自称小説家の苦悩
何か感想を残していただけら幸いです。
「何でおれの書いた小説は売れないんだ・・・・・・」
ある自称作家の青年は嘆いていた。
理由も呆れたもので自分がサイトに投稿した、自己満足に等しい小説が脚光を浴びないからというものだった。だが、閲覧数が3ケタも超えず、固定の読者がいるわけでもない小説に出版社からのお呼びがかかるはずもなく、それでやれ売れただ売れないだと言っているからお笑いである。
「主人公の過去、人間関係、能力や武器、名前だって伏線になっているくらい無駄のないストーリー展開なのになぁ・・・・うっせーよババア!」
自室のドアをたたく音に抗議する。誰かはわかっている、理由もだ。今日三回目になる親の就職への催促だが、自己満足の世界へ逃亡した彼には右耳から入り左耳から出てしまう意味のない雑音だった。(もっとも、家具の配置からして入る耳は左耳なのだが。)
だが雑音は雑音。反抗的な態度でもみ消し、『執筆活動』へ取り掛かる。子供の時から使っている、色あせても幼稚なデザインの学習机に置かれたパソコンは、近すぎるが近視でなおかつ視力が0.2にまで落ちた彼にはちょうどいい按排だという。
さて、問題の彼の小説だが、第一に執筆者に問題がある。
まず、創作物において彼は中途半端に本格的さを求める傾向にあった。だが彼の学習意欲は乏しく、引き出しのない彼の文章は基本、ネットで調べた簡単な文章の1文で済ませることが多く、それを補完するように人物のせりふに「あれ」「これ」「それ」を多用させるため、内容を理解することすらままならない、いわば「執筆者語」で書かれた頭の悪い文章なのだ。
だがもし仮に、この内容を理解したとしても、その内容はひどいものだった。
上記の台詞にもあったように、「主人公の過去、人間関係、能力や武器、名前だって伏線になっているくらい無駄のないストーリー展開」とのこと。だがこれが露骨すぎて解釈次第では主人公が不要にも思え、作者である彼自身そう思えたのか身に着けているものや動作すら因縁を持たせるため、設定に矛盾が生じたり、過去の行動が悪にも無駄にも思えてしまう。さらに登場人物が彼の好みを過度にトレースしたとわかる生々しさがあるためとても他人には見せられない内容となっている。
そして極め付けが、「主人公の正義感は正しいから何しても成功」というご都合展開を持ってくるので完璧な自己満足を完成させてしまっている。
これでは話にならない。
だが最近彼は気づいたのか、路線を変えることにしたのだ。
その内容もサイトで人気のジャンルそのままの内容を書くというこれまた容易な案だった。
「まず、主人公は魔法学園のアウトロークラスの生徒。専用の魔法を幾つも考案している折り紙つきの実力者。だけど彼の魔法はそもそも大本が普通の物とは異なっている為・・・」
「周りからは過小評価をされているが、彼に助けられた見た目ロリーな学園のアイドルみたいなポジションのヒロインにひそかに好意を抱かれ・・・」
「主人公は話せる友人程度にしか思っていなかったけど、学園内での評価が彼女の助けもあり右肩上がりで・・・彼女もまたそんな主人公の才能を見出した存在として上級生にも噂されるようになり・・・・・」
「同じクラスになった二人は学園内でも有名なベストパートナーになってヒロインも恋愛感情を抱くが主人公は朴念仁なのと自作魔法の研究で気付かないよっと・・・よし、できた!われながら素晴らしい小説だ・・・・これで小説家として華々しい印税生活だな!」
以上の怪文書をたったの数十分で書き上げ、投稿のスイッチへとカーソルを走らせた。この労力を少しでもバイトに裂けば欲しいゲームもフィギュアも買えるのだが、生憎彼の頭脳では到底その域にはいかないようだ。
時がたつこと次の週。もはや読み上げることすらおぞましいその怪文書は、前書きやジャンルのおかげで閲覧数こそ倍以上になったものの、3ケタを超えることはなかった。
「魔法学園ものにシンデレラ感覚で成り上がるストーリーは受けないのかよ!?お前ら好きだろこういうの!・・・・・ああそっか。キモオタとガキの感性じゃ俺の作品には追い付けないってことか・・・」
そのキモオタとガキの感性でも面白いと思わせる内容を書く技術がプロには備わっているということだろう。だが彼は自分がそれすら持ち合わせていない無能だと気づくはずもなく・・・
「なら簡単だ!わかりやすいように解説を入れる描写を自然に盛り込める、推理小説を書こう!印税生活もあと一歩だな!さすが俺!天才!」
「まず、主人公は推理小説なら知らないものはない!マイナーなものまで読破している推理小説ファン。飛ばされた異世界で会った頭でっかちの変人インテリ魔法使いを助手に・・・・」
「異世界で魔法を使えないことを前提に出来るトリックを考え、助手の魔法への知識をわが物のように使って完璧な推理を・・・・・」
「まあ事件の内容なんて適当な推理小説を参考に、つじつま合わせに魔法つかっときゃ大丈夫でしょ。」
天才に関しての解釈として、最もなじみのあるものに「物事を簡単に考えられる人間」というものがあるが、簡単に考えられるということは決して「安易で地に足のつかない考え」というわけではない。「バカと天才は紙一重」という考えがもし、ここからきているのだとしたら彼は間違えなくバカ。現にこの安易な発想からは彼の幼稚性と将来性のなさがうかがえるとは思えないだろうか?
なので、それが反映された小説も・・・・・
「クソッ!あいつら!これだからバカは嫌いなんだ!確かにあのトリックは・・・・・・ぶつぶつ」
当然、この結果である。
「しかし何故だ?ここ一か月、一通りの人気ジャンルに手を伸ばしたはずだ。それが全くかすりもしないなんて・・・・俺の天才的な才能に売れ筋のジャンルを合わせればものすごい数の人気を博するにきまっているのに・・」
つまりこういうことだろう
彼の天才的な頭脳(0) × 売れ筋のジャンル(1~)
ゼロに何をかけてもゼロなのだ。
だから人気もゼロ。こういうことなのだろう。
これが彼の小説なのだ。と彼の母は語り、携帯を机に置く。
その画面には息子が書いたであろう小説が表示されていた。