小浜の人魚 採話
小浜ニテ人魚ノ打チ上ゲラルル事。
嵐去リシ浜ニ 人魚現ル。
尾鰭持チタル女ノ姿シテ 傷付キ倒レ伏シタリ。
男 此レヲ見 着物ヲ被セル。尾鰭 足トナリ 女ノ姿ニナリケリ。
男 此レニ酒ヲ与フ。
人魚喜ビテ 魚ヲ追ヒテ捕ラセ 恩トスル。
天明ノ頃、海荒レ、不漁続ク。小浜ノ人、人魚ノ祟リト祭ル。
昔、小浜に人魚がいた。
小浜の人が人魚を捕まえ、見せ物にした。
人魚は怒り、小浜では魚がとれないようにした。
だから小浜では、魚がとれない。
昔、人魚に恋をした男がいる。
人魚は男に不死の術を掛け、夫にした。
その為、小浜には男の人魚もいる。
戦後すぐのことです。
うちのお婆さんが、闇で酒を飲ませる店をやっていました。雨風の強い荒れた晩に、見掛けない二人連れが来たそうです。
身体が大きいのに妙に生っ白い男と、影の薄い女だったそうです。
そんな晩でも、雨足が強くなる前から飲みに来ていた人が何人かいたそうです。
男は黙って酒を飲んでいたそうですが、その内酔った他の客が、二人連れに絡み出しました。
男が怒って喧嘩になり、誰かに腹を刺されたそうです。
男は刺された刃物を抜いて相手を刺し返し、女と一緒に雨の中に出て行きました。
その後、その二人連れを見た人は二度といません。
二人がいなくなった後、お婆さんは店の中で真珠を一粒見つけたそうですが、お金のない時代のことで、売ってしまってありません。
後で二人連れの女は人魚だったに違いないと、見た人みんな言ったそうです。
タクシー仲間では有名な話です。
嵐の晩、真夜中に浜に向かう道をズブ濡れの男女が歩いていたら、声を掛けない方がいいと言います。
心中するのではなく、海に帰る人魚で、声を掛けると災難に遭うとも言います。
別の話では、人魚に優しくすると、恩返しをするとも言います。
いつもみんなで遊んでいる空きビルがある。
風と雨がスゴくて、いつもみたいに夜出掛けられなかった次の日ビルに行ったら、何か危なそうな人達がウロついてて近付けなかった。
後でビルに入ったら、お弁当の残りとかがそのままになっていて、海の匂いがしていた。
みんなに聞いても、昨日は行ってないと言うので、知らない奴が入ったに違いない。
この辺には、嵐の晩に人魚や呪いを掛けられた男が出ると、昔から言われてる。
人魚や男を恨んでいる連中がいて追っているから、そんな連中に近付いたらいけないと、お母さんに言われた。
ビルにはきっと、人魚が隠れていて、変な連中がそれを探していたんだと思う。