12 混乱
僕と男の先生はマックスを支えながら保健室へむかった。保健室へ行くと保健室の先生が出てきて呆れたように言った。
「集会? まったくどうして生徒達が倒れるってわかっていて下らない集会なんかやるのかしらね。ああ、フランシス先生、その子をベッドへ運んでください。」
僕と一緒にマックスを運んできたのはフランシス先生っていうんだ。優しそうだな。僕達がマックスをベッドへ寝かせて布団をかけると続けて保健室の先生は僕にむかって言った。
「それから君、君はその子に付き添ってあげてくれる?」
僕はマックスのことももちろんとても心配だったし、正直集会には戻りたくなかったので付き添いを頼まれてほっとした。
「フランシス先生は集会場へ戻っていただいて結構ですよ。どうせまた誰か倒れるんだし。」
そう言うと保健室の先生は呆れた顔で作業していた机に戻って行ってしまった。フランシス先生が保健室を出て行くと保健室の先生はマックスの所へ行き丸めた書類で彼の頭を叩いた。
「マックス、もう倒れたふりはいいよ。」
保健室の先生がそう言うとマックスはすくっと起き上がった。
「マックス、大丈夫?」
僕が心配そうにマックスを覗き込むと彼と保健室の先生は笑い出した。
「マックス、今日はふけるのに失敗したの? しおらしく倒れたふりなんかするから笑いをこらえるのが大変だったのよ。」
保健室の先生はそう言うとマックスが横になっていたベッドへ座った。
「だってこいつがさ、無理やりおれを集会場に連れて行くから……。あそこから脱出するには倒れるふりをするのが1番だろ。」
そういいながらマックスは僕を見てニヤリとした。演技だったんだ。本気で心配したのに! 僕はものすごく腹がたった。マックスにもほとほと呆れたけれど、それにしてもなんなんだよこの保健室の先生は?
「保健室の先生はマックスを怒らないのですか? 集会に出たくないからってこんな真似して。」
僕には保健室の先生がさっぱりわからなかった。生徒の仮病を一緒になって笑う? こんなことありえない。僕が呆れていると保健室のドアが開いた。誰かが来たみたいだった。
「大丈夫かお前達? しっかりと歩くんだ。」
さきほどのフランシス先生だ。また誰か倒れた奴を連れて来たのか? 僕はドアの方へ行って目を丸くした。10人、いやもっとだ。真っ青になった生徒達がわんさかと押しかけてきた。そしてその中にはイージーもいた。
「保健室の先生、大変です。」
僕は保健室の先生の所へ行き助けを求めた。保健室の先生は手慣れたように束ねてあったパイプ椅子をならべて生徒達を座らせた。なかには座っていられない生徒もいて何人かがベッドへ倒れこんだ。ソファーへ倒れこんだ者もいた。なんなんだ? 集会といっても室内のホールで行われている。ギンギンの太陽の下ならともかく、なぜこんなに沢山の生徒が倒れるんだ? いつもこうなのか? 僕は呆然と立ち尽くしていた。
「私吐きそう……。」
パイプ椅子に座っていた女の子はこう言うと流し台へと駆け込んで行った。もどしているようだ。ベッドに横たわっていた1人が急に泣き出した。いったいこいつらどうしたんだろう?こんな変な光景なんて始めて見た。僕が呆然としていると保健室の先生の声が聞こえた。
「君、ベッドで泣いている子の側にいってあげてくれる? それからマックス、お前は流し台へ行った子の様子を見てきて。」
僕は我に返って急いでベッドへ行き、泣いている子の背中をさすった。マックスも保健室の先生の指示にしたがっていたようだった。そうだ、イージー! 僕はイージーの所へ行き様子を見た。イージーは真っ青だった。どうやら倒れたふりなどではないらしい。
「イージー? 本当に気分が悪いの? なんだか真っ青だよ。」
僕がそう言うとイージーは少し微笑んで言った。
「今日のは本物。どういうわけか、急に気持ちが悪くなって立っていられなくなったの。少し眠れば大丈夫だと思うわ。」
そう言うとイージーは目を瞑った。イージーは他の生徒と比べると症状は軽そうだったので、僕は少し安心して別の生徒の所へ駆け寄った。保健室は大騒ぎだった。保健室の先生とマックスと僕は狭い部屋を動き回りここにいる全ての生徒達を順番に落ち着かせようと努力した。こちらが落ち着くと今度はあちら、そして1度落ち着いた生徒が再度パニックを起こしたりとこの騒ぎは永遠に終わらないのではないかと思ったくらいだ。しかし徐々に彼らは落ち着きを取り戻し眠りに入っていった様子だった。




