02 その夜
夜になると、俺は宿題を終えていた。
下からは姉貴のバカ笑いが聞こえてくる。
テレビを見ながら両手を叩いて笑う姉を想像し、げんなりする。
同時に、
「猿みてぇ」
とも思った。
俺は終わった宿題を鞄にしまい、リビングへと降りていった。
ドアを開けて入ると、キッチンでは母さんが食器を洗っていて、父さんはパソコンを叩いていた。
まぁ普通の家庭像だな、と思いながらソファへ向かう。
そこには、ただ一人普通の家庭像から浮いている奴がいた。
その姉貴の姿は、俺の想像と全く同じだった。
「・・・・・」
俺は小声で
「ビンゴ・・・」
と呟く。
「は?何かゆった?」
「べーつにぃー」
俺はそっぽを向き、テーブルの上のスナック菓子に手を伸ばす。
だがその手はバシッと弾かれた。
「ってぇー。なンだよォ」
「あたしのなんだから食うな!」
「姉貴と違って宿題終わらせたから小腹空いてんの。それに育ち盛りだっつっただろ」
「後半はまだいいとして前半がムカつくー!!」
そう言って俺のほっぺたを両手で思いきりつねってきた。
「いでででででで!」
「『ちょうだい。おねぇちゃん』って言ったらあげてやってもいいわよ」
「ほんなん言うはけねぇはほ」
訳・そんなん言うわけねぇだろ
言語に『は行』増やしつつも言った言葉に姉貴はにっこりと笑い、
「そう。ならいいわ」
と言ってもっとつねる。
「いでででででででででででで!ギブギブ!!」
ちょっと泣きかけた所に。
「和希!それくらいにしときなさい」
「ちぇ」
天の助けとばかりに俺は猛ダッシュで姉貴から離れた。
・・・俺の目はちょっと潤んでいる。そんな俺を見た父さんは笑う。
「浩介も男の子なんだからお姉ちゃんに泣かされたりするんじゃないの」
「だってぇ」
「そいつはチビだからあたしに反抗出来ないのよ」
俺の言い訳を遮って、姉貴は嫌味を言った。
「てンめー人が気にしてる事をォ!!」
「ふーんだ」
「チビっつったって3cmしか変わんねーじゃん!」
「それでもチビはチビでしょ?」
「くっはー!ムカつくー!!」
姉貴の言葉に俺は地団駄を踏む。
確かに俺はチビだ。
高1で168cmはさすがにキツい。
中学生に間違えられた事は4月から数えても約20回程。
対する姉は171cm。
女子にしては大きい方だ。
キョウダイなんだから、そのへんくらい似たっていいだろう。
父さんは180cm以上と大きいが、母さんは158cm。
きっと俺は母さんの遺伝子を多く受け継いでしまったんだ。
神様は不公平だとつくづく思う。
ため息をつきながら姉貴を見る。
姉貴はなぜか、自分の手をじっと見つめていた。
「・・・?」
顔をよく見ると、ほの顔はほんのり紅く染まっていた。
俺はそのワケが分からず、気にしない事にした。
「ぁ」
そーいえば最近、姉貴は様子がおかしかった。
でもそんなの俺には関係ないか、と思い、考えるのはやめた。
どうせ好きな人でも出来て、夏休み中は会えなくて切ないわーなんて思っているだけなんだろうし。
「俺風呂入るわ」
姉貴の事なんかどーでも良かったから、俺は気にせず風呂へ向かった。
その後ろ姿を、姉貴が見つめていた事を知っているのは、きっと姉貴自身だけだろう。
ゆっくりと、何かが崩れる音が大きくなっている事など、誰も知らなかった。
否、知っていても、誰にも止められないのだ。
この崩壊を。
一度、同じ文が何度も重なるという事故(?)がありましたので、文がおかしくなっているかもしれません。もしありましたら申し上げて下さい。