59 客間
映画が終わるともう10時を過ぎていた。
「さあ、そろそろお休みしましょうか、クリス君はシャワーは夜? それとも朝? それともお風呂がいいかしら?」
おばさんにそう言われて僕は急にまだ洗濯をしていなかったことを思い出した。
「洗濯! 僕すっかり忘れてたよ。洗濯しなくちゃいけない。」
僕がそう言うとおばさんが笑って言った。
「そんなの私がやっておくから大丈夫。大体ほとんど機械がやってくれるんだから気にしないでほしいわ。それよりもどうする? お風呂?」
そうは言われても僕は洗濯までおばさんにやってもらうのは本当に気が引けてしまった。
「でもね、おばさん。おばさんだって眠たいでしょ。僕おばさんとリサに甘えてばっかりで……。僕明日も同じ制服を着るから洗濯しなくても大丈夫だよ。」
本当は同じ制服を2日も続けて着るのは嫌だったけれども、でもとてもじゃないけれどもおばさんに申し訳なくて洗濯してくれとは言えなかったし、僕もこれから2時間も洗濯をするのは嫌だった。僕がそう言うとおばさんも諦めたらしく再びお風呂のことを聞いてきた。
「わかったわ。それでお風呂の方はどうする?」
僕は大抵朝にシャワーを浴びることのほうが多かった。もちろん公園で遊んだり、ボールゲームをした日には家に帰ってすぐにシャワーを浴びることにしていて、そうすると翌朝はシャワーをしなかったりと、結構その日の気分で決めていた。今日はお泊まりでベッドを借りるわけだから綺麗にしてから寝ようと僕は思った。
「これからシャワー浴びてもいいですか?」
僕がそう言うとおばさんはもちろんよと言ってくれた。シャワーを浴びて早く寝よう。僕はかなり眠くなっていたけれどもリサは僕よりももっと眠かったらしくボソボソと小さな声で言った。
「じゃあ、ママ、クリス、私自分の部屋へ行って寝るわ。又明日ね。おやすみなさい。」
リサは大きなあくびをしながらおばさんと僕に言った。僕はリサが部屋へ行ってしまわないうちに慌てて言った。
「今日は本当にありがとう。リサと友達になれて本当に嬉しいよ。おやすみ。」
僕がそう言うとリサは僕に微笑んでくれた。そしておばさんはリサのほっぺにキスして言った。
「おやすみ。良い夢をね。」
そしてリサが上の階に上がって行くとおばさんは僕に振り向いて優しく言った。
「さあ、客間へ案内するわ。」
おばさんは僕を1階の端っこにある部屋へ案内してくれた。大きなベッドと机とテレビまであってまるでホテルの部屋みたいだった。すてきで居心地のよさそうな部屋だな。
「バスルームは右のドアよ。ここにはシャワーしかないのよ。お風呂は本当にいいの?」
僕が頷くとおばさんはワードローブを開けた。
「それからタオルとバスローブはここ。寝間着はこれ、パパのでよかったら使って。そして歯ブラシと歯磨き粉は新しいのがバスルームの棚に入っているから使ってちょうだい。ほかに必要なものはある?」
僕は首を振った。
「なにからなにまでありがとうございます。」
僕がそう言うとおばさんは僕のほっぺにもキスをしてくれた。
「おやすみ、クリス君。良い夢をね。」
「おやすみなさい。おばさん。」
僕はおばさんが客間を出ていくと制服を脱いで椅子の上に掛け、タオルとバスローブを抱えてバスルームへ向かった。シャワーをあびながら僕は今日起こったことをいろいろと思い出していた。絶望でいっぱいだった朝、それなのにまだあれから一日もたっていないのに今の僕はとても幸せだった。なんでも乗り越えていけるような気がしていた。もうイジメられているだけじゃない、僕にはイジメに立ち向かう権利があるんだ。僕はもう弱音を吐かないことを自分に誓った。そしてシャワーを終えて歯を磨くと僕に突然睡魔が襲ってきた。今日もよく眠れそうだ。僕は寝間着に着替えるのも億劫でバスローブのままふかふかのベッドへ潜り込んだ。
 




