ある動きその四
休憩時間。
昼食を取るために一度帰宅した飛鳥は、テーブルの中央に置かれていた見覚えのない紙に気がついた。
「鍵はちゃんと閉めたはずなんだけど……」
周囲に気を配りながらその紙を手に取る。
差出人は、怠惰な淫獣。
内容は、
獣は天使二人をお供にして強制的に危険地帯へ。
求は天使捜索。場所は地下聖地、または警察本署。
既に変態頭と着せ替え人形に援軍要請済み。
「なるほどね」
飛鳥はその暗号だらけの内容を一通り読んだだけで全てを理解した。
さすが第二課諜報部に勤めているだけはある。暗号の解読はお手の物だ。
対して、共に目を通していたリアナはさっぱりわからないご様子で。
「どういうことだよ。だいたい差出人は何者なんだ?」
「これはまーくんだよ」
「え!? 真志っちは自分のことをそんなふうに呼んでんのか!?」
「あー、ごめん。ちょっとそれだと誤解しちゃうよね。これはまーくんの中に潜む別人格のことだよ」
「夜の魔王か」
夜の魔王。
彼の名があるわけでもないため、飛鳥たちはそう呼ぶことにしている。
「じゃあ、この手紙は夜の魔王からの伝言ってことでいいのか?」
「そうだね。書かれている内容が暗号だらけなのは……おそらく他の誰かが目にしても理解できないようにするためだと思う」
「……で、なんて書いてあったんだ?」
「ええっとね、まず一行目でわかったことは……共犯者、いや、脅迫されていた者の存在とその者がミフィールだったっていうこと。そしてまーくんは何らかの理由によってその者と契約者を連れて亡霊の巣窟に向かったってわけ」
「獣が真志っちで天使がミフィールってことか」
「それで二行目は……私たちに協力を求めているね。どうやら教会の地下か風紀部隊第一課の建物内部にミフィールが監禁されているらしい」
「へぇ、警察本署ってのは風紀部隊第一課のことを示してんのか。というか警察ってなんだ?」
「日本にある風紀部隊みたいなものかな。この獄園では死語だから知らない人も多いだろうし、暗号には十分だって判断したんだと思う」
「それで三行目は?」
「信ちゃんとシアちゃんに援軍を要請したからこっちは大丈夫だよって意味だね」
「変態頭って……信っちは別に変な髪形じゃねえぞ?」
「それは変態頭じゃなくて変態頭って読むんだよ」
「なるほど、それなら理解できる……しかし、俺の第二の嫁が着せ替え人形とは……まぁ言われてみれば確かにそうだけど。んじゃあ、とりあえず俺たちは二行目に書かれていることを実行すればいいんだな?」
「うん、そうなんだけど――」
飛鳥は小さく息を吐きながら腕を組んだ。
この伝言によって明らかになったことがある。
それは風紀部隊の内部に今回の武装不可事件に強く関わっている人物がいる可能性が高いということ。
迂闊な行動はできない。
教会の地下を調べるにしても風紀部隊第一課の建物内部を調べるにしても……不審な行動をとれば一発でアウトだ。おまけに見てはならないものをうっかり見てしまったことがばれるような事態に陥れば、自身は危険に晒されてしまうだろう。
飛鳥はリアナに右手を差し出した。
「早速やろっか」
「お? こいつは久々だな。姐御、大丈夫か?」
「もちろん。こういう時のための能力だからね」
リアナが持っている能力は《供眼電波》。
発動条件は簡単。
武装時に左手で対象に触れること。
それによって触れた者が目にしているものを一緒に見ることができるようになるのだ。しかもその者が他の者に触れた場合、さらに触れられた者が目にしているものも見ることができるようになる。
そのため、武装状態を維持すればするほど処理しなければならない情報が増えていくので、飛鳥の負担は尋常ではない。
しかしその分、得たい情報は比較的早く入手することができるのだ。
そうして武装した彼女は、風紀部隊第一課へ。
そこで報告する資料を渡すついでに左手で対象の手に触れておき――。
「よし、これで後は情報が集まるのを待つだけだね」
第二課に戻った彼女は武装状態を維持したまま目を瞑って椅子の背もたれに寄りかかった。




