の脇に駐車している馬車を指差す。

 どれも大型の幌馬車だ。

 アイザック達はそちらに向かう。


「あれ? 荷物が半分くらいしか載ってないよ?」

「本当ですね。ラルフさん、どういう事でしょうか?」


 アイザックが荷台を見て、馬車の大きさの割に荷物が少ない事を指摘すると、ノーマンが問い詰めるような視線をしながらラルフに理由を尋ねる。

 運び込む量を誤魔化して、鉄などを着服している恐れがあったからだ。

 いくらなんでも、それを見逃す事はできない。

 ラルフはノーマンが何を考えているのかを察し、慌てて首を横に振る。


「これが馬車の積載限界なんです。食料品などと違って、インゴットは場所を取らない割に重いんですよ。これ以上載せると荷台の底が抜けるか、車軸が折れるかのどちらかが起きてしまいます」

「あぁ、そう言われればその通りですね」


 ノーマンはラルフの説明で納得した。

 木製の馬車である以上、耐久力に限界がある。

 荷台に余裕があるからと、ギッチリ詰め込むわけにはいかないのだ。

 その事は、物作りに詳しくないノーマンでもすぐに理解できた。


「それじゃあ、車軸や荷台を鉄で作ったらどうなの?」


 ――木製の馬車で壊れるなら、鉄製の馬車を作れば良い。


 アイザックが単純な疑問を抱いた。


「重くなり過ぎるからですよ。エルフによって整備された道ばかりではありません。柔らかい地面だと車輪が埋まって動かなくなるでしょう。そもそも、重すぎて馬が引けなくなってしまいます」

「なるほど」

 

 その答えは、至ってシンプルなものであった。

 頑丈さを求めれば、その重量がネックになる。

 エンジンのない世界だ。

 馬でも引けない馬車などただの置物にしかならない。

「過ぎたるは、なお及ばざるがごとし」という言葉もある。

 性能だけを追求して、実用性を失ってしまっては意味がない。

 適度なバランスがなければいけなかった。


(そうだよな。エルフが整備した道だけを通るってわけじゃないんだ。それにトラックや電車も引っ張る力があるからこそだよなぁ……。んんっ?)


 アイザックは何か良い事を思いつきそうだった。

 しかし、何も出てこないというもどかしい思いをする。

 こうして視察に出かけるのもいい刺激にはなってはいるが、最後のあと一歩が出てこなかった。

 この答えが出るのには、まだ少し時間が掛かりそうだった。

二次通過致しました!

プロの感想を求めて登録しただけだったので、ここまで来れて嬉しい限りです。

これからもやれる範囲で頑張っていきたいと思います。

今後ともよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
そうなると、次はレールか無限軌道? 無限軌道じゃ重すぎか。
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