52 書類
楽しいお茶の時間が終わり、僕とポールさんは書斎を借りて2人だけで話をする事にした。僕とポールさんは向かい合って座るとポールさんは僕に許可を取ってから会話を録音し始めた。僕は何だかとても緊張してしまい頭の中が真っ白になってしまっていた。するとそんな僕の緊張をほぐすためにポールさんは僕に楽しそうな声で言ってくれた。
「なあ、クリス君。さっき遠慮もなしにがっついてパイを4切れも食べた男に緊張なんてする必要ないよ。それにここだけの話だけど……。」
そう言ってポールさんは僕に顔を近づけると小さい声で囁いた。
「本当はアイスクリームももっと食べたかったんだよ。」
あんなに食べておいてもっと食べたかっただって? 僕はびっくりして口をアングリと開けたまま呆然としてしまった。そしてポールさんが笑い出すと僕もつられて笑い出した。
「どうだい? 少しは緊張がほぐれたかな? でもさ、ほんとリリーのお菓子は世界一だよな。」
そう言いながらポールさんはまたお腹をぐるぐるとさすり始めた。僕の緊張はすっかりと飛んで行ってしまったようだった。僕は緊張がほくれたおかげでポールさんの質問にも事細かく答えることができた。ポールさんは録音しながらもメモもたくさん取っていた。そして僕自身もリサにもらったノートにいろいろと書いていった。作業は永遠と続かのようだった。しばらくすると書斎のドアがノックされ、ポールさんがどうぞと言うとそこにいたのはおばさんだった。
「どう? はかどっているかしら? とても長いこと書斎にこもっているのでちょっと様子を見に来たのよ。あのね、もしも時間がかかりそうなら学校に連絡しないといけないと思って。そうしないとクリス君のお父様学校までむかえに来てしまわれるでしょ? 」
ああ、もうそんな時間なんだ。僕が時計を見るともう2時少し前だった。ディーロッジは2時45分に学校が終わる。どうしよう……。僕が悩んでいるとポールさんが僕に聞いてきた。
「今、勢いがついているからできたらやってしまいたいな。時間が経てば経つほど記憶が薄れていくしね。もしクリス君がよければ僕はこのまま続けたいんだけれども、どうだい?」
僕もその方がいいと思い頷いた。
「うん、そうだね。」
するとおばさんはにっこりと笑って僕に言った。
「わかったわ。じゃあ学校には私が夕方にクリス君を自宅まで送るって言うわね。それから、あなた達お腹すいているんじゃないの? お昼食べてないでしょ? ちょっと軽いものを持ってくるから少し休憩もしてね。」
そう言うとおばさんは僕のために学校へ連絡してくれた。この書斎にも電話があったのでどうやらここから連絡するようだった。学校側は僕のパパへ連絡してくれるそうだが、おばさんが念のためにパパの連絡先を教えてほしいと言ったら拒否されたらしく、おばさんは僕に受話器を渡しながら言った。
「あのね、一応あなたのお父様の連絡先を控えておこうと思ったのだけれども、当然ながら学校側からは教えられないって断られちゃったの。でも息子のあなたになら教えてくれるそうなの。念のために聞いておいてくれないかしら?」
僕は頷いて受話器にむかって話始めた。
「もしもし、クリスです。はい、お願いします。」
電話のむこうの学校の受付のおばさんが言ってくれている番号を僕はノートの隅に書き、お礼を言って電話を切った。そして番号の書かれた紙を破りおばさんへ渡した。
「ありがとう、クリスくん。私が持っていてもいいの? 私のアドレス帳に記入してもいいかしら?」
僕は頷いた。
「もちろんだよ、おばさん。パパの電話番号なんて役に立つかどうかわからないけれどね。」
僕がそう言うとおばさんはにっこりと笑いながら紙切れをエプロンのポケットへ入れた。
「じゃあ、軽食を持ってくるわね。」
そう言っておばさんは書斎から出て行った。こうして僕とポールさんはおばさんの持ってきてくれた卵とハムとサラダのサンドウィッチとジュースを頂きながら数時間に渡り書斎に篭もって書類を作ったのだった。書類を作り終わるとポールさんはすべての書類および僕の腕のあざの写真を2部づつコピーをとった。そして封をしてから僕に1部、おばさんに1部、そしてポールさんは原本および僕のノートのコピーを保管することになった。そしてポールさんは僕によくがんばったと褒めてくれた。
「こんなに長い時間、本当によくがんばったねクリス君。その封筒は開けてはいけないよ。もしこれから又学校で何かあったらきちんとノートに書くんだ。細かければ細かいほどいい。そしていつでも僕に連絡してほしい。リリーを通してでもいいし、直接でもいい。電話番号は君のノートに書いておいたよ。僕も警察内部からいろいろさぐってみるよ。あの学校はどうもおかしいんだ。」
僕はポールさんにたくさんのお礼を言ってこの日は別れたのだった。




