33 信念
学校へ到着しすると僕はアームストロングに引きずられて車から降ろされた。僕は立っていることすらできずにそのまま駐車場へ座り込んでしまった。動こうとしない、というか動けなかった僕にイラついたのだろう、アームストロングは僕を蹴り上げた。そして忌々しそうに僕の髪の毛を掴むと思いっきり引っ張って僕を無理やり立たせた。
「いちいち面倒をかけるんじゃないよ。しっかりと歩くんだ。」
アームストロングは再び僕の腕を引っ張った。もう何回この豚にこの腕を引っ張られたんだろう。僕はアームストロングから逃げることができたら腕を切断しようとさえ思った。こうして無理やり引っ張られながら僕は校舎へ入った。すると保健室の先生であるエドワード先生がドアのすぐ横にある掲示板に新しいポスターを貼っていた。エドワード先生は僕とアームストロングを見ると元気そうに声をかけてきた。
「おはようございます。アームストロング先生、今日はお早いんですね。クリスもおはよう。どうしてあなたがアームストロング先生と一緒にいるの? それにしてもあなた顔色が悪いわね、熱があるんじゃないかしら?」
そう言うとエドワード先生はそっと僕の額に触れた。僕はココアの一件があってからエドワード先生のことは警戒していた。そんな僕をよそにエドワード先生は僕とアームストロングの顔を交互に見ながら言った。
「ちょっと診察したいから保健室へ来てくれる? いいかしらアームストロング先生? まだホームルームまで時間があるから大丈夫でしょ?」
アームストロングはエドワード先生をすごい目で睨みつけていた。しかしエドワード先生はそんなことはお構いなしといった様子で続けた。
「あら、アームストロング先生の今日のスカーフすてきですね。赤が本当に良く似合っていますね。」
エドワード先生はアームストロングにむかってにっこりとしながらおべっかを使い始めた。何を考えているんだ? するとアームストロングは急にご機嫌になりで得意気に言った。
「あら、そうお? これ高かったのよ。でもほら、私に似合うからつい。」
私に似合うだって? お前に似合う服なんてあるもんか。僕がそう思いながらアームストロングの方をみるとアームストロングは気持ちの悪い声で僕に言った。
「ほらクリス、折角エドワード先生が診察してくださるって言っているのだから行ってらっしゃい。そんな薄着で靴も履かずにふらふらしたりするから風邪をひくのよ。」
そう言うとアームストロングは再度エドワード先生の方を向いて得意そうに言った。
「私がね、今朝保護したんですよ。この子ったら家を飛び出したみたいで。」
そう言った後アームストロングはついに僕の腕を離した。するとエドワード先生が大げさな声で僕に言った。
「まあ、クリス、そういえば制服は? まったくアームストロング先生が見つけてくださったからよかったもののいったいどうしたのよ。とにかく保健室へ行きましょう。それではアームストロング先生、この子をお預かりいたしますわ。」
そう言うとエドワード先生は僕の腕を取って引っ張った。アームストロングも嫌だけれども僕はエドワード先生と2人きりになるのはもっと嫌だった。マックスと僕に毒を盛ったのはこいつかもしれない。マックスはまだ病院だ。アームストロングの陰湿なイジメも耐えられなかったが、エドワード先生がマックスと僕にしたことはもっと恐ろしい。僕は絶対に保健室には行きたくなかった。
「僕は大丈夫です。アームストロング先生と一緒に教室へ行きます。」
そう言って僕はエドワード先生の腕をはらった。それなのにエドワード先生は優しい目で僕を見つめながら優しい声でゆっくりと僕に言った。
「クリス、あなたのことが心配なのよ。私を信じて診察させてちょうだい。」
そう言ったエドワード先生の目はとても綺麗だった。僕はママがいつもいつも言っていることを思い出した。ママは僕が小さい頃から目の綺麗な人を信用しなさいと僕に教えてくれていた。僕はアームストロングの目を見た。腐ったうんこの様な汚い目だ、見るのすらおぞましい。僕はもう一度エドワード先生の目を見つめた。エドワード先生の目は清らかな水のような美しさだ。僕はママの信念に賭けてみることにした。
「わかりました。僕エドワード先生と一緒に行きます。」
エドワード先生の目を見ているうちに僕の口から自然とこの言葉が出てきたのだった。




