21 脱出
気が付くと僕は教室に戻り机の上でうつ伏せになって座っていた。僕の意識が戻ったことを誰にも気がつかれない様に僕はじっと動かないように気をつけながらうつ伏せのまま耳を澄ませてみた。まあ、正直ろくに動けなかったということもあるけれど……。しばらくするとアームストロングの声が聞こえてきた。
「いいか、お前らは人間じゃないんだ。お前らは我々のロボットだということを忘れるな。お前らは私達教師様の言うことだけを聞いていればそれでいいんだ。」
なんてことを言っているんだ? このクラスの奴等はみんな洗脳されているのだろうか? 今考えてみると体育の授業の時ホールで僕をイジメていたこいつらの目はとても変だったような気もする。アームストロングはこいつらを洗脳して僕をイジメるようにコントロールしている? もしそうだとしたら? こいつらの意思ではなく、アームストロングの言いなりに行動していると言う事なのだろうか? わからない。でも逃げなくてはいけない、でもどこへ? どうやって? 学校から出るのは難しい、それどころかアームストロングから逃げるのすら難しい。いったい誰に助けを求めればいいんだろう? いや、とにかくここにいるのはだめだ。とにかくどうにかしてまずアームストロングから逃げなくては。なにか方法があるはずだ。僕の席はドアから遠い……。普通に逃げようとしてもクラスの奴等に止められてしまうに決まっている。もしも……、もしもアームストロングが本当にこいつらを操っているとすれば、まずはアームストロング本人をどうにかしなくてはいけないんじゃないか? どのような方法を取っているのかはよくわからないけど、もしアームストロングがこいつらに僕をイジメる合図を出しているのだとしたら、その隙を与えないようにすればいいんだ。そうすれば誰も僕のことを襲わないかもしれない。僕はそっと机を握った。この机でアームストロングを殴りつけて逃げよう。もうこれ以外何も考えられなかった。そしてなぜだろう、うまくいってしまったのだった。
僕が振り上げた机がうまくアームストロングの醜い顔に当たった。僕は思いのほか上手くいったことに自分でも驚いてしまい、一瞬立ちすくんだけれどもすぐに我にかえった。今だ! 僕は教室の後ろにあるドアを開けた。振り向くとアームストロングはまだうずくまっているうえに、クラスの奴等は何事もなかったかのように平然として自分たちの席に座っていた。やっぱりこいつらおかしい。でも今はそんなことどうでもよかった。とにかく逃げなければ。僕が教室から出ると、反対側の廊下から校長先生が歩いてくるのが見えた。よかった、校長先生なら僕を助けてくれる。僕は助かったんだ。
「校長先生、僕を助けて!」
僕が校長先生に駆け込むと校長先生はビックリした様子で僕の腕を取った。
「校長先生、その子ったら授業を逃げ出したんですよ。さあ、クリス教室へ戻りましょう。」
後ろからアームストロングの声が聞こえた。何故か優しい声だ。僕はアームストロングの方を見た。いつものアームストロングとは全く違う表情、そうパパに対して猫を被っている時と同じ表情だった。アームストロングは校長先生にも猫を被っているんだ。校長はアームストロングの本性を知らないんだ。きっと校長先生は僕よりもアームストロングの言っていることを信じるに決まっている。僕は恐ろしさのあまり凍りつきそうだった。もう今渡こそ僕はだめかもしれない。




