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怠惰な淫獣と変態契約者  作者: るなふぃあ
第一章 新チーム結成
3/21

「皆も知っていると思うが、三日前、亡霊との戦闘中に突如武装できなくなるという事件が起こった。これに関して現在、第一課の隊員が原因の究明に努めているが……未だに有力な情報を得ていない」

 ピリッとした空気が流れる会議室にて。

 まだ手のひらの跡が残っている頬を片手で隠しながら、俺は第一課隊長、アリシア=リゼットの話を静かに聞いていた。

「聞き込みなどによる情報が皆無に等しいため、一つずつ解き明かしていくしかないだろう。そこでだ、まずは犯人の種族を絞っていこうと思う。武装不可の状況を作り出した者は一体誰なのか。我々人間の手によるものなのか、それとも契約していないミフィールの手によるものなのか、はたまた亡霊の手によるものなのか。亡霊がそのような能力を持っていることは今までになかったため、奴等が犯人である可能性は低いと思っているが……実際にこの目で確認したわけではない。もし亡霊にそのような能力が新たに備わったのなら非常に厄介だ。今後、戦闘方法を大幅に変更しなければならないだろう」

 この獄園という世界には三種類の代表的な種族が存在する。

 一つ目は俺のような人間、いわば人類である。その中でも、死後に日本から獄園へやってきた人間が迷人と呼ばれ、もともと獄園に住んでいる人間が獄人と呼ばれている。

 迷人と獄人の見た目は大して変わらないが、能力的な面で二つの大きな違いが存在する。

 それは――。

 隣で居眠りをしている契約者を横目で見た。

 そう。一つ目はミフィールという種族と契約することができるかどうか。

 すなわち、武装できるか否か。

 もちろん、ミフィールと契約することができるのは迷人のみである。

 とはいえ、中には迷人と獄人の間にできた子どももいるため、副隊長みたいな例外は存在するけど。

 そして武装以外に違う点、それは身体能力の差である。

 獄人は武装できないため、迷人よりも戦闘能力が低いと思うかもしれない。

 が、決して獄人が弱いわけじゃないんだ。実際、彼らは身体能力一つで亡霊とわたりあえている。

 それに対して迷人は所詮日本からやってきた人たちである。確かに武装時は強大な力を発揮するけど、非武装時の迷人は獄人よりも遥かに身体能力が低く、戦闘能力は皆無といっても過言ではないだろう。

 二つ目の代表的な種族は、ミフィールという名の生き物である。

 もともと獄園に住んでいる種族であり、見た目は様々。ルナのように人間の姿をしている者もいれば、犬や猫のような動物の姿をしている者もいるし、言葉では表現し難い怪物のような姿をしている者もいる。

 ミフィールが俺たち人類にとって敵か味方かと問われると、正直言ってどちらともいえない。良い奴もいれば悪い奴もいるので……まぁ、なんだ。積極的にこちらから接していくことはないと思ってくれればいいだろう。

 最後に三つ目の代表的な種族。もちろんそれは亡霊である。

 我々人類の天敵であり、この世界を支配している存在。

 亡霊に関する情報は非常に多いため、悪いが今回は割愛させてもらおう。

 ちなみに、俺が出席しているこの会議では三日前に起きた事件についての話し合いが行われている。なんでも亡霊と戦闘していたら突然武装できなくなったとかなんとか。

 詳しいことはまだわからないけど、とにかく俺はその場に居たってだけでこの会議に参加させられているんだ。

「幸いにも事件後は武装不可の状況に陥るという事態には陥っていない……が、いつ起きてもおかしくはないだろう。早急に原因を見つけなければならないことにかわりはない。ちなみに――」

 それにしても話が長いな。こちとら睡眠時間を削られたせいで眠いんだからさっさと要件を終わらせてくれ。

 とはさすがに言えないので、欠伸を噛み殺しながら第一課隊長の話を聞いていく。

 一方、俺の隣からはすぅすぅという気持ちよさそうな寝息が聞こえてくるわけで。

 くそぅ、ルナの奴め、堂々と寝やがって。お前が俺のそばから離れたくないって駄々をこねたから無理を言って会議室へ入れてもらったのに……これじゃあみんなから反感を買うだけじゃねえか。

 横目でムカつく奴の様子を覗う。

「んぅ……ふみゅぅ」

 もの凄く気持ちよさそうだ。まるでふかふかのベッドの上で眠っているかのように幸せな表情をしている。

 ちょっと悪戯でもしてやろうか。

 あまりにも退屈過ぎたので、眠気覚ましも兼ねてルナの頬を軽く抓ってみると、

「むぅ、だめぇ」

 眉間にしわを寄せたが、起きる気配はない。

 完全に熟睡してやがる。

 そのことがより俺をイラッとさせたが……反応は面白いな。

 続けて、つんつんと頬をつついてみると、

「ん、んんっ……とのさまぁ」

 おっ、今度は俺の名前を呼んだぞ。一体どんな夢を見てんだ?

 ぷにぷにと頬を揉みしだいてみる。

「あぁんっ、そこはだめです……殿様のえっちぃ」

 変な夢だった。絶対によからぬ夢だ。

 なんというか夢の中の俺が羨まし……じゃなくて!

 そろそろ起こすか?

 いや、でも――。

 ルナの寝顔を見ながら耳を澄ましてみる。

「であるからして、今回は――」

 まだ第一課隊長の長い話は続いている。もしここでルナを起こしてしまったら退屈な時間が訪れることは間違いないだろう。

 眠気を堪えるのは辛いし……もうちょっとだけ。

 再びルナの頬に利き手を伸ばした。

 次は頬を引っ張ってみようかな。今度は一体どんな台詞を言うのかな。

 と、右手でルナの頬を引っ張り、「あんっ、鞭で叩くだなんてらめぇ」と、ルナが変態極まりないセリフを吐いた瞬間だった。

「おい、戸野差」

「あ……」

 しまったと思うが、もう遅い。

 第一課隊長がこめかみに青筋を浮かべながら俺を見ていた。

「私の話を聞かずに何をしているんだ?」

「いや、別に話を聞いてないわけじゃないですよ? ほら、ルナが寝ているので起こそうと思って」

「ほォう、それにしてはやけに彼女の反応を楽しんでいるように見えたが?」

「き、気のせいですってば。コイツなかなか起きないもんで、つい……」

「つい、なんだ?」

「あ、いえ、なんでもないです。ほら、起きろルナ、おーきーろー」

 これ以上話を続けたらボロが出そうだったので、バンバンッ。

 ルナの背中を叩くと、さすがの彼女も目を覚ましたらしく、

「もう、なんですかトノサマ。今いいところでしたのに」

「なにがいいところだ。今は会議中だぞ。ちゃんと話を聞け」

「そんなこと言ったって、話が長くて眠くなるんですからしょうがないじゃないですか。トノサマだって暇つぶしに私の身体で遊んでいたくせに……」

「なっ!?」

 コイツ、実はあの時起きてやがったな!?

「ところでトノサマ、次はどこをどうするつもりだったんですか? ほっぺに飽きて私のじゃくてんを触ろうとしたんじゃ」

「――ッ!?」

 バレていたのか。まったく勘の鋭いやつめ。

「でもいいんですよ? トノサマなら」

「なんでだよ」

「だって私はトノサマの――」

「そろそろ二人の世界から戻ってきてもらおうかッ!」

「ふぎゃっ!?」「あいだっ!?」

 パァンッ、パァンッ、と清々しい音と共に凄まじい威力のビンタがルナと俺を襲った。

「ったく、いいか? これは遊びじゃないんだ。通常なら貴様のような第三課の隊員をこの会議に参加なんて絶対にさせない。しかし、現に貴様は参加している。その意味がわかっているのか?」

 知らねえよそんなこと。俺だって好きでこんな会議に参加してるわけじゃねえよ。

 と言いたいところだけど、我慢我慢。

 第一課隊長を怒らせたら骨の一本や二本じゃ済まないらしいからな。穏便に済ませられるのならそれに越したことはない。

「ふんっ、だんまりか。まぁいい、そんなに退屈なら端的に告げてやる。第三課隊員、戸野差真志。貴様に武装不可事件についての調査任務を命じる」

「――え?」

「聞こえなかったか? もう一度だけ言ってやろう。当事者である貴様に亡霊が武装不可の状況を作り出した犯人であるかどうかの調査任務を命じると言ったんだ」

「いやいや、そんなこと言ってませんよね。だいたいなんで亡霊限定なんですか」

「先ほど話しただろうが。まずは犯人の種族を絞っていくと。まさかそのことまで聞いていなかったのか?」

「い、いえ。そこはちゃんと聞いていましたよ」

 嘘だろ、そんなことまで言っていたのかよ。

「それならもう一度説明する必要はないな。よし、そうとなれば早速行動してもらうとしよう。どうやら私の話は退屈らしいからな」

 退屈という部分を強調して厭味ったらしく言い放った第一課隊長。

 これは完全に嫌われたな。第一課隊長とは一度任命式で出会っているけど、実際に話しをしたのは今回が初めてだ。本当は少しでも好印象を与えたかったけど、こればかりはしょうがないか。

 第一課隊長の指示に従い、俺とルナは席を立つ。会議はまだ続くらしいが、俺たちは早速任務へ赴けとの命令だ。ほんと、上司の命令に逆らえないって辛いよな。

 と、胸中で愚痴りながら会議室を出ようとしたところで。

「ちょっと待った」

 第一課隊長が俺を引き止めた。

「なんですか?」

「貴様一人では不安だと思ってな。第三課の副隊長にも同じ任務を命じるとしよう」

「はい!?」

 たった今素っ頓狂な声を上げたのは俺ではない、副隊長である。

 どうやら予想外だったらしい。もちろん俺も予想外だったけど。

 いや、それよりも。

「お言葉ですが第一課隊長。悠奈はこんな奴とチームを組むなんて絶対に嫌です」

 ほらね。俺は副隊長にも嫌われているんだよ。

 もちろん嫌われている理由は数十分前に起きた出来事のせいである。

「なぜだ。同じ課の隊員だろう。仲良くやればいいじゃないか」

「そういう問題じゃないんです。こいつは変態で――」

「変態?」

「そう、変態なんです! だって契約者と、その……ッ!」

 どうやら例の光景を思い出したらしく、顔を真っ赤に染め上げた副隊長。

 べ、別に変なことをやっていたわけじゃないんだぞ。ただルナが裸だっただけ。そう、ルナが裸だっただけなんだ。俺はちゃんと服を着ていたし、決して変なことは……やっていない!

「よくわからんが却下だ。これは前々から決まっていたことだ」

「前々から?」

「本来ならこの任務は君に任せていた。当事者だからな。もちろんトラウマはあるだろうが、原因を自分で見つけ出したい、そういう願いは少なからずあるだろう?」

「それは……もちろんそうですけど。でも、なんで悠奈一人じゃなくてあいつにも?」

「ちょっとした私情だ。気にするな」

 いや気にするよ。その私情って絶対俺のこと嫌いだからだろ。

 そりゃまあ、腹を立たせるようなことをした俺も悪いといえば悪いけどよ、すべての原因はルナ(コイツ)だし。

「なんですかトノサマ」

「なんでもねえよ」

「おいそこ、私語を慎め! ……ということだ、第三課副隊長、悠奈=リリエット。君にも戸野差と同じく武装不可事件の調査任務を命じる」



 と、そんな面倒な任務を命じられてしまったので。

 早速会議室から退出させられた俺と副隊長は喫茶店で作戦を練ることにしたのだが、

「よろしく頼むよ、副隊長」

「ふんっ」

 握手を求めると、そっぽを向きやがった。

「なんでそんなに怒ってんだよ」

「別に? 怒ってないし」

「怒ってんじゃん……」

 小さくため息を吐く。

 こりゃ前途多難だな。とてもじゃないが一緒に任務を遂行できる雰囲気じゃない。怒らせてしまった原因は不明だけど、まずは仲良くなることから始めるべきか――。

 任務を命じられてしまった以上、逃げ出すわけにはいかない。

 というのも、すべてはお金のため、生きていくためだ。

 この獄園という世界では年齢など関係なく労働を強いられる。

 本来俺くらいの年齢なら、今頃学校で退屈な授業を受けて、休み時間になったら友達とワイワイ騒いでいるだろうに……。

 ま、生前の世界とは全く別なのだからこればかりはどうしようもない。文句を言ったって何も変わりやしないんだ。働かなければ満足に飯すら食えないのだから。

 と、いうわけで。

「そう嫌わないでくれよ。同じ任務を受けたんだから仲良くしようぜ」

 再び握手を求める。

「うっさい。あんたと慣れ合うつもりなんてないわ。というかなんで悠奈にはタメ口なわけ? 上司なんだけど」

 面倒くさいな、同じくらいの年齢なんだから別にいいじゃねえか。

「なによその顔は」

「いえ、なんでもありませんよ。敬語がよろしいのでしたらタメ口はやめますが、いかがなさいますか、上司様」

「……やっぱり気持ち悪いから却下」

「どっちがいいんだよ!」

「じゃあしゃべらない方向で」

「発言すら却下されんの!? 俺は一体どうすりゃいいんだよ!?」

 前途多難以前に最初から不可能じゃねえか。言葉すら禁じられたらどうやってコミュニケーションをとればいいんだよ!?

「あぁもう、いちいちうるさいなあ。悠奈が犯人を見つけ出すまでの間、あんたそこでぼーっとしてればいいのよ」

「え、まじで!?」

 まさか副隊長の口からそんな言葉が出てくるなんて。

 サボっていていいのならそれに越したことはない。副隊長にすべてを押し付けて俺はルナとまったり平凡な時間を――。

「もちろん、報酬はあげないけど」

「それは困る! 飢え死にする!」

「あんたの事情なんて知らないわよ。働かざる者食うべからずよ」

「そこでぼーっとしてろって言ったのはアンタじゃねえか!」

「うっさい、それとこれとは別に決まってるでしょ! さてと、それじゃあ作戦は悠奈一人で調査するってことで」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 この場からそそくさと立ち去ろうとした副隊長を引き止める。

 一つの任務を受けた以上、他の任務を掛け持ちすることはできない。

 すなわち、その間生きていくのに必要な経費を稼ぐことができなくなる。

 しかもこの任務が何日かかるかなんて予測不可能。

 いや、第一課隊長が率いる優秀な隊員が調査しても全然進展していないのだから、相当な時間が必要になることは間違いない。

 最悪の場合、迷宮入りしてしまうかもしれないし……。

 あれ? そうなったら俺、やばくないか? 迷宮入りしたら一生他の任務を受けることができなくなるんじゃ――。

「頼む! 頼むから一緒に任務を遂行させてくれ!」

「なによ、なんでそんなに必死なわけ?」

「だってこの任務を終わらせないと他の任務は受けられないだろ」

「そりゃそうだけど?」

「つまりだ。この任務を終えるまでの間、ずっとお金は減り続ける一方なんだ。そのうち飢え死にすることになるだろーが」

「……あんたバカなの?」

「は?」

 今コイツ、なんて言った?

「あんたバカでしょ」

 いやいや、二回も言わなくていいから。

「あのね、そんなわけないじゃない。こういう長期的な任務の場合は、必要経費は必ず支給されるの」

「え、そうだったのか!?」

 知らなかった。一年ほど風紀部隊に勤めているけど、そんな説明は一切受けてねえぞ。

 いや、それよりも。

 いい情報を手に入れたぞ! 長期的な任務を受けて、わざとだらだらやっていれば――。

「もちろん期限はあるわよ。当然だけど、期限内に終わらなければ任務はそこで終了。それまでの間に支給されていた必要経費は借金扱いになるから」

「そんなのあんまりだろ! 無慈悲すぎる!」

「何言ってんの、当然でしょ。そうじゃないとあんたみたいな奴がサボるだけで痛手をみるのはこっちじゃない」

「くぅ……」

 ばれていたのか。もしこの方法が通用するならサボる気満々だったのに。

「というかなんでこんな当たり前のことすら知らないわけ? あんた結構長く風紀部隊に務めているわよね?」

「約一年だ」

「じゃあなんで知らないのよ」

「だって長期的な任務なんて一度も受けたことねえし……」

「はぁ!? 一年やってて全部短期!?」

「おう!」

 ふんぞり返って偉そうに答えてやる。短期任務は簡単なものばかりだからな。危険度も低いし……こう見えても俺は短期マスターなんだぜ。片っぱしから短期で済むような簡単な任務を受けてはクリアし、受けてはクリアしを繰り返している。

 そんな日々が約一年だ。そりゃ短期マスターにもなるってもんだぜ。

「やっとわかったわ。ここ一年近く短期任務がないと隊員たちが愚痴っていたのは……全てあんたのせいなのね!」

「俺のせいじゃねえだろ。さっさと受けない奴が悪い!」

「偉そうに言うな!」

 べしッ。

 なぜか叩かれた。俺悪いことしてないのに……当然のことを言っただけじゃないか。人間誰だって楽な方を選ぶに決まっているだろ?

「あーもう、なんか余計にムカついてきたわ。あんたのせいで会議から一緒に追い出されるし……ホント最悪! 一応今回の任務は必要経費が無料で支給される予定だったけど、あんたのはなしにしてもらうわ。どうせそこでぼーっとしてもらうだけだし、いいわよね」

「よくねえよ! しかもアンタが伝えたら本当にそうなっちまうからやめてくれ!」

「敬語」

「お願いします、副隊長様。どうか俺に、任務を共に遂行するチャンスを!」

「心が籠ってないわ」

「どうか、どうかよろしくお願い致します! このわたくしめと共に任務を遂行させてください!」

「まだまだ誠意が足りないわね」

 ちっ、コイツ偉そうに……。

「なに? なんか文句あんの?」

「いえ、滅相もございません。なんでもいうことを聞きますから、どうかよろしくお願い致します!」

 ついでに土下座もしてやる。

 どうだ、これが最強の申し出だ!

 すると、副隊長は、

「今、なんでもって言った?」

「はい、なんでも!」

「へぇ、そう……嘘じゃないわよね?」

「もちろんでございます!」

「ふぅん。わかったわ、いいわよ。悠奈と一緒に任務を遂行する権利を与えてあげる」

 と、なぜか急に態度を変えたので。

「ありがとうございます!」

 よっしゃあ! と、心の中でガッツポーズをする。

 チョロイ奴め。土下座一つで許可するなんて。

「でも今の言葉、絶対に忘れないから」

「へ?」

「なんでもいうことを聞くってことだけはね」

「あっ……」

 しまった。ついつい口から出ちまってたじゃねえか。

 これは絶対に……何か面倒なことをさせる気だ。

 しかし、言ってしまった以上取り消すことはできない。仮に取り消せたとしても、食事なしの生活が何日も続くのは目に見えているわけで――。

「くそぅ、俺の弱みにつけ込みやがって」

「あらぁ、いいのかしら? そんなことを言って」

「失礼致しました。なにもございません!」

「それじゃああんたの契約者を連れてきて。そろそろ具体的な作戦に移るから」

「かしこまりました」

 と頭を下げた後、契約者を呼びに行こうと席を立ったところで。

「ちょっと待って」

「いかがなさいましたか?」

「やっぱりさ……あんたの敬語、なんか気持ち悪いからやめて」

「だーくそぅ! 自分でも扱い慣れてないのはわかってんだよ!」

 副隊長の態度に腹立ちながらも、俺はわざと席を外させていた契約者を呼びに行くのであった。


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