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復讐  作者: 南y
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11 集会

 朝だ。昨日はあんなに変なことや嫌なことがあったのに僕はぐっすりと眠れたらしい。いつもならママがバタバタと家のなかを歩き回っている音で目が覚めるのに今日はとても静かだ。静かどころか静まりかえっていて自分の家ではないみたいにすら感じた。9月なのにとても暖かくて窓から入ってくる太陽の光がとても眩しかった。まあ、この光のおかげで僕は目が覚めたのだから文句は言っていられないのだけど。時計をみると8時を過ぎたところだった。いつも起きている時間だ。そう、いつもならママが起こしてくれる時間だ。そうだ……、ママがいないから自分で朝食を準備しないといけないんだ。僕は部屋を出てキッチンへむかった。キッチンにはひやりとした空気が漂っていた。いつもならママが暖かい朝食を作ってくれているからキッチンはほのかに暖かいのに。ママのいない家は静かで冷たい。そう思いながら冷蔵庫を開けてみると、食べたい物は何も入っていなかった。僕は棚をあけてコーンフレークを見つけた。パパがよく食べているやつだ。何時も僕とママは暖かい朝食を食べるのだけれど、パパは朝から大げさな食事をしたくないのと、時間がもったいないからと言っていつもコーンフレークを食べていた。僕はコーンフレークは好きではないけれど、これ以外食べられそうな物がなかったのでしかたなく冷蔵庫を開けてミルクを取り出した。おいしくもないコーンフレークを食べながら僕はママのことを考えていた。毎朝布団をもぎとり”おはよう、朝よ。”と笑顔で僕をおこしてくれるママ。いつもはうざいと思っていたのに。ママが毎日作ってくれる暖かい朝食、あるのが当たり前だと思っていた。卵が小さいって文句を言ったこともあったっけ。どうして文句なんて言ったのだろう。どうして僕はいままでママにお礼すら言わなかったのだろう。ママがいないと朝食すら僕はまともに食べることができないんだ。こんなパサパサとした甘いだけのコーンフレークを食べなくてはいけないなんて。僕は胸がつぶれる思いだった。僕が泣いているとパパがやっと起きてきた。


「クリス、コーヒーってどこにあるんだ?」


これがパパの朝一番の言葉だった。ママはいつもおはようって言ってくれるのに、パパはそんなことよりコーヒーのことが頭にあるんだ。ママが留守のいま、僕はパパの冷たさをとても感じた。ママのいない生活なんて僕には耐えられない。



 パパは僕を車で学校まで送ってくれようとした。歩いたってたかが2~3分だけど実際車だと20分もかかった。車に乗り込んでパパがエンジンをかけているうちにシートベルトして、出発してからは早いんだけど学校へ到着すると他の生徒の保護者達の車がうじゃうじゃしていたのだ。ただでさえ狭い道路が埋め尽くされてしまい渋滞をひきおこしておりどうしようもない状態だった。車を止める場所もなく、僕とパパはしかたなく家まで引き返してこなければいけなかった。当然遅刻だった。アームストロングにまだ怒鳴られるのか……、そう思うと急ぐ気にもなれず、車を降りてパパと一緒にとぼとぼと学校まで歩いた。


「明日からは歩いて登校だな、そのあとパパは車をとりに家まで戻らないといけないのか、面倒だな。車通学を許すのなら学校側で駐車場くらい設備してもらわないと困るな。」


相変わらずパパは文句ばっかりだ。まあ、たしかにあの渋滞はひどかったけど。パパとたわいのない話をしていたら学校に着いてしまった。いやだな、行きたくないな、と思った。学校へ行きたくないなんて思ったのは生まれて始めてだったと思う。そんな僕の憂鬱などお構いなしといったようにパパはイライラしながら僕に言った。


「じゃあな、学校が終わるのは2時45分だったか?」


パパは時計ばかりちらちら見ていた。


「そうだよ。それよりパパ今日遅刻なの? さっきから時間ばっかり気にしているよ。」


朝のドタバタのおかげで僕だけではなくてパパも会社に遅刻のようだった。しかし僕がそう言うとパパは関心なさそうに答えた。


「心配ないよ。ちゃんとむかえにくるから勉強しっかりな。」


そう言うとパパは行ってしまった。ママはいつも僕が教室へ入ってしまうまで手を振っていてくれるのに。パパが居てくれたらもしかしてアームストロングの怒鳴りを避けることができたかもしれないのにな、そう思いながら教室のドアを開けるとアームストロングの姿はなく、生徒達が自分勝手に騒いでいた。


「よっ! おはよう、クリス」


明るい声が聞こえた。マックスだ。


「おはよう、マックス。今日も元気だね。」


そういうと、マックスは僕に小声で言った。


「今朝はまた集会だってさ、おれ集会大っ嫌いでさ、話なんて聞いたことないけどさ。しかも今日はアームストロングの話だってよ。」


ああ、それでアームストロングは教室にいないのか。おかげで助かった。すると急にマックスは僕の肩に手をまわしてきた。


「ふけちゃおうか?」


「えっ? 何? ふけちゃう? なにそれ?」


僕はキョトンとして聞いた。


「これだから優等生は……、抜け出すんだよ、つまんないじゃん。」


学校を抜け出す? そんなこと今まで一度たりとも考えたことがなかった。僕はマックスの腕を振り払った。


「やだよ。たしかに集会はつまらないけどさ、学校だよ。そんなことしちゃだめだよ。」


僕はマックスをにらんだ。するとマックスはすこしも悪びれた様子もなく僕に言った。


「おれしょっちゅうやってるよ。集会に出ると頭が痛くなるんだよ。冗談とかじゃなくて、なんか気持ちも悪くなるし。」


マックスは集会が嫌いなんだ。まあ、好きな奴なんていないだろうけど。それとも学校が嫌いなのかな? そんなふうには見えないけど……。


「おはよう、ボーイズ。」


明るい声が聞こえたので振り向くとそこにはイージーがいた。


「おはよう、イージー、ねえ知ってる? マックスってサボリ魔なんだよ。」


ぼくはニヤニヤしながらマックスの顔をみた。


「今朝の集会もさぼるんだって。」


僕がそう言うとイージーはこう言ってきた。


「あら、私は集会の時はいつも貧血をおこしたふりして保健室で寝てるわ。集会中具合が悪くなる子が多いから誰も疑わないしね。」


イージーはそう言うと肩をすくめた。ああ……こいつら。これまで僕はイージーは真面目な子なのだという印象があったからイージーまでさぼるなんてなんだか意外だった。そういえばイージーは可愛いな、アームストロングに目をつけられているのかな? でもやっぱり学校をさぼるのはだめだから僕はマックスとイージーに集会にはきちんと出て欲しかった。


「だめだよ、きちんと出るんだよ。それにしてもそんなに具合が悪くなる生徒がいるのにどうして集会なんて開くんだろうね。前の学校は学期の初めと終わりくらいしか集会なんてなかったよ。」


僕は何も考えずにそう言った。そして何気ないこの一言が後に僕達が真実に近づく第一歩となったのだった。


「そういえばそうよね。それに集会っていってもいつもホーワードがなにか下らない事を喋っているだけで、なんにも大切な事なんて学んでいないわね。」


イージーがぽつりと言った。集会開始の鐘がなった。僕は時間に遅れるのが大嫌いだ。まあ、今朝は遅刻したけど……。


「ほら、行くよ。2人とも。」


僕はそういいながら2人の背中を押した。僕はこの時はまだ知らなかったが、実はこの時学校中のすべての鍵がゆっくりとゆっくりとかけられていったのだ。外部から誰も入ることができないように。僕は集会場に入ると何とも言えない寒気を感じた。ここはとても広くてとても冷たい感じの場所だった。おそらく本当に気温も低かったのだろうが、それだけではなく何とも言えない気持ちの悪い冷たさを僕は感じたのだ。そして集会が始まった。まずは副校長の挨拶とかでホーワードが壇上へあがり何かを喋っていた。また宗教の話か?僕は宗教にはあまり興味がない。自慢ではないが僕は興味のない話を誰かが始めた時に耳をシャットアウトできる。こんな話なんか聞いてるほど僕は我慢強い人間ではない。僕はホーワードの話を聞くのを止めてお得意の空想の世界へ入って行った。僕が想像の世界で遊んでいると、きゅうに誰かが僕の背中に倒れてきた。ぼくの後ろはマックスだ。僕は倒れるマックスを抱え大声で先生方に助けを求めた。すぐに男の先生が飛んで来てそして僕に言った。


「保健室に連れていこう。」

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