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怠惰な淫獣と変態契約者  作者: るなふぃあ
第六章 真犯人と裏事情
20/21

15

 剣の混じり合う音が木霊する。

 激しい攻防。武装している俺の方が身体能力は高いはずなのに、実力は互角。

 第一課隊長は伊達に風紀部隊のトップを務めているわけではなかった。

「どうして今回のような武装不可なんて事件を起こしたと思う?」

 右から薙ぎ払われた剣を大鎌で受け止める。

「先ほど話した通り、獄人の地位を復権するためだ」

 続けて左斜め下から振り上げられた剣を、あごを逸らして躱す。

「迷人は図に乗りすぎた。生前に得た知識を活かして亡霊に対抗できる武器を作り上げたまでは良かったが……武装は論外だ」

 そして繰り出された回し蹴りを大鎌で受け流そうとすると、、

「そのせいで唯一利点だった我々の身体能力差が埋まってしまった。ましてやそっちは異能力付き」

 予想以上の威力により大鎌をカチ上げられてしまったので、俺は即座にそれを消失させ、

「未だに表立った騒動は起こしていないが……裏ではやりたい放題。大きな事件に発展していくのは時間の問題だ」

 腕をクロスさせることで第一課隊長の掌底を受け止めた。

「……俺だって裏ではやりたい放題だってことは知っているつもりだ」

 反撃するために《漆黒の大鎌》を両手に召喚した俺は、片方を第一課隊長に向けて放り投げた。

「ついこの前、迷人だってことを活かして悪さをしようとした奴らに出会ったよ」

 そして、わざと右へ飛ぶように仕向けた大鎌を躱させた第一課隊長へ肉薄し、

「でもわからないな。獄人の地位の復権とはいえ、どうして罪のない奴らを犠牲にする必要があった!?」

 右斜め下から大鎌を振り上げた。

「どうしようもないことだ、迷人の威勢を削ぐためには彼らの利点をつぶすしかなかった」

 しかし、第一課隊長は焦ることなく利き手に持っていた剣で受け流した。

「そのためだけにアイツらを犠牲にしたっていうのか!?」

 続けて大鎌を振り上げた時にできた反動を活かして、俺はそのままサマーソルト。

 すると予想外だったのか、腹部に直撃を受けた第一課隊長が後ろへよろめいた。

 その隙をついて副隊長が彼女の利き腕を狙って光弾を放つ。

 が、

「悪いことをしたとは思っている。だが、効果は絶大だっただろう?」

 即座に体勢を立て直した第一課隊長がそれを剣で弾き飛ばした。

「デモ活動のことね」

 副隊長が剣についた焦げ目を憎々しげに見つめる。

「そうだ。本来ならすぐに鎮圧されてもおかしくはない問題。しかし――」

 ターゲットを俺から副隊長へ切り替えた第一課隊長が《浸食霧》を彼女へ向けて放出し、

「加盟者は増える一方。おまけにミレの行動によって迷人に制限を付けることができた」

 さらに利き手に召喚した《漆黒の大鎌》をわずかな時間差で副隊長へ向けて放り投げた。

「くっ……」

 逃げ場を失った副隊長は《完全再現》で梨音へ。

「そういう割には、簡単に仲間を葬る」

 淡々と文句を言い、《空間転移》で俺の横へ転移した。

《浸食霧》によってぼろぼろと崩れ落ちる拷問器具。

 それを見ながら第一課隊長は放り投げた《漆黒の大鎌》を消失させ、

「仲間ではない。利用価値があった駒だ」

《光の拳銃》を召喚し、梨音へ向けて光弾を放った。

「人間を道具扱いするのは許せない」

 その台詞に憤慨した梨音は再び《空間転移》で光弾を避け、第一課隊長の懐へ。

 そして、短剣を逆手で持ち――。

「そう来ると思っていた」

「なッ!?」

 動きを完全に読んでいた第一課隊長が梨音を蹴り飛ばした。

「大丈夫か!?」

 俺はすぐさま梨音のもとへ駆け寄る。

「大丈夫、だけど――」

 カッ。

「時間切れになってしまったわ」

 ティグリスが《完全再現》を解除してしまった。

 それを見た第一課隊長が余裕の笑みを浮かべた。

「有効期限が切れたのか。残念だったな、もっと話をしながら遊びたかったが……時間切れだ」

 そう言いながら剣を振りかざす第一課隊長。

「これから武装不可の状況を作り出した犯人を仕立て上げる準備があるんだ。そのためにティグリスは利用させてもらう。戸野差、悪いが貴様とはここでお別れだ」

「冗談じゃねえよ!」

 カッとなった俺はすぐさま《漆黒の大鎌》を利き手に召喚して第一課隊長に肉薄する。

「なんでそんな酷いことを平気でできるんだ!」

 そして振り下ろした大鎌を、

「酷いこと、ねえ……」

 第一課隊長は剣で悠々と受け止め、

「では逆に問おう。貴様は小さい頃に虐待や差別を受けたことはあるか?」

 ギリギリと鍔迫り合いに持ち込んだ。

「……そんなの、わかんねえよ」

 生前の記憶なんてほとんどない。この世界に来た時、覚えていたのは生活するために必要な知識ばかりだったため、友人はもちろんのこと、家族のことさえも覚えていない。

「やはり貴様も生前の記憶がないのか。ならば違う問いにしよう。今ある平穏な日々を強者にいきなり奪い去られたら、弱者である貴様はどうする?」

「そんなの奪い返すだけだ。どんな手を使ってでも」

 と、当然のように答えると、

「ふっ」

 第一課隊長は満足げに笑った。

「それならわかるだろう、私が今行っていることも……つまりはそういうことだ」

 そして俺の腹部を蹴って距離を取った。

「そんなこと絶対にさせねえ! アンタが過去、どんな目に遭ったのかは知らねえが……無関係の奴らを巻き込んだ上に俺たちの平和な日々まで奪い去ろうとしていることは事実だ! アンタがやっていることはソイツ等と何も変わらない!」

「そう思うのならかかってこいよ」

「言われなくても!」

 挑発に乗った俺は第一課隊長へ向けて大鎌を振り上げた。

 すると、にやり。

 彼女は厭らしい笑みを浮かべ、

『ダメです、トノサマ!』

 刹那、それを見たルナが何かを感じ取ったらしく、いきなり武装を強制解除しやがった。

「――え?」

 通常、戦闘中に武装を解除することはあり得ない行為。

 そう。自殺行為に相当するのだ。

 しかし、直後に鳴り響いたのは――。

 パァアアアン、という脳を揺らすような酷い音だった。

「ほォう。よくこれを防いだな。だが……」

 突撃していた反動により、俺たちは体勢を崩したまま。

 大鎌を失った俺は前のめりに。

 武装を解除したことで姿を現したルナは第一課隊長に背中を晒し――。

 マズイ、このままだと。

「身代わりになるとは良い契約者を持ったものだな」

「やめろおおおおおおおおおおお」

 こうなることを予期していたのか、はたまた直感が働いたのか、ルナが両腕を広げ――。

 俺の代わりに斬り伏せられた。

「…………」

 言葉を発することなく、その場に横たわったルナ。

 なんで、なんでだよ。

 強制解除していなかったら、傷ついていたのは俺だけで済んでいたのに。

「との、さま……」

 口から血を流したルナがこちらを向いた。

「ルナ!」

「だい、じょうぶ、です……ミフィールは、頑丈でッ!?」

 容赦なく背中へ振り下ろされた剣により、顔を歪めるルナ。

 対して、優位に立った第一課隊長は彼女の背中を――。

 抉る、抉る、抉る!

「ぎゃああああああああああ」

「良い叫び声だ。死んだふりでもしていればいいものを」

 反射的に身体が動いた。

 心地よさそうに剣を振り下ろす第一課隊長。

 尋常ではない絶叫を上げるルナ。

 その悪魔のような姿に。

 大切な契約者の泣き叫ぶ声に。

 憎悪の感情が爆発的に高ぶり――。

「ほう、漸く本性を晒したか」

「俺の嫁を傷つけるな!」

 即座に第一課隊長へ肉薄した俺は拳を振るった。

 が、

「所詮は非武装時の迷人。たとえ裏の貴様であろうが他愛もない」

「――ぐッ!?」

 第一課隊長に腕を掴まれた俺は、突撃の勢いを利用されて腹部に渾身の一撃を決められてしまった。

 嫁の隣に横たわった俺はその場で咳き込む。

「ルナ! 真志さん!」

 ティグリスがこちらへ駆けつけようとする。

 しかし、俺は手を横へ振り、

「に、げろ……」

「嫌よ!」

「いい、から……今のお前では、戦えな――」

 と、必死にこの場から去るようにティグリスへ指示を出していると。

「ふんっ、死にぞこないが」

「ッ!?」

 第一課隊長に蹴り飛ばされ、俺は地面をゴロゴロと転がった。

「悪いな。裏の貴様とは本気で殺り合ってみたかったが……こっちは狂ったシナリオを元に戻すことで手がいっぱいなんだ」

 そして再び腹部を蹴られ、嫁の隣へ。

「だがティグリスだけは貰っていく。こいつはどうしても必要だからな」

 そうして第一課隊長がティグリスににじり寄ると、

「一緒になんて絶対に行かないわ!」

「ほう、仲間を見捨てることはできないと?」

「当然よ! そんな酷いマネなんて――」

「じゃあ妹はいいのか?」

「なッ!?」

「お姉ちゃんに逢いたい、逢いたいと泣き叫んで五月蠅い妹は、そこにいるミフィールと同様、切り裂いてもいいってことか?」

「くっ……」

 悔しそうに顔を歪めるティグリス。

「きたねえ、ぞ……」

 俺は声を振り絞った。

「どっちを選ぶこともできない、選択を……させるなんて」

「何を言っている。使えるものは使って当然だ。それ以前に、一度こいつは貴様らではなく妹を選んだはず。裏切っているのに何を躊躇う必要がある?」

 容赦ない一言に拳を握りしめ、俯くティグリス。

 許さねえ……絶対に、許さねえ。

 ティグリスの心を弄んでいる第一課隊長を憎々しげに見つめる。

 家族を選ぶのか、仲間を選ぶのか。

 そんな二者択一など、もう二度とさせない。

「る、な……」

 俺は利き手を伸ばして嫁の手を握った。

「……殿……様」

 まだ意識はあるようだ。微かではあるが、俺の手を握り返してきた。

 このままではティグリスを連れて行かれるだけでなく、二人ともあの世行きだろう。

 ……仕方ない、アレをやるか。

「以前、お前が言っていた願い……叶えて、やるよ」

「殿、様……?」

「汝に、新たな契約を……つける」

「それ、は……」

「まだ何かするつもりか?」

 俺がぼそぼそと呟いていると、第一課隊長がこちらへ近づいてきた。

「上位と……御心のままに、同体化と……共有を――」

「まさかその儀式は!? くっ、させるかッ!」

 第一課隊長は俺の首めがけて剣を振り下ろした。

 が、

「武装、完了」

 一歩、遅かったな。

 俺は《漆黒の大鎌》を宙に召喚してその一撃を防いだ。

「ちっ」

 舌打ちをした第一課隊長が俺から距離を取る。

 すると、とある儀式を行う際に放った台詞を聞いていたティグリスが信じられないと言いたげな顔をした。

「どうして、そこまでして」

「俺は……いや、アイツはティグリスのように妹もいなければ、大切な家族もいない」

 そう。この獄園という死後の世界には、妹はもちろんのこと家族や生前の友達なんて一人もいやしない。

 それ以前にアイツは自分の親がどんな人だったのか、兄や妹はいたのか、友達は何人いたのか。そんな記憶さえないだろう。

「だが――」

 俺は大鎌を杖代わりにしてゆっくりと立ち上がった。

「嫁は俺の、アイツの契約者だ!」

『殿様……』

 ルナがうっとりとした声を脳内に響かせる。

 ここまで……だな。

 身体の限界を感じた俺は即座に目を瞑って表の俺と交代し――。

「――ッ!?」

 不意に襲ってきた激痛に俺は顔を歪めた。

 あぁ、痛てえ……めちゃくちゃ痛てえ。

 腹部と背中から襲ってくる鋭い痛み。蹴られた時の痛みは和らいだようだけど、こっちの方が断然ヤバイ。

 でも。

 徐々に傷が癒えている。

 契約と制約。

 たった今アイツが行った儀式は新たな制約を取りつけるものだった。

 ……ったく、いつもいいところを持って行きやがる。あの時、あそこまで感情が高ぶらなければ、制約の儀式を行っていたのは俺自身だったのに――。

 通常、ミフィールと契約した場合に押し付けられる制約デメリットは一つだけ。

 武装時に自身が死亡した場合、契約者も死亡すること。

 いわゆる、ミフィールのみが負うデメリットで、武装時に負った傷は契約者の負担にはならないというものだった。

 が、今行った儀式により、俺とルナは運命共同体。

 そう。命を共有することになったのだ。

 つまり、武装時であろうがなかろうが契約者が負った傷は自身も負い、自身が負った傷は契約者も負うことになる。

 その代わりにすべての要素はルナと半分ずっこ。

 そのため、結果的にはミフィールがもともと持っている身体能力や回復力が俺に加算されるわけで――。

 完治には程遠いが、動ける状態になった俺を見た第一課隊長が戦慄した。

「狂っているぞ貴様は……契約者は所詮道具だろう!?」

「何言ってんだ、契約者は契約者だ! それ以上でも、それ以下でもない。契約した時から、運命共同体なんだよ!」

「どうしてそこまでミフィールを許せるのだ!? 彼女たちの寿命は人間の半分もないのに、今の儀式によって貴様は――」

「別に長生きしたいわけじゃねえよ。ルナと一緒に平凡な日々を暮らせたら、それで十分なんだよ。それを邪魔しようとする奴は、絶対に許さねえ」

「やはりそういう考え方だけは私と同じか……仕方あるまい、もう一度これを使って」

「させねえよ」

「ッ!?」

 第一課隊長の頭上に《漆黒の大鎌》を召喚させ、右へ回避させる。

 その隙をついて俺は――。

「ティグリス、三秒後に上へ跳べ! 黒雨陣奥義《斬月》」

「つぅっ!」

 利き手に持っていた剣で奥義を防ぎきった第一課隊長。

 だが、バキンッ。

 その剣は、もう使えないぜ。

「カオスタトゥー。それの弱点はわかったぞ」

「なに!?」

「召喚している武器を破壊されたら二度と使えなくなるってことだ。その証拠にアンタは《漆黒の大鎌》を敢えて消失させた」

 そう。思い浮かんだのは副隊長を襲ったあのシーン。

 もしあのまま《漆黒の大鎌》を召喚していたら、自身の放った《浸食霧》によって大鎌はぼろぼろに砕け散っていただろう。

 しかし、《漆黒の大鎌》は自由自在に武器を召喚できるという性質を持つ。

 つまり、砕け散っても問題ないのだ。それなのに第一課隊長は敢えて砕け散る前に自分の力で消失させた。

「少ない情報でよくそこまでわかったな。だが、《浸食霧》(これ)はどう説明する!?」

 即座に放たれた《浸食霧》。

 それを自身の真正面に五つ同時召喚した《漆黒の大鎌》で防ぎ切り、

「生憎、《浸食霧》を取り払うような技は使えないからな。やりたくはなかったけど……どっちにしろ、こうすれば全部使えなくなるだろ?」

「――なッ!?」

 瞬く間に肉薄した俺は第一課隊長の腕を一刀両断した。

 肩から噴き出した黒い血の雨。

 主を失った腕は宙を舞い――。

「今のは《疾風》!?」

 ティグリスが驚愕の声を上げた。

 黒雨陣奥義《疾風》。

 一定時間、脚部を集中的に強化する奥義。

 相手にとってはまさに風が吹き抜けた感覚しかなく、気付いた時には一部、あるいは全てを失っているだろう。

 第一課隊長が傷口を押さえながら驚愕に目を見開いた。

「貴様自身は、《斬月》以外の奥義が使えないはずなのに、なぜ!?」

「わざわざ情報提供するバカがいるもんかよ。必殺技っつうもんはここぞという時に使うもんだぜ」

《疾風》を扱うためには、瞬発力と反射神経が問われる。

 そのため、並の人間ではいくら訓練を積んだとしても後者の問題により、この奥義だけはすぐに扱うことができないだろう。

 だが――。

 この一年間、俺も伊達に風紀部隊に務めていたわけじゃない。

 短期任務による亡霊との遭遇戦。

 そう。その積み重ねによって俺は自分の頭で判断した刹那、あるいは判断する前に脊髄反射で身体が動くようになっているのだ。

 すでに《疾風》を扱うための条件は満たしている。

「観念しな。カオスタトゥーを失ったアンタじゃ話にならねえよ」

「……こうなったら」

 第一課隊長が床に突き刺さったまま放置されていた《漆黒の大鎌》を抜き取った。

 そして、ガキン。

「なっ!?」

 上へ放り投げて天井を崩しやがった!?

 ぼろぼろと崩れ落ちてくる小さな石ころ。

 もともとボロボロだった天井は止まることを知らずにヒビが広がっていき――。

「せめて貴様だけでも道づれにしてやる」

「くそうッ」

 このままじゃ生き埋めにされてしまう!

 でも、今の俺は《烈風》を扱えきれな――。

『トノサマ! 《疾風》です!』

 お、おう!

 即座に応えた俺は二度目の奥義を使用し、ティグリスと第一課隊長を引き連れて部屋から脱出。

「なぜ、私まで……」

「アンタがいないとこの事件を終わらせるのに苦労するんだよ! てか黙ってろ、舌噛むぞ!」

 背中すれすれのところを崩れ落ちてくる天井に冷や汗をかきながらも、階段を一気に駆け上る。

 そして、

「うおおおおおおおお」

 生き埋めにされる前に地下室を脱出した。

 が、行きついた先には――。

「ははっ、そりゃねえぜ」

 数十を超える亡霊が待ち受けていた。

 忘れていた。

 ここは亡霊の巣窟。

 そう。安全地帯でも何でもない、むしろこれ以上ないほどの危険地帯だったのだ。

 おまけに亡霊の活動開始時間は目前。

 そりゃあこれだけ湧いていてもおかしくはねえよな。

 二回も連続して奥義を使ったせいで身体はボロボロ。

 いくら新たな制約を結んだことでミフィールの体質を分け与えられているとはいえ、即座に疲労が回復するわけではない。

 それに、無理をして動いたせいで傷口が開いて――。

『トノサマ、諦めちゃダメです!』

 という、必死に脳内へ響かせるルナの声援も……あぁ、わかってる。わかっているけど。

 全然力が入らねえ。

 黒雨陣奥義《疾風》。

 初めて自分自身で扱ったことにより身を以って知ったが……この奥義は体力の消耗量が激しすぎる。

 徐々に迫ってくる亡霊たち。

 そいつは俺の獲物だ、いや、俺の獲物だ……と、お互いを視線で牽制し合っている。

 チャンスは今しかない。

 こうなったら武装を解除して、最悪ルナとティグリスだけでも。

 ふと、ティグリスが目に入った。

 武装時である今、まともに動けるのはティグリスだけ――。

 武装、ティグリス!?

 その二つの単語から、いい案が思い浮かんだ。

「ティグリス! 今すぐ俺に《完全再現》できる条件を満たせ!」

「え、でもそれは――」

「いいから!」

「――ッ」

 必死の訴えが伝わったのか、ティグリスは大の字になった俺に近づき――。

 チュ。

「え?」

 唇を奪われた。

『なッ!?』

 ルナが動揺の声を脳内に響かせる。

「許しなさいよ、ルナ。これは緊急事態なのだから」

 そう言った直後、カッ。

《完全再現》で、ティグリスが武装時の俺へ。

 そして動けない俺と負傷した第一課隊長を抱え、

「しっかり口を閉じてろよ! 黒雨陣奥義《疾風》」

 亡霊の合間を颯爽と駆け抜けた。


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