44 邂逅
僕はこの町に引っ越して来たその日にママと一緒に観光案内所に行ったことを思い出した。そうだ、あそこにいけば警察署の場所を教えてもらえる。僕は観光案内所のある中心街へ足をむけた。この時の僕の頭の中は学校の奴等に捕まらずに警察まで行けるかどうかという心配が半分、アームストロングとさよならできるかもしれないという希望が半分という何とも言えない不安定な気持ちだった。しばらく歩いていると突然女の人と僕くらいの年の女の子が僕に声をかけてきた。僕はこんな人達なんか知らない。なんだってこんな小さな子が学校にも行かずに町をふらついているんだ? こいつら学校の奴等の仲間かもしれない。まさか僕を捕まえに来たんじゃ? 僕は緊張して身構えた。女性だって構うものか、自分の身を守るためならばこいつらだって倒してやる。僕は本気でそう思っていた。するとその女の人はちょっと緊張気味に僕に話しかけてきた。
「もし違ったらごめんなさいね。あなた、クリス君じゃないの?」
僕の事を知っているなんてやっぱり学校の奴だ。捕まったらまたアームストロングに何をされるかわからない。僕は警察署に行くまで誰にも邪魔をされたくなかった。折角アームストロングを葬る僕のチャンスを奪われるわけにないかないんだ。僕はこのおばさんを蹴り飛ばそうと足を上げると驚いたことに側にいた女の子に僕の足を捕まれてしまった。やられてたまるか! 僕はあせっていたこともあって何も考えずにその女の子を殴ろうとした。するとおばさんが慌てて僕に言った。
「待って、落ち着いて。私はあなたのママのお友達よ。ママにあなたのことを頼まれているのよ。」
なんだって? ママの友達? いったいどうなっているんだ? あまりにも意外なその言葉に僕は唖然として殴ろうと思っていた拳が緩んでしまった。
「おばさんがママの友達? ママはこの町に来てからすぐに倒れてしまって友達なんか作る暇なんてなかったはずだ、嘘をついたって無駄だよ。どうせおばさん達アームストロングの仲間なんだろう?」
僕がそう言うと今度は女の子の方が僕に言ってきた。
「やっぱり思った通りね。アームストロングがあなたをほおっておくはずがないと思っていたのよ。大丈夫、ママと私はあなたの見方よ。私の名前はリサ、イージーかマックスから聞いたことがないかしら?」
そう言うとリサと名乗ったその子は僕に右手を差し出してきた。なんだ? 握手でもするふりをして僕を倒そうって言うのか? だいたい子供同士で握手なんてするもんかよ、気持ち悪い。その手にのるもんか、僕は手を差し出すことなく言った。
「何? その手はなんのつもり?」
僕がそう聞くとその女の子はクスリと笑った。
「握手よ。ね、握手の意味知っているでしょ? 右手、つまりほとんどの人の利き手で握手することは私の右手は見ての通り武器を持っていませんから安心してくださいって事なのよ。私にはあなたと戦う意志などこれっぽっちもないってこと。」
何だか変な事をいう女の子だな、何と言われようと僕は僕の右手を差し出すつもりなどなかった。
「僕は君と握手なんかしたくないよ。それにたしかに僕はイージーとマックスからリサという子の話を聞いたことがあるけれど、リサは君みたいな子じゃないよ。彼女は学校に来ることができないくらい繊細で、とても弱々しそうな子なんだ。嘘なんかつくなよ。」
僕はなぜかリサはとてつもなくおとなしい女の子と勝手に決めつけていた。その女の子は肩をすくめると僕に握手を求めていた手を下ろした。すると横からおばさんが僕に言ってきた。
「クリス君。あなたの身にもいろいろとあったみたいだから、突然目の前に現れた私達を信じろって言う方が難しいでしょうね。でもこれを見てほしいの。」
そう言うとおばさんは何か手紙のようなものを鞄から取り出して僕に渡した。そこにはママの字でクリスへと書いてあった。僕は驚いて2人の顔を見た。2人とも穏やかな顔をして僕を見ていた。僕は震える手でこの手紙を開くとそこには懐かしいママの字が埋め尽くされていた。




