29 約束
病院へ到着すると僕達はまっすぐにマックスのいる307号室へむかった。するとそこからは楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「なんだか賑やかだね。誰がお見舞いに来ているんだろう?」
僕が不思議そうにおじさんに言った。
「今日は日曜日だし、ご両親かもしれないな。」
そう言いながらおじさんはマックスの病室をノックした。
「はーい、今開けます。」
中から楽しそうな女の人の声が聞こえてきた。ドアがゆっくり開くととても綺麗な人が顔を出して僕を見た。
「まあ、あなたクリスちゃんね。そしてあなたがルイさんね。さあ、2人とも入って、マックスがお待ちかねよ。」
そう言うとその綺麗な人はドアを大きく開けてくれた。
「ママ、クリス達来たの?」
マックスの声が聞こえた。ママ? そうか、やっぱりマックスのママか。でもお姉さんみたいだな。僕のママと同じくらい美人だ。それにクリスちゃんだって。ママも僕が小さいころはいつもそう呼んでくれてたな。僕とおじさんはマックスのママに導かれてマックスのいるベッドまで行った。
「やあ、マックス相変わらず元気そうだね。」
おじさんはマックスの顔をみると安心したように言った。
「本当だね。僕マックスが退屈していると思って僕の本を持ってきたんだけれど、そんな物必要なさそうなくらい楽しそうでよかったよ。」
そう言って僕はマックスに本の入っている袋を渡した。
「ありがとう。」
マックスは袋を開けて本を取り出すと大げさすぎるくらいの大きな声で言った。
「あっ! スパイ探偵シリーズじゃん。おれこれ大好きなんだよ。ちょうど読みたいって思ってさっきママに持ってきてって頼んでいたところなんだよ。ホント、サンキュウ。」
マックスは本当に嬉しそうだった。大好きってことは読んだことがあるんだ。それでも喜んでくれたなんて僕も嬉しかった。マックスの大声につられてマックスのママが僕達を覗き込んで言った。
「そう言えば、そのスパイ探偵シリーズってたしか作者は元探偵とかって人よね。実話をコミカルに作品にして大成功したのよね。」
へえ、児童小説専門の作者のことなんてよく知ってるんだな、マックスとママは本の話とかよくするのかな? 僕がそう思いっているとマックスが教えてくれた。
「ママはジャーナリストなんだよ。だからこういう情報やゴシップには詳しくてね。僕もよく聞かされて退屈して困る時があるんだよ。それに朝早くから仕事が多くて朝ご飯すら作ってくれないんだもんな。」
そう言いながらもマックスはママが側にいることがとても嬉しそうだった。僕は入院しているママのことを思い出した。僕が急に黙ってうつむいてしまったことが気になったのだろうか? マックスのママは僕に優しく言った。
「そうなのよ、私がいろいろと忙しいからマックスは勝手に育ってくれてね、いまじゃ私よりもお料理とかするのよ。ねえ、こんど家にいらっしゃいね。マックスにいろいろと料理してもらいましょうよ。」
そう言うとマックスのママは僕をマックスのベッドとはちょっと離れたところにあるソファーに座るように進めてくれて、自分もソファーへ座った。僕がマックスの方をちらりと見ると、どうやらマックスはおじさんと料理の話で盛り上がり始めたようだった。そう言えばおじさんも料理とか好きだって言ってたな。ふとマックスのママの優しい視線を感じた。僕がマックスのママの方を見るとマックスのママも僕の方を見ていた。
「マックスったらね、あなたの事ばかり話しているのよ。つい最近あの町へ引っ越して来たそうね。私は結婚してマックスが生まれるまでは都会に住んでいたのだけれども、あの子のためにも田舎のほうがいいと思ってあの町を選んで住み始めたのよ。でもどうやらマックスは以前からあの町が好きではないみたいでね、私の仕事が忙しくてなかなか引っ越す事とか検討できなくてずるずるとしてしまったのよ。ねえ、クリスちゃん。この間、マックスったらあの学校がおかしいって言い出したの。その矢先に倒れて入院するなんて。クリスちゃん何か知っている? もしかしてあの子イジメにでもあっているのかしら?」
そう言うマックスのママは本当にとても心配そうだった。つい先ほどまでの明るさが嘘のようだ。
「マックスは学校ではいつも明るいですよ。転入生の僕に1番最初に話しかけてくれたのはマックスなんです。それから仲良くなって。確かに学校のことはそんなに好きではなさそうですけど、でも僕だって学校はとくに好きではないし、それにイジメなんて受けていないと思いますよ。」
僕がそう言うとマックスのママは少し安心したようだった。
「そうなの? それを聞いて安心したわ。とにかく私が忙しすぎてあんまりあの子にかまってあげられないから。恥ずかしいんだけれどもね、あの子の普段の生活すら私あんまり知らないし、本当に勝手に育っていってしまっている感じなの。とても大切で愛しているのだけれどもね。それに今までね、あの子あんまりお友達がいなかったみたいなのよ。家に誰も連れて来たこともないし、誰かの家に遊びに誘われたこともなかったみたいだし。だからマックスからクリスちゃんの事を聞いた時はもう嬉しくて嬉しくてあなたに会いたくてたまらなかったのよ。こんな場所でこんな状況だけれどもクリスちゃんに会えて本当に嬉しいわ。」
マックスのママの優しいながらもマックスを思う真剣な言葉に僕は僕のママを重ねていた。僕のママはいつも仕事がしたいと言っているけれども、仕事を持っているママっていうのも大変なんだな。僕のママは家にいてくれるから、僕にもたっぷり時間を割いてくれる。だから僕はママにその日の出来事とかいろいろ話をするのが日常になっていた。マックスとマックスのママにはそういう時間があんまりないんだ、だから僕はマックスのママがどんなにマックスを心配しているのかなんとなく想像することができた。
「マックスはすごく良い奴だし、僕は大好きです。とても人懐っこいし、どう考えても誰にでも愛されるタイプだと思います。だからマックスのことは心配しなくても大丈夫ですよ。」
僕がそう言うとマックスのママは僕の手を握って言った。
「ありがとう。マックスの言う通り、あなたは”最高の奴”だわ。クリスちゃん、マックスの事を頼むわね。」
 




