闘争の癌
"ゲームスタート"の合図で亮太を囲むように4つの電子板が突如出現する。亮太は驚き段は喜び、そしてリンはとても苦い顔をしている。
「ゲームの起動を確認。使用者はミルハ様でよろしいですか」
脳内に直接声が流れまた驚くも「ああ」と答える。
「能力"ゲーム"の初起動を確認。チュートリアルを開始します」
電子板からの声を合図に亮太以外の時が止まる。
「始めに4つの電子板について説明します。左の電子板をご覧ください。これはあなたの現在のステータスです」
ステータス:P456 D1009 Q840 S10 M400
「次に右の電子板をご覧ください。これにはあなたのアビリティと技が表示されます」
アビリティ:(常)格闘EX、斬撃技能EX、打撃技能EX、射撃技能EX、狙撃EX(+隠密)、投擲EX、柔術A、武術の極地、神の器A
(発)鬼気、先読みO、読心D、掌握、血眼、魔力感知、生命感知、敵意感知
魔力性質:適正属性"闇" 弱点属性"聖" 魔力特性"万能"
技:重厚篭手、超重剛篭手、四重障壁、黄鬼、青鬼、赤鬼、固有属性闇魔法"闇纏い羅刹"
固有属性とは使用者が独自に作り出した属性だ。闇魔法は世界中で認知されているが本来、人間種は闇魔法を使うことが出来ない。
「そして目の前の電子板をご覧ください。これには敵のステータスと使用する魔法や気が表示されます」
キリエ
ステータス:P47000 D5500 Q998 S36800 M52000
魔力性質:適性属性"氷"、弱点属性"雷"、魔力特性"魔剣"
気:なし
「ミルハの後ろの電子板ですが現在は使用できません。詳細は使用可能時に。次にこの能力についての簡単な説明を致します。簡潔に言いますと自分のステータス値を自由に変更したりアビリティの発動を絞ることで発動中のアビリティを強化する能力です」
「それってステータス値を全て同じにしたり1つに集中できてアビリティのON/OFF+アビリティ効果upってことか」
「その通りです。また、この能力は"ゲームスタート"の合言葉で発動し時を止めて設定変更を行えます。但し、10秒間という縛りと移動禁止の制限があるのでご注意ください」
完璧に理解すると亮太は分析を始める。今回は時間は無限のようでゆっくり考えることが出来る。キリエのタイプは近距離魔法型で防御力とすばやさが低い。そして転移魔法と氷属性魔法を複合させ中距離攻撃をピンポイントで当てに来て近づけば火力の高い打撃系魔法攻撃型の餌食にする攻撃方法が得意なようだ。亮太は5秒考え指示する。
「ステータス値の変更。パワーを900、ディフェンスを900、スピード840、スタミナ70、魔力5に変更。アビリティを生命感知と鬼気に限定」
「変更完了。"ゲーム"の能力効果は10分できれますがすぐに再変更可能となります。逆にいえば10分は変更不可となるのでご注意を。最後に1つ、あなたは"闘争の癌"に選ばれました」
亮太は癌とは何かを聞かなかった。しかし、段とリンの反応から段は自分を利用と画策してリンにとって明確な敵になってしまったことが関係していると察していた。
「あなたにはあなたにとって大切なものを捨ててもらいます」
「この能力は"闘争の癌"である俺の力なんだろ」
「はい。今のあなたでは使用できません」
亮太は馬鹿らしくなって笑った。自分は元の世界では無敗のゲーマーとしてやってきたがここまで戦いに溺れていたなんて自分自身思っていなかった。今なら"ミルハに負けは許されない"の意味が分かる。それは異常な勝ちへの執着と無敗というプライドから来ているものなんだと。敗北が近づくと無意識に言っていたのは自分への問いかけだったのだ。無様に負けるのか、無敗を捨て敗北に甘えるのかと。答えは否。敗北なんていらない。負けから学ぶものなんてなく勝ちを経て自らを強くすればいい。俺は、無敗そして勝ちの愉悦に永遠に浸っていたいのだ。なら、俺にとって1番いらないものは1つだけである。
「俺に敗北はありえない。故に、俺は敗北を捨てる」
「あなたが負けを生み出した時、あなたはどうしますか」
亮太は胸を張り堂々と答えた。
「そんなもん、負けたら死ぬ。それだけだ」
「……承認完了。闘争の癌ミルハ契約完了です」
そうして時は動き出す。
キリエは能力を発動にしては変化のない亮太を訝しんだ。亮太は警戒しているキリエを他所にコートを脱いだ。そして神器を解放する。
「アトラスの紋章 解」
紫色の紋章から魔力が亮太に流れ込んでいく。その莫大な量にキリエは戦慄が走った。
「魔力40000!!?お前一体何をした!!?」
亮太はキリエを見下ろすように見下すと傲慢に言い放つ。
「まず、改めて自己紹介を。俺は闘争の癌のミルハ。永劫無敗の絶対強者だ。俺の魔力がはね上がったのは"アトラスの紋章"の力で通常のステータスを何十倍にあげるんだが、俺ははね上げた分の値を全て魔力に注いだ」
段は笑みを抑えることが出来なかった。
(ミルハの能力はステータスやスキルを自由自在に操ることが出来る。1回スイッチが入ったら誰もミルハに勝てねぇ。それに目覚めてくれたおかげで俺らも癌として目覚めることが出来た)
キリエは亮太から一定の距離をとると魔力を解き放つ。空色のオーラがキリエを包み周囲の気温が氷点下を下回って冷える。亮太は腰に携えていた刀を抜く。刀の丈は短くもなく長くもなくいわゆる忍刀なのだが他の刀に比べて異常に細く、光沢によって刃が見えない。亮太は青い気を刀と全身に纏わせる。刀の刃は瑠璃色に輝き青い気は甲冑の形に変形し亮太を包み額には青い気の角が生えていた。キリエは巨大な氷の大槌を召喚する。そして手を亮太に向け叫んだ。
「唸れ!アイシクルブリザード!!!」
亮太を囲んで吹雪の塊が吹き荒れ亮太に呑み込む。しかし、亮太は平気な顔でその場に留まると勢いよく走り出した。キリエは上空から氷塊を落としリンは大量の魔法陣から光弾を放つ。亮太は光弾を避けながら氷塊を豆腐を切るように裂き止まらない。
「天使の矢!!!」
魔法陣から先ほどの輝きに満ちた光の矢が大量に降り注ぐ。
「無駄だよ」
段は巨大な穴を開け大量に降り注ぐ光の矢を回収する。そして、お返しとばかりに別の場所に穴を開け光の矢を放とうとして、斬られた。突然の事で何が起きたか分からなかったが回収した光の矢を放ち返す。リンは再度天使の矢を放ち相殺させる。段はさらに穴を開けようとして止まった。背後に殺意を剥き出しにしながら刀を向ける亮太がいるからだ。
「何のつもりかなリーダー?」
亮太は傲慢に言い放つ。
「邪魔すんな」
段は亮太のあまりの気味悪さに背筋に悪寒が走った。何故なら彼から一切の傲りが感じられないからである。それどころから彼から何も感じられないのである。強大な力を手にした者は必ず希望や傲り、自信を取り戻すなど戦う意志が生まれるはずが亮太は違う。ただひたすらに純粋に淡々と勝ち筋を見据えているだけなのだ。そこには感情が存在せずまるで勝つことしか命じられていないプログラムのようだ。段は首を縦に振り廃城に退避する。それを確認した亮太はキリエとリンに向き合い頭を下げた。
「すまない。余計な邪魔が入った。それでは始めようか」
これにはキリエとリンも悪寒が止まらない。亮太は一瞬でキリエの目の前へ移動し斬りあげる。
「な!!?」
全く反応出来なかったキリエは魔力を全力で解放する。空色のオーラが爆発し亮太を凍らせる。亮太は全身に纏う気を解き刀に気を集中させ凍っていくのを無視して斬りあげた。キリエは全力のバックステップで後ろへ下がる。全身の汗が止まらない。強烈な殺意に感じるはずのない恐怖にキリエは耐えられなくなり叫んだ。
「何なんだおま!!!」
全て言い終わる前にキリエの首から大量の血が飛び出し冷気で凍る。声帯を斬られ激痛に声にならないまま叫び続ける。リンは亮太に攻撃するが遅かった。既に間合いに入っていた亮太が一閃する。キリエの身体が真っ二つに分かれ、亮太は後退してホーミングする光弾を全て斬り潰す。