53 裏庭
ポールさんが帰ってしまうとおばさんが改めてお茶を入れてくれた。ローズヒップというものから取ったお茶らしく、綺麗な赤い色のお茶でちょっと甘酸っぱかった。
「おばさん、ローズヒップってなあに?」
僕はこの暖かいジュースのようなお茶がとても気に入っておばさんに聞いてみた。
「ローズヒップっていうのはね、バラの花の果実のことよ。花が咲き終わった後にちょっと細長かったりまん丸かったりする赤い実になるのよ。見たことある? 今の季節にたくさん見ることができるわ、家の庭にもあるからあとで見に行きましょうよ。その実を乾燥させたものがローズヒップティーなのよ。今クリス君が飲んでいるのは私が作ったのよ。」
すごい! 本当におばさんってすごいんだな。
「おばさん、何でも作れるんだね。このお茶もとても美味しいよ。」
僕がそう言うとちょうどリサがキッチンへ入ってきた。
「あら、ローズヒップ? ママ、私にも入れて。」
そう言うとリサは僕のとなりに座った。
「ママのローズヒップはとても美味しいのよ。それにね、ビタミンCがたくさん入っていてお肌にもいいんですってよ。」
肌ね、僕には関係ないや。それにしてもリサの家は本当に居心地がよかった。こんなに素敵な家に住んでいるなんて僕はちょっぴりリサが羨ましくなった。でも、学校までは結構な距離だよな、どうしてリサはディーロッジを選んだんだろう? 僕は少し気になってリサに聞いてみることにした。
「ねえ、僕は学校から歩いてほんの2~3分のところに住んでいるんだ。でもリサの家からだと学校まで随分かかるんじゃない? どうしてあの学校を選んだの?」
僕がそう聞くとリサは肩をすくめて言った。
「だってあの学校、どういうわけか政府の調査ランクいいじゃない。私が評価するとしたら最低最悪だけどね。パパはブランド思考なところがあるから、私にいいと思ってくれたんじゃないかしら?」
そう言うとリサはおばさんの入れてくれたお茶を1口飲んだ。僕は今ひとつ納得できなかったので、もう少し掘り下げて聞いてみることにした。
「私立は? リサの家位お金持ちだったら何も公立を選ぶことないのに。そうすればアームストロングみたいな奴に出会うこともなかったのにさ。」
僕がアームストロングの名前を出したとたんにリサは眉間をコイル巻にして僕に言った。
「私立なんて嫌よ。実はね、昔は私立に通っていたんだけれど、意地の悪い女と情けない男の子しかいなかったわ。まあ、たまたま私の運が悪かっただけだと思うけれどね。それに公立に移ってから思ったんだけれどね、勉強量が全く違うのよ。これもたまたまかな?」
へえー、勉強量ね、当然私立のほうが大変って事だよな? でもこれだってきっと偶然じゃないかなと僕は思った。
「うん、たまたまだと思うよ。だって僕が昔通っていた都会の学校はディーロッジよりも数段レベルが高かったもの。そこも公立だったけれど、僕が3年生の時に習った事をこの前アームストロングから習ったよ。ホーワードはこの学校の成績はずば抜けて良いみたいな事を言っていたけれどさ、とんでもないよ。」
僕がちょっと興奮気味にそう言うとリサも大きく頷いて賛成してくれた。
「そうそう、そんなこと言ってたわ。あのアホ副校長。」
アホ副校長か、リサも結構言うな。僕がちょっとびっくりしているとおばさんがリサを睨んで注意した。
「リサ、言葉に気を付けなさい。」
全く、折角美人なのにリサは口が悪いな、変な言葉を使う度にリサはおばさんから怒られているんだけれど、ちっとも直す気などはなさそうだ。
「そう言えば、ホーワードはディーロッジがとても人気があって本来なら途中で編入なんて不可能なんてほざいてたわ。しかも何度も何度も。」
リサはおばさんの事を無視して続けた。
「そう、それ僕も言われたよ。それもみごとな嘘だね。」
僕とリサは学校の悪口でかなり盛り上がっていた。おばさんはそんな僕達を心配したのだろうか、僕達の話を邪魔するかのように僕に言ってきた。
「ねえ、クリス君。もしあなたさえ良かったらあなたのママの所へお見舞いに行きたいんだけれどもいいかしら? 私一目でもいいからあなたのママの顔を見たいのよ。連絡が取れなくなってしまってからずっと心配だったのですもの、たとえ意識がなくたって顔を見ればきっと安心できるから。」
おばさんは本当に優しい。僕はもちろん喜んで答えた。
「うん、ありがとう、おばさん。ママだってお友達のおばさんがお見舞いに来てくれたら絶対に喜ぶよ。たとえまだ目が覚めていなくてもね。」
僕がそうおばさんに言うとリサが良い考えが浮かんだらしく、両手をポンと叩いて僕達に言った。
「ねえ、ママ。今朝庭のバラがとても綺麗に咲いていたわ。クリスのママに持っていきましょうよ。」
どうやらおばさんもリサの考えに賛成らしく、僕とリサに言った。
「そうね、それはとってもいいアイデアだわ。それからクリス君にさっきローズヒップを見せるって言ったわね。よかったら一緒に庭にいかない?」
僕は喜んでおばさんの誘いを受けた。
「じゃあ庭に行ってくるから、リサはキッチンを片付けておいてくれるかしら?」
おばさんがそう言うとリサはテーブルのカップをお盆に乗せ始めた。僕とおばさんはキッチンについているドアから裏庭へ出た。裏庭は思った通りとても広く、バラのアーチまであった。まるで雑誌にでものっていそうな本格的で美しい庭だった。
「すごい、すごい綺麗だね。」
僕が興奮してそう言うとおばさんはとても嬉しそうだった。
「ありがとう。私もリサも花が好きなのよ。でも、これはほとんどが庭師さんが手入れをしてくれているのだけれどもね。あら、ほらこれ見て、これがローズヒップよ。」
そう言うとおばさんは枝の先っぽにちょこんとくっついている可愛らしく膨らんだ赤い物を指さした。へえ、これがお茶になるんだ。おもしろいな。そしておばさんは幾つかのバラの花と蕾を切ってバスケットへ入れていた。バスケットがわりといっぱいになるとおばさんは僕に聞いた。
「さあ、これでいいわ。せっかくだからちょっとアレンジして持っていきましょうね。クリス君はリサのところへ戻っている? それとももう少し庭でお散歩でもしている?」
僕はもう少し庭を見てまわりたいような気もしたけれども、リサの片付けの手伝いでもしようかとキッチンへ戻ることにした。
「中に入ってます。」
僕がそう言うとおばさんはバスケットを持ち上げながら僕に言った。
「そうね、20分位したら私も中に戻るわ。そうしたら3人でお見舞いに行きましょうね。」
そしておばさんは庭にある小さな小さな小屋へ入って行った。どうやらそこはおばさんのお花のアトリエらしい。僕がキッチンへ戻るとリサはちょうど片付けが終わったところだった。僕達がとくにたあいのない話をしているとおばさんはバラをとても美しくアレンジして持ってきてくれた。しかも2つも! どうやら1つはママへ、もう1つはマックスへのお見舞いらしい。僕は素敵なアレンジをみてちょっと興奮して言った。
「わあ、素敵だね、これだったら花瓶もいらないね。そうだ、花言葉って知っている?」
僕はおじさんとマックスから仕入れた知識をリサとおばさんに自慢げに披露した。




