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復讐  作者: 南y
28/63

25 配慮

 看護室の中は思っていたよりも広く、心地のよさそうなソファーも置いてあった。ソファーでは別の看護師さんが雑誌を読んでいた。

「こんにちは。」

僕はソファーに座っている看護師さんに挨拶をした。

「あら、こんにちは、可愛いお客様ね。あら、あなた確か503号室の患者さんの息子さん?」

看護師さんは雑誌を置いて僕の方を見た。僕のことを知っている? そう言えば僕が始めてこの病院に来たときにパパが受付で声をかけた看護師さんってこんな感じだったかな? みんな同じ白衣をきているから見分けがつきにくかった。僕が黙っているとデイジーさんが僕の代わりに言ってくれた。

「あら、顔見知り? クリス君っていうのよ。いっしょにお昼を食べようと思ってね。」

そう言うとデイジーさんは10人位が座ることのできる大きなテーブルに僕のお盆を置き、電気ポットにお水を入れてながらちょっと大きな声でソファーにいるさっきの看護師さんに聞いた。

「ねえ、アニー。私今からお湯を沸かすけど、あなたも何か飲む?」

するとアニーさんという看護師さんもちょっと大きな声でデイジーさんに答えた。

「ううん、あと5分もしたら病室の見回りしなくちゃいけないのよ。ゆっくりできないから今はいいわ、でもありがとうね。」

へえ、さすが看護師さん、忙しいんだな。

「どうしたの? 座りなさいよ。今お茶をいれるわね、何がいい? それともお茶よりもジュースかミルクのほうがいいかしら?」

そう言いながらデイジーさんは自分のお盆もテーブルの上に置いた。

「僕、ジュースを持ってきたから大丈夫です。」

そう言いながら僕は買い物袋からマンゴージュースを取り出した。

「あら、マンゴージュース。美味しいわよね。私も大好きなのよ。でも、私は今日は紅茶にするわ。」

そう言うとデイジーさんは棚をあけて紅茶のティーパックを取り出しててカップにいれた。同時にお湯が沸きデイジーさんはカップにお湯を注いだ。

「さあ、いただきましょう。」

そう言いながらカップを手にデイジーさんはテーブルについた。

「デイジーさんいつも1人でお昼食べるの?」

こんなに大きなテーブルで1人で食べるのは何だか寂しいなと思った僕はデイジーさんにそう聞いてみた。

「ええ、大抵の場合は1人ね。体が空いた人から次々と食べるのよ。私は大体いつもこの時間になるのよね。ちょうどお昼の一番大変な時間が終わった後なのよ。この階はみんな同じ時間にお昼になるから患者さん達のお世話で大変なの、もう大騒ぎよ。聞こえてこなかった?」

デイジーさんはビーフパイを器用にナイフで切りながら僕の質問に答えてくれた。

「ううん、僕ママにお喋りするのに夢中になっていたからとくに外の声は耳に入って来なかったよ。」

僕がそう言うとデイジーさんは続けた。

「そうか、でね、だから一段落するこの時間の後に夜勤だった看護師達は業務終了なわけ。その後夜勤組はゆっくりと食堂でお昼をとってから家に帰るわ。で私と今ソファーで休憩しているアニーの2人でしばらく頑張って2時30分には午後のシフト組が来るってわけ。私はほとんど朝早くから夕方までの勤務だからお昼は大抵の場合1人なのよ。だからクリス君が一緒に食べてくれて本当に嬉しいの。」

そういいながらデイジーさんはお茶をすすっていた。

「そうなんだ。大変だね、看護師さんって。」

僕がそう言うとデイジーさんは笑って言った。

「でもね、そんなの看護師になる前からわかっていたことでしょ。たしかに大変だし、孤独を感じることも多々あるけど、私はこの仕事が大好きよ。誇りを持っているのよ。」

そう言うデイジーさんは本当に素敵だった。僕はビーフパイに口をつけた。暖かい。そういえば、ママが倒れてから僕が暖かい食事をしたのは始めてだ。学校の給食はいつも冷めていたし、だいいちアームストロングの嫌がらせもあってあれ以来給食にはほとんど手をつけていなかったし、それに夕食はいつもパパがファーストフードのドライブスルーで買ってきた冷めたハンバーガーとポテトだった。

「デイジーさん。僕久しぶりに美味しいご飯を食べたよ。誘ってくれて本当にありがとう。」

僕がそう言うとデイジーさんはにっこりと微笑んで言ってくれた。

「こちらこそ、付き合ってくれてありがとう。」



 お昼を食べ終わるとデイジーさんは僕をママの病室まで連れて来てくれた。

「じゃあ、3時まであと30分ね。そうしたら私急いで服を着替えてここに戻ってくるわ。もしかしたら急にナースコールで呼ばれて遅くなるかもしれないけれども、できるだけ早く来るから待っていてね。」

そう言うとデイジーさんは忙しそうに別の病室の患者さんの所へ消えていった。僕はまたママの側へ行った。ママは相変わらずだ。僕はまたママに話しかけた。

「ねえ、ママ聞いてくれる? アームストロングは本当に酷いんだ。中でも一番酷かったのはね、あいつ僕の口のなかにゴキブリを入れたんだ。どうしてそんな酷いことをするんだろうね。あいつ人間じゃないんだよ。それでもね、パパは僕に学校に行けって言うんだ。僕どうしたらいいんだろう。ママが側にいてくれたら絶対に僕を助けてくれるのにね。ねえ、ママお願いだから目を覚ましてよ。」

僕はママの布団の上に伏せて泣き始めてしまった。どのくらい泣いていたのだろうか。ママの部屋のドアを誰かがノックした。デイジーさんだ、むかえに来てくれたんだ。僕はいそいで涙をふいてドアをあけた。

「クリス君? 泣いていたの?」

デイジーさんは僕の顔をみるとびっくりして言った。

「大丈夫、ちょっと感情的になっただけだよ。ありがとう、むかえに来てくれて。」

僕がそういうとデイジーさんは流しの方を見てから僕に聞いた。

「お花を持ってきていたの? 素敵なバラね。でも流しじゃなくてちゃんと花瓶に入れてあげた方がいいと思うわ。ちょっと待っていてね、今花瓶を持ってくるわ。」

そう言うとデイジーさんは看護室へ戻って行ったけれど、ものの30秒で僕の所に戻って来てくれた。そしてデイジーさんの手には花瓶があった。

「わあ、花瓶。デイジーさんのなの? 貸してくれるの?」

そう言う僕にデイジーさんは教えてくれた。

「私の花瓶ってわけではないのよ。あのね、どこの病院にもたくさんの花瓶が置いてあるのよ、だってお見舞いに花束を持ってくるのに花瓶を持ってこない人がほとんどなのよ。お水をあげないとお花がかわいそうでしょ。だから病院側で準備しているってわけ。」

なるほどね……。花瓶のことを考えなかったのは僕だけじゃないんだな。そう思うとなんだかちょっとほっとした。

「さあ、お花を活けてあげましょう。」

そう言うとデイジーさんは流しの方へと歩いて行った。

「あら、2つあるの? ああ、もう1つはお友達の分ね、なんだか素敵ね。花束なんて私はもう何年も貰ってないから羨ましいわ。」

そういいながらデイジーさんは僕がママに買ってきた花束を花瓶に活けてくれた。デイジーさんは本当に優しい。昔ママが看護師さんは天使なんだと教えてくれたことがあったけれど、デイジーさんはもしかしたら本当に天使なのかもしれないと僕は思った。

「じゃあ、今度ここに来る時にはデイジーさんにもお花を持ってくるよ。」

僕はデイジーさんに何かお礼がしたかったし、デイジーさんを喜ばせたかっし、デイジーさんの喜ぶ顔も見たかった。でも、デイジーさんは僕の言葉だけでもとても嬉しかったらしくて目を細くして微笑んでくれた。

「ありがとう、何よりもそのあなたの優しい気持ちが一番嬉しいわ。」

いろいろと辛い事もたくさんあったけれど、僕の周りには優しい人だっているんだ。そう思うと少しだけ勇気が出てきた。僕はママに明るく言った。

「じゃあね、ママ。また来るね、それからママが大好きだよ。早く目を覚ましてね。待ってるよ。」

ママの顔は心なしか微笑んでいるように僕には見えた。


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