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復讐  作者: 南y
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 9時をまわっていただろうか?婦人警官との電話を切ってから間もなくインターホンが鳴った。私は落ち着きなくドアを開けるとそこには今朝お世話になった婦人警官が箱を抱えて立っていた。


「こんばんは、はい、電話でお話したお菓子のおすそ分けよ。」


そう言うと婦人警官は私に箱を渡した。今朝は混乱して慌てていたために気づかなかったが、よく見ると私の母よりちょっと若いくらいの年齢の女性である。


「どうぞ、上がって。お茶を飲む時間くらいあるでしょ? 楽しみにしていたんだから。」


私は婦人警官を家に招き入れた。私は婦人警官を客間に通した後お茶を入れにキッチンへ行った。この箱にはいったい何が入っているのだろう? そう思いながら頂いた箱を開けてみた。するとお菓子の姿はなく箱の中身は空であった。空箱? どうしてあの人は私に空の箱を渡したのだろう? 別にお菓子なんか欲しくもないけれど、でも気味が悪い。私は震える手でお茶を入れて婦人警官の待つ客間へ行った。私は婦人警官の向かいのソファに座ると蚊の泣くような小さな声で尋ねた。


「あの……、何が起こっているのかよくわからないのですが……。」


そう言う私に婦人警官もとても小さな声で私にこう尋ねてきた。


「ディーロッジ小学校のことをどう思う? 私あそこの校長と同級生だったのよ。」


校長? そういえば校長にはまだ会っていない。あんな変な人を副校長にしているのだ、校長もろくな人ではないかもしれない。そう思ったが、この婦人警官のことも信頼できるかどうかわからない。やたらなことは言うべきではないとそう考え私は無難に答えた。


「まだ校長には会っていないのでわかりません。婦人警官さんは校長とは仲がよかったのですか?」


すると婦人警官は眉間にシワをよせて叫ぶようにこう言った。


「もし仲がよかったら……。もしあの女が普通の人間だったなら今私はあなたの目の前にいないわ。私はね、仕事柄様々な犯罪者を見てきたけど、あの女程卑怯で信頼できない人間を私は見たことがないわ。凶悪な殺人者達よりもね。」


殺人者よりも酷い人間? 私がどういうことなのか理解できずにいると、婦人警官は私の手を取ってこう言った。


「私を信じてほしいの。あなたは警察へ助けを求めてきたわ。あなたは何か危険を感じた訳でしょ?あなたのその嫌な予感は正しいのよ。」


婦人警官はとても真面目だった。そしてこう続けた。


「私はね、いろいろと監視されているの。様々なところで盗聴もされているわ。でもあなたの家が監視されているとは思わないから、お話するわね。そうそう、私と服も靴には盗聴器は付いていないから安心して。1度だけしか言わないからよく聞いてほしいの。それから、私の名前はクローイー、自己紹介してなかったものね。」


婦人警官はそういうと私の目をじっと見つめて語り出した。


 「あの女はね、私から大切なものをたくさん奪ったわ。私の友人、私の青春、私の未来、そして私自身も。あの女は普通じゃないわ。自分の気に入らない相手は自分自身の女性という武器を使って始末してきたわ。そう、たくさんの男達を利用して、自分の手を汚すことなく殺人を繰り返してきたわ。そして今ではディーロッジ小学校の校長という座を手に入れて悠々と暮らしているわ。そしてバカな男達を利用して嘘の噂をながして学校の評判をあげていったのよ。」


そう語る婦人警官に私は半ば呆れかけていた。あんなに勿体ぶっていたくせに、こんなこと? ただの校長に対する嫉妬じゃないの。殺人ですって? ただの嫉妬による妄想なんじゃないの? そもそも殺人なんてそう簡単に起こるものでもないでしょうに。それに、盗聴だの監視だの、もしかしたらこの人は少しおかしいのかもしれない。私は怖くなった。とにかく、刺激しないようにして話を合わせて適当に帰ってもらおうと思った。


「あの、話の内容が今ひとつわからないんです。もしよかったらもう少し詳しくお話していただけませんか? 」


とりあえず、この人に私が真面目に話を聞いていると信じてもらおう。もし本当にこの婦人警官の頭がおかしいのなら、 へんなことをするとあとから逆恨みをうけてしまうかもしれない。私は言葉を選びながら会話を続けた。


「あの、つまりあまりにも話が唐突過ぎてついていけないって言えばいいのかしら? ごめんなさいね、私の理解力が悪いのがいけないの。もう少し具体的に詳しく言っていただかないとわからないわ。」


そう言う私にクローイーは取り合えずは何も疑いを見せなかった。そして彼女も言葉を選びながら続けた。


「あんまり公にしたくないから詳しくは話せないけれど、私とあの女はね、学生の時に知り合ったの。その頃私にはとても仲良くしていた5人の友人がいてね、いつも一緒だったわ。そのうちの1人があの女にボロボロに傷つけられたあげく命を奪われたわ。 」


そう言うクローイーの顔は真っ青だった。彼女の顔色を見て私は全てが妄想だとは思わない方がいいかもしれないと思った。どれだけ本当のことを喋っているかはわからないが、実際に辛い思いでもあるのだろう。この時私はまだ自分の身に起こっていることが現実のものとは思えなかった。クローイーの話もなんだか全然現実味が無く、まるで作り話を聞いているかのようであった。のちにクローイーから彼女の学生時代の話を詳しく聞くことができるのだが、この時話してくれていたらよかったのにと今でも思う。そうすれば最初から彼女のことを信じることができたのに。詳しく話せないというクローイーにしつこく聞きただす訳にもいかず、私は彼女がどう話を続けるのかただひたすら大人しく待つしかなかった。やはりこれ以上は話したくなかったらしいが、クローイーは現在のそれぞれの様子を少し話してくれた。


「私はね、あの女を裁くために警察官になったのよ。そして、やはり同じ目的で1人が弁護士に、もう1人は医者になったわ。それから、今日私と一緒にディーロッジ小学校へ駆けつけた警察官も仲間よ。あの事件が起きてから私達みんなで誓ったわ、必ずあの女に復讐してやるってね。もともと私達はそれぞれに将来の夢を持っていたわ。でもね、夢なんて復讐のために諦めたのよ。それぞれが今の仕事につくことで、少しずつ情報や証拠を集めることにしたわ。残念ながら思っていたようにはいかなくてね、本業もみんな忙しいでしょ。今ではもう30年も経ってしまったからいろいろ難しいのだけれどもそれでも諦めてはいないわ。そして何年か前にあの女がディーロッジの校長をしていることがわかって私達はそろってこの街に引っ越してきたの。恐ろしいことに今ディーロッジを舞台に新たな犯罪をおかしている可能性がとても高いと思うのよ。あの学校はおかしいわ。気づいていない街民が多いけど、きみの悪い噂はいろいろ耳に入ってくるわ。それからね、最後の1人は陰ながら私達の連絡役をかってくれているの。いろいろとね、裏の世界っていうのかしら? 怪しげな事をしているから表だって行動を起こせないみたいなんだけどね。実は私はもう何年も会っていないのよ。」


ああ、クローイーの言っていた私の未来を奪ったとはう言うことだったのか。本当に将来の夢を諦めて復讐のために警察官になったというのなら、それも理解できた。それにしてもクローイーの話はどこまでが本当なのだろうか? そんな人間とはいいがたい女がそれなりの地位を得てのうのうと生きているというのだろうか? 全く現実味のない話ではないか。でも息子の通うあの学校がおかしいのはおそらく事実だ。私もそれは感じる。鍵をかけたうえで宗教の集会を行っているなんて……。宗教も星の数ほどあるが、鍵をかけて集会をおこなう宗教なんて異常ではないか。あの副校長やアームストロングようなくそ女達を学びの場におくような校長だ。たしかに信用はできない。かといってクローイーはどうだ? 見知らぬ私にこのような話をどうしてするのだろう? 私にどうしろというのだろう? いや……、考えてみれば最初に彼女に助けを求めたのは私だ。私が学校のことを警察に通報しなければ、クローイーに出会うこともなかったのだ。もしあの時私の心が正常だったら、もし私が冷静だったなら、学校に鍵が掛かっていたからといって警察へ連絡しただろうか? 私がクローイーと知り合うのは必然だったのだろうか? いや、私は何を考えているんだ? このような狂った世界になど巻き込まれたくない。すぐにこの町を出ていくべきだ。そうすれば何もかも忘れて元の生活へ戻ることができる。そうだ、このようなことに関わる必要などない。金輪際この人たちには会いたくない。やはり適当に話を濁して帰ってもらおう。そう思い私はクローイーに話しかけた。


「私、あなたの話が良く分かりません。クローイーさんはなぜ私にこのお話を聞かせたのですか?」


そう言うとクローイーは真面目な顔でこう答えた。


「あなたとあなたの息子さんが心配なのよ。あの女は肌に色がついている人たちを嫌っているから。あなたはともかくとしても、息子さんはまだ9歳よ。自分で自分を守れる年齢ではないでしょう?」


そう寂しそうに言うと長い沈黙が訪れた。今日は沈黙だらけで窒息してしまいそうだ。しばらくして彼女は目をつぶり深く呼吸をして話を続けた。


「 1年前にね、9歳の男の子が自殺したわ。きれいなコンガリとした肌をした子だったわ。あの子を私は死から救ってあげられなかった。危険だと解っていたのに守ってあげることができなかったのよ。私はおなじ過ちをしたくないの。あなたの息子さんを守りたいのよ。」


もしかしたら、もしかしたらリリーの話していた自殺したというリサのお友達のこと? じゃあ、あの話は本当だったというのだろうか? そしてこの婦人警官はけして頭がおかしいというわけではないのだろうか? 


「その子って南ヨーロッパの?」


私は震えながら聞いた。


「そうよ、5年生の教室の教壇の上で首をつっていたわ。」


そう答えながらクローイーの目からは大量の涙があふれていた。おぞましい話だ。だけど私は明日には息子を連れてこの町を出て行くのだからこんな話関係ない。こんなことに巻き込まれたくなどない

「なにがなんだかわからないわ。申し訳ないけど帰っていただけますか?」


もうこれ以上なにも聞きたくないし言いたくなかった。そう言う私に彼女はこう忠告した。


「いい? あなたの息子さんはもう巻き込まれているわ。なにがあっても学校へは行かせてはだめ。

いいわね? そしてできるだけ早く、そう明日にでもこの街から出て行くのよ。」


「言われなくてもこんなところ出ていくわ。」


私はクローイーに向ってそう言い放った。


「そう、それが一番いいわ。」


そう言い残してクローイーは去って行った。

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