保健室の先生×生徒萌え(※創作に限る)とか言ってくる生徒をどうにかしたい保健室の先生
「それでですね、保健室の先生×生徒って普通の先生とは距離感また違うじゃないですか。それが魅力の一つっていうか……」
「そうか」
俺はいつものように養護教諭の仕事をこなしながら生徒である小日向(こひなた)の萌え語りを聞いていた。
小日向と俺が出会ったのは小日向がこの高校に入学してしばらく経った頃。
相談があると神妙な顔で言うので俺も真剣に聞こうとした。だが、その内容が……。
「保健室の先生×生徒の萌え語りができる人がいないんです……! このままでは私は死んでしまいます……!」
「……はい?」
小日向はそのジャンルがとてつもなく好きで、このパッションをぶつける相手がほしいと。
「友達はいないのか?」
「普通にいるんですけど、先生×生徒が地雷の子がいて教室でうっかり話せないんですよ……!」
……しっかりしてら。
……とりあえず、養護教諭として
「じゃあ、俺に話していいから。仕事しながらでもよければ」
と言うと、小日向は顔を輝かせて礼を言った。
それから小日向は休み時間や放課後になると毎日毎日俺に萌え語りをするようになった。
「保健室の先生って不登校気味な生徒のケアもするからそこからロマンが生まれるので……」
小日向は延々と萌え語りを続ける。
そこまで好きなものがあるということは良いことだ。加減は知ってほしいが。
しかし……俺は保険だよりを作成しながらチラリと小日向を見る。楽しそうだ、とても。
そんな小日向と一緒にいて、俺はいつの間にか小日向に惹かれてしまった。教師としていけないことだとわかっている。けれど、可能性を求めてしまう。『保健室の先生』である俺と『生徒』である小日向なら……と。
「なあ、小日向」
「はい?」
俺はパソコンから目を離して小日向に向き合う。
「もし俺がお前と付き合いたいっつったらどうする?」
心臓がどくどくと脈打つ。
「先生……あの……」
俺は小日向の次の言葉を待った。
「現実とフィクションの区別はしっかりつけてくださいね」
……うん、しっかりしてら。
俺はこの想いを秘めることにしてパソコンに向き合った。
そうしてそんな日々が三年間続いた。
今日は小日向の卒業式だ。結局俺らの関係は変わらず。
「先生!」
卒業証書を持った小日向が保健室にやって来た。
「なんだ、卒業式の日にまでここに来んのか」
「先生には大変お世話になりましたから」
「……そうか」
今日で小日向はいなくなる。そうしたら……。俺は決めた。
「小日向」
「はい?」
俺は小日向を真剣に見つめる。
「俺は小日向のことが好きだ。冗談でもなんでもない。付き合ってほしい」
「先生……」
「もう、保健室の先生×生徒って関係じゃなくなるから小日向は興味がないかもしれないが……俺は……」
「先生」
小日向は笑っている。
「私が好きなのは『フィクションの保健室の先生×生徒』なんですよ」
「そうか……」
やっぱり……。
「だから現実で保健室の先生×生徒じゃなくても何も問題ないですよ」
「……え」
「私、先生のこと普通に好きなんで付き合いましょう。もう生徒じゃないんですから普通に付き合えるでしょう?」
俺は目をぱちくりさせて呆気に取られた後、笑った。
「なんだそれ」
「え、なんか私、変なこと言いました?」
「小日向は小日向だな」
「どういう意味ですか~!」
そうして春休みの初デートのカフェにて。
「やっぱりね、保健室って学校において特殊空間じゃないですか。授業の声が微かに聞こえる静かな空間……そういう……」
「小日……仁美(ひとみ)」
「なんですか? 恵介(けいすけ)さん」
恋人になって、下の名前で呼ぶ仲になって……なのに……。
「なんで俺、初デートでお前の萌え語りを延々と聞かせられてるんだ?」
仁美は笑う。
「これが私なので。私と付き合うならそれは覚悟してもらわないと」
「……そうか」
付き合ったからといって仁美は変わらない。でも、それでいいかもしれない。これが、俺達の日常だから。
でも、恋人らしいこともするからそっちも覚悟しとけよ。
今日も俺は保健室の先生×生徒の萌え語りを聞かせられる。




