56 演技
「ちょっとね、ねえ2人共僕達が出会った時のこと、っていってもついさっきだけれども覚えてる? 僕さ、2人の事を偽者だって思ったでしょ? その1番の理由がさ、実はリサなんだよ。僕リサってものすごくおとなしい女の子だって思い込んでいたんだよ。」
僕がそう白状するとおばさんはクスクスと笑いだし、リサはちょっとムッとした様に僕を見た。僕はリサの機嫌が悪くなってしまったのかと思い慌てて繕った。
「だからさ、別に実際のリサがうるさいとかそんなんじゃないんだよ。あのね、」
僕の話が終わらないうちにおばさんが肩を揺らして笑い始めた。
「ああ、ごめんなさい。だって、もう可笑しくって可笑しくって。」
おばさんがそう言うとリサも笑い出して言った。
「どう? 私の演技はなかなかのものでしょ? 学校で見せていたのは演技よ。私は生まれつき跳ねっ返りなのよ。」
演技? 僕にはリサの言っている意味がよくわからなかった。そもそも僕は学校でのリサを全く知らない。僕が転入して来た時にはリサはすでに登校拒否をしていたのだから。そうだ、マックスとイージーがリサの事を教えてくれたんだ。たしかイージーがリサは転校してきてから又すぐに来なくなってしまったって言っていたかな? それでその理由があの自殺した子と関係があったような……。それで僕はリサが繊細だと思ったんだ。で、なぜか繊細という単語と静かという単語が勝手に結びついてしまったような??? 僕がマックスとイージーとの会話を思い出そうとしていると、どうやら僕の眉間にシワがよってしまったらしく、心配してくれたのかリサが言った。
「私ね、あの学校にはほとんど通っていないのよ。通ったのはたしかたったの2ヶ月くらいだったわ。学校に行くのをやめたのは……。きっともうわかっているわよね。私の友達が自殺したからよ。私はショックでしばらくの間放心状態だったんだけれども、我を取り戻してからこの事件が葬られていることに気がついたの。許せなかった。そしてあの子の両親も行方不明だってわかったわ。だからどうしてこんなことになったのか調べようと思ったのよ。学校には行かないで新聞や雑誌を隅々まで読んで事件の事を探したわ、もちろんインターネットでもね。でもどこにもないのよ。おかしいでしょ? 9歳の子が通っていた学校で、しかも教壇の真上で首を吊っていたのよ。それなのに誰も騒がないなんて。本当だったらニュースになっていて国中で取り上げられるような大変なことなのよ。それなのに……。もちろん一度学校に戻ってしばらくの間学校もいろいろと探ってみたわ。まあ、私が出来ることなんてたかが知れているけれどもね。その時に私が地でいってしまうとすぐに教師達に目を着けられそうだって思ったから弱々しい臆病な女の子のふりをしていたのよ。どうせあの学校の生徒ったらほとんどの子がぼっとしていてお互いにあんまり関心なさそうだし、きっと私のことも何の印象も残ってないんだろうと思ってね。それどころか私が存在していることすら関心なさそうだったし。だから目立たないように目立たないようにしていたわけ。教師達もなんだかみんなぼーっとして上の空状態って感じが多かったから私が学校を探っていたことは誰も疑がわなかったみたいだしね。でもあの子に関する事は何にも見つけられなかったわ。本当になんの痕跡もなくあの子の存在だけが無くなってしまったって感じだったの。その後又登校拒否に戻ったわ。」
リサがそんなことをしていたなんて僕は心底びっくりしてしまった。リサも学校がおかしいと思っているんだ。マックスとイージー、そしてエドワード先生も学校が変だと僕に言った。そういえば用務員のおじさんも同じようなことを言っていた。いったいあそこは何なんだろうか?
「そうだったんだ。でもマックスとイージーは地の君を知っているんでしょ?」
僕がそう言うとリサは口角を上げてニヤリとしながら言った。
「ええ、だって仲間ですもの。そしてあなたもね。」
僕はじっとリサを見つめた。おばさんも真面目な顔をしていた。僕はリサにまけないくらいニヤリとして答えた。
「そうだね、僕も仲間だよ。」
僕がそう言うとリサは緊張がとけたのかふわりと微笑んだ。ああ、やっぱりリサは美人だ。僕がそう思ったと同時にウェイターが僕達の夕食を運んできてくれた。




