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怠惰な淫獣と変態契約者  作者: るなふぃあ
第五章 亡霊の巣窟と策略
18/21

13

《光の拳銃》から射出された光弾が亡霊の弱点を撃ち抜く。

 秒速、三十万キロメートル。

 光の速さと同じ速度を持つ弾。

 見えてから回避することは不可能だ。

 結晶を破壊された亡霊が霧散していく。

 今回相手にしている亡霊の数は計二体。

 前方に一体、後方に一体。

 そのうちの一体をたった今、《完全再現》で副隊長になったティグリスが屠ったところだ。

 後方にいた亡霊が隙を狙って突進してくる。

「危ないッ、避けろ!」

 と、俺は叫んだが、

「そんなことする必要ないわ」

 なぜか余裕ぶっている副隊長は――カッ。

《完全再現》で梨音へ。

 そして間近に迫った亡霊の突進を、

「そんなものあたらない」

 と、淡々と呟いて《空間転移》で躱した後、

「さようなら」

 続けて亡霊の懐へ《空間転移》し、持っていた短剣で結晶を破壊した。

 ……おいおい、そんな使い方もできるのかよ。

 正直言ってこれほどとは思ってもいなかった。

《完全再現》。

 てっきり俺は一度《完全再現》を解除しないと別の誰かになることはできないと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

《完全再現》を解除したティグリスが得意げな顔をした。

「どう? なかなかいい使い方だったでしょう?」

「いい使い方というか……強すぎる。そんな次々と誰かになられたら俺でも敵わねえよ」

「あら、わたくしに勝てるつもりでいたのかしら」

「いや戦うつもりなんて端からねえけど、それよりも大丈夫か? これで八戦連続だぞ」

「大丈夫よ」

 平気そうに振る舞うティグリスだが、明らかに顔に疲れの色が見える。

 それも無理はないだろう。今回も華麗に亡霊を始末していたが……実際、亡霊との戦闘はかなり精神力を削るのだ。

 一度の失態は致命傷。

 それで済めば恩の字。

 普通ならば、死を覚悟しなければならない。

 それを八戦連続だぞ。しかも、力を温存するために全ての戦闘をティグリスに任せているんだ。

 いくら戦闘が上手なティグリスとはいえ、さすがに無傷とはいかないし……そろそろ限界か。

「次からは俺も戦闘に加わる」

「ダメよ。まだ三十分もあるのだから」

「でも」

「いいから。本当に危なくなった時だけでいいわ」

 断固として俺を戦闘させまいと言い張るティグリス。

 亡霊の住処に侵入してからすでに一時間以上の時間が経過。

 引き返す時間を考慮すれば、残り三十分。

 確かに終盤戦やいざという時のことを考えれば俺は力を温存しておくべきだろう。

 しかし、中心部へ近づくに連れ、亡霊と遭遇するまでの間隔が狭まっているのだ。

 この調子で休憩せずに戦闘を続けていたら、必ずどこかでティグリスの集中力が切れる。だから少しでも休息を取るか、一時的に戦闘を交代するかしないと――。

「ほら、行くわよ」

 しかし、ティグリスは先頭をスタスタと歩いて行く。

 休憩する気もなければ、戦闘を代わる気なんて一切ないってことか……。

 断固たる決意。

 彼女をそうさせているのは間違いなく妹のため。

 大切な家族の命を守るため。

『トノサマ』

 わかってるよ。

 ルナの声に応え、俺はティグリスの後を追い始めた。

 チャンスは一度きり。

 この三時間という短い時間を逃したら、おそらく次はないだろう。

 犯人の行動や飛鳥さん、すでに目覚めているであろう隊長の行動を考えれば――。

「あっ……」

 不意にティグリスが小さな声を上げた。

「どうした?」

「あれを見て」

 右方を指差すティグリス。その先には崩落した建物がある。

「あれがどうしたんだ?」

「瓦礫の下。階段が見えるわ」

「階段?」

『あの赤いレンガの下です』

 ルナの捕捉により……確かにあるぞ。瓦礫の下に階段らしきものが。

「行ってみる価値はありそうね」

「そうだな。ティグリス、頼めるか?」

「任せなさい」

 それだけで意図が伝わったらしく、ティグリスは《完全再現》で副隊長へ。

 そして《光の拳銃》を召喚した彼女が即座に光弾を放ち――。

「さぁ、いくわよ!」

「え、そのままで行くのか?」

「なによ、悪い?」

「別に悪いってわけじゃないけど……狭い通路じゃ《空間転移》を使える梨音の方がいいんじゃねえのか?」

「はぁ? あんたバカなの?」

「なっ!? なんでだよ!」

「地下へ繋がる通路。数百年以上放置された街。この二つで気づくでしょ、普通」

「普通って言われてもな……」

「何も見えないって言いたいのよ。通路に明かりなんてないに決まっているでしょ。悠奈にはコレがあるんだから」

 と言いながら白い光を放っている拳銃をくるくると回す副隊長。

 なるほど、そういうことか。

「わかればよろしい。それじゃあ行くわよ、ついてきなさい」

「お、おう」

《完全再現》によるギャップに若干戸惑いつつも、俺は素直に副隊長の後をついて行くのであった。



 腐敗臭が鼻を刺激する。

 階段を下りていくにつれて酷くなっていく臭いに顔を歪めながら、俺たちは階段を下りていく。

「にしてもこの臭い……一体何なのよ」

「さぁな。亡霊の死骸でもあるんじゃねえの?」

「バカ言ってんじゃないわよ。あいつらは骸なんて残さないわ」

「知ってるよ。ただそうだったらいいなと思っただけだ」

「なんでよ」

「……だって、もし亡霊の死体が残っていたら研究が捗るだろ? 亡霊の実態についてわかるかもしれないし」

「嘘ね。どうせお金でしょ」

「なっ!? 勝手に人を金の亡者みたいに言わないでくれ」

 とかなんとか、他愛のない話をしていると、

「ん?」

 前方に扉が見えてきたぞ。

 鉄製の頑丈そうな扉。

 特に装飾は施されておらず、至ってシンプル。

 扉の中央には四角い木の板が張り付けられているけど……うーん、なんだろう。何か書かれているけど全然読めない。

 ルナ、読めるか?

『んー、残念ながら私たちミフィールが扱っている言語ではなさそうですね』

 ということは、数百年前に扱われていた古語ってことか?

『その可能性が高いですね』

 と、契約者と話し合っているうちに、副隊長が特に気にすることもなく扉を開けようとするが、

「ちっ、開かないわね。鍵くらい簡単に壊れなさいよ」

 どうやら鍵がかかっているようだ。

 押しても引いても開く気配はない。

 鍵穴があることからそれに一致する鍵が必要のようだが、短気な副隊長は《光の拳銃》を召喚した。

「ぶち抜いてやるわ」

「おい待て。ここで強い衝撃を与えたら天井が崩れ兼ねないぞ! ただでさえ天井がボロボロなのに……」

「うっさい、指図すんな! その時はその時よ」

「何言ってんだ、生き埋めになるじゃねえか!」

「はぁ? 生き埋め? そうならないためのあんたでしょうが。黒雨陣奥義《烈風》。まさか使えないなんてことないわよね」

 ……ったく、人使いの荒い。

「なに? 文句あんの?」

「いえ、滅相もございません。どうぞ、扉を破壊してください」

 そう言った後、俺は二、三歩ほど副隊長から距離を取った。

 そして言われた通りに、すーはー。

 嫌々ながらも深呼吸をして精神を研ぎ澄ませ――。

「ん、よさそうね」

 副隊長が満足げに頷いた。

「やるなら早くしてくれ」

「言われなくても」

 刹那、副隊長が光弾を放って扉をぶち抜いた。

 強い振動が肌に伝わる。

 ぽろぽろと土が剥がれ落ち、砂埃が舞い上がる。

 が、

「……なんだよ、別にならなくてもよかったじゃねえか」

「なによ、もう戻ったの?」

「悪いかよ」

「別に。ただ悠奈は……ううん、なんでもないわ」

「言いたいことがあるならはっきり言えよな」

「うっさい、それよりも先を急ぐわよ」

「あ、ちょっと」

 俺を無視してズカズカと副隊長が先を行ってしまった。

 ったく、中に何か仕掛けられているかもしれないのによくそんな警戒もせず――。

「……ッ!?」

 中に入った瞬間、副隊長が立ち止まった。

「どうしたんだよ。もしかしてこの臭いの原因がわかっ――ッ!?」

 俺も息を呑んで立ち尽くした。

 なんと部屋に入った直後、何もしていないのに壁に備わっていた無数のランタンが点灯したのだ。

 それだけならまだよかった。

 いや、それだけでも十分びっくりしたけど……それによって明らかになった部屋の内部には。

「こんな場所があるなんて聞いてねえぞ」

 天井からぶら下がった鉄製の手錠。人が一人入れるくらいの檻。地面に散らばった無数の注射器。水色の液体が入っているガラス製の箱に、その箱に入っている腐敗しかけている何か。

 そして何よりも目を引くのは――。

 檻の中や床に散らばっている大小様々な形状をした骨。

《完全再現》を解除したティグリスが床に散らばっている骨を一つ手に取った。

「……そういうこと、だったのね」

「どういうことだよ。俺にはさっぱりわからねえぞ」

「見ての通り、ここは人体実験場よ」

「人体実験!?」

「ええ、しかも対象がミフィールの。あの箱に入った水色の液体が証拠よ。あれは《半永久保存》。液体につけた対象物を数百年ほどつけた直後の状態で保つ能力なのよ。わたくしたちの住処ではその力を持ったミフィールが多いの」

『冷凍庫みたいなものですよ。凍結はしませんけど』

 ルナが補足してくれる。

「じゃあ、もしかして……」

「ええ。薄々嫌な予感はしていたけど、ラピスブラッドやその他諸々の兵器、全てはこうして作られていたってことね」

「よくある話、か……」

 何もないところからは何も生み出せない。

 それ相応のものを生み出そうとすれば、それと同等のものが必要となる。

 等価交換の法則。

 対ミフィール用の古代兵器、ラピスブラッド。

 どうやらそれはミフィールを使って作り出されたもののようだ。

 ティグリスが床に散らばった骨を踏まないように気をつけながら奥へ進んでいく。

「少しだけだけど、見つけたわ」

 寝台の上に転がった数個の赤い宝石。

 あれが武装不可事件を作り出した犯人が欲しがっているブツ。

 計り知れない数のミフィールを犠牲にして造り出したそれをティグリスが手に取った。

 ……そろそろかな。

 俺はティグリスに話しかけるわけでもなく、ただただ静かに佇んだまま深呼吸をし、精神を研ぎ澄ませた。

「これだけあれば十分よね」

「あぁ。数は十に満たないが、おそらくこれ以上はないだろう。他にこのような場所があるとも思えない」

「そうね。って、あら? あなたもしかして……ううん、何でもないわ。行きましょうか」

「そうだな」

 と、ティグリスが踵を返した直後、パンパン。

 予想通り、乾いた銃声が響き渡った。

 刹那、俺は即座に召喚できるように準備していた《漆黒の大鎌》を自身とティグリスの後ろに複数召喚し、その不意打ちを防ぎきる。

「なっ!?」

 何もなかったところから洩れた小さな声。

 その聞覚えがある声に、俺は。

「姿を現したらどうだ。ミレナース教」

「……なぜ私だとわかった」

 壁しかなかった場所からミレナース教とお供の一人が現れた。

「《隠蔽工作》。その能力を持つミフィールと戦闘した経験がある。ここへ来る前に貴様の仲間が迷人だということに気がついた。その右手に嵌めた黒の革手袋。一見ただの防具にしか見えないが……実はそれ、《隠蔽工作》を発動させるために必要な武具だろう?」

「ちっ」

 明らかな舌打ちをする神父の仲間。

 ミレナース教が意外そうな顔をした。

「どうして完全に消え去った気配を察することが可能だったんだ?」

「残念ながらそれは不可能だ。《隠蔽工作》によって消された気配を察することはできない」

「では、なぜ今の攻撃を!?」

「予想だ。俺たちを暗殺するのならラピスブラッドを発見し、油断したこのタイミング。未だに無事帰還したことがないこの場所で暗殺することが一番安全。そう想定していただけにすぎない」

「読まれていた、ということか」

 嘆息するミレナース教。

 本当は二つ目の理由があるのだが……これは今から証明してやろう。

 カチャリ。銃を構えたミレナース教が俺に狙いを定めた。

「不意打ちは失敗したが、ここで諦めるわけにはいかない」

 そして四連続で放たれた鉄製の弾丸。

 狙いはいい。

 一撃で仕留めるのではなく、当たる確率の高い胴部を狙った攻撃。

 一発でも当たれば良いという計算だ。

 だが、残念ながらそれは当たらないな。

「私を忘れてもらっては困る」

 そう。淡々と言い放ったのは梨音。もとい《完全再現》で梨音になったティグリスだ。

 彼女が《空間転移》で俺を一メートル横へ転移させ……的を外した弾丸がガラス製の箱に直撃した。

「くっ」

 一発も当たらなかったことで顔に焦りの色を窺わせ、すぐさまマガジンを入れ替えようとするミレナース教。

 好機。

 俺は敢えて隙だらけの彼に肉薄し、

「だから、見えてるって」

「なっ!?」

 突如後ろに出現した剣を《漆黒の大鎌》で受け止めてみせた。

「どうして俺の動きが!?」

「風の動きだけは絶対に消すことができない。いくら気配や姿を消そうが、存在するものは存在する。無駄だ」

「ちぃッ」

 苦々しい表情を見せる神父の仲間。

 そう。先ほどの不意打ちもほんの少しの風の動きを読んで防いだのだ。

 ここがほぼ密閉空間でよかった。もし外部で襲われていたら《絶空》を使わざるを得なかったぞ。

 と、敵にネタをばらしながら続けざまに振るわれた斬撃を大鎌で軽く往なしていると。

『受けてばかりですけど、戦うつもりがないのですか?』

 俺の戦闘に不満を感じたのか、嫁が文句を言ってきた。

 戦うつもりがないわけじゃない。

 倒す必要がないだけだ。

 実力差の違いを見せつけ、無力化すればいいだけのこと。

『……相変わらず殿様は優しいですね』

 勘違いするな。

 優しいのではなく、ドSなだけだ。

『もう、殿様ったらぁ』

 なぜかうっとりとした声を脳内に響かせたルナ。

 再び神父の仲間が斬りつけてきたのでそれを大鎌で受け止める。

 そのままギリギリと鍔迫り合いに持ち込み、

「貴様らがなぜ犯人に協力しているのかは知らないが――」

 パンパン。

 話の途中で放たれた弾丸を、《漆黒の大鎌》を新たに召喚することで遮断し、

「この通り、実力差は歴然だ。そろそろ観念したらどうだ?」

「黙れ!」

 ギリギリと鉄の擦れる音が途絶え、耳元で叫んだ神父の仲間が剣を振り上げた。

 同時にミレナース教が俺の頭部に狙いを定める。

「それはダメだろう。なぁ、梨音」

「ん」

 短く頷いた梨音が俺を宙へ転移させたと同時に、カキン。

 頭部を狙った弾丸が、仲間の剣を弾き飛ばした。

 獲物を失った神父の仲間が《隠蔽工作》で自身を隠そうとする。

 が、

「余興は終わりだ」

 もちろん、逃すはずがない。

 黒の革手袋だけを切り裂き、《隠蔽工作》を無力化した。

「なっ!?」

 傷一つ負わなかった手。

 無残に切り裂かれた革手袋を見た神父の仲間が驚愕に目を見開いた。

「どうやら貴様の仲間は理解したみたいだぞ? どうする、やるのか? その弾がなくなった銃一つで」

「――ッ!?」

 カランカランカラン。

 地面に転がったのは、弾薬の詰まった複数の弾丸。

 そう。梨音が《空間転移》で装填していた弾丸を全て転移させたのだ。

 武器を失ったミレナース教がこの場から逃げ出そうとする。

「やめておけ。《隠蔽工作》なしでどうやって街へ戻るつもりだ? 亡霊に喰われるのがオチだぞ」

 しかし、俺の声を無視して駆け出すミレナース教。

「仕方ない、梨音」

「ん」

 名を読んだだけで意図が伝わったのか、《空間転移》でミレナース教を檻の中へ。

 ついでに無力化した神父の仲間も同じ場所へ転移させると、ミレナース教は、

「な、何をする気だ!」

「いい加減おとなしくしろ」

「そんなことできるか! こんなところに入れられて誰が黙ってられ」

「消されたいのか?」

「――ッ」

 声音を変えるとミレナース教はその場に尻もちをつき、硬直した。

 すると、ルナが、

『ダメですよ、殿様。気を失ったらどうするんですか』

 大丈夫、本気じゃない。時間が惜しいだけだ。

『まだ五分も経ってないですよ』

 今の俺ではそれが限界だ。この身体はどうも慣れなくてな。

『すでに一年近く経っていますのに』

 仕方ないだろう、戦闘時にこの身体を扱うことは滅多にないんだ。今後こうなることが出てくるようならもう少し鍛錬を積むべきだが――。

『トノサマは殿様が嫌いですからね』

 どうにかならないのか?

『私にはどうこうすることはできませんよ。トノサマが殿様を受け入れてくれるのを待つしか……。殿様は私と契約した時に生まれた人格、全くの別人ですからね。一時的とはいえ、トノサマは自身の身体を乗っ取られることが嫌いなんですよ』

 その割には最近、力を使うことが多いのは気のせいか?

『命が第一ですからね。使えるものは使う。たとえそれが嫌な存在であっても――。トノサマはそういう人ですよ』

 ……ったく、奴は便利な道具か何かだと勘違いしているだろう。

『さぁ、どうでしょうね』

 ま、いいだろう。

 時間がない。この続きは今夜にしようか。

『もう、殿様ったら相変わらずなんですからぁ。そういうことをするからトノサマに嫌われるんですよ?』

 お前もお前だよ。

 言葉の割には嬉しそうな声を上げるルナに嘆息する。

「さてと」

 大人しくなったミレナース教たちを見下ろす。

「わ、わかった。全てを話そう」

 どうやら白状する気になってくれたようだ。

 これで俺の役目はひとまず終了。

 あとは飛鳥と隊長、この二人が手筈通りに行動してくれれば任務完了だ。

 目を瞑って表の俺と交代する。

「――――」

 お疲れ様。

 とりあえず胸中で御礼だけ言っておく。

 本当なら自分の力で全てを終わらせたいところだけど、生憎俺はアイツみたいにルナの能力を最大限に引き出すことができない。

 今回は黒雨陣奥義を一切使わなかったみたいだけど……なるほど、風か。

 無理だな。

『殿様は常人ではありませんからね』

 ホント、つくづく嫌な奴だよ。能力差を見せつけやがって。

『トノサマも訓練すればいいじゃないですか。きっと殿様みたいにあらゆるものを感じ取れるようになるはずですよ』

 勘弁してくれ、俺はこのままがいいんだよ。

『どうしてですか?』

 だって下手に強くなりすぎたら任務に付き合えだの何だのと理由をつけて借り出されるに決まっているだろ。

 俺は平凡に……適度に稼いでのんびり暮らせたらそれでいいんだよ。

『あいかわらず怠惰ですね』

 お前には言われたくねえよ。

 ま、それはさておき。

「犯人の名を教えてもらおうか」

 本題に入る。どうやらミレナース教は今回の事件に深く関わっているようだからな。武装不可の状況を作り出した犯人の名前やその方法なども知っているだろう。

 これで漸く平穏な日々が戻ってくるぞ。

 観念したミレナース教がぼそぼそと語り出した。

「今回の騒動を起こした犯人……いや、我々のボスは――」

「《明けの明星》」

 刹那、ミレナース教たちを捕獲していた檻が真っ黒な球体に包み込まれ、消し飛んだ。

「――ッ!?」

 後方から聞こえてきた声に俺はすぐさま跳び退る。

 そして、《漆黒の大鎌》を利き手に召喚し、そちらを向くと、

「貴様が裏でこそこそ動いたせいでシナリオが狂ってしまったではないか」

「第一課隊長!?」

 そう。なんと驚くことに俺たちを憎々しげに見つめている第一課隊長が佇んでいたのであった。


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