真実
ホワイトに連れられた場所は光に満ちた場所で亮太にとってどこか既視感のある場所だった。椅子とテーブルが用意されていて2人はそれぞれの椅子に腰掛ける。
「さて、ここまで連れてこられたんだ。説明してくれ」
ホワイトは頷くと語り始めた。
「まずは、癌についてだな。癌とはある事象、概念、存在が生み出した負の結晶或いは概念が具現化されたもの。君の場合、闘争という事象が生んだ負の結晶という事になる。理由はもうわかるね」
亮太は頷く。自分が長年積み上げた無敗で最強という称号。そして敗者の念や妬み、どんな手を使ってでも勝とうとする人間の非情さが自分を創ったのだと。
「癌は13人。今わかっているのは闘争の癌であるミルハ君、秩序の癌のアリス君、心の癌のヒメ君、世界の癌ダンテ、神の癌イストの5人だ。ダンテは一ノ谷段のことだ」
「4人についてもっと詳しく」
「アリス君は秩序という概念が具現化された存在。ヒメ君は感情という事象に選ばれた元人間。ダンテは世界そのものが生み出した凶悪な負が具現化された存在。イストルは神が自ら創り出した存在で元神だ。そして、アリス君は闘争を捨て、ヒメ君は人間だった頃の記憶を捨て、ダンテは自分の運命を捨て、イストは信仰を捨てた」
亮太は1つ1つ丁寧に整理する。アリスは戦う手段と考えを捨て自ら秩序を壊せない縛りを負っている。ヒメは人間だった頃の記憶を捨て人間だった頃の自分に惑わされないようにした。ダンテは運命を捨て自らの終わりを決定して終わりまでの道しか辿れない縛りを負っている。イストは神にとって重要な信仰を捨て神ではなく癌になった。
「次に、御剣についてだ。御剣は強力な力を持つ者が神に選ばれ更なる力を与えられた者のことだ」
「力って具体的に何を与えられたんだ」
「神器や能力、あとは生命とかかな。御剣は7人。御剣の覇者である俺。御剣の拳闘士ガイヤ。御剣の創造、天童祐介。御剣の巫女鳳天。御剣の幻獣シラ。御剣の悪魔ルシ。御剣の剣神、佐々木点睛。俺、シラ、ルシは能力。ガイヤ、祐介、鳳天、点睛は神器だ」
「おい、それだと生命は誰だよ」
「それはあなたですよ。ミルハ」
魔法陣が出現、そこからリンが出てきた。
「それはどういうことだ」
リンは椅子を召喚して座ると端的に答えた。
「あなたは過去に1度死んでいます」
亮太は理解出来なかった。1度死んでるっていっても寝る以外に意識を失った機会がないしそれに記憶も。そこで亮太は思いとどまった。
「気付きましたかミルハ」
「ああ。記憶の大部分がごっそり無い」
亮太は過去の記憶を何度も探したのだがあるのは12才からのゲームをしていた時以降でそれより前は思い出そうとしても何も出てこなかった。
「その理由を話すにはこのフォーレンという世界の話をしないといけない」
「全部話してくれ」
「わかった。まず、この世界が創られた理由は神と癌との戦いのためだった。神は世界の創造主が世界の守護をさせるために造られた存在。最初の癌であるダンテは世界から零れ落ちた負の力が具現化した存在でやつはいろんな世界を壊していた。そこで創造主は神とダンテを世界に閉じ込め決着をつけさせた。しかし、今日まで続いている。終わらない戦いにダンテはある1つの手段をとった。それが君だ」
「俺?」
「そうだ。ダンテの計画は異世界で強大な力を持ち尚且つ完璧にコントロールしている人を癌にすることだった。それだけならまだ良かった。しかし、あろうことか神も同じことを考えしかも同じ人間を選んでしまったことだ」
「両方に選ばれた結果どうなったんだよ?」
「ダンテから癌の力を、神からは御剣の力を注がれたんだ。お互いあろうことか君が産まれる前にそれを施した。産まれた後数年は何も異常がなかったがある時、力が暴走して君は死んだ。はずだった」
「はずだった?」
「君は蘇ったんだよ。君ではない別の存在として。それに気づいた神は君の精神と魂、そして再度御剣の力を注いだ。結果は言わずもだが記憶が破壊されていて定着しなかった。そこで神は仮の記憶を定着し壊れた記憶を復元する時間をつくった」
「夢で見た残虐な光景があるんだけどそれは何だ?」
「ミルハさん。それは、私たちが定着させた記憶と肉体に残った死んだ時の恐怖が混じりあってできあった幻想です。本当の記憶を取り戻せばそれは消えるはずです」
「そうか。話を戻すが神とダンテがとった行動はわかった。けど俺が選ばれた理由がわからない」
「それはあなたの生みの親と私たちが未来視で見たあなたを見て判断しました。生みの親や未来のあなたを教えることはできません。これはあなたの運命に大きく影響してしまうので」
亮太は聞き出そうと思ったがその真実を知ってしまうとおそらくどちら側にも宜しくないのだろう。それに今はどうでもいい情報だ。
「で、何故あんたはこのタイミングでこの争いに巻き込んだ?」
「それは2つのイレギュラーが出たからです。1つは癌の力を持った人達がさらに現れたことです。これは今は対応できていますがもう1つのイレギュラーはあなたです」
「また俺か」
「はい。あなたの中にある御剣と癌の力が融合をしてしまったのです。それに気づいたダンテは世界ごとあなたを奪おうと企んだ。それを避けるためにあなたをこの世界に連れ出したわけです。本当はあなたの力を直接育てたかったのですがそんな余裕がなかった」
「だから、最初に適当に指示しといて変なタイミングで出張って来たのか」
リンは頷くだけであとは喋らない。見かねたホワイトは話を変える。
「さて、これからだが神の癌のところに行く」
「一応理由を聞いておこう」
「君の力と記憶を彼女が預かっている。それをミルハ君に戻す。そうすることでミルハ君は融合された能力、癌の能力、御剣の能力の3つの力を持つことになる」
「多いな。制御するのが面倒そうだ。因みに融合された能力は何か知ってるか」
「"完全なる存在"ですね」
「アルティマニア?」
「そうだ」
ホワイトは亮太のステータスプレートを取り出す。
アビリティ:(常)格闘EX、斬撃技能EX、打撃技能EX、射撃技能EX、狙撃EX(+隠密)、投擲EX、柔術A、武術の極意、神の器A、氷属性魔法A
(発)鬼気きき、先読みO、読心D、掌握、血眼、魔力感知、生命感知、敵意感知
魔力性質:適正属性"闇" 弱点属性"聖" 魔力特性"万能"
付属属性"氷" 弱点属性"聖" 魔力特性"魔弾"
「"完全なる存在"は経験を積む毎に常時発動系アビリティが追加、或いは強化される能力だ。ミルハ君が今まで積んできた成果がこのアビリティの量というわけだ」
武術の極地が極意に強化されている。どうやら武術系の攻撃や防御力を何十倍に強化されるみたいだ。それと、キリエとの戦闘のおかげか氷属性魔法を使用出来るようになったようだ。
「さて、リン。扉を開けろ。直ぐに出立だ」
はい、と答えると学校の屋上に出た時のように強烈な光が空間いっぱいに輝き扉が現れる。ギギギギィと扉が開くと3人は中へ1歩踏み出した。