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怠惰な淫獣と変態契約者  作者: るなふぃあ
第六章 真犯人と裏事情
19/21

14

 薄暗い地下室に不穏な空気が流れる。

 突如出現した黒い球体。それによってミレナース教たちを拘束していた牢が彼らごと無と化してしまった。

 しかも、現れたのは気配を全く感じさせなかった第一課隊長。

 ……おいおい、冗談きついぞ。

 風紀部隊員の中に犯人がいるとは予想していたけど、まさか第一課隊長が裏で糸を引いていたなんて――。

「意外そうだな。そんなに私が今回の事件を引き起こした犯人には思えないのか?」

「そりゃそうですよ。だってあなたが犯人だったら……今までの行動は矛盾だらけになるんですよ!? 武装不可事件について会議を開いたのはあなただし、犯人捜索任務を俺に命じたのもあなたです! わざわざ自身の身を危険にさらすようなマネなんてする理由がわかりません」

「そうだろうな。素人目で見れば私の行動は理解できないだろう。だが、私の目的が迷人を陥れるだった場合、どうだ」

「迷人を陥れる……?」

「言い換えれば獄人の地位の復権。そうしたい場合、貴様ならどうする?」

「俺だったら――」

 なるほど、そういうことか。

 漸く理解した。

 迷人の利点はミフィールと契約できること。

 すなわち、武装できることだ。

 それを不可能にした事件を公の場で公表することによって、迷人である利点を潰そうと考えたってわけだ。

 それに先ほど第一課隊長が言った『シナリオが狂った』『迷人を陥れる』という台詞。

 おそらく、それが示す意味は――。

「武装不可事件を引き起こした犯人を迷人に仕立て上げるつもりだったということですか」

「そうだ。そうすれば間違いなく我々獄人の地位は復権する。だが、貴様のせいでその計画が狂ってしまった。何を教えたのかは知らんが……第二課の隊員が余計な詮索を始めたせいで、せっかく隠してあった人質の所在地がバレてしまった。こうなってしまっては意味がない。本当なら彼女はそばに置いておきたかったが……優秀すぎるのも問題だ。消すことにしたよ」

「――え?」

 今、なんて言った?

 消すって言わなかったか?

「どうした? 顔が怖いぞ」

「……殺したのか?」

「ん?」

「飛鳥さんを、殺したのか!?」

「まさか。今はまだ捕縛中だ。シナリオを修正するために彼女には共犯者になってもらう」

「そのあとはどうするつもりだ!?」

「先ほど消すと言っただろう?」

「――ッ!」

 俺は拳を握りしめた。

 まだ、仕掛けるわけにはいかない。

 第一課隊長がわざわざここに現れた理由がわからないため、状況把握が先決だ。

 なにせ飛鳥さんが捕縛されたということは、こちらが用意していたシナリオも全てが狂ってしまったということなのだから――。

「随分慎重だな。貴様ならすぐ感情的になって襲ってくると思っていたのに」

「俺をそこら辺にいる猿と一緒にするな。風紀部隊で一年近く勤めてんだぞ」

「知っているさ。だからこその状況把握だろう?」

 状況把握という言葉を強調する第一課隊長。

 どくんっ。鼓動がひときわ強く跳ねた。

 読まれている。

 風紀部隊に一年勤めていたせいで、その部隊の考え方そのものが完全にしみついてしまっている。

 マズイ、このままだと相手の思う壺。

『ダメですよ、トノサマ』

 焦った俺を見兼ねたのか、ルナが優しく声をかけてきた。

 わかってる、わかってるさ。飛鳥さんはまだ大丈夫なんだ。

 だから、まだ仕掛けるわけには早――。

「悠長にしていられると思うなよ。仲間がちゃんと助けに来てくれるなんて、思っているのだろうが」

 ……あぁ、なんてこった。

 俺は気づいてしまった。

 仲間がちゃんと助けに来てくれる。

 その台詞を敢えて言った意味に――。

「隊長に何をした!?」

『トノサマ!』

 俺が声を荒げたことでルナが脳内に強く声を響かせた。

『感情的になっちゃダメです! それこそ相手の思う壺ですよ!』

 うるさい、お前は黙ってろ! 隊長の身が危険なんだぞ!?

《絶空》の中で隊長へ送った手紙。

 その内容は俺たちがミレナース教とその仲間を捕縛した後に街へ戻るための護衛任務を依頼するものだった。

 なぜなら街へ帰る時は空を飛ぶことができないし、《空間転移》で帰還することもできないからだ。

 ルナたちは決して力持ちじゃない。俺たちを運ぶにしても二人までが限界。《空間転移》で移動させることができる人数も限られている。

 おまけにここは亡霊の巣窟。

 自分の身だけならまだしも捕縛している人間を守りながら街まで連行するなんて、とてもじゃないが俺たちだけでは不可能だ。

 そのための援軍。

 隊長を呼んだのだが――。

「今頃、生身の身体で亡霊と殺り合っているだろうな」

「くっ」

 助けに行かなくちゃ!

 武装不可の状況を作り出した犯人はコイツなんだ。やり方は不明だけど、彼女がそう言っているのだから隊長たちがピンチであることは間違いない。

 しかし、第一課隊長が立ちふさがった。

「行かせるわけがなかろう。貴様はここが墓場なのだからな!」

 刹那、第一課隊長の手のひらから黒い霧が放出された。

 それを跳び上がることで回避すると、

「その技は!?」

 ティグリスが驚愕の声を上げた。

「なんだ、知ってんのか!?」

「ええ、あれは《浸食霧》。触れた対象物を腐敗させるものよ」

「――え!? でも第一課隊長は契約者なんて」

「獄人はミフィールの能力を使用できない。その情報はもう古いぞ」

 不気味に笑う第一課隊長。

 そして再び放出された《浸食霧》を、

「……くぅ」

《漆黒の大鎌》を盾にしてギリギリのところで躱す。

 ぼろぼろと崩れ落ちていく大鎌。

 どうして第一課隊長はこんな能力を!? もしかしてミフィールと契約しているのか!?

 いや、でも。

 第一課隊長は正真正銘の獄人だ。

 そう。迷人と獄人の間にできた子供でもないため、ミフィールと契約を交わすことなど不可能なのだ。

 その事実は不変のはず。

『その通りです。獄人がミフィールと契約できるなんてあり得ません』

 ルナが同意する。

 じゃあ一体どうやって……。

「冥土の土産に教えてやろうか?」

 第一課隊長が《光の拳銃》を召喚した。

「それは副隊長の!?」

『避けてください!』

 ルナの叫び声が脳内に響き渡った。

 刹那、その声に応えた身体が勝手に宙を舞い、

「そうすると思っていた」

「ぐっ」

 連続で放たれた光弾が俺の肩を掠めた。

 しまった、相手は第一課隊長。

 風紀部隊で培った動きを熟知しているんだった。

『トノサマ!』

 ルナが悲痛じみた声を脳内に響かせる。

 ……大丈夫、これくらいならまだやれる。

 俺は焼け爛れた傷口を押さえながらゆっくりと立ち上がった。

「どうも《光の拳銃》(これ)の扱いには慣れていなくてな。運が良かったな、肩を掠めただけで」

「おかげで頭に上っていた血が徐々に下がり始めたぜ。冥土の土産に教えてくれるんだろ? どうしてアンタがミフィールの能力を使えるのかを」

「いいだろう。生き残っていた褒美に、まずは面白いものを見せてやろう」

 第一課隊長が《光の拳銃》を真上へ放り投げ、槍へ変化させた。

「もうすでに気づいているだろうが、私は一つ以上の能力を行使することができる。これは《閻魔自在槍》。そしてこれは――」

 ガシャン。

「《漆黒の大鎌》!?」

「そう。貴様の契約者の能力だ」

 なんと信じられないことに、第一課隊長が《漆黒の大鎌》を利き手に召喚したのだ。

『どうして私の能力を!?』

 ルナも驚愕の声を脳内に響かせる。

 なぜ第一課隊長は契約していないはずのルナの能力まで扱えるのか。

 本当に第一課隊長は契約者なんていないのか?

 そう思い、彼女の右手薬指を見るが――。

 ない。武装時に出現するはずの指輪はないぞ。

「残念ながら私に契約者はいないよ」

「だったらどうして――」

「この一撃を避けることができたら教えてやろう」

 第一課隊長が《漆黒の大鎌》を下手で構え、体勢を低くした。

 マズイ! あの技は――。

「黒雨陣奥義」

「ティグリス、上へ跳べ!」

「《斬月》」

 刹那、俺の真下を一筋の閃光が過ぎ去った。

 月を描くかのようにして切り裂かれた室内。ぎりぎりと嫌な音を立てながら崩れ落ちる拷問器具の数々。

 果たして、ティグリスは――。

「ぎりぎり。おかげ様で助かったわ」

「ふぅ、よかった……」

 後方から聞こえてきた声に俺は安堵のため息をついた。

 それにしても今の技――。

 黒雨陣奥義《斬月》。

 その名の通り、月を描くような斬撃を繰り出す《漆黒の大鎌》を使用した奥義。

 俺が知っている限り《漆黒の大鎌》を召喚できる能力はルナだけ。しかもこの奥義を扱うには《漆黒の大鎌》を使用した様々な攻撃パターンを自身の身に叩きこまなければならない。

 なのに第一課隊長は《漆黒の大鎌》を召喚するだけでなく、《斬月》をあっさり繰り出しやがった。

「さすが自身の技を知っているだけはある」

 第一課隊長が無傷で済んだ俺たちを見て称賛の声を上げた。

「なぁ、どうしてアンタはルナの能力まで使えるんだ? 教えてくれるんだろ?」

「そう急かすなよ。早漏な男は嫌われるぞ」

「なっ!? 俺は早漏じゃねえよ」

「なんだ、遅漏なのか?」

『そうです! 殿様はいつも私を五回以上イ――』

「そういう話じゃなくて!」

 脳内に響いてきた如何わしい声を無理やり遮断する。

「どうしてルナの能力まで使えるんだ? さっき契約者はいないって言っていたよな?」

「あぁ、私に契約者はいないよ。獄人はミフィールと契約することができない。その事実は不変だ」

「じゃあどうやって……」

「ヒントその一、この武器」

《漆黒の大鎌》を消失させ、第一課隊長が見覚えのある剣を利き手に召喚した。

 あの剣、どこかで――。

「あっ」

 ふと脳裏を過ったのは、数日前の裏路地で起こった出来事だった。

 あの武器にあの色。思い出したぞ。以前、アイツがいきなり召喚した武器だ。

 でも、それが一体何のヒントに?

「これだけではわからないか。ヒントその二、この部屋」

「――ッ!?」

 この部屋と言われて漸く気がついた。

 人体実験場。

 そう。ここはミフィールを非人道的なやり方で研究していた場所なのだ。

 つまり、それが示す意味は――。

「まさか、ラピスブラッドのように造られた兵器!?」

「正解。ここにきて私も気づいたが……どうやら我々人類が行きつく先は同じようだな。これが我々風紀部隊の開発した兵器だ」

 左腕を捲り上げる第一課隊長。

 刺青。

 なんと第一課隊長の左腕には大小様々な模様をした刺青が施されていたのだ。

 あの男の右腕に施されていた刺青によく似ている。

「勘違いするなよ。これは実験体に施した刺青とは違う」

「実験体?」

「あぁ、契約者のいない邪魔者のことだ。自身が迷人だという身分を利用する不埒者。そんな奴等は利用するだけ利用して捨てればいい。奴等のおかげでカオスタトゥーが完成した」

「……それがその刺青の正式名称か」

 静かなる怒りを内に宿し、第一課隊長を見据える。

「その通り。ミフィールの能力を行使できる刺青。これを作り上げるのに相当な時間を必要とした。初めは毎月行う血液検査で得たミフィールの血を利用していたが……血液だけではなかなか作業が捗らなくてな。甘い声でミフィールを誘惑、時には強引に。そのあとは簡単だった。ミフィールに効き目のある麻酔薬はすでに開発済みだったからな。それを利用して実験し放題だ」

「下郎め」

「貴様がそれを言える口か? 我々の研究に加担していたのだぞ」

「なに?」

「貴様がよく受けていた薬草採取任務。あの薬草こそが麻酔薬の元だ」

「なッ!? でも、あの任務には傷を癒すために扱う薬草だと――」

「見抜けない奴が悪い」

「くっ……」

 俺は唇を噛みしめた。くそう、簡単だからといって毎度毎度受けていたせいで、結果的にこんな実験を捗らせてしまうなんて。

『気にしちゃダメですよ。過ぎたことは過ぎたこと。でもこうして暴露してくれたおかげで、これからはその薬草の採取を禁じることができるじゃないですか』

 ……そう、だな。前向きに捉えよう。

 珍しくまともな発言をしたルナに助けられた。

『珍しくってなんですか!?』

 と、考えていることがバレバレなので彼女は突っかかってきたが――。

 俺は無言のまま、第一課隊長の左腕に施された刺青を見た。

 あれがミフィールを利用して作り出した兵器、か。

 今までそのような研究をしていただなんて話はちっとも耳にしていなかったけど……風紀部隊は一体何を考えてんだ。こんな外道なことを裏でやっていたっていうのかよ。

「別におかしな話ではないだろう? 亡霊から身を守るために優れた兵器を生み出すことは当然だ。しかもこの兵器は迷人のように契約者という煩わしい存在を許す必要もなく能力を行使できるのだぞ」

契約者コイツらは煩わしい存在なんかじゃねえよ」

「じゃあ何だという? 迷人に寄生し、我々獄人と迷人の仲を引き裂くような連中だぞ」

「契約者は契約者だ。それ以上でもそれ以下でもない。それに、ミフィールが何かしたってわけじゃねえだろ。ただアンタたち獄人が嫉妬しているだけだろーが」

「ふんっ、それはどうかな? 契約者の存在により自身の力に溺れ、悪事を働くようになった迷人が今までにどれだけいたと思う?」

「んなこと知ったこっちゃねえよ。みんながみんな、ソイツらのように悪さをする奴らじゃない!」

「ほォう、言うじゃないか」

 第一課隊長が自身の利き手に召喚した剣を両手で構えた。

 すると、今まで傍観していたティグリスが《完全再現》で副隊長になり、

「注意しなさい、あれもきっと何かの能力付きよ」

「わかってるよ」

 しっかりと《漆黒の大鎌》を握りしめる。

 待つか、それともこっちから攻めていくべきか――。

「今回の事件について、少し遊びながら話してやろう」

 先に地を蹴ったのは第一課隊長だった。

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