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復讐  作者: 南y
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24 病室

 さすがに2度目ということだけあって、パパも駐車場へ車を止めると迷うことなくママの病室まで行く事ができた。僕は僕のお昼ご飯と2つの花束を抱えながら早足であるくパパを急いで追いかけた。ママの病室へ着くと僕はお昼ご飯をママのベッドの脇のテーブルに置きながらママの様子を見た。ママはあいかわらず優しい笑顔のまま眠っていた。僕はママを見るととても暖かい気持ちになって嫌なことも忘れてしまえそうだった。花束はどうしよう。花瓶に入れてお水をあげないと枯れてしまう。僕はパパに相談した。

「ねえパパ、花瓶ってどこにあるのかな? 買ってきた方がよかったのかな? どうしよう。」

するとパパはだから言っただろうとでも言いたげな顔で僕を見た。

「面倒なものを買ってきたな、本当に。どうせママが目にする前に枯れてしまうんだ。それよりも誰か看護師を捕まえてお前の面倒を頼まないといけないな。看護室に行くからお前も来るんだ。」

そう言うとパパは部屋の外に出ようとした。僕は花束をそっと僕のお昼ご飯の横に置くとパパの後を追いかけた。看護室はママの病室のすぐ近くにあり、そこには数人の看護師さん達が書類を整理していた。

「すみません、503号室の家族のものですが……。」

そうパパが言うと振り向いたのは驚いたことにデイジーさんだった。

「デイジーさん、こんにちは。クリスです。あの、この前ママとマックスのことでお世話になった……。」

そう言うとデイジーさんはにっこりと笑ってくれた。

「こんにちは、クリス君。お母さんのお見舞いに来たのね。」

デイジーさんはそう言いながら看護室の外に出てきてくれた。デイジーさんは僕のことを覚えていてくれたんだ。そしてパパはデイジーさんに5時に向かえに来るからそれまで僕を見ていてほしいと頼んだ。デイジーさんは3時までは勤務で忙しいけれどもその後なら大丈夫とのことだった。今は1時ごろだ。僕は3時までママの病室から出ないという約束をパパとデイジーさんとすることになった。2時間くらいママにお話していればすぐに過ぎてしまうから何の問題もない。パパが家へ帰ってしまうと僕はママの病室で1人になった。



 そうだ、お花! ぼくはママの病室にある小さな流しに水を貯めた。そしてそこにゆっくりと僕が持ってきた花束を置いた。今度お見舞いに来る時にはきちんと花瓶を持ってこなくちゃ。今日はとりあえずここでごめんね、僕はそっとバラに顔を近づけて謝った。バラからは甘い優しい香りがした。ああ、ママが目を覚ましたらきっと喜ぶのにな、ママは花が好きだから。とりあえず花束に水をあげることができたので、僕はママのベッドの脇にある椅子に座ってママに話しかけた。

「ママ。ねえママ、目を覚ましてよ。僕ね、ママに相談したい事がたくさんあるんだ。僕もう学校には行きたくないんだよ。ねえ、ママ、ママは僕が学校に行くのを嫌がってたね。もしかしたらママは僕が嫌な目にあうかもしれないって気がついていたの? ねえママ、僕どうしたらいいんだろう。パパは僕の話をちっとも聞いてくれないんだ。ママ、早く目を覚まして僕を助けてよ。」

僕がどんなに一生懸命に話かけてもママは何にも返事をしてくれなかった。しかたがない、ママは目を覚ましていないんだ。僕はつらくて悲しくてやり切れなくなってしまい涙が溢れてきた。いけない、僕がこんなんじゃママは心配してしまう。ママにはママの事だけを考えて早く元気になって欲しかった。僕は涙を拭き取るとママの顔を見てにっこりと笑ってみた。ママには僕の話は聞こえていない、それでもママに話しかける事で少しは気分が紛れたような気がした。僕はママに心配しないでねと前置きをしてから学校で起こっている事を話した。でも正直を言うと、もしママの意識があったら、もしママが倒れていなかったら、そして普通の生活をしていたのなら、もしかしたらママにイジメのことを話せなかったかもしれない。僕は大好きなママに心配をかけたくはなかった。ママが聞こえていないからこそ話をすることができたのかもしれない。そして僕はママにイジメのことについて話続けた。

「アームストロングがね、ママ覚えてる? あの不細工な肉の塊、あいつ最低なんだ。僕に嫌がらせばかりするんだよ。マックスも言っていたけれど、アームストロングは外国人が大っ嫌いなんだって。自分だってこの国から出たら外国人なのにね。だからって僕をたくさん傷つけるんだ。」

僕は話をしながらまた泣いてしまいそうになった。だめだ、いくらママが僕の話を聞くことができないからってこんな話ばっかり、ママが可哀想だ。少しの間僕は黙っていた。何か楽しいことをママに聞かせてあげようと思って考えていたのだ。

「ねえ、ママ。本当は何か楽しいお話をしたかったのに、こんな嫌な話ばかりでごめんね。もうやめるよ。ママだって聞いていてつまらないもんね。ああそうそう、さっきから何度も名前があがっているマックスっていうのは僕の友達だよ。マックスはとてもいい奴でさ、僕達はすっかり仲良しになったんだよ。学校は大嫌いだけど、でも良い出会いも少しはあるんだよ。」

僕はマックスの話をしていたらだんだん穏やかな気持ちになっていた。新しくできた友達や知り合い達、僕は僕が1人じゃないってことをママに知ってもらいたかった。

「マックスと友達になったのはね、僕が校長先生と廊下で話をした後なんだ。校長先生はとても優しいんだよ。僕のことを気にかけてくれているみたいなんだ。それに品があって頭が良さそうでね、だから僕校長先生にちょっと見とれちゃったんだよ。そうしたらマックスが僕の所に来てからかい始めたんだ。でも嫌なからかいかたじゃなくてさ、ちょっとした悪ふざけだったんだ。それからマックスと話をするようになったんだよ。それからね、イージーっていう女の子とも仲良くなったよ。イージーはとても可愛くってさ、それに僕の事をかわいいって言ってくれたんだよ。なんだかおかしいでしょ? お互いに可愛いって思ったなんてさ。」

僕がママに友達の話をしていると病室のドアを誰かがノックした。

「はい。」

僕が返事をするとドアがゆっくりと開いてデイジーさんが顔を出した。

「クリス君、ママの様子はどう? お昼ご飯はもう食べたの? もしお腹が空いているのなら食堂から何か持ってきてもらうわよ。ちょうど私もお昼を取ろうと思っているところなのよ。」

お昼のことなど僕はすっかり忘れていた。今何時なんだろう?

「ありがとう、デイジーさん。でも僕お昼ご飯は持ってきたから大丈夫です。それにお金持っていないし。それより今何時ですか?」

「2時ちょっと過ぎよ。お金のことは心配しなくて大丈夫よ。患者さんの家族にはお食事を出すことになっているのよ。まあ、病院食だから大したことはないし、量も少ないんだけどね。どう? 食べる?」

デイジーさんにすすめられて僕はちょっと病院食に興味を持った。事務員のおじさんがここの食事はまあまあだと言っていたことを思い出した。

「デイジーさんは何を食べるの?」

僕はもしデイジーさんが美味しそうな物を食べるのだったら僕も食べてみようかなと思い聞いてみた。

「たしか、今日のメニューはお魚のスープとパンのセットかビーフパイとサラダのセットの2つから選べたと思ったわ。私はビーフパイにしようかって思ってるのよ。どう? 食べてみなさいよ。栄養がつくわよ。」

僕はデイジーさんにすすめられた事もあってやっぱり食べてみることにした。でもこの国の魚って今ひとつなんだよな……。

「じゃあ、僕もビーフパイがいいな。頼んでいただけますか?」

僕がそう言うとデイジーさんはにっこりと笑って言ってくれた。

「わかったわ。いい子ね、育ち盛りなんだからいっぱい食べなくちゃね。きちんと持ってきたお昼ご飯も食べるのよ。それから、今日のデザートはスポンジケーキとカスタードクリームよ。おいしいわよ。」

デイジーさんったらまるでママみたいだ。僕もデイジーさんに笑顔で答えた。

「はい、たくさん食べます。ありがとうデイジーさん。」

5分と経たないうちにビーフパイが僕の所へ運ばれてきた。早いんだな、さすが病院のスタッフだ、テキパキしているな。僕が関心しているとデイジーさんが言った。

「ねえ、一緒に食べない? 私達病院のスタッフが患者さんの病室で食べることは禁止されているから私がここに来るわけにはいかないんだけれども、もしよかったら看護室に来て食べない?」

デイジーさんは本当に優しい。僕はママとお話しながら食べたかったけれども、でもデイジーさんの優しさに応えたかったので看護室にお邪魔することにした。

「仕事の邪魔にならない? もし大丈夫ならデイジーさんと一緒に食べたいな。」

僕がそう言うとデイジーさんもとても嬉しそうだった。

「邪魔になんかならないわよ。まあ、もしかしたら急にナースコールが入って私は部屋を出ていかなければいけないかもしれないけどね。さあ、いらっしゃいよ。」

そう言うとデイジーさんは僕のビーフパイが乗っているお盆を持ち上げた。僕はスーパーで買ってきたお昼ご飯をつかんでデイジーさんの後についた。

「ママ、ちょっとご飯食べてくるね。すぐに戻ってくるよ。」

そう言って僕はママの病室を出た。


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