新たな仲間の導き
妖の森を出て早2週間。二人は無事にエレクに着きとある道草をくっていた。あらゆる情報が飛び交う街エレクには、異世界ネットワークというフォーレンとは違う世界からの情報を手に入れる機関が存在する。亮太はその異世界ネットワークを使ってあることを調べていた。
「うわ!本当に俺の動画があるわ。たしか、休暇の連絡入れたあと一週間ずつ溜め録りしてた動画を流すようにプログラムしてあるから…」
亮太は最新の投稿を確認する。地球時刻6月10日。フォーレンに来て4ヶ月経つが地球はフォーレンの4分の1しか時が経っていないようだ。隣にいるアリスは自分の動画を見て美しい瞳をキラキラさせている。もう行くぞと声をかけるが動画に夢中でこちらを見向きもしない。仕方ないのでアリスが満足するまでその場で時間を潰していると、すれ違いざまに
「夕刻4時に酒場に来てください神谷亮太殿」
亮太は声を発した男を咄嗟に見る。男は一礼すると人混みに紛れ見えなくなる。敵意は感じられなかった、むしろ友好的な誘いのような語り口だった。男が去った方向を見つめながら考えていると、アリスが裾を引っ張っているのに気づいた。どうやら今日の分の自分の動画を見終わったようだ。亮太はアリスを連れてその場をあとにすると指定された酒場へ向かった。
エノクの酒場は日本の酒場のような雰囲気をしている。壁に貼られたメニュー、焼き鳥や串焼きの香ばしい匂いが鼻をくすぐり食欲を誘う。カウンター席の前で店員が忙しなく料理を作り、酒をだす。そんな店内を見回すと、テーブル席にこちらに向かって手を振る男を見つけた。二人はそこに行くと見た目25歳の青年が既に料理を並べて待っていた。二人が席に座ると男は口を開く。
「はじめまして、神谷亮太にアリスお嬢さん。俺は一ノ谷段」
二人は軽く会釈したあと亮太は早速質問を投げ掛ける。
「あんた何もんだ?」
「俺は情報屋をやっていてね。君たちのことは既に知っている。神谷亮太、ミルハと名乗り地球最強のゲーマーの異名を持つ天才ゲーマー。アリス、魔女の一族で魔女長であるマーリンの妹」
亮太は内心驚愕していた。この男、妖の森から出てたった二週間なのにここまで情報を入手しているなんて只者じゃない。まあ、アリスはマーリンの妹ではないのだが。
「あんた相当腕の立つ情報屋だな。俺に何の用だ」
「実はあんたのパーティーに入れてもらおうと思いまして」
亮太は一ノ谷の言うことがわからなかった。パーティーを組んでいない今の状態でパーティーに入れてくれというのは話の辻褄があっていない。一ノ谷は亮太が理解出来ていないのがわかると訂正して言い直す。
「ああ、すまん。順序をとばす癖があってな。俺はお前が予言である女を殺すことを知っている。その女は俺にとっても敵のような存在だから、あんたの元にいれば勝手に俺の目的が果たせると思ってね」
亮太は悩んだ。アリスはいるが基本ソロで活動しようと思っていたのだ。この状態で彼が少し強い程度なら追い返していたが異常と呼べるほどの情報収集能力に加え情報屋でありながらかなりのトップランカーであることが彼を悩ませた。考え抜いた結論を告げる。
「いくら凄くて強いといってもな。それに実際見たことないし。だから、あんた俺と勝負だ。その善し悪しで決める」
「そうか。それなら会場やらは俺が準備しとく。明日絶対逃げんなよ〜」
一ノ谷はそう言ってお代をテーブルに置くと店から出ていった。最後の煽りをガン無視して亮太は残っている飯を食べると口元にタレをつけたアリスを綺麗に拭いてあげて店を出る。そして、宿に戻り武器のメンテナンスをして亮太にしては早い時間に就寝する。
時刻は1時50分。闘技場の選手控え室で武器の最終メンテナンスに取り掛かっている亮太とアリスがいた。アリスには軽く聞き込みしてもらっていた。
「アリス、一ノ谷段について何かわかった?」
アリスは首を横に振る。やっぱりかと亮太は呟く。亮太自身、1時間聞き込みをしたのだが誰も彼についての情報を知らなかった。
「初見で挑まなきゃいけないのはまずいな、あいつは俺らのことを知り尽くしている」
最終メンテナンスを終え装備しながら対一ノ谷段に向けて考えを巡らせる。
外から歓声がわく。どうやら前の戦いが終わったようだ。
「さて、行ってくるか」
どっこらしょとおっさん声をあげて立ち上がると会場に歩き出す。
「ミルハ、頑張れ」
アリスの一声に親指をたてて返すと試合会場に1歩踏み出した。
会場は既に巨大な歓声に包まれていた。フィールドには腕組みをしてこちらを見る一ノ谷段の姿があった。
「約束通り来たな」
「来なかったらゲーマーとしての名が廃れるんでね」
お互い戦闘態勢に入り審判の合図を待つ。
「それではこれよりゲーマー、ミルハ対最強の情報屋、一ノ谷段の闘いを開始する!始め!」
合図と共に亮太は距離を詰めるために駆ける。相手の出方がわからないので自分の間合いで一気にケリをつける作戦だ。一方の一ノ谷はその場から動かない。
「いいスピードだ。だけどそれは失策だ」
一ノ谷が指を鳴らすと空間に穴が開き、中から剣が飛び出て猛スピードで亮太の顔面を強襲する。亮太は顔を逸らしギリギリ躱す。ほぉと感心した声を出すと空中にさらに穴を開け剣を何本も飛ばす。亮太は剣が当たる箇所に黄色い気を発生させ剣を弾く。そして、攻撃範囲に来ると右手に黄色の気を纏わせ拳を振る。一ノ谷は地面に穴を開け盾を取り出しガードする。
「気の操作がうまいですね。さらに未知の能力にも臆さず突っ込んできたその度胸」
亮太は小さく鼻を鳴らすと盾を思いっきり引っ張った。一ノ谷は盾とともに引っ張られ前のめりになる。その隙に背後に回り込み黄色の気を纏った状態で一ノ谷の背中を殴る。ドゴッという痛々しい音とともに一ノ谷は吹っ飛ばされる。さらに、追撃しようと距離を詰めた瞬間、地面に穴が開き無数の槍が突き出てきた。攻撃モーションに入っていて回避行動が取れない。亮太はなす術なく無数の槍に突き刺される。ギリギリ黄色の気で急所を外したものの体のあちこちを貫かれ瀕死状態だ。
「ガフッ!敵意感知に引っかからないということはトラップか。それも展開と攻撃が同時とはな」
槍が穴に消え亮太は膝をつく。本来ならこの状態で即試合終了なのだが亮太は違う。傷がゆっくり癒え、やがて元通りになる。
「へぇ、その左眼の効果か」
「最後の最後までとっておこうと思ったんだがそうもいかなくなったからな」
フードの奥から光る紅い光が小さくなり消える。血眼は強力だが現段階での長時間の使用は不可能。現段階で使えるのはせいぜい傷を癒す程度のみ。亮太はゆっくり立ち上がると黄色の気を体に纏う。
「良くいうと堅実、悪くいうと芸がない。出し惜しみしない方がいいよ、弱いんだから」
全部わかっていて言っている。一ノ谷は亮太の本気を出させるためにあえて挑発している。亮太はそれがわかっていた。
(やつの口車に乗るな。考えろ。やみくもに攻めてもやつには勝てない。罠に嵌める戦術タイプの敵の有効策は…)
亮太はリストバンドからクナイを取り出すと会場の壁に沿って走り出した。
「狙って欲しいのかな。それはあまりにも酷い作戦だ」
一ノ谷は穴から今度は直径9mmの弾丸が亮太に向かって飛ぶ。先読みのアビリティで弾丸の弾道を予測し淡々と躱すとクナイを投げて応対する。しかし、空間に穴を空けその中に吸い込まれる。
「しょぼい反撃だ。そらっ!」
一ノ谷は亮太の足元から槍を無数に出す。亮太は一つ一つ完璧に躱すと徐々に距離を詰める。亮太の間合いまで近づき円を描くように移動から無謀にも真っ直ぐ突っ込んでいった。本来攻撃のチャンスなのだが一ノ谷は何もせず亮太を見据えたまま動かない。亮太は腕に黄色の気を集め魔女との戦いで見せたアームを作り出すと思いっきり殴る。しかし、それは叶わなかった。一ノ谷が指を鳴らすと巨大な穴から日本ではお馴染みのレールに沿って走行し1日に何百万人の者が使用する物が亮太の眼前に現れた。それは電車だ。時速160kmを出して迫る電車を見て、一瞬時が止まるのを感じたあと電車に激突し壁に押しつぶされる。観客からは悲鳴と驚きの声が上がる。目の前で見たことのない巨大な物が飛び出し人をひいたのだから無理もない。一ノ谷は連結部分が壊れバラバラになり先頭車両の顔に穴が空いた電車を穴に戻す。壁には右手を突き出したまま壁にめり込んでいる亮太の姿がいた。赤い蒸気が全身から出ている。死んではいないが全身複雑骨折並のダメージを受け、回復しているものの瀕死状態だ。フードから血が滴るところを見ると頭からも相当な量の血が出てるのがわかる。動く気配のない亮太に殺ってしまったかと亮太に近づく。目の前まで来てフードを取ろうとした瞬間、亮太は壁を吹き飛ばし拘束から解放されると正拳突きを繰り出す。ただらなぬ殺気と重圧に一ノ谷の本能が全力で避けろと叫ぶ。地面に穴を開けその中に入ることで攻撃を避けると空中に立つ。観客は魔法を使わずに空中にいる一ノ谷に驚くが亮太は一ノ谷を見据えたまま動かない。
「どうしたミルハ?もう終わりかい?次の一撃も耐えてもらわないと困るなぁ」
一ノ谷が指を鳴らすと空に穴が開き巨大な船の錨が振り子の運動をして亮太に襲いかかる。亮太は動かず右腕を錨に向ける。一ノ谷は少し冷や汗をかきながら亮太に訴えかける。
「おいおい、そんなんじゃ死ぬぞ!」
言いながら気づいた。亮太が何か呟いているのに。
「ミルハに負けは許されない。俺のステータス値を全て防御力に。そして俺が持つアビリティの技能値を全て黄色の気に」
右腕に黄色の気が纏わりアームを形成する。その大きさは10mを優に超え巨大且つ強大な気を放つ金のアームは神の腕のようだ金色のアームを纏い漆黒のコートに身を包んでいる亮太に目をうばわれる観客。巨大な錨が無慈悲に亮太を襲うのだが誰一人悲鳴をあげず結末を待つ。亮太は錨をそのまま右腕だけで捕まえると威力を殺す。ゴゴゴッと地面を抉り亮太を壁に埋めようという勢いだった錨が完全に勢いを殺され停止する。一瞬の沈黙のあと一気に歓声がわく。巨大な錨を片腕で止めたのだから歓声をあげるのも無理もない。一ノ谷も開いた口が塞がらない状態だ。歓声の凄まじさに地響きがする。
「信じられない。重さ50tの錨を片腕で止めるなんて。まさか、能力を解放したのか」
亮太は肩を揺らしながら息を吐く。そしてクナイを手に持つとさっきと同じように呟く。
「今の感じで全てのステータス値を攻撃力に。全てのアビリティの技能値を青い気に」
クナイに青い気が纏わり気に鋭さが増していく。亮太は一ノ谷に向かって思いっきり投げる。放たれたクナイは青い軌道を描いて一ノ谷を襲う。一ノ谷は大慌てで穴を開けその中に逃げる。地上に投げ出されるように出てくる一ノ谷の腹部には血が流れている。逃げるのが少し遅れ青い気が触れてしまった。
(触れただけでこのダメージ量。青い気は攻撃力特化型か)
体制を立て直したとき自分の周りが急に暗くなる。まさかと思い上を見上げると錨を支えていた鎖が断ち切られ一ノ谷めがけて落ちてきていた。一ノ谷は慌てて地面に穴を開ける。しかし、亮太ホルスターにしまってた2丁の銃を出すと穴にめがけて引き金をひく。銃弾は穴に消え同時に穴も閉まり消える。
「あんたの能力で作り出した穴は一つの物体しか出し入れできないんだろ。俺のMH1MH2、この2つの銃は時速200km。この距離なら1秒でその穴を消せる。降参しろ、あんたの負けだ」
何度も試すが防がれてしまう。残り数メートルで当たりそうというところで突如一ノ谷が消える。無詠唱の転移魔法だ。連続で穴を作り出すことで魔法陣の存在を隠していたのだ。しかし、亮太は読んでいた。一ノ谷が消える瞬間に魔力感知を発動し移動した場所に回りこんだ。
「な!!?」
背後にうまく回りこんだ亮太は青い気をクナイに纏い一ノ谷の首筋に近づける。
「言ったろ。お前の負けだ。俺のアビリティの魔力感知は転移魔法を使用した時の転移場所がわかるほど精度をあげている。それに俺のスピードならどの位置でも届く。詰みだ」
一ノ谷はやれやれと両手をあげる。
「勝者ミルハ!」
大歓声が会場を包む。
「最強の情報屋が負けた!」
「ミルハすげぇ!2色の気を使いこなしさらにあの量の気は異常だぞ!」
観客の興奮は収まらない。亮太が見せた技や力に誰もが驚くばかり。
(あちゃー負けたか。マーリンには能力解放条件と使用効果がわかるまで耐えろと言われていたんだけど全くわからないね。)
一ノ谷は勝敗が決した瞬間に座り込んだ亮太に手を差し出す。見ると亮太は悔しそうに地面に拳を押し付けていた。
「勝ったのに悔しがるとかおかしなやつだな」
「あんた、手加減してただろ。最初から最後まで。俺にはわかるぞ、俺を串刺ししたあの時あんたは俺を殺せた」
「君の血眼ですぐに回復されてた」
「嘘だな。回復するより早く穴から槍で刺し殺すことが出来てた。回復といっても刺さっている状態で完全に回復出来るわけないしそれにあんたはどんな質量の物でもその穴から出せるはず。その気になったら戦闘エリアを包むほどのものを出せただろう」
今言ったことを確かに一ノ谷はできる。試合開始の合図と同時に亮太の体を穴だらけにすることも容易にできる。自分が明らかに劣っているとわかっていて亮太は怒りに呑まれず最善手を打って勝利を掴んだ。亮太は怒りに呑まれないと心に誓いそれを達成することが出来た。しかし、手加減されて得た勝利なんてこれぽっちも嬉しくなかった。
「これが本当の殺し合いなら俺は秒で殺されてた」
「悪かったな手加減して。けどこれにも理由がある。依頼でね手加減してお前さんの情報を集めろってな」
亮太は一ノ谷の手を掴んで立ち上がると強く握手する。
「次戦う時は手加減させねえから」
「はいよ。それで俺のパーティー加入は」
亮太は会場の扉に行き、去り際に一言。
「明日の1時に門前に集合。それと俺をリーダーと呼べ一ノ谷段」
それだけ言い残し会場をあとにする。
「やれやれ。どうやら予言通りに上手くいったみたいだな」
安心した瞬間、強烈な目眩に座り込んだ。青い気に触れたダメージが予想以上に大きかったらしく止血したはずの腹部からも血が滲み始めていた。それを見た救護隊は一ノ谷を担架に乗せると医務室に運ぶ。
(手加減されたとか言ってた本人が全力を出してなかったな。アトラスの紋章、背中に背負ってる銃、赤い気。どれも情報が少ない。さすがはゲーマー、手の内はそうそう見せてくれないか)
運ばれるなか一ノ谷の反省会が始まる。この傷で明日亮太のところに行けるか少し不安になる一ノ谷だった。
翌日、近代的な門の前に亮太とアリスはいた。二人とも屋台で買った串焼きを食べながら一ノ谷段を待っていた。
「一ノ谷、遅い。まだかな」
「魔力感知に反応があるしもうそろそろ来るだろ」
二人は無言で串焼きを食べ続ける。亮太はこの時も感知の修行を欠かさず行っていた。亮太が所持している感知系アビリティは3つ。魔力感知、生命感知、敵意感知。亮太は1時間毎に感知アビリティを使い効果時間を伸ばしている。因みに魔力感知は2時間、生命感知と敵意感知は30分。生命感知と敵意感知は相手を多数を別個に判別する。その情報量は魔力感知の比ではないのだが体力の消耗もかなり大きいので持続時間が短い。
二人が無言で食べ続けていると二人の目の前に穴が開き一ノ谷が出てくる。
「お待たせしました」
「遅い。もうちょっとで置いていくとこだった」
「申し訳ないアリスお嬢。ちょいと面白い情報が入ったもんで」
「その話は道中聞くとしてそろそろ行くか」
亮太の合図で3人は歩き出す。マハルタで休みなしで働いている支部長に会いに。
マハルタから馬車で1週間かかるところにある巨大な商業都市ゼイルの近くにハハウタ湖畔と呼ばれる有名な観光地にとある事件が起こる。
ある日、ハハウタ湖畔を毎日ランニングする一人の青年が湖を見て一息ついていると水面が突如荒れだした。何事かと思い慌ててその場を離れ様子を見ていると湖から1体の生物が水を噴き荒らして姿を現す。硬い鱗に強靭な爪と牙、大きい翼と尻尾を振り回す姿を青年はこう表現した。龍が現れたと。この話はあっという間に広まり、興味を持った人が龍を一目見ようと湖を見張ったそうなのだがその日以来誰も見ていない。
この話はマハルタの大図書館にある「最強種の記」に載っている龍の出現と酷似している。この記録に出てくる龍は水面に月の光が満たされたときに姿を現すそうだが今回は朝日が昇るかなり早い時間帯。記録と明らかな差が出ている。
「この情報の場所は今、調査班の調査で立ち入り禁止になっているけど支部長に願い出れば調査できる」
一ノ谷が仕入れた情報を聞いた亮太は小さく溜息をつく。
「それさ、湖を通って出てきたと仮定すると、出てきてすぐに元いた場所に帰ったともとれる。人に自分の存在を知られた龍がわざわざまた現れるわけないじゃん」
龍探しなんかしてる暇ないと一蹴して歩を速める。一ノ谷はそのあとを追う。
「リーダー。実は最強人種に用があるんですよ」
「は?それってあの伝説の竜人族ってことか」
龍は遥か昔に人間と共存していた記録がある。両者は互いに友好の証として龍は人の形を模し、人間は龍の好物の火酒を献上したそうだ。その時の異世界からの移住者は龍の姿を見て「竜人族」と言っていたという。どの種族よりも友好の深い両者だったが、民族戦争勃発と共に龍は戦争を放棄し姿を消したといわれている。
「天空の賢者ともいわれていた者からあの女について何か情報が得られると思いましてね」
「そう言うと気前はいいが龍の居場所を特定するのに時間をかけていられないし、そもそも金がないから各地方に行くこともできないからな…。アリスはどう思う?」
アリスは答えが決まっていてハッキリと
「ミルハ、任せる」
そう告げウトウトし始める。因みにアリスは一ノ谷が能力で取り出した馬に乗っている。
「一ノ谷、能力、便利」
「お褒めに預かり光栄ですよアリスお嬢」
一ノ谷段の能力はあらゆる物を出し入れする能力で本人は配達する能力と言っている。彼は空間に穴を開けそこから物を出し入れすることが出来る。どんな大きさ、重さの物でも取り出せるが一つの穴に1個しか出し入れすることが出来ないうえ自分自身を穴から穴へ移動することは出来ない。しかし、あらかじめ移動したい場所に穴をセットしておけば異世界から異世界への移動が可能だという。穴を開けるのに魔力を消費して使用するが消費魔力は上級属性魔法と並ぶそうで馬鹿みたいに沢山穴を開けることは出来ない。
「これがRPGだったらまず金集めだな。3カ月間妖の森にこもっていたから情報ももっと欲しいし、まずはマハルタに行って支部長に近況報告してしばらくは任務をこなす。それでいいか」
二人とも異論ないようで首を縦に振る。
山積みの資料を遠い目で見つめる一人の男がいた。毎日の業務で少しやつれている男は懐からタバコを取り出し一服する。フゥーと煙を吐く。この資料の多くは行方不明のギルド登録者の捜索結果だ。その2割は軽い気持ちで妖の森に修行を勧めたミルハの捜索結果だ。どの資料も見つからないの結果ばかり、中には妖の森に入った時点で死んだと断定するものもあれば捜索に出てないような雑な内容のものもある。溜息をひとつ吐くと
「あぁ、早く帰ってこねえかな。そうすればこの山積みの資料ともおさらばできるのに。まあ、あいつなら、失礼するぞー、取り敢えず紅茶くれっとか言って戻ってきそうだな」
愚痴を言いタバコを吸うとドアをノックする音がすると許可なく開け入ってくる。
「失礼するぞー、取り敢えず紅茶3人分くれ」
支部長が考えていた台詞とほぼ同じ台詞を言いながら亮太は近くのソファーに腰を下ろす。それに続いてアリスと一ノ谷もソファーに座る。支部長は持っていたタバコを思わずポロっと落とす。1人大好き引きこもりゲーマーが2人も仲間を連れて来てしかもその1人は最強の情報屋の一ノ谷段なのだから開いた口が塞がらない状態だ。
「色々報告したいけどまずそのタバコ拾えよ」
落としていた事に気づき慌てて灰皿に置くと驚きが収まらないまま質問する。
「お前さんあの妖の森から生還するとはな!色々聞きたい事があるがまず、あんただ。最強の情報屋のあんたがどうしてミルハと?」
「まあ、色々あってな」
説明になってないと言いたげだったが特に重要でもなさそうなので次の質問をする。
「ミルハ。妖の森はどんなところだ」
亮太は黙って首を横に振る。マーリンに口止めされているからだ。そのことを察する支部長はステータスを記録する紙を取り出す。
「そうか。まあ、取り敢えずステータスの更新して次の任務の話をしよう」