ある動きその一
風紀部隊第二課諜報部。
所狭しと敷き詰められた本棚に囲まれた部屋の中で、少女はいつものように机に向かって書類監査を行っていた。
「よし、この件はこれで終わりっと」
トントンっと手元にあった書類を整え、ファイルにしまう。
その無駄のない動作・慣れた手つきから、彼女が何年もこの仕事を続けていることが窺える。
彼女のほかにも数名ほど第二課の隊員が近くで仕事をしているが、まだ終わる気配はなさそうだ。
少女はぐっと伸びをしてから、机の上に置いてある時計を横目で見た。
時刻は夕方。
普段ならこれで上がっても問題はないのだが――。
「武装不可、かぁ」
そう。たった今少女が嘆息した通り、この後厄介な事件について報告された書類をまとめなければならない。
発生した時刻は三日前の早朝。
報告された死者数は計四名。
死因は、亡霊による轢殺、圧殺、刺殺など。
これだけならば、別におかしいところはなにもない。
しかし、その下の備考欄に記された『武装不可』という新問題。
「厄介なものがまた舞い込んできちゃったか……」
原因は不明。唯一の生存者である第三課副隊長から得た情報は、突然指輪の輝きが失われたということだけ。
つまり、強制的に武装を解除されたわけではないということだ。
むしろ、武装中にも関わらず能力を発揮できなくなった、向上しているはずの身体能力が元の状態に戻ってしまった、という点から考え得るに――。
「封印、みたいなものなのかなぁ。でも」
武装を封印するような能力を持つミフィールなど聞いたことがない。
いや、むしろそのような能力など存在するはずがない。ミフィールが同種族である仲間の能力を使えなくするなど考えられないのだ。
すなわち、現状考えられるとしたら――。
「亡霊が新たな能力に目覚めたのかな……」
環境適合能力。
亡霊がこの獄園という世界を支配してきた最もの理由。
それによって新たに生み出された力、対象を武装不可状況にする能力。
そう考えるのが妥当かもしれない。
しかし。
「本当に亡霊なのかな……?」
少女は何かに引っ掛かり、納得できない表情をしながら書類と睨めっこをし始めるのであった。