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復讐  作者: 南y
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61 出陣

 「さあ、朝食にしましょうよ。クリス君は薄いミルクティーだったわね。リサは何を飲みたい?」


おばさんは僕がリクエストした薄いミルクティーを入れてくれながらリサに聞いた。


「私は濃いブラックがいいわ。」


リサはまだ少しヒックヒックとしながら答えた。


「濃いブラック? もしかしてリサ、僕に喧嘩売ってるの?」


僕が少しすねて言うとやっとリサは笑ってくれた。


「やだわ、クリスったら。私は朝には大抵濃いコーヒーを飲むのよ。目が覚めるでしょ。それにクリスはまだまだ私と張り合えるレベルじゃないもの、勝てるとわかっている喧嘩なんて売ったりしないわ。」


リサはそう言いながらテーブルに並んでいる料理を右から左へとすべてお皿に盛っていた。


「クリスも早く食べましょうよ。ママの朝食は世界一よ。」


リサがそう言うとおばさんはパッと顔を明るくして嬉しそうに言った。


「まあ、ありがとうリサ。あなたいつもママのお料理を褒めてくれるからついつい作りすぎちゃうのよね。さあ、クリスくんも気合入れて体力つけなくちゃね。」


僕はリサにならって右から左へとテーブルに並んでいるすべてのお料理をお皿に取っていった。そして小皿には3種類のマフィンも忘れなかった。



 朝食を食べ終わり学校へ行く支度をすませて僕達はおばさんの車に乗り込んだ。おばさんはとても運転が上手だった。まるで氷の上でも滑っているかのようになめらかで気持ちが良かった。そしておばさんの車はとても広くてシートもなんだかフワフワしていて心地が良かった。僕はお腹がいっぱいでその上時々緩く揺れるのが気持ちが良くておばさんの車の中で眠ってしまうかと思った。時折リサの方を見ると彼女はどうやらずっと窓の外を見ている様だった。きっと考え事をしているんだろう。あのお喋りのリサが黙っているので、おばさんも気を遣っているのか僕達に話しかけてこなかった。この静けさが僕の眠気をさらに誘った。僕はついに我慢できずに目をつぶると睡魔があっというまに僕に襲いかかった。


 「クリス、クリス、起きてよ。着いたわよ。」


僕が気持ちよく寝ているとリサが僕を揺さぶってきた。


「ああ、寝ちゃったんだね、僕。このまま寝てちゃダメ?」


僕はあまりの気持ちのよさに寝ぼけていたらしい。最初リサは優しく僕を揺すっていたのだけれども、僕がなかなか起きなかったのでなんと僕をくすぐり始めた。僕はくすぐられるのにはとても弱かった。


「ほら起きて! こちょこちょこちょ。」


リサは笑いながら僕をくすぐり続けた。運転席ではおばさんが笑いながらやめなさいとリサに言っていた。僕はついに降参して僕をくすぐるリサの手を掴んだ。


「やめてよ、起きるからさ。僕めちゃくちゃ弱いんだよ、くすぐられるの。」


僕がそう言うとリサはようやく僕をくすぐるのをやめて言った。


「面白かったわ。ねえ、知ってる? マックスもくすぐられるの弱いのよ。」


リサがいたずらいっぱいの目で僕を見ながら言った。そう言えばそうだった、マックスも病院で先生に触られて大笑いしてたっけ。リサと僕が車から降りるとおばさんも車から降りてきて僕達に言った。


「私はここまでにするわ。学校のまん前まで行くと渋滞でどうしようもないから。」


おばさんが車をとめたのは学校からほんの50メートルほど離れた曲がり角だった。あれ? でも保護者は教師のいる所まで子供についてないといけないんじゃ??? 僕が不思議に思っているとリサが言った。


「どうせアームストロングはママ達女性の保護者なんか見てやしないわ。男性の保護者に媚をうるのに忙しくてね。ママ、送ってくれてありがとう。クリスは私が保護者としてきちんと学校に届けるから心配しないでね。」


リサは冗談を言いながら笑っていたけれども、おばさんは心配そうに真剣な顔をしていた。


「いい? 気を付けて行ってらっしゃいね。危ないことはぜったいに禁止よ。いいわね。約束。」


リサと僕はしっかりとおばさんに頷いた。


「約束はきちんと守ります。昨日も今日も本当にありがとうございました。」


僕がそう言うとおばさんは僕の方をむかって言ってくれた。


「私こそありがとう。息子ができたみたいでとても楽しかったわ。これからはしょっちゅう会えるわね。それから、アームストロングにはくれぐれも気を付けるのよ。何かあったら保健室のエドワード先生の所へ行きなさい。力になってくれるわ。」


エドワード先生か、やっぱりあの先生には何かがあるんだ。


「はい、わかりました。じゃあ、行ってきます。」


「行ってくるわね、ママ」


リサと僕は学校へむかって歩き出した。僕達が振り返るとそこには手を振りつづけるおばさんが立っていた。


「君のママは本当にすてきだね。」


僕はリサに言った。


「ええ、だってこの私のママよ。素敵にきまっているじゃない。」


そう言うとリサは僕の手を握った。


「一緒よ。私を守ってね。」


そう言うとリサは僕の手をギュッと握ってから離した。僕はこれから何があってもリサを守らなくてはいけないと思った。もうすぐ学校の門だ。くぐり抜けたら戦いが始まるんだ。でも僕はもう一人ではない、仲間がいるのだから怖いことなんて何もないんだ。昨日まで下を向いて学校の門をくぐっていた僕だけれども、この日はしっかり顎を引いて前をむいてくぐりぬけた。

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