51 偶然
「やあ、リリー、しばらくじゃないか。同じ町に住んでいながらなかなか会えないもんだよな。」
ポールさんはキッチンに入ってくるなり大きな声でそうおばさんに話しかけると、おばさんと抱き合って挨拶した。おばさんもとても懐かしそうにポールさんに話しかけた。
「あなたが忙しすぎるのよ。それより、こちらが先ほど電話で話したクリスくんよ。クリスくん、こちらが私達の友人かつ警察官のポールよ。」
ポールさんと僕の目があうと僕もポールさんもとてもびっくりして同時に言った。
「あなたは!」
「いや、君は!」
唖然としている僕達におばさんが聞いてきた。
「あら? 顔見知り?」
僕とポールさんは同時におばさんの方を見て頷いた。そして僕がそっとポールさんを見るとそれにポールさんも気がついて僕の方をみて聞いてきた。
「ああ、でも僕には守秘義務と言ってね、通報されたことを外部に漏らすことはできないんだよ。もしよかったらクリス君の方からみんなに説明してくれるかな?」
へえ、守秘義務か。本で読んだことあるな、たしか仕事の内容とかを他の人へ話してはいけないってことだよな。そうだよな、警察官がペラペラと喋ったら大変な事になるもんな。僕はそう思いポールさんの代わりに話し始めた。
「はい。しばらく前、1週間くらい前だったかな? 確か僕がディーロッジへ通い始めた日だったと思うんだけれども、ママが僕を心配して学校に来てくれたらしいんだ。そしたら学校中の全ての鍵がかかっていて中に入れなかったんだって。それだけじゃなくていくら学校に電話をしても連絡がつかなかったらしくてママは警察に通報したんだよ。その時にお世話になったのがここにいるポールさんだったってわけ。」
僕はあの日にママから聞いた事を話した。僕がここまで言うとポールさんが頷いて言った。
「まあ、そんなところだよ。」
するとおばさんが僕の知らなかった事を教えてくれた。
「それ、もしかしたらあなたのママと私がお話した後に起こったのかもしれないわ。私とリサは学年初めの日には学校に行ったのよ、ちょっと様子を見にね。そこであなたのママと出会っていろいろとお話したのよ。あなたのママを怖がらせるつもりはなかったのだけれども、あんまりよい話ではなかったのであなたのママはあなたの事がとても心配になってしまったようだったわ。」
そうだったんだ。あの日からママの様子が変になっていったのはリサとおばさんと話をしたからだったんだ。きっと学校に関する事なんだろうな、後で詳しく聞かなくちゃ。僕があの日の事を考えていると今度はポールさんが僕に話しかけてきた。
「あの時は本当に事務的な事しか君とは話をしなかったけれども、もしよかったらきちんと君と話をしたいんだ。きっと、いや、絶対に力になれると思うよ。リリーが電話で話してくれたんだけれども君は教師にあざをつけられたんだそうだね。生徒にあざをつけるなんてとんでもない事だよ。教育の場に暴力教師がいるなんて許せないからね、絶対にあってはならないことなんだ。」
ポールさんは冷静にそう言ったけれど、内心はかなり頭にきていたらしく彼の握った拳が震えていたのが僕には見えた。おばさんにもポールさんの気持ちがわかったらしく、とても明るい声で僕達みんなの顔を見ながら言った。
「さあ、紅茶とパイが冷めてしまうわ。お茶を飲みながらもう少しリラックスしてお話しましょうよ。緊張していると言いたいことの半分も口から出てこないものだと思うわ。」
そしてポールさんもおばさんの優しい気持ちがわかったのだろう、笑顔に戻ってお腹をさすりながら言った。
「そうだね、本当の事を言うと玄関に入った時からこの匂いが気になっててね、リリーのパイは最高に美味しいからな。」
僕達はみんなで笑った。リサやポールさんの言う通り、おばさんのりんごのパイは僕が今までに食べたパイの中で1番美味しかった。正直、ママのパイよりも美味しかった。びっくりしたことに、なんとアイスクリームもおばさんのお手製だそうだ。僕はいつかこのりんごのパイをママに焼いてあげてびっくりさせてあげる事がとても楽しみになった。僕達はお茶の時間には嫌な話は一切せずに楽しく笑ってすごした。そして僕は2切れのパイを、そして何とおじさんは4切れのパイ、つまり半分のパイを食べていた。リサはパイよりもアイスクリームの方が好きらしく、最後にはアイスクリームの容器を自分の席の前に置いてほぼ独り占め状態で食べていた。そんな僕達を見ながらおばさんはとても嬉しそうに微笑んでいた。




