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復讐  作者: 南y
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31 命令

 魔の月曜日の朝、僕は学校へ行きたくなかったけれどもどうすることもできなかった。楽しかった昨日の後だからこそ尚更つらい学校なんか行きたくなかったのだ。わざと熱を出そうと思って前の日の夜に窓を開けっ放しで寝てみたし、お腹を壊そうと思って大量のミルクを飲んでみたりしたけれど風邪のひとつもひかずお腹もなんともなかった。僕は学校をさぼる口実を何も考えつかなかったのでとりあえずシャワーを浴びることにした。シャワーを浴びて頭がすっきりしたら何か名案が浮かぶかもしれないから……。しかし僕はシャワー中ただひたすら今までに受けた酷いイジメを思い出すだけで、残念な事に何ひとつとしてサボる口実が浮かばなかった。僕が濡れた頭をふきながら部屋へ戻ると驚いたことにパパが僕の机の椅子に座っていた。


「早いじゃないか、それに元気そうだな。」


パパは安心したようにため息をついた。パパなんか大嫌いだ。僕のことを安心したんじゃなくて会社に行けることを安心したんだ。この時の僕はずいぶんとネガティブになっていた。昨日マックスの素敵な両親に会った後だけあって、僕のパパが普通ではないということが嫌というほどわかったような気がした。それともマックスのママとパパの優しさのほうが普通じゃないのだろうか? とにかく僕の家族とのあまりの違いに僕はますますパパに対して拒否反応が出てしまっていたのだ。それに冗談じゃない、誰が学校になんかに行くものか。


「具合なんかちっとも良くないよ、きっと熱があるんだ。起きたら汗がびっしょりで気持ちが悪かったからシャワーを浴びたんだ。それにお腹も痛いんだ。ご飯だって食べたくないし、今またベッドに戻ろうと思っていた所だよ。」


僕はパパの顔も見ずにそう言った。そして洗ってある綺麗なシーツと枕カバーと布団カバーを取り出してベッドを整え始めた。しかし僕の思っていた通りパパは僕のことなどどうでもいいんだ。会社に行くことしか考えていない。


「何を言っているんだ。早くご飯を食べて支度をするんだ。まったくママがいないとお前は何にもできないのか? しょうがないな、9歳にもなって。」


パパは会社へ行くことで頭がいっぱいの様だった。僕が具合が悪いと言っているのにそんなことはまるでお構いなしだった。僕はパパを無視してベッドを整え続けた。僕がひたすらパパの言うことを無視するので、パパはついに声を荒げて僕に言った。


「パパは会社へ行かなくてはいけないんだ。お前が家に1人で寝ているわけにはいかないだろ。それにしてもなんだってたった3分しかかからない学校まで俺が送っていかなくてはいけないんだ。バカげているな、この国は。」


パパの文句は急にこの国へ向けられた。しめた、話を合わせてパパのご機嫌をとろう。そうだ、それがいい。


「そうだよ、パパ、僕ねママと帰国した時はいつも1人で買い物に行ったりするんだよ。だってママと僕の故郷は9歳は小さな大人なんだ。パパと僕の故郷だってそうでしょ? ねえ、僕こんな国もういやだよ。ママかパパの国に帰ろうよ。」


そうだ、そうすれば学校だって行かなくてすむ。おじさんやマックスに会えなくなってしまうのは辛いけれど、だからといって僕達の友情が終わるわけではない。所詮9歳の子供の僕には引越しが何よりも良い方法だと思って話を続けた。


「ね、それにさ、おじいちゃんとおばあちゃんのお家にいる時は1人で留守番だってしたことがあるんだよ。この国から出れば僕が1人で家にいたって法律違反にはならないんだから、パパは何の心配もせずに会社に行けるんだよ。ね、引っ越そうよ。そうすればパパはママがいなくても僕のお世話なんかしなくてすむんだよ。それに僕この町ぜんぜん好きじゃないんだ。」


僕が興奮してそう言うとパパは呆れながら僕に言った。


「くだらない夢物語を言ってないで早くキッチンへ行くんだ。たとえパパやママの国が自由だからってお前がこの国で自由にできるわけじゃないんだ。この国に住んでいるかぎりお前は幼児と同様だ。さあ、早くご飯にするんだ。」


そう言うとパパは僕の腕を掴んだ。アームストロングに腕を掴まれた時の記憶が僕に蘇った。


「いやだよ、離してよ、具合が悪いって言ってるじゃない。無理して学校なんて行きたくないよ。ママだったら絶対にそんなこと言わないよ。」


最後の1言がいけなかった。パパは僕に怒鳴りながら僕を部屋から引きずり出した。


「やめてよ、パパ。僕は本当に具合が悪いんだ、今日は寝かせておいてよ。1人で家にいさせてよ、だまっていれば誰にもバレないよ。パパは会社に行けばいいじゃない。」


僕はパニックをおこし始めたようだった。もうパパが何を言っていたかわからないし、僕が何を言っているのかもわからなかった。ただただ学校に行きたくない、それだけだった。


「離してよ、パパに何がわかるんだよ。アームストロングのような汚い汚物を良い先生だって言うようなパパなんか狂ってるんだ。」


僕がパパを睨めつけるとパパは僕の顔を殴った。


「それがパパに言う言葉か? ママがいつもそう言ってるんだな。だからお前までそんなことを言うんだ。」


そう言いながらパパはまた僕を殴った。僕はパパとアームストロングが重なった。ますますパパのことが嫌になっていった。


「やめてよ。殴らないでよ。ママは絶対に絶対にこんな酷いことをしない。それにパパのことなんかママと話したことなんかないよ。パパはいつだってそうやって被害妄想でいっぱいなんだ。ママだったらアームストロングが狂っているって信じてくれる。だってあいつは僕をイジメるんだ。アームストロングは狂ってるんだ。そしてパパも狂ってるんだよ。」


僕はパパを泣きながら睨みつけた。そしてこれらの僕の態度や言葉はパパを完全に怒らせてしまったようだった。パパは僕のバスローブを剥ぎ取ると制服を僕に投げつけた。


「着替えろ。いいか、お前がパパにそんな態度をとることは絶対に許さない。パパがどれだけ力を持っているか見せてやる。いいか、学校を休むことは絶対に認めない。引きずってでも連れて行ってやる。」


そう言ってパパは僕の部屋から出て行った。僕の話をろくに聞きもせずに一方的に命令だけしてくるパパに僕はもの凄く頭にきていた。僕は制服をゴミ箱へつっこみクローゼットから適当に服を取り出して着替えた。僕の家は平屋だ。つまり僕の部屋も1階にある。僕はパパに気づかれないようにしてそっと窓から逃げ出し、学校とは反対の方向へむかって何も考えずに走り出した。しかし全速力で走っていたのでほんの少し走っただけで僕は息切れしてしまった。もう走れない、僕はとぼとぼと歩き出した。夢中で走っていた時には何も考える事ができなかったけれど、こうして歩いているといろいろなことが頭をよぎっていった。これからどうしよう、僕はどこに行けばいいんだう……。しばらくあるいていると僕の足に激痛が走った。痛い! 何かを踏んづけたらしい。そして始めて僕は自分が裸足だったことに気がついた。どうやら何か先の尖った石でも踏んだらしいけれど、血も出ていなかったし怪我というほど大げさなものでもなかった。今の僕には靴すらないんだ……。どうしよう。僕は引っ越したばかりで誰も知り合いがいない。誰にも頼ることができない、お金すら持っていないんだ。僕は足よりも心の方がよっぽど痛かった。それでもしばらく歩き続けていると後ろから車のクラクションの音がした。パパが追いかけて来たんだ。僕がびっくりして振り向くとそこにいたのはパパではなくハンドルを握りながらにやけていたアームストロングだった。どうして? どうして今一番会いたくない奴がここにいるんだ? 僕はもう歩くことすらできずにただ呆然と突っ立っていただけだった。僕はついに神様からも見放されたのだ。

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