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怠惰な淫獣と変態契約者  作者: るなふぃあ
第四章 ミッション開始
14/21

10

 一週間の自宅謹慎。

 無実だったのに、ルナのせいで第一課隊長から処分を下されてしまった。

 くそう、今はこんなところでのんびりしている余裕なんてないのに――。

 あの後、ティグリスがどうなったのかはわからない。少なくとも《完全再現》が完了していたから、第一課隊長にはばれていないだろうが――。

「助けるって約束した直後にこれか……」

 なんともやるせない気分だ。せっかく武装不可事件の真相に近づいたというのに、これではティグリスの妹を助けるどころではない。

 その原因を作り上げた当の本人を横目で見ると、ぐでーっと床で寝そべっていた。

 今日は暑いもんな。それなのにお前、よく猫の着ぐるみパジャマなんて着ていられるよ。

 どうやらルナはこの着ぐるみパジャマを気に入ったらしく、毎晩着用している。

 これを知ったら隊長は大喜びするだろう。

 ルナがうへーっとやる気のない声を上げながら手を上げた。

「トノサマぁ、クーラーというものを造って下さい……」

「無理だ。そんな便利なもんは地球にしかねえよ」

「じゃあ地球へ行きましょう」

「行けるもんなら行きてえよ」

 などと軽口を叩きながら時間が経過するのをひたすら待つ。

 待って待って待ちまくる。

 というのも、勝手な行動をするわけにはいかないからだ。

 自宅謹慎処分を下されてしまった以上、許可なく外へ飛び出したら即座にクビ。

 それだけで済むのならまだマシだろう。今までに何度か謹慎処分中に外へ出たバカ者がいたらしいが、全員第一課隊長の制裁を受け、大変な目に遭ったらしい。

 二の舞を踏むつもりは毛頭ない。

 毛頭ないのだけれど――。

「やっぱりダメだ! ジッとなんかしていられねえよ!」

 俺は立ち上がった。

 他人の命がかかっている。

 そう。ティグリスの妹が命の危機に晒されているのだ。

 会ったこともなければ、顔すらも知らない。

 赤の他人。

 でも、俺はティグリスと約束をした。

 必ず妹を助け出してやる、と。

「ルナ、行くぞ」

「え、いいんですか?」

「他人の命を守ることも約束を守ることもできなくて、なにが風紀部隊の隊員だ。そんなの失格だろ!」

「トノサマ……」

「だから俺は行く。ティグリスの妹を助けるために規則を破る!」

 自分に言い聞かせ、奮い立たせる。

 プライドを守るのか、それとも安定した生活を守るのか。

 ルナには悪いけど、今回ばかりは前者を取る。

 すでに半日も無駄にしちまったんだ。これ以上無為な時間を過ごしている余裕などない。

そうして俺がルナを引き連れ、見張りの目から逃れるために窓から外へ出ようとした。その時だ。

ひらひらひら。

 一枚の紙が空から舞い降りてきた。

 反射的にそれを手に取ると、


 ティグリスの妹を返してほしければ、次の命令に従え。

 ミッションその一、入院している悠奈=リリエットの姿をしたティグリスを無断で連れ出し、街の外へ出ること。その後、亡霊の巣窟に存在する赤い宝石を大量に入手し、第一回目の武装不可事件の現場にばら撒いておくこと。

 以上。

 P.S.安心しろ、ティグリスの妹は生かしている。無事帰還した際には嬉しいご褒美をやろう。


「――ッ!?」

 窓から顔を出し、周辺を見渡す。

 どこだ、一体どこにいる!? これをよこした奴は――。

 しかし、注意深く辺りを見渡したが、怪しい影は一つも見当たらなかった。

「ルナ、どうだった!?」

「ダメです。気配すら感じ取れませんでした」

「……そうか」

 俺よりも勘が鋭いルナでも発見できなかったということは……相手は相当の使い手、あるいは何か特別な能力を持っているということか。

「トノサマ、どうしますか?」

「どうするって?」

「その命令ですよ」

「あぁ――」

 俺はルナと共に渡された紙に改めて目を通す。

 犯人は全てを知っていたということか。

 俺たちがティグリスの存在に気づいたこと。

 あのとき間違いなく密室だったはずなのに、犯人はティグリスが白状したことをどうやって知り得たのか。

 飛鳥さんが裏切って上に報告したなんてあり得ないし、犯人は透明能力でも持っているのか? いや、それとも盗聴能力か? 

 でも気配はなかったし、あるいは――。

「犯人の目的は一体何なんでしょうか」

 考え込んでいると、ルナがポツリと呟いた。

「目的?」

「はい。ティグリスに送られてきた内容を確認した限り、犯人が迷人に何らかの恨みを持っているものだと思っていましたが……今回の命令は全く関係ないですよね?」

「言われてみればそうだな。恨み云々については若干予想していたけど、コイツはただの愉快犯なのか?」

 もし犯人が迷人に恨みを持っているのならば、ティグリスに命じていたような、俺たち迷人を危機に晒す内容が書かれていてもおかしくはないはず。

 しかし、この命令にはそのようなことが一つもないのだ。

 それにティグリスの反応を見て楽しんでいたことも事実だし……。

 そう考えれば、愉快犯と位置付ける方が正しいような気はするけど、

「ただ単に証拠を隠したいだけ、と考えてみたらどうだ」

「証拠の隠滅ですか?」

「あぁ。なにせ亡霊の巣窟へ行けって命令だからな」

 この街から数十キロ離れたところに存在する、大きな谷底。

 そこが亡霊の巣窟と言われている。

 実際に赴いたことはないが、街の図書館で得た情報通りであれば、そこには亡霊の長が棲んでいるらしい。

 当然、長を守る亡霊が大量に存在するため、巷では自殺願望者が赴く場所だと噂されている。

 実際に風紀部隊に所属する人間が亡霊の生態調査でそこへ赴いたことが何度もあったが……結局、誰一人として帰ってこなかった。

「でも証拠の隠滅が目的だとしたらこの赤い宝石についてはどう説明するつもりですか?」

「赤い宝石の入手、か。確かに証拠の隠滅だけならこんな命令はしな……ん? ちょっと待て。そもそもこの赤い宝石ってなんだ? 聞いたことねえぞ」

「私もわかりません」

 困ったな。こればかりは図書館で調べる必要があるけど、人が出入りする場所へ行くなんて危険すぎる。ただでさえこれから病院へ忍び込まなければならないのに、これ以上リスクを冒すことなんてできない。

「この件についてはティグリスに調べてもらうか」

「ティグリスに? どうしてですか?」

「ほら、ティグリスには《完全再現》があるからな。違う人に化けてもらえば大丈夫だろう。といっても、まずは誰にもばれずに病院へ辿り着かなきゃならないけど。何かいい案はないか?」

「誰にもばれずに病院へ、ですか……」

 うーむとルナと共に考える。

 第一の難関、誰にもばれることなく病院へ忍び込むこと。

 現在、俺たちは謹慎処分中だ。一般人に外出しているところを見つかっても問題はないが……もし、見回りをしている第一課の隊員に見つかったら一大事だ。武装すれば逃げ切れる自信はあるけど、この命令を実行することは不可能になるだろう。

 だから病院へ辿り着くまでの間、身を隠せるものや変装できるものでもあれば――。

「あっ……」

 ルナが何かを思いついたらしく、小さな声を上げた。

「いい案でも浮かんだのか?」

「はい。この着ぐるみパジャマでいきましょう」

「着ぐるみパジャマで? どういうことだ」

「一緒にこれを着てトノサマを隠そうっていう算段です。この通り伸縮性がかなり良いので――」

 ぐいーんと可能な限り着ぐるみパジャマを引っ張るルナ。

 そういえば、隊長が二人で着用することも可能だって言っていたな。

「二人分ならぎりぎりいけます。それにこの前シアがお面をくれたので、これをつければ、ほら――」

 と、俺が小さい頃に見ていた戦隊モノに似ているお面をつけるルナ。

 猫天使が変質者へ一気に様変わりしてしまった。

 猫の着ぐるみパジャマに背中から生えた四枚の羽。

 それだけなら子供が大喜びしそうな可愛らしい姿だ。

 しかし、戦隊モノのお面をつけた瞬間――。

 こんな姿を子供にでも見られてみろ、一種のトラウマを植え付けちまうぞ。

「さすがにそれはマズイんじゃねえのか?」

「マズイって何がですか? 変装するなら完璧だと思うのですが」

「むしろ通報されて終わりじゃねえか。もっと他にいい案はねえのかよ」

「えー。でも空を飛んでいけばミフィールだと思って誰も気に留めないと思いますよ」

「あっ、その手があったか!」

 空を飛ぶ。

 そうか。空を飛べる人間などいないのだから、飛行している奴はミフィールで確定。しかもルナの案通りに行動すれば、空を飛んでいるのはおかしな体系をした奴が一人。

 間近で見られたらすぐにばれるだろうが……よし、これでいってみよう。



 と、いうわけで。

 猫の着ぐるみパジャマを二人で着用するという非常識なことをやってのけた結果。

「トノサマ、暑いです」

「我慢しろ、俺の方が暑いんだよ」

 一体の変質者が完成した。

 着ぐるみパジャマを着用する手順は至って単純。

 俺が先に着用し、後からルナが後ろにあるチャックを開けて入るだけ。

 空を飛ぶ時間が一番長くなるため、フードから顔を出すのはルナである。

 一方、俺は着ぐるみパジャマの伸縮性を活かして歩行担当。

 身長差があるため、ルナが俺の身体に手と足を回して必死に抱きついているという、そんな内部構造。

 目の前が真っ暗だからどんな姿になっているのかはわからないけど、おそらく高身長且つ足が細いくせにお腹辺りがかなりヤバい奴、という姿になっているだろう。

「これで後はお面をつけてっと……できましたよ」

「よし、それじゃあ行こうか」

 と、さっそく歩き始めたが、

「ちょ、ちょっと待ってください。どこ行ってるんですかトノサマ!」

「へ?」

「止まって、止まって下さ」

 がつんっ。

「いっつぅ~~~!?」

 顔面に激痛を感じた俺はその場に蹲った。

「大丈夫ですか!?」

「……わ、悪い。大丈夫だ。それよりも窓はどっちだ」

「あっちです」

「あっちじゃわかんねえよ。方向を言ってくれ」

「右ですよ、右」

「よし、右だな……」

 と、今度はちゃんとルナの指示通りに歩き始めたが、かつんっ。

「あいだっ!?」

 今度は何かに躓いて再び顔面を強打。

 しかも。

「起き上がれねえ。ルナ、なんとかしてくれ」

「なんとかしてくれって、私はどうすれば」

「手を着いて力を入れてくれ。せーので行くぞ。せーのッ」

「「ふっ」」

 一緒に力を入れるが……これがなかなかうまくいかない。

 その後も何度かトライした結果、五回目にして起き上がることに成功。

 そこにきて漸く俺はこの作戦がバカすぎることに気づくのであった。


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