43 証拠
とりあえず教室へ戻ろう。僕は保健室を出てから教室へむかってとぼとぼと歩き出した。授業中だというのに廊下は静まりかえっていた。教室から誰の声も漏れてこない、教師の声も生徒の声もだ。本当に不気味な学校だ。アームストロングの不気味さも相当のものだったけれども、この学校自体本当に気持ちが悪かった。先程のエドワード先生とイージーの会話が僕の頭をよぎっていった。イージーは学校が許せないと言っていた。保健室にいた時は思いつかなかったけれども、それはきっとあの自殺した子となにか関係があるのだろう。イージーはまだまだ僕の知らないことをいっぱい知っているんだ。そしてそれにエドワード先生も絡んでいて、おそらくマックスも僕に教えてくれていない秘密を持っている。一体この学校はなんなのだろうか? いろいろと考えているうちに僕は身震いがした。いや、正気にもどったとでもいえばいいのだろう。どうして僕は教室へ戻ろうなんて考えていたんだろう? 放課後まで校長室か用務員室に行こう。そうだ、どうして今までおじさんのことが頭に浮かばなかったのだろう。僕は教室と反対側にある用務員室へ行こうと振り返った。でもイージーは? 僕のことを助けてくれたイージーはどうしよう。エドワード先生はもしかしたらアームストロングがイージーの事も目につけているかもしれないと言っていた。僕がどうしようかとまよっていると急に誰かが僕の腕を掴んだ。嫌な予感がした。僕が振り向くとそこにはあの醜い顔があった。またアームストロングだ。
「離せよ、痛いじゃないか。」
僕は誰かに聞こえるように大声で叫んだ。そんな僕にアームストロングはニヤニヤしながら僕にその醜い面を近づけて囁いた。臭い息が僕の顔にかかった。
「お前バカだな、授業中にフラフラしている生徒を教師が保護して何が問題なんだ。分の悪いのはお前のほうだ。」
そう言うとアームストロングは今度は大きな声で言い出した。
「さあ、クリス。今回は大目にみてあげます。いくら私の授業があなたには難しいからって授業をさぼって教室から出るなんて今度は許しませんよ。」
そう言うとアームストロングは僕の腕をおもいっきりつねった。僕は反射的にアームストロングを突き飛ばしていた。アームストロングはうおっうおっうおっという声を出しながらバランスを失って床に倒れた。この豚はものすごくお腹が大きいのに手足がとても短かった。アームストロングはまるでゴキブリがひっくり返って足をバタバタさせているかのように起き上がれずにもがき続けていた。今のうちだ、僕は夢中で走り出した。走って走って走りまくった。僕は自分がどこをどう走っていたのかわからなかったけれど、気が付くと学校の外へ出ていた。しかも後ろを振り向いても誰も追いかけては来なかった。アームストロングにつねられた腕が痛かった。僕がふとその腕を見ると丁度つねられたところが紫色のあざになっていた。これはアームストロングの暴力の証拠になるのではないか? そうだ。警察へ行こう。警察へ行ってこのあざの上の指紋をとってもらおう。そうすればアームストロングなんか首になる。僕はもう一度後ろを振り返った。まだ誰も来ない。ここで学校の奴等に捕まったらせっかくの思いつきも無駄になってしまう、急がなくては……。でも、警察署ってどこにあるんだろう?




