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怠惰な淫獣と変態契約者  作者: るなふぃあ
第四章 ミッション開始
15/21

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「あははっ、ほんとあんたって……すごくバカね」

 無事、病院に辿り着いた俺たちを哂ったのは《完全再現》で悠奈=リリエットの姿になったティグリスだった。

「しょうがないだろ、ばれるわけにはいかなかったんだから」

「それにしても猫の着ぐるみパジャマを二人で着用するなんて……ふふっ、あはっ、あはははっ。ダメ、ツボに入っちゃったじゃない!」

「くそう、笑いたきゃ笑えよ。あー、それよりも一つ重要なことがわかったぞ」

「なによ?」

「妹はまだ生きている」

「なっ――」

 カッと身体が輝き、ティグリスが《完全再現》を解除した。

「真志さん。それどういうこと?」

「これを見てくれ」

 一気に真面目な顔つきへ変わったティグリスに今朝渡された脅迫文を手渡す。

「……なるほどね。ごめんなさい、あなたたちまで巻き込んでしまって」

「いや、気にしないでくれ。それよりもこの赤い宝石って何のことかわかるか?」

「赤い宝石……? あ、もしかしたら」

 カッ。身体が輝き、ティグリスが見覚えのある少女になった。

 ポニーテルに結った青髪。きりりと真面目そうな印象を与える眉に、手の甲には大きな傷跡。そして右手薬指には黄色い光を放つ指輪。

 滋野梨音。

 ティグリスが《完全再現》した人物は、第一回目の武装不可事件で亡くなった俺の親友だった。

「――っ」

 久々に見た梨音の姿。

 もう見ることはないだろう思っていた彼女を前にして、思わず声が出そうになったところで。

「そう」

 梨音が淡々とした声を放つと、カッ。

 すぐさま《完全再現》を解除してしまった。

「……何をしているんだ?」

「情報収集よ。教えていなかったけど、《完全再現》はその条件を満たした時の、負の要素を取り除いた本人になること。なりきろうとするのではなく、本人になるのよ」

「つまり……?」

「姿形を真似るというわけではないということよ。だからその人が知っていることは《完全再現》でその人になれば全てがわかる。もちろん、条件を満たした以降に本人が得た情報についてはわからないけど」

「……反則だろ、そんなの」

「どう? わたくしと契約したくなったかしら?」

「そんなのは絶対に許しません!」

 いきなりルナが話に割って入り、強く拒否を示した。

 それに対してティグリスはクスッと笑い、

「冗談よ、冗談。それでさっきの赤い宝石についてなのだけれど……真志さんが武装不可の状況に陥らなかった理由がやっとわかったわ」

「――え、本当か!?」

「ええ。真志さんは知っているかしら? 対ミフィール用の古代兵器、ラピスブラッドを」

「ラピスブラッド!?」

 その名前は聞いたことがある。

 数百年前に起こったミフィールとの大戦争。

 その際に現在亡霊の住処となっている場所に住んでいた人間が作り出した、対ミフィール用の兵器である。

 作り方は未だに謎だが、その宝石はミフィールの能力を三回だけ無効化するという優れもの。それを身につける、あるいは半径五メートル以内の地面に埋めておけば、最後に触れた者に対して勝手に効力を示してくれるのだ。

「じゃあ、あの時俺が武装不可の状況に陥らなかったのって」

「ええ、梨音さんが持っていたあの赤い宝石、あれがラピスブラッドだったのよ。《完全再現》で彼女になったのは今回が初めてだから、あの時は知らなかったけど……犯人は戦争でも起こそうとしているのかしら」

「戦争? 一体誰と」

「迷人と獄人よ。今までの行動を考えれば犯人が迷人に恨みを持っていることは当然でしょう。その上、対ミフィール用の古代兵器なんだから」

「おいおい、怖いこと言うなよ」

「ま、あくまでも予想よ。でも犯人がそれを使って何かを起こそうとしていることは間違いないわね。なんとしても阻止したいところだけど……」

「今度は妹の命と大勢の命、か」

 全くもって嫌な犯人だ。

 俺たちが例の宝石を入手し、それを犯人に渡すことによって戦争あるいはテロが起こるかもしれない。

 一人の命を守るのか、大勢の命を守るのか――。

「真志さん」

「トノサマ」

 ティグリスとルナが見つめてくる。

「なぁ、ティグリス。答えを出す前に二つ訊きたいことがあるんだけどいいか?」

「もちろん構わないわよ。わたくしが答えられるものであれば」

「それじゃあ一つ目。さっき《完全再現》は本人になりきるのではなく、本人になるって言っていたよな?」

「ええ、そうよ」

「ってことはさ、武装は必ずできるってことでいいのか?」

「条件を満たした状況次第ね。その相手が武装している状態で条件を満たしたのなら能力を扱うことはできるけど、非武装時に満たした場合は不可能よ。契約者が同化しているわけではないもの」

「なるほど……ちなみに梨音の契約者の能力は使えるのか?」

「使えるわよ」

「わかった。それじゃあ二つ目。梨音はどうやって亡くなったか教えてもらってもいいか?」

「……別に構わないけど」

 若干嫌そうな顔をするティグリス。

「悪いな、嫌なことを思い出させるようなマネをして」

「いいわよ別に。気にしないで。ええっと、確か梨音さんは――」

 ティグリスがその時の光景を思い出しながら丁寧に教えてくれる。

 どうやら梨音は武装不可の状況に陥る前に地面から湧いて出てきた亡霊に握り潰されてしまったらしい。

「よし、それじゃあ亡霊の巣窟へ行こうか」

「え!?」

 気軽に答えると、ティグリスが驚愕の声を上げた。

「どうしてそんな簡単に決めれるのよ。大勢の命に関わる可能性が高いのに……そりゃもちろん妹の命を優先してくれることは嬉しいわよ。でも、それ以前に亡霊の巣窟は死地と言われている場所で」

「大丈夫。《空間転移》が扱えるんだったら亡霊の巣窟へ行っても簡単に死にはしないさ。足元に気をつけていればきっとなんとかなる。それに、これはまたとないチャンスだ。犯人をとっ捕まえるぞ」

「とっ捕まえるって、一体どうやって? まさか犯人がわかったとでも言うの?」

「いや、犯人はわかっていない。でも、少なくとも俺が犯人だったら――」

 やりたくないけど、やるしかねえか。

 覚悟を決めた俺は、すーはー。

 大きく深呼吸をし、精神を研ぎ澄ませる。

「――――」

 やはり気配は感じられない、か。

 でも、きっと俺たちを監視しているはず。だから――。

「ルナ」

「はい」

「ちょっとアレを使うぞ、いいか?」

「ええ、もちろん構いませんよ。殿様っ」

 アレと言った直後、にっこりと微笑んだルナと手を繋ぎ、武装完了。

《漆黒の大鎌》を利き手に召喚した。

 俺の雰囲気が変わったせいか、ティグリスが一歩後じさった。

「……何を、する気なの?」

「犯人がどんな能力を持っているのかはわからないからな。ここからは三人だけで話がしたい。だから――」

 黒雨陣奥義《絶空》。

《漆黒の大鎌》を振り上げ、空間を切り裂いた。

 何もない場所にできた黒い穴。それを見たティグリスが驚愕の表情を浮かべた。

「なっ!? この技は――」

「知っているだろ? 嫁の血族に代々伝わる奥義」

 黒雨陣奥義。

 黒い血の雨を降らせるという意味で名付けられた《漆黒の大鎌》を使用した必殺技。

 その中でも《絶空》は五番目に完成された奥義で、異空間を作り出して対象者をそこで始末するために使用されるもの。

 この空間は外部からの干渉を一切受けないという性質を持つ。また、俺が許容したもの以外、この空間内で起こったことが外部に漏れ出ることは一切ない。

 今回の武装不可事件を起こした犯人、あるいはその仲間が盗聴能力などの力を持っていないとも限らないため、敢えてこの空間を作り出したのだ。

 背景の色素が失われた異空間にティグリスを招き入れる。

「大丈夫なの? そんな大技を使って」

「問題ない。相当体力を消耗することにはなるが、犯人……いや、まずはその協力者の一人を捕捉する」

「でもさっき犯人はわからないって言っていたんじゃ」

「もちろん犯人はわかっていない。でも、この手紙をよこした奴はわかった」

 気配がなかったこと。

 そのヒントによって呼び起された記憶。

 そこから俺はある一人の協力者を導き出した。

「その協力者って?」

「迷人だ。残念ながら名前は知らない」

「知らないって……じゃあどうやって捕まえる気よ」

「それについては俺に任せてくれ、考えがある」

 黙って首を縦に振るティグリス。物わかりがよくて本当に助かる。

「それじゃあ早速俺の指示に従ってくれ」

「わかったわ。それで、わたくしは一体何をすればいいのかしら」

「《完全再現》で梨音になって、今から渡す紙を《空間転移》で隊長の胸ポケットと飛鳥の手元に移動させてほしい。できるか?」

「ちょっと待って。梨音さんになるから」

 そう言った直後、カッ。

 ティグリスの身体が輝き、梨音になった。

「……残念ながら箱庭のところに送り届けることは不可能。場所が特定できない。隊長の方は可能」

 俺の質問に淡々と答える梨音。

「それじゃあ飛鳥の部屋に送ってくれ。入ったらすぐにわかるところでいい」

「……わかった」

 その場でメモを書いた二枚の紙を梨音に渡し、《空間転移》で移送してもらう。

「それじゃあ元に戻ってくれ」

「……ん」

 こくり、と首を縦に振った直後、カッ。

 身体が輝き《完全再現》が解除された。

「さっき送った紙は何の意味があるの?」

「それは後ほどわかる。説明している時間が惜しい、今は許してくれ」

「……仕方ないわね」

 嘆息したティグリスを見た後、俺は《絶空》を解除する。

 そして、背景に色素が戻ったことを確認してから武装を解除し――。

「ふぅ、疲れた……」

「おかえりなさい、トノサマ」

 ルナが笑顔で迎えてくれた。

「ただいま。ちょっと休憩したいけど……行くか。ティグリス、病み上がりで悪いけど一緒に行けるか?」

「もちろん行くわよ。妹が生きているのにこんなところで休んでなんかいられないわ」

「そう言うと思った。でも無理はするなよ。あと俺たちは謹慎処分中だ。だから迂闊に外へ出られない。そこで頼みがあるんだけど、聞いてくれるか?」

「何をしろって言うのよ」

「《完全再現》で梨音になって街の外に転移してほしい」

「え!? ま――」

 ブンブン。

 即座に首を横に振ってティグリスを黙らせる。

 また、なんて言ってはいけない。複数人の協力者がいる可能性を考慮した場合、迂闊な言動は慎むべきだ。

 もし《絶空》の中で行ったことがばれてしまったら、二人に手紙を送った意味がなくなってしまうのだから――。

 理解力のあるティグリスは首を縦に振った。

「わかったわ。梨音さんになればいいのね?」

「頼む」

 そうして再び《完全再現》で梨音になってもらい、俺たちは街の外へ。

 さぁ、ミッション開始だ。

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