48 愛犬
「さあ、ここが私達の家よ。」
そう言うとおばさんは頑丈そうな鉄の門を開けて僕を招き入れてくれた。リサの家は町からかなり離れたとても静かな所にあった。学校からもかなりの距離があり、もしかしたら学区外なんじゃないのだろうかと僕は思った。この町はとてつもない金持ちと貧乏人が混じって生活していることで有名な所だって聞いたことがあるけれど、どうやらリサは前者に属するみたいだ。ちなみに僕は後者だな。リサの家にはとても大きくて立派な前庭があってここだけでも僕の家より大きいみたいだ。僕達が門をくぐるとどこからか2匹の可愛らしい犬が出てきて、短いしっぽを振りながらリサの周りを飛び跳ね始めた。1匹は茶色地に白いお腹でなんとなく優しそうな顔をしていて、もう1匹は真っ黒でちょっと怖い顔をしていた。
「ただいま、ルルとキキ。いい子にしていた?」
そう言うとリサは犬達とじゃれ始めながら僕の方を見て聞いてきた。
「かわいいでしょ? この子たちは遊ぶのが大好きなのよ。ちょっと怖い顔をしているけれども人懐っこいし、それにきちんと躾けられているから大丈夫よ。クリスは犬好き?」
僕は犬はもちろん全ての動物が大好きだった。小さい頃はよく動物園へ連れて行って欲しいってママにおねだりしていたっけ。ママと僕は動物園の年間パスを持っていたくらいだ。
「うん、大好きだよ。さわってもいい?」
そう言いながら僕はそっと茶色い方の犬の頭を撫でた。毛がとても短くて太いので、ちょっとじょりっとしたさわり心地だった。するとその犬は僕の足を前足でトントンと叩いてきたので僕がしゃがむと嬉しそうに僕の足に身体をすり寄せてきた。なんて可愛いんだ、気がつくと僕はその子と転がるようにじゃれあい始めていた。
「その子はルル、女の子よ。」
へえ、と言う事はリサとじゃれあっているのがキキか。
「キキは? 男の子? それとも女の子?」
僕はルルと芝生の上を転がりながら聞いた。
「キキは男の子よ。ルルの息子なのよ。」
リサはキキと追いかけっこをしながらも僕に答えてくれた。僕達が犬と遊んでいるとおばさんが笑いながら言った。
「ルルったらクリス君が気に入ったのね。私はお茶の支度をしたいから家の中にに入るわね。2人とも家の中に入ってくる時は服をきちんと叩いてから来てね。」
そう言うとおばさんは家のへ入って行った。しばらくして僕とリサは玄関の前にある階段に座った。犬達の体力には到底かなわない。ルルとキキは少し離れた芝生の上で楽しそうに転がっていた。
「それにしてもすごい家だね、リサってお金持ちなんだね。」
ここでサッカーができるんじゃないか? 僕は前庭を見渡しながら言った。するとリサはあまり興味なさそうに僕に言った。
「パパがね、会社を経営していて割と上手くいっているみたいなの。でもパパはとても忙しくてたまにしかこの家に戻って来ないわ。だから本当はこんなに大きな家なんかじゃなくていいのに、がらんとしている分私は寂しいわ。さあ、中に入りましょうか。ママが待っているわ。」
そう言うとリサは立ち上がり背伸びをしながらルルとキキに言った。
「お前達には後でおやつを持ってくるからいい子にしていなさいね。」
僕はルルとキキは特別に大きな犬ではないので 一緒に家の中に入ってくるのだとばかり思っていた。
「いつも外にいるの?」
僕が聞くとリサは着ていた服の砂を叩きながら言った。
「だって番犬だもの、家の中にいたら役に立たないでしょ。」
番犬? 確かに大きな家だから必要なのかな? 僕の家はたいした大きさではないけれども、それでも家に防犯装置と防犯カメラが付いている。この国では普通の事だ。それで十分なんじゃないのかな? それにあんなに仲が良いから僕はてっきりペットだと思っていた。それに初対面の僕ともあんなに無邪気に遊んでたじゃないか、あんなに人懐っこくて番犬なんかつとまるのかな? 僕は不思議に思って聞いてみた。
「ペットじゃなくて?」
僕がそう言うとリサは笑いながら言った。
「番犬だろうとペットだろうとそんなの関係ないわ。あの子達は私の可愛いお友達よ。たまたまパパに番犬のお仕事を頼まれているだけ。それにパパが言っていたけれども、動物たちは家の中にいるより外で走り回っていた方が幸せだって。でも、あの子達は寒さに弱いから冬の寒い日なんかは家の中に入れてあげるんだけれどね。」
なるほどね。僕もペットが欲しいけれども、ママが家が小さいから動物がかわいそうでしょって言ってたもんな。ママの言い訳だとばっかり思っていたけれども、もしかしたらママは本気で言っていたのかな? 僕はもっとルルとキキのことを聞いた。
「へえ、犬にもいろいろとあるんだね。あの子達はなんていう種類なの?」
ルルとキキは何と言えばいいんだろう、ちょっとブサ可愛いといえばいいのだろうか? 美人ではないのだけれども、とても愛らしくてもしも僕が犬を飼うのならあの子達のような犬がいいなと思った。
「スタッフォードシャー・ブル・テリアって言うのよ。もともとは闘犬だったんですて。だから番犬にはぴったりだからってパパが見つけてきたのよ。あら、クリス背中が芝生だらけだわ。」
そう言うとリサは僕の背中から芝生をはらってくれた。やさしいな、リサは。するとリサは突然僕が思ってもいなかったことをいいだした。
「なんだか弟でもできたみたいだわ。」
そういうとリサは僕を見て笑った。
「おとうとお? なんで僕が年下になるの? リサの誕生日っていつ?」
弟だなんて、なんだかなー。僕はちょっとばっかりふくれてしまっていた。




