07 途切れる
蝉が、一瞬鳴き止んだ。
ピンポーン
チャイムが部屋に響く。
「浩介ー、和希ー。忘れ物しちゃったから戻ってきたのー。ココ開けてー」
母さんの声。
同時にドンドンとドアを叩く音も聞こえる。
やった!
さすが母さん!!
いい時に来る!
俺が歓喜しているのを知ってか知らずか、姉貴は一つ溜息をし、俺から離れた。
俺はすぐに起き上がり、まだ煩い心音を宥めようとする。
・・・・・一体、何だったんだ。
遠くから、ドアを開ける音と、母さんの声が聞こえた。
俺は階段を上がり、自室へ戻る。
姉貴の視線を感じたけど、気付かないフリをした。
バタン
ドアを閉める音が、やけに響いた。
俺は部屋に入ってから、真っ直ぐベッドに向かって歩き、腰掛ける。
「・・・・・・」
黙って、右手首に視線を落とす。
少し、赤い跡があった。
左手首にも、同様のモノがあった。
・・・この跡は、姉貴の想い?
考えれば考えるほど、思考は行き詰っていく。
考えるのに疲れて、俺はそのまま横に倒れた。
ギシッと、スプリングが鳴る。
軽く目を閉じ、世界に暗闇を落とす。
なんだか気持ち良くて、もう寝てしまおうと思い、ベッドに潜り込んだ。
あー・・・もう・・・疲れた・・・。
すぅ・・・と、夢の世界へ旅立とうとした瞬間。
カチャ・・・
控えめな音を出して、ドアが開いた。
俺はそれにわざと反応せず、そのままの姿勢でいる。
「・・・・・・浩介」
姉貴の声。
音量は、小さい。
「・・・・浩介?」
もう一回呼ばれる。
聞こえないフリ。
「・・・こーうーすーけー」
返事は、しない。
「寝てるの?」
姉貴は、俺が寝てると思い込み、部屋に入って来た。
俺は、しまったと思う。
起きるタイミングを、失ってしまった。
もう今更、起きてましたなんて言えねぇ。
どうしようと考える。
今起きてもきっとさっきと同じ様なコトになるに違いない。
だからといってこのまま寝てるフリもキツい。
もぞり、と少しだけ動いてみる。
でも、姉貴は何も言わない。
そうしているウチに、姉貴がすぐソコにいるのが分かった。
そして。
ギシッ
姉貴が、ベッドに座った。
そう。
俺の、すぐ横。
5cmくらい先。
もう寝たフリしよう・・・。
俺はまた目を閉じた。
歯車は、更に速度を上げる。
ガラガラガラガラ
がらがらがらがら
と。