覚醒
全身から紅焔のように気が爆発し、一瞬で亮太ごと姿が霧散する。あまりの激しさに段は軽く吹き飛ばされてしまう。
「なんつー気の量だよ。リーダーは………え!?」
段は上空を見上げ異様な光景を目にした。リンと名乗る少女の真後ろに躍り出て右手に全ての気を集めている、しかも宙に浮いている。気が集まった右腕は紅く変色、さらに紅い蒸気が出ていて亮太の額には2つの角を模した気が出ていた。亮太の拳が少女に振り下ろされる。少女は魔法陣を5重に展開し攻撃を待ち構える。
「説明しろやテメェェェェェェェ!!!」
ドゴッッッッッッ!!!!!!!
バギィィィィィィィィィィィィィ!!!!!
高魔力で展開された魔法陣が煎餅のようにバリバリ砕け散る。それでも涼しい顔をする少女は、最後の1枚の魔法陣に魔力を注ぎながら指揮者のように指を振り、割れた欠片を紡いで亮太の四方を囲むように魔法陣を展開する。魔法陣から放たれた光は亮太を呑み色を呑みそして日の光を呑んで輝き輪を描いて弾ける。寸前のところで段は空間に穴を開け亮太を引き釣り出す。
「おいテメェ!邪魔すんじゃ……」
激怒していた亮太は妙な違和感に冷静を取り戻し段を睨む。
「おい、転移魔法無しでどうやって俺を移動させた?配達じゃ運べ無いはずだよな」
「ゲッ!!」
「その反応からして隠し事か。後で詳しく聞かせてもらおうか。っと、危ねぇ」
純白に発光した羽が高速で飛来するも紅い腕で全て薙ぎ払う。
「説明を要求しといて無視しないで頂けます?」
「今聞く体勢になっただろ。ほら話せ」
「自分勝手ですね。まあ、いいでしょう。雨宮リンの魂を贄として私という神の精神をリンの肉体に定着させたんです」
「てことはキリエもか。お前らの目的は何だ」
「………雨宮リンのこと、何も思わないのですね」
赤い気が消え亮太は普通の声色で一言、
「俺の幼馴染みはお前に敗けた、それだけだ」
リンの目から涙が伝う。涙は地面を湿らせキリエの冷気で凍りつく。亮太はそれが肉体に残っているリンの感情だと理解した。
「あなたはそういう人でしたもんね」
亮太は答えず、話の続きを黙って待つ。リンは涙を拭うと1つ息を吐く。
「私達はあなたという危険分子を殺すのが目的です」
「だったら元の世界で俺を殺せば良かっただろ」
「向こうにはあなたの傍にいつも化け物じみた者があなたを監視していたので。それに向こうの世界では神は現界できませんので」
「けど、この世界に来て俺が強くなるのは明白だったんじゃないのか?」
「それは想定済みです。だからこうして弱い今のうちに来たわけです」
「俺が弱いと……。はっ、見下してんじゃねぇ!」
赤い気が再度燃え上がる。気は先程より勢いが増していて皮膚を焼いて膨れ上がる。亮太は一気に跳躍して少女に殴り掛かる。しかし、少女は易々と攻撃を避け姿を消す。それと同時に亮太もその場を離れるとさっきいた場所に氷の針山が突き出た。キリエはさらに魔法を唱える。地面と空気中に氷の道が出来上がると氷の棘が亮太を貫こうと伸びる。亮太は舌打ちしながらもバク転を繰り返して避けると吠えた。
「キリエ!邪魔すんな!」
「リーダー落ち着けって!」
段の制しを聞かず亮太はキリエに突っ込む。キリエは魔法陣を展開しマシンガンのように氷の弾丸を飛ばす。避けることもせずに突っ込み拳を振り上げた瞬間、体が動かない。足元を見ると魔法陣から出た鎖が亮太の足を拘束している。鎖に気を取られている隙をつきキリエは正面から少女は真上から魔法を放つ。
「天使の矢」
「金剛鉄槌」
巨大な光の砲撃と半透明に輝くクリスタルの重撃が迫る。赤い気を全身から爆発するように燃え上がらせ、鎖を無理やり引きちぎり後ろへ跳躍する。甘いな、と囁くとキリエは体を一回転させ、真上から来ていた光の砲弾をかっ飛ばす。スピードが追加され威力が増した一撃をモロに喰らってしまった亮太は城の外壁に激突する。
「弱いな。こんなの俺らが出張る必要無かったんじゃねえの」
キリエは呆れたように腕を下ろす。
「キリエ、油断大敵ですよ」
「わかって……」
ダンッッッッッッ!!!!!!カラン……
キリエの話を遮るように乾いた銃声が鳴り響く。弾丸は寸分狂わずキリエの眉間を捉えていた。
「はぁ〜、だから言ったのに」
「チッ!贄が一体死んだか」
煙を上げながらすぐさま立ち上がると手を付いて魔法を発動させる。キリエの目の前に分厚い氷の壁が出来上がる。その壁が強烈な音と共にヒビが入り崩れ落ちる。亮太はマガジンがベコベコに凹んだライフルを捨て段の隣に立つ。
「リーダー落ち着け。ここで冷静を欠いて死んだら何の意味もないぞ」
「わかっているつもりだ」
「いいや、お前は何もわかっちゃいない」
キリエはそう断言すると5つの魔法陣からクリスタルを出す。中には、意識がない人が閉じ込められていた。キリエが呪文を唱える。
うがああああああああぁぁぁァァァ!!!!
目や口に鼻、爪から大量の血を流して絶叫する。巨大な騒音に亮太と段は耳を塞ぐ。クリスタルの中を満たすほどの血が人を飲み込む。血は皮膚を焼き爪や肉を溶かし剥き出しになった骨をも溶かしていく。血が引くにつれ声は小さくなっていき、やがて血が消えると共に絶叫も止みクリスタル内に髪の毛一本も残っていなかった。その光景に、亮太の脳裏にある出来事が浮かぶ。
助けを乞う人を容赦なくいたぶり、絶望の滲んだ泣き声を殺すように息の根を止める。動かなくなった人を見下ろし歪んだ笑顔を向ける誰かの影。亮太は嫌だと感じた、こんなのは間違っている。勝負とは互いが全力をぶつけ互いが認め合うもの。ゲームを通して亮太が培った教訓だ。それを真っ向から否定される。亮太は極度の怒りを感じると共にある1つの考えが浮かんでいた。
勝って証明しよう。俺が全て正しいってことを
「お前には感謝しているぜ。あの5人を生け捕りにしてくれてな」
「…あの5人か」
亮太は後ろを見る。廃城の一面が大きく歪んでいて衝撃で崩れそうになっている。今度は真上を見上げ魔力感知をする。少女は魔力を溜めているようで魔力が少女の内側に集まっているのが目に映し出される。亮太は大きく深呼吸する。
「これ以上は城内部の人間が危ない。それに俺もくらい過ぎて限界が近い」
「サポートならお任せを。攻撃に集中してくれ」
「…わかった。相手は連携技で両方を攻撃するはず。ギリギリのタイミングで攻撃を飛ばしてくれ」
「了解。やっと落ち着いたみたいだな」
「……。否定されたからな。なら、正してやろう。それだけだ」
キリエはこの状況でも諦めないで自分を睨む亮太を嘲笑う。
「まだわからないか。お前らに勝ち目が無いことに」
「勝ちか…」
亮太は思わず笑みを零す。今、目の前の敵は強い自信を持っている。その中には多大な傲りが見てとれる。亮太は哀れだなと思うと同時に自分のなかにある確かな自信が可笑しかった。
「何がおかしい」
「いや、なんか負ける気がしなくてね」
亮太はコートを脱ぐ。顔が露わになった亮太を段は見る。目は死んでおらずむしろ燃え上がっているように感じる。それに以前戦った時と雰囲気が変わっているが段は何となく理解した。この状態の亮太は純粋にゲームを楽しんでいるの時なのだと。
「さあ、リーダー。思いっきり暴れてくれ」
段は何故か興奮気味に言うと空間に穴を開け戦闘態勢に入る。亮太は少し気になったが無視して目の前の相手に集中する。風にのりキリエの冷気が亮太の肌を刺す。キリエの怒りと共に冷気が増す。しかし、亮太は笑顔を崩さずキリエを見据える。
「俺も舐められたもんだ。てめぇを速攻で殺ってやる」
「そうか、言いたいことは以上だな。それじゃあゲームスタートだ!」