表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐  作者: 南y
26/63

23 土曜

 どうやら僕はそのまま眠ってしまったらしい。気が付くと朝になっていた。何時間寝たんだろう。夕食も取らず、歯すら磨いていない。それどころか、昨日着ていた制服のままだ。ママのお見舞いにすらいかなかった。マックスもだ。僕は昨日の事を思い出していた。僕はアームストロングに触られた自分のことがとても汚らしく感じてたまらなくなった。僕は急いで制服を脱ぎ捨て、枕カバーやシーツをはぎとり洗濯機に放り込んだ。そうして僕自身はシャワーを浴びにバスルームへ行った。アームストロングに触られた腕を切り落としたいくらいに気持ち悪く感じた。アームストロングの拳が入り込んだ僕の口、アームストロングに握られた僕の髪。もう何もかも気持ち悪かった。僕はシャワーのお湯の温度を上げた。本当なら熱湯を頭からかけて消毒したい気分だった。長い長いシャワーを浴び終わると僕は部屋へ戻った。しばらくするとパパも起きたらしく、キッチンから音が聞こえてきた。僕はもっときちんとパパと話をしないといけないと思いキッチンへ行った。


「おはよう、パパ。昨日はむかえに来てくれてありがとう。」


とりあえずパパのご機嫌を取っておこうと僕は思った。


「ああ、おはよう。」


パパはそれだけ言うとコーヒーをすすった。僕はコーンフレークを取り出してテーブルに着いた。


「ねえ、パパ。もし今日何も予定がないのなら、僕を病院へ連れて行ってくれない? 昨日お見舞いに行けなかったから。」


僕はママとマックスに会いたかった。それなのにパパは冷たく僕に言った。


「ママはまだ眠っているよ。医者はママの意識が戻ったらすぐに電話をすると言っていた。なにも連絡がないのだから行ってもしょうがないだろ。時間の無駄だ。」


本当に冷たい。意識があろうが無かろうが関係ないじゃないか。僕はママの顔が見たいし、たとえママが眠っていても僕はママに話したいことがたくさんあった。


「でも、僕ママの顔を見たいんだよ。それに友達のマックスも同じ病院に入院しているんだ。お願いだよパパ、病院の駐車場まで連れて行ってくれれば後は僕が1人でママとマックスの病室に行くからさ。そして夕方にでもむかえに来てくれればいいから。ねえ、お願いだよ。」


僕は一生懸命にたのんだ。さすがのパパもママの顔を見たいという僕の気持ちはわかってくれたようで、しぶしぶだけど連れて行ってくれると約束してくれた。


「わかったよ。連れていくよ。でもクリス、お前忘れてないか? ここではお前は1人で歩ける年齢じゃないんだ。ママの病室まで行ってそこで看護師さんにお前を友達の病室へ連れて行ってもらえるように頼もう。パパは一旦家に戻ってお前の言う通り夕方にまたママの病室へお前をむかえに行くから、そうだな、5時頃までにはママの病室へ戻って来ていてくれ。」


僕は素直にとても嬉しかった。今日はママとゆっくりできる。


「ありがとう、パパ。」


僕はパパにお礼を言った後、急いでコーンフレークをかき込むといつでも出発できるように歯を磨いて病院へ行く準備をした。折角僕が超特急でママの所へ行く支度を整えたのに、パパがその思い腰を上げるまで僕は長い時間待たなくてはならなかった。朝食後パパが部屋に籠もりコンピュータゲームを始めてしまったからだ。ピョコピョコキーキーというコンピュータ音がパパの部屋から聞こえてきた。僕はイライラしたけれども、ここでパパを怒らせて病院へ連れて行ってもらえなかったら元も子もない。僕は一生懸命に我慢してパパを待った。朝食後3時間位経っていただろうか? ようやくパパが部屋から出てきた。


「病院へ行くぞ、お前のお昼ご飯は途中でスーパーにでもよってサンドウィッチでも買っていこう。ママの病室で食べればいいよな?」


そう言うとパパはお財布をパパのジーンズのポケットへ突っ込んだ。


「うん、かまわないよ。早く行こうよパパ。」


ようやく出発できる。僕は急いで靴を履いて外に出た。



 病院へ行く途中、いつもママと買い物をしている大型スーパーへ寄ってもらった。3日に1回は通っていた場所だけあって僕はこのスーパーの見取り図にとっても詳しかった。


「いつ来てもどこに何があるかわからない店だな。」


パパはそう言いながらキョロキョロしていた。僕はまず自分用のお昼ご飯を買うためにお惣菜コーナーへパパを連れて行った。


「ほらパパ、ランチセットが売っているんだよ。知ってた? サンドウィッチとジュースとお菓子をセットでかうとかなりお得なんだよ。僕ランチセットにするよ。」


そう言って僕は大好きなチキンサンドウィッチとマンゴージュース、そしてポテトチップスの小袋を買い物カゴへ入れた。ふとパパの方を見るとパパもサンドウィッチを手に取っていた。


「パパも買うの? ここのサンドウィッチはとても美味しいんだよ。お天気の良い日にママと出かけるとさ、よくお昼にここのランチセットを買って公園で食べるんだ。」


そう、このスーパーのお惣菜は僕とママのお気に入りだった。ママにも食べてもらいたいな……。そうだ、もし僕がお見舞い中にママの目が覚めたら半分ママにあげよう。本当ならマックスにも買っていきたいけれど、たしか用務員のおじさんがマックスの病棟は食べ物の差し入れが禁止って言ってたからな。僕がママとマックスのことを考えていると、パパが手に持っていたサンドウィッチとオレンジジュースとチョコレートバーを僕の持っていた買い物カゴに入れた。


「ほら、金を払いにいくぞ。」


そう言うとパパはレジの方へむかった。僕はまだ買いたいものがあったので慌ててパパをとめた。


「パパ、待ってよ。僕ママにお見舞いを買っていきたいんだ。それとマックスにも。」


そう言うとパパは少し飽きれた顔で言った。


「お見舞いって言ったってママは眠ってるんだぞ。何を買っていってもお金が無駄じゃないか。それに友達にまでお見舞いを買っていくことはないだろ、家族じゃないんだ。」


パパは何て事を言うのだろう。確かにママはまだ目を覚ましていないけれど、だからって関係ないじゃないか。それに僕にとって友達は家族と同じだ。いや、むしろ家族のパパよりマックスのほうがよっぽど僕の中では大切だった。


「いいじゃない、パパ。お金なら後で僕のお小遣いで返すから。お願い。」


そう頼むとパパはしかたがないといった顔をして言った。


「パパはここで待っているから早く持ってきなさい。こんな混ごみした所でうろうろしたくないからな。」


よかった。僕は急いでお花が売っている場所へ早歩きで行った。たくさんの綺麗で色とりどりの花が売っていた。僕はいろいろと迷ったけれども可愛らしいピンクのバラの花束を2つ選んで、パパの待っているレジの近くまで人をくぐり抜けて急いだ。ママとマックス喜んでくれるといいな。僕はたとえ病院とはいえ2人に会えることがとても嬉しかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ