27 孤独
僕がおじさんに送ってもらい家につくと、相変わらずパパの部屋からゲームの音が聞こえてきた。僕はそんなパパを無視してキッチンへ行き冷蔵庫を開けてみると驚いたことに山のようなレディーミールが入っていた。レディーミールというのは料理が苦手な人や時間がない人のためのお惣菜だ。おまけにまともに野菜やお肉を購入して自分で料理をするよりもよっぽど安くすむのでこの国ではとても人気の商品だった。それに紙のお皿に入っているから食器を使う必要もなく、食べたら捨てられるので洗い物もしなくていいという怠け者にとっては救世主といったところだろうか、なんともいえない優れものだ。これがこの国では頻繁に食卓に登場するらしく、もちろん僕も何度か食べたことがあった。別に特別おいしくなくもないが、ものすごい油と砂糖と塩を使っているんだろうなと想像する事ができる味付けだった。ママが言うにはカロリーとかいうのもすごいらしく、この国が肥満の嵐なのはきっとこのお惣菜のせいじゃないかとママは言っていたっけ。そのレディーミールの山は怠け者のパパにはぴったりだった。とうぜんパパが買ってきたんだろう。この家ではママ意外料理ができるものはいないのだから、しかたがない。食べるものがあるだけでもありがたく思わなくちゃいけないな。僕はおじさんとマックスのことを思い出していた。おじさんんは家庭的なことが好きだと言っていた。クッキーも自分で焼けるし、しかも最高に美味しかった。そして自分でパパのぶんまで朝食を用意すると言っていたマックス。僕は何にもできない。さっき別れたばっかりなのにもう2人が恋しかった。僕はレディーミールの山からチキンカレーを選び説明書を読んでみた。そこには電子レンジで7分温めると書いてあったので、僕は電子レンジの中にチキンカレーを入れてみた。さて、どうやったら温まるんだろう? 実は僕は今まで電子レンジを使ったことがなかったので詳しく見たことがなかったし、もちろん使い方も知らなかったのだ。電子レンジにはたくさんの同じようなボタンが付いていた。さっぱりわからない。僕は適当にボタンを押してみた。ピッという音はするけれども動き出さない。何処を押してみても電子レンジはスタートしてくれなかった。僕はレディーミールさえママが居ないと食べられないんだ。自分の弱さと孤独を嫌というほど感じ、ものすごく悲しくなってしまった。しかたがない、パパに手伝ってもらおう。僕はそう思いとりあえずチキンカレーのお皿を電子レンジから取り出してからパパの部屋へ行った。パパの部屋のドアをノックして開けるとパパはタブレットを握り締めて体を左右に動かしていた。きっとなにか運転するゲームでもやっていたのだろう。僕はパパがゲームオーバーになるのを待つことにした。パパはゲームが得意なので僕はかなり長いこと待たなくてはいけないかと思ったけれども5分もするとパパはちきしょうという言葉とともに顔をあげた。
「おお、クリス帰ってきてたのか。腹がへっているなら冷蔵庫に入ってるぞ。」
そう言うとまたゲームに戻りそうになったので僕はあわててパパに言った。
「うん、見たよ。でもね、僕電子レンジの使い方がわからないんだ。教えてくれる?」
僕がそう言うとパパはタブレットをベッドの上に置き立ち上がった。
「電子レンジの使い方も知らないのか? しょうがないな。まあちょうどいい、パパもお腹がすいていたところなんだ。一緒に食べよう。」
今の僕はとても人恋しくてパパでもなんでも一緒にご飯が食べられるのはとても嬉しかった。
キッチンへ行くとパパは冷蔵庫を開けてしばらく考えると酢豚ごはんを選んで電子レンジへ入れた。パパはしばらく電子レンジを見つめた後に僕に言った。
「なんだかたくさんボタンがあるな、お前使い方知っているか?」
パパは僕にそう聞いてきた。さっきは使い方を知らない僕をバカにしたくせに、自分も使い方をしらなかったらしい。パパはボタンをいろいろと押し始めた。やっていることは僕と同じだった。僕は半ば諦めていつもママが説明書を入れている引き出しを探って電子レンジの説明書を取り出した。
「パパ、ほら説明書。」
パパは説明書を僕から取るとページを適当にめくってようやく使い方を理解したらしかった。
「なんだ、たくさんボタンがあるわりには簡単だな。」
そういいながらいくつかのボタンをおし始めた。ブーンという音がしてついに電子レンジはスタートした。電子レンジが動いている間、僕も説明書に目を通すことにした。ママが帰って来るまではおそらく僕の夕食は毎日これだ。電子レンジが使えなければ生きていけない。パパの言った通り電子レンジの使い方はわかってしまえばとても簡単だった。どうやらまず何を温めるのかを選択し、そのあと時間をセットすればいいらしい。7分が経ちパパの酢豚ごはんが温まった。次は僕のごはんだ。僕がチキンカレーを電子レンジに入れて時間をセットしているとパパがご飯を食べている音が聞こえた。
「パパ、一緒に食べようって言ったじゃない。待っててくれないの?」
僕を待っていてくれないパパの態度に僕はとても悲しくなった。そんな僕にパパは振り向いてこう言った。
「お前のご飯が温まるまで7分も待てと言うのか? そんなことをしたらパパのご飯が冷めてしまうじゃないか。お前、普通はお前の方から冷めるから先に食べててって言うのが常識だぞ。」
そう言うとパパはまたご飯のほうをむいて食べ始めた。僕はそんなパパがとことん嫌になった。そして僕のごはんが温まった時にはパパはもうキッチンにはいなかった。




