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復讐  作者: 南y
29/63

26 薔薇

 僕とデイジーさんはマックスの入院している病室へ向かった。ママの入院している病室とマックスの病室は同じ病棟にあった。僕はマックスへのお見舞いの花束を抱えながらデイジーさんに聞いた。


「ねえ、僕が来なかったら本当はもう仕事を終えて家に帰っているのでしょう? ごめんね。大変なお仕事が終わって疲れているのに僕に付き合わせて。」


パパはデイジーさんのことを考えたのだろうか? 自分が家でゆっくりしたいからってデイジーさんに僕の面倒を押し付けて。するとデイジーさんはちょっと照れくさそうに僕にあることを白状してくれた。


「あのね、もちろんクリス君のために付き添いを引き受けたのも事実よ。大切な患者さんの息子さんだし、お父さんが忙しいのだから私達看護師ができるだけのことをするのも仕事の1つだと私は思っているし。それからね、これは絶対に絶対に秘密よ。実は私、マックス君の所にも行きたかったのよ。だって、ルイさんがお見舞いに来ているはずだから。今朝駐車場でルイさんに会ったのよ。近くまで来たからマックス君の様子を見に寄ってみたんですって。うふふ。」


え?? どういうこと?? 僕はなんだかわかったようなわからないような、でもやっぱりよくわからなかった。


「デイジーさん、どうしておじさんに会いたいの? 何か用事でもあるの?」


僕が聞くとデイジーさんは真っ赤になって答えてくれた。


「あのね、本当に絶対に秘密よ。クリス君を信じているからこそ私の秘密をお話するんだから。あのね、私ね、ずっと前からルイさんのことを素敵な人だと思っていたのよ。」


そう言うとデイジーさんの顔はまるでトマトのようにさらに真っ赤になってしまったのだった。


「え? それっておじさんに恋してるってこと? それともお友達だから好きだってこと?」


僕がさらに質問するとデイジーさんはちょっと困った顔をしたけれどもそれでも僕の耳元に顔を持っていくと小さい声でささやいた。


「恋しているの。」


僕はまだ9歳だから、デイジーさんの恋するという気持ちはよくわからなかったけれども、それでも僕は大好きなおじさんと大好きなデイジーさんがお互いに好きだったらとても楽しいなと思ってデイジーさんに言った。


「ねえ、僕もおじさんが大好きなんだよ。僕とデイジーさん同じだね。ねえ、おじさんもデイジーさんのこと好きなんでしょ? だってこの前仲良さそうにお話してたじゃない。」


僕はあまりにも嬉しくてデイジーさんの腕に僕の腕を絡めて言った。


「急ごうよ。おじさんとマックスが待っているよ。」


そう言いながら僕はデイジーさんの腕をひっぱってマックスの病室へむかった。



 「マーックス、元気にしてる?」


僕はマックスの病室へノックもせずに入って行った。僕を見たマックスはものすごい笑顔で僕をむかえてくれた。


「よう、クリス。来てくれて嬉しいよ。ルイさんも来てくれているんだよ。近くまで用事ができたから僕のところに寄ってくれただけらしいんだけどね。クリスといいルイさんといい、僕はついでばっかりだよ。」


そう言いながらもマックスはとても嬉しそうだった。


「なんだよ、ついでは用事の方だよ。君のお見舞いがメインに決まっているだろう。」


そう言いながらおじさんはマックスの頭をくちゃくちゃと揉んだ。おじさんも元気そうだ。僕はデイジーさんと一緒にマックスが座っているベッドの方へ近づいて行った。


「デイジーさんも来てくれたんだよ。今日僕が病院に来てからずっとお世話をしてくれているんだ。」


そう言い僕はようやくデイジーさんの腕を離した。


「こんにちは、マックス君、ルイさん。」


デイジーさんの顔はまだ真っ赤だった。


「やあ、デイジー、それからクリストファーもとても元気そうだね。どうしたのデイジー、顔が真っ赤だよ。クリストファーにひっかきまわされているんじゃないのか?」


そう言うとおじさんは僕の側に来て僕の肩に腕をまわした。


「綺麗な花束だね、マックスへのお見舞い?」


おじさんは僕が抱えている花束を見ながら僕に聞いた。


「うん、あっ、また花瓶忘れた。ねえデイジーさん、この階でも花瓶貸してくれるのかな?」


僕がそう聞くとデイジーさんは真っ赤なままで答えてくれた。


「ええ、もちろんよ。看護室へ行って借りてくるわね。」


そう言うとデイジーさんは病室の外へ行ってしまった。僕は花束をとりあえず流しへ持っていこうとして部屋の奥に入った。そして始めてマックスのベッドの周りにたくさんのお見舞いが置かれていることに気がついた。たくさんの本や雑誌やゲーム、そしてとても高そうな花が飾ってあった。


「お見舞いにたくさんの人が来たんだね。それにこの豪華な花束すごいね。僕のスーパーで買ってきた花束なんてなんだか見窄らしいね。」


僕は僕のお見舞いの花束がとてもみみっちく見えた。買った時はとても気に入って買ったんだけど、ここに飾られている花束はきちんとお花の専門のお店で買ったらしく、すてきにアレンジしてあった。


「何言ってるの、かわいい花じゃん。意外かもしれないけどさ、おれ花が好きなんだよ。だからその花束ママが僕が早く元気になるようにって奮発して買ってきてくれたんだよ。山ほどの雑誌や本やゲームと一緒にね。でも本当はクリスが持ってきてくれたようなかわいい花のほうが好きなんだよ。ありがとう。本当に嬉しいよ。」


マックスは僕に気を使ってか僕の持ってきた花を好きだと言ってくれた。僕が少し感動していたら横からおじさんが僕達をからかってきた。


「いいなー、男同士の友情か。俺も誰かから花束貰いたいよ。クリストファー、今度俺にも買ってくれ。」


そう言うとおじさんは僕の手にある花束の匂いをかいで続けた。


「いい香りだな。そういえばピンク色のバラの花言葉ってたしか”思いやり”だったと思ったな。誰かを慰めたり励ましたりしたい時に送る花らしいぞ。今のマックスにぴったりじゃないか。いい花を選んだな。」


おじさんがそう言ってくれて嬉しかったけれど、でも花言葉なんて始めて聞いた。


「偶然だよ。僕はその花がとても可愛いと思って選んだんだ。でも花言葉ってそんなの知らなかったよ。」


僕がそう言うとさすがに花が好きだと言っただけあってマックスが答えてくれた。


「ああ、なんでも昔言葉や態度の代わりに花に思いを託して気持ちを伝えていた風習があったんだって。それぞれの花の種類や花の色ごとに違う意味があったらしいんだよ。で、そこから花言葉が生まれたらしいよ。まあ、世界共通ではなくて国によって違うらしいからルイさんが言っているのはあくまでもこの国の花言葉でクリスの国ではまた違うと思うよ。でもさ、偶然でもそんな花を選んでくれたのはとても嬉しいよ。」


へえ、いろいろと面白いというか、素敵な事を考える人達がいるんだな。僕は始めて聞いた花言葉というものにちょっと感心した。


「あら、お花のお話?」


そういいながらデイジーさんが花瓶をもって病室へ戻ってきた。


「ああ、どうやら俺とマックスには花という共通の趣味があるらしいよ。」


そう言うとマックスとおじさんのお花談義が始まった。僕は側で聞いていたけれども、心の中では自分の今置かれていることを考えていた。ここにいると楽しい。それに比べて何なのだろう、あの学校は? たしかマックスは幼稚舎からあの学校に通っていると言っていたな、今までにイジメられたことはあるのだろうか? そしておじさんは何時からあの学校で働いているのだろう? おじさんはあの学校がなんだかおかしいと言っていた。それならばなぜ仕事をやめないのだろう? おじさんみたいな人なら何処ででも仕事は見つかるだろうに。いっその事この2人にアームストロングのイジメを相談してみようか? いや、信じてくれないかもしれない。校長先生は信じてくれなかった。パパだってアームストロングが良い先生だと信じ込んでいる。どうしよう……。僕が悩んでいるとデイジーさんが僕に話しかけてきた。


「クリス君? 大丈夫? なんだか顔色が悪いわよ? それからそろそろお母さんの病室へ戻りましょうか? お父さんがむかえにいらっしゃるわ。」


そうだった。楽しくてパパのことなんか忘れていた。


「僕、帰りたくないな。」


僕はぼそっと言った。家になんか帰りたくない、あんな寂しくて暗い所。僕はここでみんなと一緒にいたかった。するとそんな僕の気持ちを察してくれたのだろうか? おじさんが僕に言ってくれた。


「親父さんが迎えに来るのか? よかったらクリストファーは後で俺が送っていくよ。たしか何日か前にこの携帯からお前の親父さんに電話したからまだ番号が残っていると思うよ。どうする? 俺と帰るか?」


おじさんは携帯を取り出してパパの電話番号を探し始めた。


「うん、おじさんパパに電話して。ね、お願い。」


僕は嬉しくておじさんの腕にぶらさがりながら頼んだ。


「おいおい、そんなに腕をひっぱったら電話できないだろ。」


そう言うおじさんも心なしか嬉しそうだった。パパはもちろん了解してくれた。どうせきっとゲームでもしていて僕を向かえに来るのなんて面倒くさくてしょうがなかっただろうからパパにとっては好都合だっただろう。こうして僕は面会時間終了までマックスの病室にいすわってしまったのだった。


「じゃあ、また明日もクリストファーを連れてくるよ。俺は用事があるからちょっとしか顔を出せないけれどね。しっかり夕食を取って寝るんだぞ。」


そう言うおじさんはマックスの枕元にあったいくつかのゲーム雑誌を抱えていた。どうやらおじさんとマックスは花の事だけではなく、ゲームでも意気投合したらしい。僕は大好きな2人が仲良くしているのがとても嬉しかった。ここが僕の本当の居場所なんだ。やさしい人達、暖かい空気、そして楽しい笑い声。あの学校へ通う以前の生活が僕に戻ってきたかのようだった。

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