表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Raw World  作者: 怠惰
10/16

脅威

マハルタを出て4日、亮太一行は目的地ディーノルに来ていた。この街は24時間夜が来ないといわれるほどの商業都市で中でも珍しいアイテムを取り扱う店が多く、冒険者や1部のセレブで街はごった返している。一行はディノールの奥の廃城前で会場設営の手伝いをしていた。といっても手伝っているのは亮太だけで段は無断でどこかへ行きアリスはティラミとお喋りをして堂々とサボっている。

「おいおい、あんたらにサボられると困るんだが。こういう時に敵が来たらどうすんの?」

「敵来ない。ミルハ強いから私の出番、なし」

ご覧の通り手伝う気ゼロだ。ティラミと一緒にティーカップを片手にお菓子を食べる姿に亮太の気も緩んでしまう。

「まあ、来るわけないか〜」

その時だった。ティラミを360度囲むように魔法陣が発生、そこから鋭利な氷柱(つらら)が出現する。見事なフラグ回収に亮太は顔を引き()らせながら亮太は"掌握"を発動する。氷柱がヒットする順番、速度、魔力量を瞬時に把握し2丁の銃、MH1とMH2の引き金を振り絞り的確に撃つ。氷柱が放たれる前に全て撃ち抜くと亮太は敵意感知を最大範囲まで広げる。アリスはこの状況でも呑気に、フラグ回収ね、と囁きティラミは緊張感のないアリスに注意する。

「段!来い!」

重く低いトーンで叫ぶと大慌てで段が(ひざまず)いて参上する。

「お前はここでヒメさんの護衛してろ。…後でお前を殺す。俺の感知から逃げられると思うなよ」

「も、申し訳ありませんでした」

本気の殺意に段は頭を下げることしかできない。完璧に抜け出せていたと思っていたのだがあっさり見破れた段は

(この先逆らわないようにしよう。計画前に本気で殺される)

と本能レベルで感じ取った。実際、亮太の殺意に作業員たちは座り込んで足をガタガタ震わせて怯えている。中にはあまりの恐怖に気絶してしまった人までいる。亮太は他の人に構わず感知に反応があった場所に移動していった。


亮太は屋根伝いに移動し路地裏の小さな広場に来た。そこには黒コートの怪しい男が魔法陣を広げ呪文を唱えていた。亮太は魔法陣の手前で音もなく着地すると銃を向け叫んだ。

「そこで何してる」

男はビクッと肩を震わせ奥へ逃げようとした。しかし、それを見逃す亮太ではない。男の右太ももと左ふくらはぎを撃ち抜いた。

「ぐわああああああ!!!」

強烈な痛みにその場で倒れ痛みに(もが)く。亮太はすぐに男に近寄ると男の胸ぐらを掴み端的に質問する。

「てめぇ俺らを狙ってたな。目的はなんだ」

男はすっかり怯えきっていて大量の汗をかきながら必死に答える。

「こ、殺さないでくれ!俺は雇われただけなんだよ!」

「雇い主の名は?」

「キ、キリ……」

全て聞き終わらないうちに背後に敵意を感じ咄嗟に右に避け男を盾にするように背後に跳んだ。先の氷柱よりリーチが大きくより鋭利な氷の槍が寸分違わず男の心臓に突き刺さった。

「チッ!口封じだったか」

男の胸から大量の血が流れ地面を赤く染めていく。先の攻撃はあえて亮太の背後から狙うことで口封じすることを隠していた。ついでに亮太も殺そうとしたのだろう。亮太は敵意感知を前方に最大距離で広げる。感知に反応はない。しかし、頭上からの濃密な殺意にその場から離れる。1秒遅かったら死んでいたかもしれない。空から数十本の氷の槍が降り注ぎ大地に突き刺さる。亮太は感知を魔力感知に変更するとすぐに反応が出た。しかし、居場所がバレたのを悟ったのか感知範囲外へ逃げていった。

(場所は直線距離で150m。魔力残滓から読み取るに遠距離攻撃メインで転移魔法と氷属性魔法の複合技か。厄介だな)

亮太は敵の攻撃スタイルを頭に叩き込むとティラミの元へ戻る。


戻った亮太は全員を宿へと移動させそれぞれの部屋に帰らせて段とアリスに監視を指示した。そして"アトラスの紋章"を発動し予備のコートを着て魔力感知で周囲を警戒する。その後、全員の安否を確認して最後にティラミの部屋へと向かう。コンコンとドアをノックすると、どうぞ、と普段よりやや高い声で答えるティラミ。疑問に思いながらも亮太はドアを開ける。するとそこには、バスタオル1枚だけを纏った無垢なティラミがそこにいた。

「す、すみません!ヒメ様!」

ティラミはすぐさま部屋を出ようとする亮太の手を咄嗟に捕まえる。亮太の目がすべすべでもちもちの肌、ふくよかな膨らみの双丘に吸い寄せられる。

「あ、あの、ヒメ様…」

「ミルハ様は護衛のために来てくださったのですね。それならここで待ってくださっても良いのに」

「いえ、俺は外で待ってます」

「ダメです。ここにいて下さい」

振りほどくわけにもいかずあえなく了承すると部屋のソファーに座る。浴室ではシャワーの音がして、否が応でも想像してしまう。水に濡れてきらめく髪、紅潮した乙女の肌、シャワーを浴びる歌姫の姿の妄想をかき消すのに必死な亮太。しっかり感知しているが全く集中出来ない。実戦の何倍も緊張して石のようになっていると、わっ!、と言いながら両肩をポンとのせられた。肩がビクッ!と揺れる亮太に面白そうに微笑むとティラミは耳元にそっと囁いた。

「お風呂あがったわよ……あ・な・た」

やかんのように頭をボッと沸騰させ仮面越しからでもわかるほど赤面する。ティラミはそんな亮太のフードを、えいっ!、と可愛い掛け声と一緒に取る。亮太は大慌てで被り直す。

「ヒメ!何すんだよ!」

「ミルハ様の素顔を拝借したくて。その、とても素敵ですね」

普段真正面から褒められたことのない亮太はかなり動揺する。そして、頭を抱え座り込んだまま動かなくなった。

「あ、あの、ミルハ様?」

「あんまし褒めんな。気恥しいだろ」

「………。ふふっ。ミルハ様ってば意外と恥ずかしがり屋さんなんですね」

「違う、ミルハ、照れ屋」

「アリス!?いつからいたんだよ!」

アリスの声に亮太は思わず飛び上がって距離をとる。

「イチャイチャ、ティラミだけずるい」

「してない!ていうか監視はどうしたんだよ」

アリスに真っ直ぐな瞳が、イチャイチャするなんてずるい。真面目に監視してたのに、と訴えてくる。確かに誰がどう見てもイチャイチャしていたのは確実で護衛という任務を果たせていない。アリスの、絶対許さない、という瞳に亮太は白旗を上げる。

「はあぁ、何をすれば許してくれるんだ?」

アリスはスキップしながら寝室に行きベットに寝転がると誘うようにポンポンとベットを叩く。亮太は言う通りにアリスの目の前で寝転がるとアリスは亮太を思いっきりハグする。すっかり慣れてしまった亮太はため息をつきながらもされるがままだ。ティラミは顔を赤らめて2人の姿を見てそわそわしている。

「抱き枕、抱き枕」

「ア、アリスちゃん。いつもこうやって2人で寝てるんだ…」

そうなんだと呟くティラミを見て微かに嫌な予感がする。こういう時の予感というものは必ず当たるものだ。ティラミの顔が決意の表情に変わる。

「私もミルハ様を抱きたい!」

「ちょ、言い方!」

「いいよ、今回だけ」

「いいのかよ!?てか、勝手に決めんな!」

「では、失礼します」

「ちょっ、お、おい」

ティラミは亮太の拒否を無視して無防備な背中に体をくっつける。暖かい体温と心音が直に感じる。鼓動が早いのを感じる。亮太はまだ17、乙女2人に前後から抱かれた経験などあるわけもないのだから無理もない。前後から感じるマシュマロのような柔らかい感触、2人の体温がダイレクトに伝わり亮太の顔がトマトのように赤くなる。ティラミは耳の先まで真っ赤にしている亮太に甘く囁きかける。

「おやすみ、あ・な・た」

ボンと音がする。どうやら亮太の脳がオーバーヒートしたようだ。ティラミは「ふふっ」と微笑むと誰にも聞こえない声で

「おやすみなさい、呪われし子」

と囁き瞼を閉じた。アリスはオーバーヒートして惚ける亮太の顔を胸に押し付け一言。

「ミルハ、負けは許されない」

亮太は正気に戻るとアリスを見る。

「何でそれを」

「ミルハ、段と戦っていた時言ってた」

亮太は段との戦闘を脳内で再生するが自分がそのようなことを言った記憶が無い。

「俺、無意識にまた」

「そうなの?でも、いいと思う。ミルハは負けない」

アリスの瞳は亮太の勝ちを信じて疑っていない。亮太はその事が恥ずかしくもあり嬉しかった。これまでの記憶を探っても褒められたことが…。亮太は昔を思い出そうとして踏みとどまった。それは黒い靄のように疑問が湧いてきたからだ。


何かがおかしい。


その時だった。突然強烈な睡魔が襲ってきたのだ。

「な、なんだ…急に眠…く。ア、リ……ス……」

必死に眠気を我慢するが抵抗虚しく亮太の意識は途絶えた。その様子を見ていたアリスは

「まだ目覚めるには早いわ混沌よ」

そう呟き彼女もまたゆっくりと瞼を閉じるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ