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さわやかな朝陽が射し込む休憩室の中。
「う、ん……」
ジリリリリという騒がしい目覚まし時計の音によって、俺は目を覚ました。
「もう、こんな時間か」
眠ったのは約三時間。いつもなら間違いなく二度寝しているところだが、今日はそんな余裕などない。
今から三十分後に重要な会議が開かれる。
うるさい目覚まし時計を左手で止め、気怠い身体を起こそうと右手を伸ばした。
その時だ。
ふにゅんっ。
手のひらに柔らかい何かを感じた。
「なんだ、これ……」
ふよんっ。ふにゅんっ。
小さいながらもしっかりとした弾力を備えた何かを手のひらで弄ぶ。
何度も触ったことがあるような気がするけど、何の感触だったかは思い出せない。
でも、揉み心地が良いのは事実なわけで……もうちょっと、もうちょっとだけ。
と、寝ぼけたまま気持ちの良い何かを揉みしだいていると、
「んぁっ、ひゃんっ」
聞き覚えのある声が……否、聴いた瞬間に誰だかわかるほど親しみなれた喘ぎ声が布団の中から聞こえてきやがった!
その瞬間、俺は一気に覚醒する。
「トノサマが、やっと殿様に――」
「お前、また!」
即座に手を離し、掛け布団を跳ね除ける。
すると、そこには――。
「お目覚めですね、殿様」
予想通り、全裸の美少女が俺の上に跨っていた。
腰まで伸びた少し青みがかった銀髪。優しい印象を与える眉尻に、ついつい覗き込んでしまうほど綺麗な赤紫色の瞳。小ぶりな胸はスレンダーな体型に似つかわしく、背中に生えた漆黒の羽と純白の羽は二枚ずつ。
そう。人間の姿をしているくせに人間ではない少女。
ルナ。
ミフィールという種族の生き物である彼女は俺の契約者である。
「殿様、もっとぉ……」
「く、くるな! 寄ってくんじゃねえ!」
頬を赤らめ、色っぽい仕草をしながら口を近づけてきたルナを押しのけると、
「あぁんっ、もう、殿様のいけずぅ」
ぱたんと後ろへ倒れ込んだが……彼女はもっと触って欲しいらしく、再び俺に縋りついてきやがった。
そしてルナの指先が、つつつーっと俺の胸元を撫でる。
「ねえ、殿様ぁ」
「おいやめろ」
「殿様ってばぁ」
「離れろって言ってんだ!」
「んもぅ、そんないじわるしないでくださいよぅ。私はいつも、こーんなにも殿様に尽くしていますのに」
しおらしい表情をしながらピタッと寄り添ってきた。
ダメだこりゃ。完全に変なスイッチが入ってやがる。
嘆息しながら、俺はルナの身体をうっかり見てしまわないように視線を外した。
こうなってしまったら彼女の気が済むまで好きにさせておくのが一番いいだろう。もちろん変なことはさせないけど、こちらが無視し続けていれば、いずれいつものルナに戻るはず。
と、すりすりと頬ずりしてくる契約者を無視しながら、窓から見える綺麗な景色を眺めていると、
「……あ、れ? 何かいつもと違うようなッ!?」
重大なことに気がついた。
ここから見える豪奢な庭。決して自分の部屋にはない高級そうな家具。ふかふかな布団に真っ白なカーテン。
休憩室。
そう。なんとここは休憩室だったのだ。今はルナと二人きりだけど、あくまでも公共の場であって私室ではない。
だからもし、このタイミングで誰かが入ってきたら――。
「ねえ、一つくらい、私のお願いを聞いてくれてもいいじゃないですかぁ」
まだ変なスイッチが入っているのか、ルナは全裸で俺に寄り添ったまま。
マズイ、ヤバイヨ。
ハヤクコノジョウキョウヲナントカシナイト――。
真っ白になりかけた頭で必死に考える。
どうすればいい、どうすればルナは元に戻る!?
ヒントを得るために彼女の顔を見ると、
「あっ、やっとこっちを向いてくれましたね。もう、無視され続けて寂しかったんですからぁ」
かわいい……じゃなくて、コイツをどうにかしないと!
不覚にもルナの仕草にドキッとしてしまったが、頭をブンブンと横に振り、冷静さを取り戻そうとする。
惑わされるな俺。コイツは人間の姿をしているけど、人間じゃない。ミフィールなんだ。
それに契約者だぞ、契約者。そんな目でコイツのことを見ちゃダメだろ!
と、必死に自分へ言い聞かせていると、
「殿様ぁ、新たな制約の儀式をしてください」
ルナが上目遣いで……そう、最高の仕草で俺を見つめてきやがった!
そいつは反則だ。
最強の一撃。それをまともに受けてしまった俺は見ちゃダメだと頭ではわかっているのに、ついついルナの方を見てしまった。
魅惑的な仕草。誘っているとしか思えない格好。褐色の肌はすべすべで、身体つきはまさに女の子。ぷにぷにと柔らかく、俺の理性を崩壊させるには十分すぎた。
「殿様」
「ルナ」
お互いに顔を見つめ合う。
もう、我慢の限界だ。
めちゃくちゃにしたい。
コイツをめちゃくちゃにして完全に俺のモノにしたい。
そう思うけれど――。
すーはー。
取り返しがつかなくなる前に、大きく深呼吸をし、
「ごめん、ルナ」
「ふぇ?」
「いい加減目を覚ましやがれ!」
「ふぎゃっ」
結局、最低の方法によって無理やり契約者を元に戻すことしか頭に思い浮かばなかった俺がルナの頭を殴ると、彼女は涙目になりながら両手で頭を押さえた。
「うぅ~、痛いです、ひどいですっ! なにも殴ることないじゃないですかっ!」
「ふぅ、やっと元に戻りやがったか。大体な、お前が変なことをしてくるから悪いんだろーが。いい加減布団に入ってくる癖を直せ」
「嫌ですよーだ。トノサマの温もりが欲しいんですっ」
「お前な……」
掛布団をルナの身体に纏わせる。
「さっさと着替えろ。大体ここどこだと思ってんだ」
「休憩室ですっ」
「そうだよ、休憩室だよ。ってまさかお前、わかっててやったのか!?」
「はいっ」
満面の笑みを浮かべるルナ。
コイツ……。
「ちょっとお仕置きが必要みたいだな」
パキパキ、パキパキ、と拳をならす。
わかっててやったなんて考えられない。もしさっきの場面で誰かが来ていたらどうなってたと思ってんだ。
と、怒りを露わにしながら彼女へ近づくと、
「お仕置き……つ、ついにトノサマがドSに目覚めましたっ!」
「目覚めてねえよ! てかなんで嬉しそうなんだよ!?」
「そんなの私がドMだからに決まっているじゃないですかっ。それでトノサマ、どんなプレイをしてくれるんですか? 鞭ですか、蝋ですか? 焦らさずに早く教えてくださいっ」
と興奮した変態が羽織らせていた掛布団を脱ぎ去り、迫ってきたので。
「寄るな! こっちくんな! あっちいけ!」
身体を見ないように視線を外し、右手を突き出して彼女を弾き飛ばそうとすると。
ふよんっ。
「ひゃんっ。もう、そんなこと言いながらもしっかりと触るんですからぁ。トノサマのえっちぃ」
「い、今のはわざとじゃないッ」
予想外だったことに慌てながらも、即座に手を離そうとする。
しかし、
「ふっふーん、捕まえましたよっ」
ルナが……この変態痴女契約者が、俺の右腕を拘束してきやがった!
がっしりと両腕で拘束されているため、動かせるのは手のひらのみ。
無理に拘束から逃れようとすると、
ふよんっ、ふにゅんっ。
小ぶりながらもしっかりとした柔らかさを味わってしまう。
それだけならまだよかった。
いや、よくはないけど、それよりもまずいのは――。
「あんっ、ひゃんっ」
という、ルナの喘ぎ声。
それが相乗効果となり、深呼吸をする暇もなく俺の理性は崩壊を迎え――――――。
五分後。
「ふぅ、危ない危ない、悠奈としたことが。まさかこんなところに置き忘れる、な、ん、て?」
ノックもせずに休憩室へ入ってきた副隊長が俺と嫁を見て固まった。
男子休憩室なのに女子が入ってくるという予想外の出来事。
それによって全てが霧散し……あ、ヤバイ。隠さなきゃ。
そう思うが、時既に遅し。
「きゃあああああああああああああああ!?」
「ま、待て! これは決して不埒なこと……しているように見えるかもしれないけど、まだ何もやっていな」
「この、へんたーい!」
パァンッ!
弁解する暇もなく、彼女の甲高い罵声と共に凄まじいビンタが俺を襲ったのであった。