表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐  作者: 南y
10/63

7 襲撃

 当然のように眠れなかった。なぜ息子がまきこまれなくてはいけないのだ? ほかにも肌の色がこい子供なんていくらでもいるではないか。いや……、そういえばあの学校は白人ばかりだ。この移民大国で? やはりなにかがおかしい。それと出て行くと簡単に考えてしまったが、旦那と息子にはなんて告げるんだ? 出て行くなんて言ったら笑い飛ばされるだろう。いや、怒鳴られるかもしれない。やっと見つけた仕事だ。ああ、どうやって息子をこの町から出せばいいのだろう? 答えが見つからないまま気がつくと朝になっていた。結局一睡もできず、私の頭はますます混乱していた。とりあえず、息子が起きる前に旦那に話をしなければいけない。そうこうしているうちに旦那が息子を起こしてしまった。よけいなことを! なんだってしたこともないことを! よりによって今日に限って息子を起こすなんて! なんとしても止めなくては。私は慌てて息子の部屋へ向かった。突然入って来た私にびっくりした息子はただでさえ大きな目をますます大きくして唖然として私を見つめた。私は息子の額に手をあてて慌てて言った。


「ねえ、顔が赤いわ。熱があるのよ。今日は学校お休みしましょう。」


そう言う私に息子は笑いながらいった。


「大丈夫だよ。昨日だって早退したんだよ。お友達ができなくなっちゃうよ。ママ、はやく朝ご飯食べようよ。」


そう言うと息子は私おいてパジャマのままキッチンへ行ってしまった。



 私ははっと我に返った。そうだ息子を外に出してはいけない。息子を追いかけてキッチンへ行くとそこで旦那と息子が静かにパンをかじっていた。


「大丈夫か?顔色悪いぞ。それよりコーヒー入れてくれ。」


旦那はそう言いながらバターに手を伸ばした。私はコーヒーのことなどすっかり忘れてこう言った。


「あのね、この子の顔色がよくないでしょ。なんだか赤いし、熱があると思うのよ。今日は学校をお休みしたほうがいいと思って。」


ほとんどパニックを起こしながら言う私に旦那は冷たくこう言い放った。


「何を慌てているんだ、顔色なんて少しも悪くない。いい加減に子離れしたらどうなんだ。専業主婦なんてくだらないことをしているから、いつまでたっても息子をそばに置きたがるんだ、くだらないことを言っている暇があったら仕事でも探せ。」


旦那はいつでもこうだ。私が何か言うといつもきまって私に仕事が無いことをせめる。私だって好きで無職でいるわけではないのに……、本気でムカつく。私は祖国にいたころはそこそこの大学を出てそれなりの仕事をしていたが、この国での学歴はないし言葉だってけしてネイティブのように話せるわけではない。そんな30すぎた子持ちに仕事など簡単に見つかるわけがないのがなぜこの人には理解できないのだろう。こんなハンディを背負いまくった私が仕事を見つけられるくらいなら、この国の失業率はゼロになるだろうに。そもそも雇ってくれる人さえいれば、好きでもなく見返りさえ求めることのできない家事なんてしているより、生き生きと仕事がしたい。それにしても私が家に居て家庭のことをすべてやっているから自分が仕事に専念できているんだろうに。ゴミの1つも自分で捨てることができないし、食事も食べたら食べっぱなし、それこそコーヒーの1つすら自分では作れないくせに、偉そうに。自分が仕事を持っているから、ただそれだけでまるで王様のような態度をして私を見下す旦那には毎回吐き気がした。それでも今日ばかりは喧嘩している場合ではない。私は旦那を挑発しないように下でにでて頼んだ。


「あのね、今夜詳しく話すから、とても大切なことなのよ。この子には今日家にいてもらわないとこまるのよ。お願いだから今日は私の言うことを聞いて下さい。」


気がつくと私は泣いていた。泣きながら一生懸命に頼む私に旦那は鼻で笑いながら席を立った。


「クリス、ママのことなんてほっておけ、それより早くしないと遅れるぞ。」


そう言う旦那の顔には勝ち誇ったようなイヤらしいさが垣間見れた。痛恨の一撃をくらった私はショックのあまり絶望して立ち尽くしていた。



私を苦しめ傷つけることしかしない旦那とは対照的に息子は本当に優しい子だ。泣いている私の肩に手を置いてこう言った。


「ママ、もしママが僕に家にいてほしいならそうするよ。大体ママが朝寝坊するなんて、こんなこと始めてだもんね。具合が悪いのは僕じゃなくてママも方じゃないの? 僕が家にいてママの面倒をみてあげるよ。」


しかし旦那は息子が私に優しくしているのが気に入らなかったのだろう、横から口をはさんできた。


「クリス、早く仕度をしろと言ったのが聞こえないのか。今日はパパがお前を学校まで送っていかなくてはいけないようだな。まったく役に立たない母親だな。」


いつもこうだ。旦那はいつでも私の言ったことと正反対のことをする。息子を学校へ行かせたくないといえば、無理やりにでも連れていく。こうしてただ単に私の言うことを否定するためだけに存在しているかのようだ。畜生、本当にこの男いつか殺してやる。今までもうんざりしていて、とてもではないが愛情などなかったが、今度という今度は殺意さえ芽生えてしまっていた。


「私にはそれなりの理由があるのよ。今夜話すと言っているでしょう。この子は今日は家から出てはいけないのよ。」


私は息子を外へ出すのが嫌なのと旦那への嫌悪感から気がついたら大声を出していた。そんな私の大声が気に入らなかったのだろう、旦那は私の倍以上の大声で私に怒鳴りつけてきた。


「うるさい、だまれこの寄生虫が。泣いてる暇があったら仕事をさがせ。」


そういうと息子の腕を掴んで私から引き離し、キッチンのドアをおもいっきり閉めて行ってしまった。1人残された私は溢れてくる涙を止めることができなかった。泣いていてもしかたがない。息子を守れるのは私しかいないのだからと思いなおし、私はキッチンから出て旦那を追いかけた。すっかり支度が整った旦那は玄関の外でイライラしながら息子が来るのを待っていた。私は旦那にかけ寄り、無駄だとは思いながらも同じ言葉を繰り替えしていた。


「今夜話すから、ねえ、お願いよ。あの子を連れていかないで。」


そんな私に旦那は話すんなら今話せと言ってきた。ああ、どうしてこの人は空気が読めないんだ。普通の人なら”今夜”といった時点で息子には聞かせたくない話だとわかるだろうに。私がどうしたらよいのかわからずにいると、息子は歯を磨き終わり制服にも着替えて玄関へ来てしまった。息子は靴を履き終わると私ににっこりと微笑んでくれた。


「ママ、大好きだよ。行ってくるね。」


そう言い残して外で待つ旦那とともに行ってしまったのだった。


 何時間呆然としていたのだろうか。ただ時間が経つのを待っているのがこんなに苦痛だなんて思わなかった。ただ黙って座っているよりも、何かをしていた方が気が紛れるかもしれない。そして掃除でもしようかとソファーから立ち上がると急にインターホンが鳴った。私は急いで涙をぬぐい玄関へ出るとサングラスを掛けて帽子を深く被った女性がそこに立っていた。誰?


「あんたの息子が言ってたよ、ママが変だったってね。なんでも学校へ行くのを全力で止めたんだって? あんたは危険な存在だね。私達の楽しみを奪いかねない。」


そう言うとその女性は手にしていたスタンガンで私を攻撃した。私は避けるまもなくその攻撃をくらい倒れてしまった。



 気がつくと私はどこかで横たわっていた。ここはどこだろう、それになんでここはこんなに暗いのだろう。真っくらな部屋を見渡そうとした時に私はおかしなことに気がついた。首がまわらないのだ。私は起きようと体を動かそうとしたが動かない。いったいどうしたというのだろうか? 考えなくては……。そうだ……。私は知らない女性にスタンガンで襲われたことを思い出した。怖くなり助けを呼ぼうとしたが今度は声が出ない。いったいどうなっているというのだろうか? ここはどこなのだろうか? どうしてここは真っ暗なのだろうか? いやそんなことより息子は? 彼は無事なのだろうか? 私は再び体を動かそうと懸命に起き上がろうとし、声も出そうとしたが、私の体は少しも言うことをきいてはくれなかった。私は自分の置かれている状態を把握すると恐怖と焦りでなんともいえない不安に陥り体中から血の気が引いてしまった。絶望感でいっぱいだった。しかし絶望したことが意外とよかったのだろうか? 私は恐怖と不安はまた抱えていたものの、自分でも驚いたことに冷静になってしまったのだ。私は無理に動いていても体力の無駄になるだけだと悟り、落ち着いて考えてみた。どうやら体が動かないようだ。そして声もでない。目も見えていない。いや、それどころか目を開けることさえできていないようだ。耳はどうだ? 耳をすましてみたが何も聞こえない。もしかして……、もしかして……、もしかして私は死んでしまったのだろうか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ